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本屋大賞受賞作『一瞬の風になれ』の著者が満を持しておくりだす青春小説!

  • 受賞第30回 山本周五郎賞

明るい夜に出かけて

佐藤多佳子/著

1,512円(税込)

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発売日:2016/09/21

読み仮名 アカルイヨルニデカケテ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 286ページ
ISBN 978-4-10-419004-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2017/03/03

今は学生でいたくなかった。コンビニでバイトし、青くない海の街でひとり暮らしを始めた。唯一のアイデンティティは深夜ラジオのリスナーってこと。期間限定のこのエセ自立で考え直すつもりが、ヘンな奴らに出会っちまった。つまずき、人づきあい、好きだって気持ち、夢……若さと生きることのすべてが詰まった書下ろし長篇。

どういう本?

タイトロジー
(タイトルの意味)
『明るい夜に出かけて』という書名は、著者が作家デビュー前(約30年前!)から温めてきたもの。接点のなかった若者が何かを通じて出会い、夜の街を歩きまわる、という作品のイメージも出来ていた。時代の変容のなかで、小説の構想は変化と発展を遂げ、書名と作品イメージは変わらないまま、この一冊に結実した。
メイキング 著者は長年にわたる、筋金入りのラジオのヘビーリスナー。この小説を読んだお笑い芸人でパーソナリティのアルコ&ピースの平子祐希さんも「(われわれの番組を)好きで聴いてくれていた人が書いたと感じた。小説を書くために調べ、番組のデータを当て込んだ感じは全くしなかった」と、著者のラジオ愛を実感。
反響 作家の朝井リョウさんは「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」を「劇場型ラジオ」と名付けた。本書クライマックスのひとつでもある番組の打ち切りをネタにした2014年の放送は「ニッポン放送の歴史を変えた」と言われ、リスナーたちの間では「神回」として語り継がれている。(2016年3月末、惜しまれつつ番組は終了)。
装幀(カバー) カバー写真は、ニッポン放送の協力を得て、同局のラジオブースを撮影したもの。「昼日中と深夜ではラジオブースに流れている空気が違う」と言われ、深夜に撮影し、この第3スタジオは本作に登場する「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」でずっと使われていた。
装幀(表紙) 表紙の写真は、舞台となっている横浜市の金沢八景の夜景で、小説の中の描写通りに「水面に間隔をあけて連なる白い光」「道しるべのようで、海を指している」を捉えた一枚。
舞台 主人公のバイト先であり、店内の様子や人間模様が大きな比重を占めるのは、芥川賞で話題のコンビニ。著者は複数のバイト経験者や店主に取材し、夜勤の模様を見学し、チェックを受けた。リアルでヴィヴィッドなコンビニ人間の描写は、こうして生まれた。

著者プロフィール

佐藤多佳子 サトウ・タカコ

東京生まれ。1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で産経児童出版文化賞と日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を、『一瞬の風になれ』で本屋大賞と吉川英治文学新人賞を、『聖夜』で小学館児童出版文化賞を受賞。『しゃべれども しゃべれども』は「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」の第1位に輝き、国分太一・香里奈・伊東四朗・八千草薫らの出演で映画化された。ほかの著書に『神様がくれた指』『黄色い目の魚』『第二音楽室』『夏から夏へ』『シロガラス』などがある。

