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日本には、これだけの美しいものがある――「橋本日本美術史」堂々のフィナーレ!

ひらがな日本美術史7

橋本治/著

3,456円(税込)

本の仕様

発売日:2007/02/23

読み仮名 ヒラガナニホンビジュツシ07
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 B5判
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-406109-9
C-CODE 0070
ジャンル 芸術一般
定価 3,456円

シリーズ最終巻は近代篇。高橋由一「鮭」、川端龍子「源義経」、竹久夢二「立田姫」、亀倉雄策「東京五輪ポスター」など、明治から昭和30年代までをひとっ飛びに総括。「国宝であろうとなかろうと、いいものはいい」――硬直した「日本美術史」を柔らかく解きほぐし、ビジュアルを以て日本史のあらすじを描く壮大な試み。画期的美術批評!

どういう本?

国宝であろうとなかろうと、いいものはいい。 自分の「好き嫌い」を離れて、いいものはいい。《それ》を「いい」と思うことにためらいがあるのは、もしかしたら偏見かもしれないので、まず「いい」と思える窓口があるのかないのかを探す。自分の中に少しでも「いい」と感じる部分があったら、そこを自分の思考の中心軸に据えて、自分の考えを組み立て直す――そういうことを十三年間やって来た。その点で、「ひらがな日本美術史」全百十九章で取り上げたものは、すべて「いいもの」である――【あとがき】より

著者プロフィール

橋本治 ハシモト・オサム

1948(昭和23)年東京都生まれ。作家。東京大学文学部国文科卒。小説・評論・エッセイ・古典の現代語訳など、多彩な執筆活動を行う。『窯変 源氏物語』『双調 平家物語』『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』『巡礼』『リア家の人々』『浄瑠璃を読もう』など著書多数。

目次

その百四  近代的なもの 井上安治筆「築地海軍省」
その百五  鮭が語るもの 高橋由一筆「鮭」
その百六  日本人の好きなもの 黒田清輝筆「湖畔」
その百七  近代日本の指導者達が求めたもの 狩野芳崖筆「大鷲」「悲母観音」
その百八  「君の行く道は」的なもの 高村光雲作「老猿」と高村光太郎作「手」「柘榴」
その百九  「君の行く道は」的なもの part2 岸田劉生筆「切通之写生」と青木繁筆「わだつみのいろこの宮」
その百十  「君の行く道は」的なもの 完結篇 川端龍子筆「源義経(ジンギスカン)」
その百十一 美術とは関係ないかもしれないもの 「旧東京市本郷区駒込千駄木町五十七番地住宅
その百十二 「アール・デコ」なもの キネマ文字
その百十三 ただ「私は見た」と言っているもの 今村紫紅筆「熱国の巻」
その百十四 堂々たるもの 竹久夢二の作品と梶原緋佐子筆「唄ヘる女」
その百十五 堂々たるもの 2 竹久夢二筆「立田姫」
その百十六 海の向こうから来たもの 梅原龍三郎筆「雲中天壇」と佐伯祐三筆「扉」
その百十七 讃歎するもの 棟方志功筆「鍵版画柵」「釈迦十大弟子」
その百十八 「マンガ」に属したもの 谷内六郎の作品と六浦光雄の作品
その百十九 卒業式のようなもの 亀倉雄策作「東京オリンピック」ポスター
ひらがな日本美術史7 年表
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

ビジュアルで日本史のあらすじを書く

橋本治

 一九九三年のある日(だと思う)、「芸術新潮」誌の編集者がやって来て、いきなり私に「美術史を書いて下さい」と言った――という書き出しで、完結した『ひらがな日本美術史7』に「あとがき」を書いた。私の言いたいことはそれがすべてなので、申し訳ないが、ここに抄録の再録をさせてもらうことにする――。

 それ以前に私は、「自分で美術史を書く」などという大それたことを考えたことはなかった。それは私が一時期、大学の美術史の研究室に「研究生」としていたからだろう。「居候が手を出すもんじゃない」という戒めのようなものが、私の中には残っている。自分の意識の中では「ちょっといさせて下さい」だけの居候で、そうしたら当時ご存命の山根有三先生に結構認められてしまった。「自分はいい加減な居候なのにな……」という意識があったので、「美術史だけは手を出すまい」と思っていた。それなのに「芸術新潮」からの依頼に対して、「ちょっと考えさせて」と言って、結局引き受けることになってしまったのは、「日本のことを知らない人が多すぎる」というところに、私が立ってしまったからだ。
「なんで、みんな“日本のこと”を知らないままで平気なんだろう?」という疑問は、高校生の時からあって、その結果、いつの間にか「日本のこと」が私の仕事の中心軸にもなってしまった。だから、「“美術史を書け”と言われても、それをするわけにもいかないし、出来るわけでもないし」と思う私は、「ビジュアルで日本史のあらすじを書くということにしてしまえばいいか」と、考えた。そういうことならやりたいので、結果、一九九三年の七月号に始まり、二〇〇五年の十一月号に終わる「芸術新潮」誌の連載がスタートした。
「ビジュアルで日本史のあらすじを書きたい」と思う私は、「政治体制の変化ばかりが歴史じゃない」と思っていて、「日本にこんなにいいものがあるのに」とも思っている。だから「ひらがな日本美術史」は、国宝級美術品のオンパレードにもなる。私は、「国宝であろうとなかろうと、いいものはいい」と思っているので、国宝であることを恐れない。ずっと昔から「いい」とされているものは、やっぱり「いい」はずだから、それが「どういいのか」を自分の言葉でもう一度表現したかった。批評とか評論というと、「NO」を積み重ねるもののようにも思われがちだが、「ひらがな日本美術史」は「YES」の積み上げである。自分の「好き嫌い」を離れて、いいものはいい。それを「いい」と思うことにためらいがあるのは、もしかしたら偏見かもしれないので、まず「いい」と思える窓口があるのかないのかを探す。自分の中に少しでも「いい」と感じる部分があったら、そこを自分の思考の中心軸に据えて、自分の考えを組み立て直す――そういうことを十四年間やって来た。その点で、「ひらがな日本美術史」全百十九章で取り上げたものは、すべて「いいもの」である。
「いいからいい」と言うのは簡単だが、「じゃ、どういいのか」を説明するのは、結構むずかしい。その点で、室町時代を中心にした『ひらがな日本美術史2』は、私の一つの山になった。室町時代の水墨画を、私自身は好きでもあるのだけれど、じゃ、それが「どういいのか?」になると、明確に説明する言葉を持たなかった。だから、雪舟や黙庵の回を乗り越えられた時には、ほっとした――その点で『ひらがな日本美術史2』は、私の中で最も愛着のある巻でもある。
 原稿用紙の向こうに、「自分の信じられる美しい日本がある」――そう思えるのは幸福で、「美しい」のは「そこに美術があるから」ではなくて、「そこに生きている人のあり方が美しいから」だ。その意味で、「ひらがな日本美術史」は、「美術史であること」を大幅に無視していると思うが、それは、「ひらがな」という四文字に、「日本人のあり方」を見てしまうからで、仕方のないことだと思う。

(はしもと・おさむ 作家)
波 2007年3月号より

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