ホーム > 書籍詳細:夜のピクニック

あの一夜に起きた出来事は、紛れもない奇蹟だった、とあたしは思う。

  • 受賞第2回 本屋大賞
  • 受賞第26回 吉川英治文学新人賞
  • 映画化夜のピクニック(2006年9月公開)

夜のピクニック

恩田陸/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2004/07/30

読み仮名 ヨルノピクニック
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 346ページ
ISBN 978-4-10-397105-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,728円

夜を徹して八十キロを歩き通す、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。三年間わだかまっていた想いを清算すべく、あたしは一つの賭けを胸に秘め、当日を迎えた。去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労。気ばかり焦り、何もできないままゴールは迫る――。ノスタルジーの魔術師が贈る、永遠普遍の青春小説。

著者プロフィール

恩田陸 オンダ・リク

1964(昭和39)年、宮城県生れ。早稲田大学卒。1992(平成4)年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を、2006年『ユージニア』で日本推理作家協会賞を、2007年『中庭の出来事』で山本周五郎賞をそれぞれ受賞した。ホラー、SF、ミステリーなど、さまざまなタイプの小説で才能を発揮している。著書に、『三月は深き紅の淵を』『光の帝国 常野物語』『ネバーランド』『木曜組曲』『隅の風景』『夜の底は柔らかな幻』などがある。

インタビュー/対談/エッセイ

波 2004年8月号より [インタビュー] 書くべき時に書けた高校三部作の完結編  恩田陸『夜のピクニック』

恩田陸


■実は予告編が存在していた!

――この作品の構想は随分前からあったそうですね。『図書室の海』(新潮社刊)の中に、予告編ともいうべき「ピクニックの準備」という短編があります。
そもそも、この小説は、会社を辞めて専業作家になる時に、独立記念パーティみたいなのを開きまして、つきあいのある各出版社の編集者に「こういうプロットがあるんだけど書かせて下さい」と営業用に配らせてもらった十本のプロットのうちの一つなんです。もう六年ほど前のことですが。
――予告編とはいえ、「ピクニックの準備」は『夜のピクニック』を読み終わってから読んだ方が、味わい深い気もしました。
そうですね。確かに、あとから読んだほうがいいかもしれません。ちょっとネタばらしになっているところもあるし。私も久々に読み返して、「ひえー、こんなことまで書いてる」と焦りました。でも、微妙に『夜のピクニック』と違うところもあるので、あくまで別の短編として読んでいただければ。この長編の構想の原型はこんな短編だったのか、という興味を感じて貰えたら嬉しいです。
――作中の行事は、実際に行われていることだと聞きましたが。
設定はほぼ母校の行事を使いました。でも、似たような行事をやっている高校って、結構全国にあるんですよね。高校によっては、一○○キロ歩くというところもあるし、男子だけ歩くという学校もあるみたいです。とにかくきついんですが、それだけに強烈に印象に残っている。卒業生が皆懐かしがるのはあの行事なんですね。

■忘れられない星空

――当時の思い出で、何か鮮明に覚えていることはありますか?
小説にも書きましたが、やはり山の中で見た凄まじい星空ですね。夜空にあんなに沢山星があるとはあの時まで知りませんでした。真っ暗な山の中のアスファルトの道路にみんなで寝転がって、星の海に落ちていくような気持ちを味わったことを鮮明に覚えてます。
――とても幸せな高校時代という印象を受けました。
私はとにかく学校が嫌いで、義務教育というのは屈辱と忍耐を学ぶ場所なんだ、だからとにかく我慢してやり過ごすしかない、と子供心にもあきらめていたんですが、高校は、初めて人と話すのは面白いことなんだと思えるようになって、成績が悪くて落ちこぼれていましたが楽しかったです。
――この作品は、珍しく(?)ミステリ色もホラー色もほとんどなく、直球ど真ん中の青春小説と感じました。最初から、その方針だったのですか?
いえ、最初はもうちょっとミステリもホラーもある予定だったんです。少なくとも構想した時には、「あの行事、ミステリにもホラーにも使えるな」というところから始まってたんで。でも、何年も寝かしているうちに、あの行事自体が主人公になるなと考えるようになって、連載を始める時もまだ少しミステリっぽい仕掛けとか選択肢の一つにあったんですが、書き始めたら、その必要はないなと直感したんです。この行事と一晩つきあうだけで小説になると。で、終わってみたら実にストレートな青春小説になってしまった。なんというプロットもないけど、やはり実に私らしい話になったと思います。
――ミステリ版やホラー版の『夜のピクニック』があったとしたら、どんなお話だったんでしょう。読んでみたいような、そうでないような。
恐らく、ミステリ版はクラスのみんなで過去又は現在進行形の事件を喋って歩いて一晩で推理するという話で、ホラー版は生徒がどんどん増えるか、逆にどんどん減っていく話になっていたでしょう(笑)。

■ようやく終わった宿題

――『六番目の小夜子』『球形の季節』(共に新潮文庫刊)とゆるやかに三部作をなす連作の完結編である、とも聞きましたが。
高校生を書いた小説は他にも幾つかありますが、私の中ではこの『夜のピクニック』が高校三部作の三番目という位置付けになっていて、ずうっと宿題のように感じていました。担当編集者にも「これ以上先延ばししちゃ駄目だ、もう少し歳取ったら書けなくなるから三十代のうちに書かなくちゃ」とハッパを掛けられていたので、こうして書き終えられてホッとしています。やっぱり小説というのは書くべきタイミングがあるので、一応この話も書くべき時に書けたかなと。この先も高校生小説は書くと思いますけど、とりあえず一段落という感じです。
――この作品を書くにあたって、意識した作品などは何かありますか?
今回は、珍しく特に意識した先行作品はありません。私にしては、素のまんま書いたという感じです。むしろ、『六番目の小夜子』と『球形の季節』と、この小説と、今続けて読んだらどんな感じかなーというのが心配になりました。この先、私の小説読む人はそういう順番で読むんじゃないかと考えたら、結構タッチも変わってますし、面食らうんじゃないかと。

■やっぱり好みは変わらない

――色々な出来事がありますが、よく考えるとたった一晩の物語なんですよね。
そうです。結局は、この『夜のピクニック』も私の好きな「空間限定」「時間限定」ものなんですね。好きな設定って、なかなか変わらないものですねえ。
――しかし、その一夜に「高校生活」のすべてが含まれているように感じました。
だとしたら嬉しいですね。かつて高校生だった自分が感じていたこと、今も感じていることをいろいろ織り込みました。ある瞬間が自分の中に永遠に焼きついて、それを将来懐かしがっている自分を想像するところとか、今でも時々感じることがありますし、ああ、昔もこんなこと想像したっけと思い出します。
――この作品ならではの苦労や工夫があったら教えて下さい。
なにしろプロットらしいプロットがなくて、高校生がひたすら歩いているだけの話ですから、飽きさせないようにというのは考えました。あと、時代設定が少し昔になっているんですが、特定の時代を感じさせないようにしたつもりです。携帯電話前と携帯電話後で青春小説も変わってしまいましたけど、なるべくいつの時代に高校生だった人にも違和感なく読んでもらえるようにと祈りつつ書きました。

(おんだ・りく 作家)

判型違い(文庫)

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