目次

第一章 青くない海を見てる
第二章 ミス・サイコ
第三章 二つの名前
第四章 ただの落書きなのに
第五章 エンド・オブ・ザ・ワールド

インタビュー/対談/エッセイ

小説の光が照らしだすもの

佐藤多佳子朝井リョウ

朝井 佐藤さんの『明るい夜に出かけて』と僕の『何様』が新潮社から同時期に刊行されたので、こういうトークイベントを開催できることになりました。佐藤さんとお会いするのは、五年ほど前、『チア男子!!』が出た時に対談させて頂いて以来ですね。
佐藤 朝井さんはまだ大学生でしたね。
朝井 そうです。十代の頃から、『一瞬の風になれ』を始めとする佐藤さんの作品を愛読してきましたから、初めてお会いできた時は光栄でしたし、緊張もしました。佐藤さんがミッキーマウスのTシャツを着ていらしたことを覚えています。
佐藤 朝井さんは当時デビュー一年くらいの新人さんでしたが、あれからいきなりすごい人になってしまって。今日、私は一体どういうスタンスで話したらいいのか困っています。
朝井 めっちゃ先輩として話して下さいよ!(会場笑) まずは僕から質問していいですか? 『明るい夜に出かけて』の主人公は深夜ラジオのハガキ職人ですね。僕はラジオが大好きで、その結果「オールナイトニッポン0ゼロ」で一年間パーソナリティをさせていただいたこともありますが、佐藤さんもラジオ好きだとは意外でした。それも、作品中で重要な役割を果たすのが「アルコ&ピース(平子祐希と酒井健太のコンビ)のANN」です。あんなお笑い指数の高い番組にどうやって辿りついたのですか?
佐藤 朝井さんよりずいぶん年上なので、話はかなり遡りますよ(会場笑)。中学二年の時に、谷村新司さんの「セイ!ヤング」を聴き始めたのがラジオを聴くようになったキッカケです。私は女子四人のグループで仲良くしていたのですが、そのうち二人がファンで「すっごい、ヤらしいのよ……聴いてみて」(会場笑)。
朝井 実際、どうでしたか?
佐藤 カマトトぶるわけじゃないけど、下ネタの意味が分からなかった。いやらしさが具体的に分からない(会場笑)。それからラジオが好きになって。いまのお笑いの人たちの番組を聴くようになったのは、もう十年以上前かな、くりぃむしちゅーの上田晋也さんの「知ってる?24時。」が好きで、それから「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」を聴き始めたんです。

 作者が心から好きなものを

朝井 先ほど申し上げたように、小説の中でアルコ&ピースの番組が大きな役割を担うのですが、あまり番組の説明をされていませんよね。それは作家として勇気がいることではないかと思うのですが。
佐藤 確かにあまり説明せずに、登場人物が聴いているままの感じで書きましたね。最初は、ラジオがあんなに大事な役割を果たすとは思っていなかったんです。ラジオはあくまで登場人物が出会うきっかけ、くらいに考えていました。で、どんな番組で出会うようにしようかと考えていた時、初めてアルコ&ピースのANNに出会って、はまってしまいました。
朝井 他の番組にはない、アルピーならではの魅力は何だったでしょう?
佐藤 バカバカしさに始まって、バカバカしさに終わるところ(会場笑)。何かモノを作っている人なら分かると思いますが、オチをつける方が案外易しいですよね。イギリスあたりが本場の「ナンセンス」という文学のジャンルがあります。ナンセンスを書くのは本当に難しい。バカバカしさ以外、余計なものを入れずに成立するフィクションを構築するって、大変ですよ。深夜ラジオはそれに似ていて、無意味なまでのやりっぱなしが許される媒体だと思うのですが、中でもアルピーの番組はその最たるものでした。
朝井 僕もあの番組が大好きです。二時間の生放送の冒頭でアルピーがテーマを決めて、リスナーからメールを受け付けるのだけど、リスナーの投稿がどんどん過激になっていく。というか、意味がわからなくなっていく(笑)。
佐藤 作中にも書きましたが、パーソナリティであるアルピーがもう舵を取れなくなって、「もうイヤだあ」「助けてくれえ」と悲鳴を上げれば上げるほど、〈神回〉と称えられる(会場笑)。
朝井 あの収拾のつかなさが聴いていて心地良かったですね。でも、ああいう無軌道で無意味な(会場笑)番組を小説に盛り込むことに躊躇しませんでしたか?
佐藤 「やってみて、だめだったら仕方ない」という五分五分の状態で書き始めたんです。本当は書く前にアルコ&ピースのお二人にご挨拶に行くべきなのですが、でも、変なものになるかもしれないし、完成しないかもしれない。だから、結局お二人には出来上がってからお見せしました。残念なことに、本が出るちょっと前に番組が終わったのですが……(2016年3月末に番組終了)。
朝井 作者が心から好きなものを、あらゆる理性を超えて書いた小説には特有の光が宿る気がしているのですが、『明るい夜に出かけて』はその光を感じました。
佐藤 そう言って頂けると嬉しいのですが、実際は、好きが嵩じて勇み足になったかどうかのギリギリのところだったと思っています。

