ホーム > 書籍詳細:「母親に、死んで欲しい」―介護殺人・当事者たちの告白―

いなくなれば、介護が終わる……
最愛の人を手にかける――
彼らを追い込んだものは?

「母親に、死んで欲しい」―介護殺人・当事者たちの告白―

NHKスペシャル取材班/著

1,404円(税込)

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発売日:2017/10/18

読み仮名 ハハオヤニシンデホシイカイゴサツジントウジシャタチノコクハク
装幀 (C)Moment Open/カバー写真、Getty Images/カバー写真、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 236ページ
ISBN 978-4-10-405608-8
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,404円
電子書籍 配信開始日 2017/11/24

今、日本では2週間に一度「介護殺人」が起きている。老老介護、多重介護、介護離職……高齢化ニッポンで避けては通れない「介護」。肉親への献身から始まったはずが、なぜ悲劇へと変わり果てたのか――。全国で起きた事件から見えてくる、決して他人事ではない、当事者の口から赤裸々に語られる「終わりなき介護」の実態!

著者プロフィール

目次

はじめに
第一章 介護は突然、始まった
CASE(1)「私は母のことを、母の皮をかぶった化け物だと思っていました」
CASE(2)「まさか自分が妻を介護するなんて、思っていませんでした」
第二章 別人のようになった妻でも離れたくない……
CASE(3)「夫婦である以上、別居は考えたくなかった」
CASE(4)「私がいなくなったら、妻一人では、一日も生活できない」
第三章 夫の介護は、私しかできない
CASE(5)「後悔はしてない。悪いことしたとは思うてる。
      でも、ああするよりほかなかった」
CASE(6)「今しかない、今しかない、お父さんを殺るのは今しかない」
CASE(7)〜介護に身を捧げた女性たち〜
      「家族が何人いても、結局介護者は一人だけです」
第四章 介護離職の先にあるもの
CASE(8)「仕事を辞めずに介護ができれば一番良かったと思います。
      でもそんな方法があったのか」
CASE(9)「かわいそうだから、殺してあげようと思った」
第五章 事件の境界線はどこにあるのか
CASE(10)「結局、逃げたもの勝ちなんですよね」
CASE(11)「介護を始める前の自分は、もう死んだんだと。そう思っているんです」
第六章 悲劇を未然に防ぐことはできるのか
終章 介護殺人を追って
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

介護者に思いを致す社会に

横井秀信

 介護という言葉を聞くと、いつも近所の男性を思い浮かべる。挨拶を交わすだけの間柄だが、いつも笑顔をこちらに向けて、「こんにちは」と声をかけてくれる。彼は、少なくとも10年ちかく、認知症の母親の介護を続けている。母親も、かつては笑顔が印象的な人だった。
 夜更けに、男性の大きな声が響いたことがあった。「頼むよ」「お願いだから」と、すがるようにも、いら立っているようでもあった。その声は、SOSの悲鳴だったのかもしれない。しかし、私は知らぬふりをした。
 介護を苦に、連れ合いや親を手にかけてしまう事件が相次いで起きている。高齢社会を反映して、介護される側が一貫して増えていることを考えれば、恐らくこうした事件も比例して増えていることが推測される。日々のニュースに少し目を凝らしただけで、実に多くの事件が全国各地で起こっている。介護の現場で何が起きているのか、何が介護者を追い詰めているのか、きちんと報道すべきではないか。そんな問題意識を持ったのが、一昨年の秋だった。介護に関する取材経験の豊富な記者とディレクターが集まって、「介護殺人」報道プロジェクトが立ち上がった。
 取材者たちはまず、事件がどれくらい起きているのかを探ろうと、全国のNHK放送局のニュース原稿や裁判資料を収集した。その中に、胸を締め付けられるような事件があった。
 九州に住む70代の男性が、42年間連れ添った妻を殺めた事件。寝たきりの妻から懇願されて手にかけ、自らも命を絶とうとしたが、果たせなかった。
 裁判資料に、記された夫婦の最後の会話。
「本当にいいね、後悔しないね、もう後戻りできないよ」
「うん、確実に殺してね」
 執行猶予の付いた有罪判決を受けたこの男性のもとに、取材者たちは何度も通い、仲睦まじい夫婦だからこそ起きてしまった悲しい事件のいきさつを記録した。
 いま一つ衝撃を受けたのは、母親を殺めて服役中の男性の証言を編集室で見た時である。
 男性は、もともと母親の介護をしていた兄に「助けて」と頼まれて、介護を担うことになった。男性はその時、失業中だった。
 我慢強く、しっかり者だった母の姿は一変していた。
「大便を、どうやったらそんなにつくのかっていうぐらい大量につけて、私の方に泣きながら『おいは何か悪いことをしたとですか』と言いながら来たので、母を楽にしてやれるのは俺しかいないと決めて、犯行に至ってしまいました、それがすべてです」
 男性は、罪に慄くように声を張り上げ、泣きじゃくりながら語った。膝に当てられた拳は、ぐっと握りしめられていた。
 なぜ逃げ出そうとしなかったのか――という取材者の問いに、男性は喘ぐようにして答えた。
「家族……だから……です」
 日本の介護保険制度は、自宅でのケアが、大きな柱となっている。これは「介護は家族が担うもの」という、暗黙の社会的合意を背景としたものだろう。だから家族は、肉体的、精神的、経済的に追い詰められても、外部に助けを求めづらい。そして、家族が家族を殺めるという罪を犯してまで、介護を終わらせようとするのだ。
 私もそんな暗黙の合意に縛られていた一人だったのかもしれない。冒頭で触れた、介護を担う近所の男性に、温かい言葉をかけることもしなかった。
 番組の放送後、私は思い切って男性に切り出してみた。
「お母様の具合はどうですか」
 男性は少し戸惑っているようにも見えたが、「あの病気にかかると、ダメですね。ありがとうございます」と答えた。
 男性にとって、どれほどの意味があったのかは分からない。気にかけているという思いだけでも、伝わったらと思う。
 介護殺人を防ぐ手立てを示すのは難しい。それでも、介護者の心のうちに、思いを致す社会であってほしい。そんな思いで番組をつくり、本書をしたためた。

(よこい・ひでのぶ NHKプロデューサー)
波 2017年11月号より

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