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王国―その2 痛み、失われたものの影、そして魔法―

よしもとばなな/著

1,210円(税込)

発売日:2004/01/30

  • 書籍

今を生きる読者に宛てた、よしもとばななの、長い、長い手紙。ライフワーク長篇、第二部。物語の奥深くから、今、最初の光が届く。

泣きたい気持ちだった。不安でいっぱいだった。生きることの輪郭が日々ぼやけていくようだった。退屈にも似た淋しさから抜け出すにはどうしたら……震える魂を抱えた「私」は、光を探し求めていた。そしてそれは都会暮らしの、さりげない隣にあるようだった。忘れかけていた胸騒ぎよ、よみがえれ! 魂の色つやを守り抜け!

書誌情報

読み仮名 オウコクソノニイタミウシナワレタモノノカゲソシテマホウ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 144ページ
ISBN 978-4-10-383405-2
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,210円

インタビュー/対談/エッセイ

波 2004年2月号より 居場所を失いそうな人に  連作長篇小説『王国』をめぐって

よしもとばなな

『王国 その1』が刊行されたのは二○○二年の八月でした。この約一年半の間に短篇集『デッドエンドの思い出』が刊行されましたが、『王国』はその間にどのように構想が暖められていたのでしょうか?
1を考えたときに、もう2のことまでは考えていました。出演者のオールスターが全部出払っていていないので、地味な話になるなあ、ということまでは。『デッドエンドの思い出』は全く別腹(?)で考えていたのですが、『海のふた』とはほとんどテーマを同じくしています。それは、都会で暮らす独特のつらさというようなことです。しかし、田舎に行けばいいというものではなく、結局は人は自分しだいだ……と書いてしまうとばかみたいだけれど、そういうテーマでいくつか書こうと決めていたのです。ちょうどハイジが山を降りて病気になってしまったように、どんなに強い雫石でも、都会になじむのは大変だろう、という発想から展開していきました。
『王国』全体が何部作になるのかまだ未定と聞いています。よしもとさんにとって、この長篇小説の今後はまったく未知数なのでしょうか?
これは物語というよりは、むしろある種のニューエイジのおとぎばなしで、「教養小説」というとまるで賢いみたいなので違うかもしれないけれど、とにかく「ある考え方」を描き続けるファンタジーなので、ある意味ではどうとでもなるのです。どう展開してもいいのです。そういう意味では未知数と言えるかもしれません。ただ、だいたいどういうふうになるのかというイメージは、かなりはっきりしています。五話か六話で完結するつもりですが、「ただ楽しい巻」というのがどうしても作りたくて今、どういうふうにするか考え中です。
主人公の雫石は山の中でおばあちゃんと暮らしていました。しかし様々な事情で雫石は都会に移り住むことになり、その経緯が「その1」には描かれています。雫石という女の子は、特別な存在なのでしょうか? それとも、今のこの時代に生きる、どこにでもいるかもしれない女の子でしょうか?
いや、こんな人どこにもいません。彼女の独特の情緒というか、ある種の冷たさは書いている私にもときどきつらいほどです。「もう少しやさしくあろうよ!」と思ったりしています。彼女は親を知らず、人生のスタートがいきなり就職のようなものであり、山の中で育っている……という意味でとても変わった人物でしょう。あまりにも変わった人から見ると、都会生活や人間の関係全てが喜劇のように見えるのではないだろうか、という面白さはなんとなく描いているつもりです。
雫石が都会生活のなかで出会う、ほとんど目の見えない占い師の楓や、楓のパトロン的存在の片岡、サボテンの専門家で彼女の恋愛の相手となる野林……彼ら男性登場人物は、よしもとさんにとっても近しさ、親しさを感じさせる男性たちですか?
あの人たちは、ある意味で私の男性面なので、たいへん書きやすいです。いずれにしても社会生活からちょっとはみだしてしまった独特の男性たちですが、私のまわりにもそういう人が多いので、いろいろな人にちょっとずつ取材して肉付けしています。なので私にとっては「隣のお兄さん」って感じです。
『王国 その1』の刊行後の、出産と育児という経験が『王国』というライフワークに何かの影響を与えた、ということはありますか?
3では雫石の親について、やっぱりマジックリアリズムというか、魔術的というか、よしもと的に描いていきたいと思います。親というもののすてきさ、そしてうっとうしさの両方を親になった立場からじっくりと描いてみたいです。
『王国 その3』はいつ頃に読者のもとに届きそうでしょうか?
うまくすれば、今年の末か来年の頭くらいにいけるのではないだろうか……私もそうなるように神に祈ります(祈ってないで書けよ! と自分で自分にちゃんとつっこみました)。
最後に読者に向けての言葉がありましたらお願いします。
この作品は、私にとってとても独特なものです。特別なのではなくて、独特なのです。だから、大きな筋道からははずれたくせのあるものかもしれないけれど、同時代性はとても強く伝えられるし、「世の中でちょっと居場所を失いそう」な人にとってとても読みやすいのではないかと思います。まとめて読むと読みごたえがあるものになると思うので、どうかいましばらくおつきあいくださいね! 出てくる人たちのしょうもなさも、とほほと思いつつも私はけっこう愛して書いています。

(よしもと・ばなな 作家)

著者プロフィール

よしもとばなな

ヨシモト・バナナ

1964(昭和39)年、東京生れ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1988年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、1989(平成元)年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、『TUGUMI』で山本周五郎賞、1995年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアでスカンノ賞、フェンディッシメ文学賞〈Under35〉、マスケラダルジェント賞、カプリ賞を受賞。近著に『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』『切なくそして幸せな、タピオカの夢』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた単行本も発売中。

よしもとばなな公式サイト (外部リンク)

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