 小説表現のアップデート

朝井 『明るい夜に出かけて』の中で、アルピーの番組があわや最終回になる、というシーンで、Twitter上にリスナーによるたくさんの#ハッシュタグが流れて、みんなが番組を惜しむ、その渦の中に主人公も没入するシーンがありますね。たくさんの#によって、胸がしめつけられるような感情を表現したのは、この作品がきっと初めてでしょう。小説における〈表現のアップデート〉に立ち会えた喜びがありました。
佐藤 ありがとうございます。あそこは実際に起きていたことを書いただけなのですが……。
朝井 Twitter以外にも、アメーバピグなど、新しいものをどんどん取り入れておられるのが印象的でした。十代の子の言葉遣いなどもそうですが、そういう現実の新しいツールを取り入れることは、この作品では積極的にやってやろうと?
佐藤 若い子の言葉遣いについては、二〇一四年春から一年間の物語とはっきり限定されていますから、今回は古びたりするのをあまり恐れなくてもいいかなと思ったんです。アメーバピグの書き方は難しくて、一回全部なくしてみたりもしました。さっきのラジオ番組の説明にしてもそうですが、説明をあんまり入れるとわざとらしくなってしまいますしね。#ひとつ取っても、小説の中の説明って非常に難しい。朝井さんは『何者』で#をたくさん入れていますが、ひと言の説明も書いていなかったでしょう?
朝井 あそこはもう、「ついてこいよ」と思っていて(会場笑)。
佐藤 あれはかっこよかったですよ。
朝井 しかし、『明るい夜に出かけて』の富山もそうですが、佐藤さんの小説の主人公はどうしてこんなに読者が愛さずにはいられない人物になるのでしょう。それに、佐藤さんは女性でありながら、どうしてこんなに地に足のついた男子を一人称で書くことができるのでしょうか?
佐藤 それを言うなら、朝井さんはどうしてこんなに女性のイヤな感じが書けるのか、どこでどう女性と接しているとあんなふうに書けるのか(会場笑)。
朝井 全部妄想で書いています(会場笑)。
佐藤 女性には「男に生まれたかった」という憧れの気持ちがあるから、私が異性を書く時、男同士のつながりをきれいに書けているのかもしれません。でも、『黄色い目の魚』などについて、「高校生くらいの男子はモヤモヤしていて、そういう方面しか考えていないよ」とか「こんなに内省的ではないんじゃないの?」とか言われたこともありますよ。愛される登場人物かどうかは分かりませんが、私は何も決めずに、とにかく主人公になりきって書きます。どこに行き着くかは、主人公と一緒に進まないと見えてこない。どうなるか分からないから、怖くて連載ができない(会場笑)。
朝井 僕はそういう感覚になったことがないんですよ。僕自身が登場人物にシンクロしていないせいか、彼らに意地悪なことを書いてしまいがちです。
佐藤 朝井さんは、構成などをいろいろ決めてから書きますか?
朝井 僕はガチガチに決め込んで書きます。それがうまくいったときの快感が癖になって、その快感を味わうために書いているくらいです。ただ、先輩作家の方々に、「そのやり方だと自分の想像を超える作品は書けないよ」と助言をいただくこともあり、最近悩んでおります……。

 佐藤健がカッコよくなかったわけ

佐藤 朝井さんと対談するという役得で、映画「何者」を公開前に見せて頂きました。非常に原作をリスペクトした映像化でしたね。
朝井 ありがたいことです。
佐藤 これからご覧になる方のために詳細は言いませんが、それでも三浦大輔監督の味が入って、驚きもありますね。
朝井 そうなんです。『明るい夜に出かけて』で、富山と知合う女子高生の佐古田が「伝染する」という言葉で表現していますが、創作物は連鎖で広がっていくことがありますよね。誰かが作ったものから、まさに伝染して、他の誰かが何かを作る。その時、何か変化が生じると思うのです。この映画でも、演劇をもともとやっていた監督によって変化が生まれています。原作者の僕に分からなかったものが見えてくるというのが、映画としてとても正しいことのように思いました。
佐藤 また映像になるとインパクトがすごいですよね。
朝井 『何者』では、最後にとある女性が大立ち回りをする場面があるのですが、そのシーンを映像で見ると、原作者なのにとても怖かったです(会場笑)。
佐藤 ところで、拓人を演じる主演の佐藤健さんって、カッコイイ俳優さんですよね。それがこの映画ではあまりカッコよくない。そこがよかったんです。俳優さんってすごいなあと感嘆しました。
朝井 なぜ佐藤健さんが今回はカッコよくなかったか、ご存じですか?
佐藤 いいえ、なぜです?
朝井 それは佐藤さんが僕をモデルに役作りしたからです(会場笑)。演じるにあたって、佐藤健と二宮拓人の間に、朝井リョウを挟んだと仰るんですよ。俳優の世界ではわりとスタンダードな役作りの方法だそうです。その結果、彼は僕が通っている美容院に髪を切りにまで行ったんです。日本中に「佐藤健みたいにして下さい」と美容師さんに頼む若者はいるでしょうが、まさか佐藤健が「朝井リョウにして下さい」と頼むとは(会場笑)。
佐藤 でも、なんで朝井さんにわざわざ寄せたのかなあ。
朝井 佐藤さんは「拓人は原作者が投影されている人物」と思われたようで、朝井リョウに似せれば、自然と主人公に近くなれるだろうと考えたらしいんです。さらに僕が着ているブランドの洋服を映画の中で彼が着ているのですが、またそれがちょうどよくダサく見えて(笑)。
佐藤 なるほど……あれ? 普通に話し続けていましたが、もしかして私、とても失礼なこと言っていますか?
朝井 いいえ、全然……ちょっと気づくのが遅いですね(会場爆笑)。

