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鬱病、家庭崩壊、自殺未遂、大震災、麻薬逮捕。21世紀の碌でなし文学誕生。

メメント・モリ

原田宗典/著

1,620円(税込)

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発売日:2015/11/20

読み仮名 メメントモリ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 164ページ
ISBN 978-4-10-381106-0
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,296円
電子書籍 配信開始日 2016/05/06

生からの一瞬の暗転として確固たる死を想え。不測の事態で流動する恥多き人生のただ中でこそ。時間を自在に往き来しながら、時に幻想的に、あるいは軽妙なユーモアのうちに、切実な記憶の数々を有機的につなぎ、やがて生命の喜ばしき光に到る……。泥沼のスランプを脱した著者10年ぶりの復活を証して、異彩を放つ長篇小説。

著者プロフィール

原田宗典 ハラダ・ムネノリ

1959(昭和34)年、東京都生れ。早稲田大学第一文学部卒業。1984年に「おまえと暮らせない」ですばる文学賞佳作。以来小説、エッセイ、戯曲を発表する。主な著書に小説『スメル男』『十九、二十』『平成トム・ソーヤー』、エッセイ『スバラ式世界』『たまげた録』、戯曲『やや黄色い熱を帯びた旅人』、訳書にアルフレッド・テニスン『イノック・アーデン』などがある。

書評

死は勝利したか

高山文彦

 この小説のタイトルにとられた「メメント・モリ」は、黒死病(ブラック・デス)=ペスト禍によって五千万人とも言われる死者を出した中世ヨーロッパでひろがった言葉である。ラテン語で「死を想え」――。
 ペスト襲来におびえる人びとは、いま一時の享楽に耽り、異教徒であるユダヤ教徒を毒を撒き散らす下手人に仕立てあげ大量殺戮した。都市を蔽う腐乱した屍。踊り狂う人びと。のちにブリューゲルはそれをイメージして大作「死の勝利」を完成させる。
 一時間集中して死について考えつづけたら気が狂ってしまうだろうと、この小説の主人公「私」は思う。それで考えることをやめる。するとなおのこと死の誘惑がひたひたとすり寄ってくる。小説が書けず深刻な鬱状態に陥っている「私」は大麻に手を伸ばし、大量の飲酒と睡眠導入剤の使用によって鬱状態を悪化させる。自己嫌悪の闇の谷に投げ込まれ、自殺未遂、家族とも別れて暮らすようになる。
 でも彼は中世ヨーロッパの人びとのように死の恐怖にとり憑かれ、「死の舞踏」をしているのではない。彼は「死を想う」のではなく、死を願っている。「濡れ雑巾」とまで妻に呼ばれるほどに泥沼の底に横たわるしかない自分の生を、たんに終わらせてやりたいのだ。裏を返せば本心は、生き直しをしたい。それを可能にする自己の生の根拠を見出せぬまま、死の安楽に逃げ込もうとしているのだ。
 これはでも彼にだけ訪れる経験ではない。都会の満員電車に揺られて通勤・通学する人びと。田舎で田畑を耕しながら村おこしに精を出す人びと。そうしたなかから、まさかこいつがと思う者が突然部屋から出て来なくなってしまう。天岩戸に隠れたアマテラスも、そうではなかったのか。
 精神の病は、真面目で責任感の強い、頼まれたらいやとは言えぬ、いじらしいほど優しい心をもった人間に訪れやすい。「メメント・モリ」の思念にしても、震災列島に生まれついたわれわれ日本人には「諸行無常」「もののあはれ」といった言葉で語られてきたはずだ。
 彼はようやく小説を書く気になって、六畳一間に三畳のキッチン付きのアパートに家族と別れて暮らすようになる。ところがその矢先、大震災が起きて、やる気はすっかり失せてしまう。「つまらない、下らない、意味がない、と世の中を否定して、相手にしないようにしているうちに、ふと気づいたら、世の中の方が自分を相手にしなくなっていた」。それからまもなく覚醒剤と大麻所持の両方で現行犯逮捕されるのだが、人はこの主人公を理解しようとしてくれるだろうか。
 震災後のわれわれ日本人は、原発再稼働、他国への原発輸出、オリンピック開催などなど、あたかも震災があったことなんて忘れてしまえとでも言うように遮二無二あらぬ方向へ突き進んで行こうとしている。だれもこの勢いは止められない。人の孤独と孤立は深まるばかりであるが、それは戦後の高度経済成長期からはじまった歯止めのきかぬ恐ろしい現象なのだ。一九五九年生まれの主人公は、そうした時代の申し子と言える。
 出かけようと思っても、靴下を選べず外出をやめてしまう。小説を書こうにも言葉が選べず、投げ出してしまう。ようやく外出をしてみたが、電車に乗ったら大量の汗が吹き出てきて止まらない……。こうしたさまざまな鬱症状が列挙されるのを読みながら、待てよ、と私は何度か立ち止まった。いくつか同じ“症状”が自分にも認められる。私は彼を拒絶することができなかった。私は彼の隣人なのである。
 この小説は主人公の過去から現在までが年代記ふうに綴られる。私小説だから、作者は自分の経験を洗いざらい吐き出しているのかもしれない。ただ、裁判の模様や弁護士とのやりとりなどについては書かれない。一冊となって世に問ういま、作者は書ききれなかったそれらのことや心の変化について、じっと見つめ直しているのではないだろうか。
「死を想え」とは、どんな死にかたをするかわかったもんじゃないんだから、生きているうちに人を愛し善く生きよ、という死者たちからの伝言でもあるだろう。「生を想え」と同義なのである。作者はそのように想像する地点までようやくたどり着いて、祈りと感謝をこめてこれをタイトルに据えたのだ。
 年若い友人に子どもが生まれ、その子が一歳の誕生日を迎えるところで小説は閉じられる。生への新しい目覚めが感じられる。

(たかやま・ふみひこ 作家)
波 2015年12月号より

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