 SNSでそぎ落とされるもの

佐藤 偉そうな先輩的言い方をしてしまいますが、朝井さんはすごくうまくなられましたね。私は朝井さんの作品では『少女は卒業しない』が一番好きで、短篇の切れ味と魅力にいつも圧倒されています。その次作の『何者』は長篇で、長篇小説は、構成、ストーリーが重要になると思いますが、ホップからステップなしでいきなりジャンプした、とでも言いたくなるような、すごい作品でした。
朝井 すみません――有難うございます、と言うべきでしょうが、恐縮すぎて。
佐藤 今度の『何様』は、就活生たちが主人公だった『何者』のアナザーストーリー集です。そもそも「就活」という題材が朝井さんに合っていたのでしょうか。
朝井 僕にとっては、就活そのものより、「就活している人たち」のインパクトが大きかったんです。一方で、僕はSNS世代であり、コミュニケーションが非常に変わったという実感があります。大学の時にmixiが盛んになり、すぐにFacebookやTwitterが取って代わり、今はInstagramが主流。その変化の中で、使われる言葉はどんどん短くなってきています。省かれる言葉がどんどん増えていっているのに、その部分を想像する機会がないことがとても気になっていました。
佐藤 そぎ落とされた思いや考えがそのまま消えてしまう感じ?
朝井 はい。わずかな言葉で、あるいはほんの少しの情報で人がごっそり束ねられるような、余白のない様子が怖かったんです。その怖さがまさに目に見える状態になったのが、僕にとっては就活の場だったのかもしれません。例えば就活では〈内定のない=ダメ人間〉〈内定のある=すごい人間〉みたいなことにすぐなってしまう。面接にしても、たった三〇分で合格、不合格が決まりますし。
佐藤 朝井さんがもともと抱いていた思いが、就活という題材を得て、爆発した小説だったのですね。
朝井 ただ、就活という舞台が持つゲーム性には、小説を書く上で助けられました。ESエントリーシートが通るかどうか、内定を取れるのかどうか、それだけで読者をハラハラさせられますから。
佐藤 今度の『何様』には『何者』より先に書かれた短篇も収録されていますね。
朝井 ええ、『何様』は五年くらいかけて書いた六つの短篇から出来ています。実は、冒頭の「水曜日の南階段はきれい」に登場する光太郎が魅力的な人物だなと作者ながらに思って、『何者』を書く時、借りてきたんですよ。
佐藤 ちょっと『何者』とはテイストが違う感じを受ける短篇ですね。
朝井 当時は著者の朝井くんがまだピュアだったんですよ(会場笑)。それが二篇目の「それでは二人組を作ってください」(『何者』で同棲している理香と隆良が一緒に暮し始めるまでを描いた物語)になると、執筆当時の僕がものすごく苛立っていることがわかりますね。
佐藤 何にイライラしていたの?
朝井 生きていること自体というか、日々MAXイライラしてて、「信号赤かよ、チッ」みたいな、余裕のない時代でした。
佐藤 朝井さんの作品は、厳しいけれどどこかで〈踏み台〉を置いてくれるところがあるじゃないですか。でも「それでは二人組を作ってください」は……。
朝井 自分でもゲラで読み直して、「ここまで書かなくていいじゃん」と(会場笑)。逆に言うと、あのイライラしていた時にしか書けなかっただろうから、結局は書いてよかったと思っているんですが。
佐藤 エンディングがすごいですよね。率直な質問ですが、理香さんみたいな女性は嫌いなのですか。
朝井 それがね、僕、理香さんのこと大好きなんですよ。愛憎半ばが行き過ぎて、抱きしめながら、背中をグサグサ刺している感じで書いています(会場笑)。この短篇の終わり方は、派手にピアノを鳴らして終わる曲みたいですよね。ああいうのは、本篇である『何者』という受け皿があって、その前日譚だから書けた話です。瑞月の父親の不倫を描いた五篇目の「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」もそうです。救いのないような話を書いても、本篇で補完されるだろうという安心感がありましたね。
佐藤 その感覚は分かりますが、独立した短篇集としても十分面白かったです。次はどんな作品を書かれる予定ですか? 私が編集者なら、朝井さんにオーダーしたい作品はスポーツものなのですが……。
朝井 次はまさにバレーボール選手を題材に書きたいと思って、『一瞬の風になれ』を持ち歩いて読み返しているところです。
佐藤 バレーボールにははっきりポジションがありますね。
朝井 そこで役割や性格を反映できるのですが、一方で、バレーは同時に全員が別々の動きをするのでどう描くのか。
佐藤 どのくらいの年齢の話を書かれるおつもりですか?
朝井 天才スポーツアスリートが少しずつ〈自分のやっていること、やろうとしていること〉を表現できる言葉を獲得していく過程を書きたいと思っているのです。そのためには長いスパンが必要なので、小学四年生くらいから大人になるまでを書きたいと思っています。全盛期の華やかな時代も、アスリートは三〇歳で引退というような残酷な面も書きたい。
佐藤 引退まで書くとなると、大長篇になりますね。楽しみにしています。
朝井 僕は佐藤さんの書く物語なら何でも読みたいのですが、少年目線の小説はぜひ定期的に書いて頂きたいです!

二〇一六年十月五日 神楽坂la kaguにて
波 2016年11月号より

深夜ラジオの流れる青春小説

佐藤多佳子アルコ&ピース

小説の中にオールナイトニッポン

平子(アルコ&ピース) 佐藤多佳子さんの新刊『明るい夜に出かけて』に僕らが出てくると聞いたときは、ちょい役もちょい役で、さらっと名前が載るくらいなんだろうなと想像してました。しかし先に読んだ人から「がっつり出てきます」と言われ、普段から小説を読む者としては、僕らやラジオ番組のことがどのように小説に落とし込まれ、その「がっつり」の度合いがどんなものかピンときませんでした。
佐藤 架空の設定で実名を使わない方が普通のアプローチですよね。実際に読まれてどうでしたか。フィクションとして読めなかったかもしれないですけど。
平子 実際の放送がかなり盛り込まれ、正直、引きましたね。僕らのラジオ番組と僕らをこれだけ使ってくれちゃって、本当に良いのかと、申し訳ないような、怖くさえなっていました。
酒井(アルコ&ピース) どうして僕らだったんですか?
佐藤 若いリスナーが多い感じの、勢いのある個性的な番組で、構想していた作品のイメージにぴったり合ってました。
酒井 ほかの番組は聴いてないですか。
佐藤 色々聴いてますよ。でも、リアルに小説に書きたいと思ったのは、アルピーさんの番組です。
酒井 出版社の編集長とか偉い人が読んで、「アルコ&ピース? こいつら誰?」ってなりませんでしたか?(笑)
平子 実在にするなら、本の売り上げにつながりそうな芸人さんにしろと、僕がお偉いさんだったら言いますけどね。それにラジオ局のサイトなどにパーソナリティの発言や投稿メールを挙げて番組内容が紹介されますが、僕らの番組は要約しにくいと言われ、僕らも説明できず、ほとんど放棄していましたから(笑)。
佐藤 むしろ、その無軌道かつポップな番組の世界を、自分のフィクションに入れてみたかったんです。リスナーと番組の距離が近く、年季の入ったハガキ職人でなくてもどんどん参加できる、いい意味での敷居の低さがある気がしました。送り手も受け手もすごく優秀で息が合ってましたね。ひとつ面白いネタが来ると、それに乗っかって、どんどん続いていく感じも独特でした。とにかく新しい感じがし、SNSを使ったコミュニケーションも含めてラジオの聴かれ方が変わり、リスナーとラジオの関係も変わってきているように思いました。
平子 番組聴取率を見ると、十代と二十代が多く、僕らが芸人として大成していないところも、番組をいい方向に転がしていたのかもしれませんね。出来上がっていない芸人が、自分たちの番組として初めてパーソナリティをやらせてもらえて、そんな綱渡りの危うい感じが現実の世界でヤキモキしている十代と二十代の若者に共感を呼んだのかなと思います。番組はリスナーがどうにかしなければ成立しないぞといったところがあったし、そのためリスナー同士のつながりも強くなっていたんでしょうね。
酒井 佐藤さんは最初から僕らの番組のことを書くつもりでしたか。
佐藤 実はこの本の書名とイメージは作家デビュー前からあって、ふとしたきっかけで少年少女が出会い、深夜にコミュニケートするといった構想でした。最初はストーリーが作れず、長年にわたり内容が二転三転するなかで、登場人物がラジオ番組で知り合う設定を考えました。もともと私はラジオを聴くのが好きだったので、どんな番組をきっかけにするか参考にしたくて、通常よりさらに幅を広げて色々聴いていくうちに、日ごろは聴かなかった遅い時間帯でアルピーさんの番組に出会いました。仕事モードで入りましたが、すぐに普通にヘビーリスナーになりました。
平子 好きで聴いてくれていた人が書いたと感じました。小説を書くために調べ、番組のデータを当て込んだ感じは全くなくて、読んでいて心地よかったし、その点はうれしかったですね。
佐藤 出会いのきっかけと考えていたラジオですが、だんだん中心に据えたくなりました。それでもまだ架空の番組にするつもりでしたが、自分で作るより、アルコ&ピースのオールナイトニッポンをリアルに扱うほうが絶対に面白いじゃないですか。でも私の創作は、実際に書いてみないと、構想通りにいくか分からなくて、その自信もありませんでした。ですから本当は「こんなことを考えていて、書かせていただきたいのですが」とおふたりやニッポン放送にお訊きしてから書き始めるべきでしたが、こんな状態でお願いするのは、どうなんだろうと。
酒井 途中でポシャったら、どうしようかと。
佐藤 その通り(笑)。「書きます」と見得を切ったものの、「すみません、書けませんでした」では、みっともなくて。
平子 でも、「書きます」と言われていたら、僕らは意識し過ぎてダメになっていましたよ。番組がガラッと変わって、いきなり文化教養の要素が強くなり、僕らはガチガチになっていたはずです。

きっかけはノベルティグッズ

酒井 主人公の富山と佐古田が知り合うきっかけが番組のノベルティグッズのカンバーバッヂというところは自分的にはすごく面白かったです。コンビニの店員と女子高校生で、接点はなさそうなのに。
佐藤 富山はある問題を抱えていて、大学を休学し、ひとり暮らしをしていますが、あのシーンでは佐古田に声をかけてしまうと思うんですよ。カンバーバッヂは投稿ネタの中で「最高」と認定されると進呈されますが、出し惜しみをされているのか、なかなかゲットできない。番組のHPに写真がアップされていて、一見して分かるものでしたし。
平子 僕が放送開始前に何の変哲もない缶バッジにマジックで書きなぐった、あんな雑なノベルティグッズをリスナーはあがめ、伝説的な扱いをしてくれていたのかと、すまない気持ちになりました。
酒井 富山はまだ一個も貰えていないのに、チビで髪の毛がピンピンはねていて便所サンダルをつっかけた佐古田のリュックには二個もぶらさがってる! 富山には衝撃的で、屈辱だったでしょうね。
佐藤 いまはリスナーさん達がツイッターなどのSNSを通じて簡単に知り合えますが、もう少しインパクトが欲しくて、また、どのように出会うのかは私には大切なことでした。そこはやはりカンバーバッヂを通してだろうと。小説の中では二〇一四年のキングオブコントの賞レースのことも使わせていただきました。決勝十組に入れなかったとき、番組内で平子さんが恐竜に扮して咆哮し、酒井さんも吠え、コンテストものやファイナリストを食べるといった回で、実際に聴いていて、本当に悔しいんだなと胸に迫るものがあり、コンビニ店内の人間関係に悩む富山にも「俺の咆哮をしよう」と決意を固めさせました。
平子 僕は追い詰められると、本音で話すことがあります。伝わるんでしょうね、お仕着せの言葉か、本音かということは。リスナーの反応はメールをもらったり、直接会って話を聞いたりして知ることもありましたが、彼らの生活に僕らのラジオがどういうふうに浸透しているのかというのは窺い知れない部分でした。この小説は実在のリスナーの話だよと言われたら、そう信じてしまうほどのリアリティがあって、富山が咆哮したり、怖いコンビニ副店長との会話とか、いくつかのシーンで胸がじんわりしていました。

主人公になりきる

佐藤 アルコ&ピースのオールナイトニッポンが二〇一五年三月の改編期を乗り切れるかどうかというテーマの「エンド・オブ・ザ・ワールド」を聴いたときは、ここは外せないなと思いました。番組の今後という死活問題をそのまま悪ふざけのようなネタにする「ラジオの生きざま」は本当にカッコよかったです。二部から一部に昇格したときと同じシチュエーションで、本当の終了時とあわせて計三回やりましたが(笑)、実際に小説の中にどのように入れるかと考えると、やはり富山や佐古田はヘビーリスナーですから、私と同じく彼らもハラハラしている。富山は一年限定の「逃亡」も終わりに差し掛かって、彼らの世界でもある種のクライマックスを迎えつつあって、それと「エンド・オブ・ザ・ワールド」をどのようにつなげていくのかは難しかったです。書いてみて、何とかつながったかなと思っていますが、賭けのようなものでした。
酒井 僕らのラジオと似てますね。
佐藤 ほかの小説家の方はわかりませんが、私は演技をするくらいの感じで主人公になりきらないと書けないんです。主人公の置かれた状況に自分を追い込み、どのように進むかは書きながらでしか見えてきません。どこに行き着くのかも書き上げてみないと分からず、違うラストになった小説もあれば、ラブストーリーでくっつく相手が変わったこともあります。行き先不明なところは、おふたりの番組と一緒かもしれません。

聖地巡礼、「伝説」になる

酒井 僕らが放送しているところを見ようとは思わなかったんですか。
佐藤 この本のカバーの写真を撮影するとき初めてニッポン放送のラジオブースを見せていただきました。「平子さんはこっちに座って、酒井さんはこっちでした」とか「石井ディレクターはここからキューを出していた」といったことを局の人に説明していただき、オールナイトニッポン見学ツアーの聖地巡礼みたいで、いちいち感動していました。
酒井 僕らの番組が今年三月末で終わった後のことですね。なんだか故人を偲ぶような感じになってしまって。
佐藤 番組の終了を知ったのは、すでに書き上げていたものの改稿中のときで、この本は出せないんじゃないかと思いました。小説の中では番組は継続し、めでたしめでたしとなっているのに、本が出版されるときには、めでたしでなくなっていたというのは、まずくないかと考え込んでしまいました。
平子 でも、終わったからこその美しさや愛おしさってものもあるし、若くして志半ばで命を失ったミュージシャンが伝説になるみたいな感じにもなる(笑)。僕らも割り切れないところがあり、ラジオブースのある有楽町界隈に魂が浮遊している感じがしていました。でも、この本が出ることで、ピリオドを打ってもらえ、やっと昇天できた気がしています。
佐藤 そんな風に仰っていただけると、こちらも少しは救われますが。
酒井 リスナー達にこの本を買ってもらい、供養してもらいましょう(笑)。
平子 一人三冊、必ず購入ですね。これまで無料の電波を拾って、さんざん楽しんできたのだから(笑)。素晴らしい小説だから読めよって言いたい。
佐藤 でも、九月からTBSラジオでレギュラー番組「D.C.GARAGE」が始まりますね(毎週火曜日、二十四時スタート)。おふたりが楽しくしゃべっていれば、リスナーはそれだけでうれしいですから。深夜、何となく淋しくても、パーソナリティの声が流れてくると夜が明るくなり、安心できる。おふたりの番組で笑わせてもらうと、リフレッシュでき、悪いものも消えてなくなる気がしました。パーソナリティがリスナーに寄り添って、何かしてあげたいとか、救ってあげたいとか、上から目線でない感じもまた良くて(笑)。結果的には救ってますが。
酒井 そういったエールの要素やお悩み相談のコーナーを平子さんが入れようとしたこともありますが、時すでに遅しで、僕らにはムリでした(笑)。
佐藤 リスナーへの思いがあるからこそ響くものがあり、届くものがあって、小説に書きたくなったのだと思います。


(ひらこ・ゆうき/さかい・けんた お笑い芸人)
(さとう・たかこ 作家)
波 2016年10月号より

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