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情熱、野心、そして愛――すべてを賭けて、命をつなげ。
先端医療に挑む医師たちの闘い!

移植医たち

谷村志穂/著

2,052円(税込)

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発売日:2017/08/22

読み仮名 イショクイタチ
装幀 ケッソクヒデキ/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 367ページ
ISBN 978-4-10-425606-8
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 2,052円

1985年、当時は「人体実験」とさえ呼ばれた臓器移植。最先端の医術を学ぶために渡米した三人の若手医師を待ち受けていたのは、努力も夢も報われないシビアな命の現場だった。苦悩し、葛藤しながらも、やがて日本初の移植専門外科を設立する彼らを支えた想いとは……。命と向き合い、不可能に挑戦し続ける医師たちを描く感動作。

著者プロフィール

谷村志穂 タニムラ・シホ

1962年、札幌に生まれる。北海道大学農学部で動物生態学を専攻。1990年、ノンフィクション『結婚しないかもしれない症候群』で、女性たちの支持をあつめる。1991年、処女小説『アクアリウムの鯨』を発表。2003年、『海猫』で島清恋愛文学賞を受賞。ほかに、『十四歳のエンゲージ』『レッスンズ』『アイ・アム・ア・ウーマン』『余命』『黒髪』『雪になる』『尋ね人』『いそぶえ』『ボルケイノ・ホテル』『大沼ワルツ』など多数の作品がある。

書評

一刀彫りで描かれた傑作医療小説

海堂尊

 谷村志穂さんは人当たりの柔らかい佳人である。だが見かけに騙されてはいけない。中身は酒豪の女傑なのだ。彼女とは講演会でご一緒したご縁だが昨年、久しぶりにお目に掛かった時いきなり、「××内閣ってとんでもないですね」と言われ面食らった。科学の基礎研究の予算を削り、大学はがたがたにされていると憤っていたのが二年ぶりの再会での開口一番の言葉だ。私も××内閣の経済重視の空疎な政策と幼稚な言動に危機感を抱いていたので、いたく共感したものだ。
 そんな風に彼女の視線は常に社会に注がれている。そんな彼女がその時に「実は今、医療小説に挑戦していて」とこそりと告白した。聞けばかなり意欲的な内容で「医療の世界はアウェイなので、もう大変」といたずらっぽく笑っていた。
 時が流れ、版元から書評依頼がきた。書名は「移植医たち」。
 隠喩も修飾もない、ど真ん中の剛速球のタイトルはいかにも彼女らしい。移植医療は現代医療の極点で、実施には難問が山積している。まずドナー問題がある。脳死臓器が供給されるのは偶然の機会を待つしかなく、適用に設けられた厳しい規定もクリアし、しかも迅速に対応しなければならない。他人の臓器を移植するのだから、手術手技にミスは許されず、高度な外科技術が要求される。移植手術が成功した後の、恒常状態の維持が実は最大の難関だ。拒絶反応を抑える免疫抑制剤の開発、その適切な使用と免疫抑制状態と生命維持のバランスをとり続けるため、繊細かつ高度な実験データの積み重ねが必要とされる。実際、術中死より術後の拒絶反応などによる死の方がはるかに多い。
 つまり移植とは巨大なシステムであり、それぞれのパーツを担う専門スタッフが結集して初めて達成される社会機構だ。こうした多様な各部門に対し、作者は誠実で丁寧な取材を重ね、患者の視点、経済的な問題、移植コーディネーターの協力体制など、移植医療の複雑さをドラマチックに描き出している。ドナー臓器を取りに行くリア・ジェットに乗り込む場面の華やかさや、その行為をハーベスト(収穫)と呼ぶ挿話など、印象的な場面も実に多い。
 1985年のピッツバーグ。肝移植のパイオニア、セイゲル教授の下に九南大の佐竹山行蔵が留学する。佐竹山はセイゲルの手足となり奮闘していくうち、セイゲルの後継者の座へ上り詰め、師の夢だった全臓器移植を成功させる。
 だがセイゲルは佐竹山を称賛しなかった。
「ドクター・セイゲル、我々は小腸移植をやり遂げました。お祝いしましょう」と言う佐竹山にセイゲルが告げる。
「コウゾウ、お前はそんなことに一喜一憂すべき人間ではない。君は人類のために働くべき人間なんだ、それを忘れるな」
 その言葉に背を押され、佐竹山は北洋大の招聘を受け日本に帰国、日本の移植医療の構築に尽力する。
 ピッツバーグでの佐竹山の奮闘は明るく乾いた筆致で描かれているが、帰国後の苦難は陰鬱なモノクロに描かれている。それは医療従事者のひとりとして悲しいが、紛うことなき日本の医療界の現実なのだ。
 物語に彩りを添えるもう一人の重要人物、女医の加藤凌子は日本初の心臓移植手術を敢行した加藤せい嗣の娘だ。和田心臓移植事件を物語に関与させることで移植医療に対する日本と米国の姿勢の違いも想起される。セイゲルが肝移植で多くの患者を亡くし試行錯誤していた頃、日本初の心臓移植手術を断行した和田医師は殺人罪で告発された。それは最新医療、ひいては医療に対する社会理解の成熟度、医療行為に対するリスペクトの差だ。作者は当事者の娘を架空の存在として物語に配し、日本の移植医療の問題点も描き出した。
 などと類をみない移植医療小説に医療従事者としてもっともらしく縷々述べたが、この物語はヒューマニズムに満ちた普遍的な小説だ。患者を助けたいという人間が根源的に持つ純粋な感情をモチーフに、道を切り拓く者の孤高の苦難を一刀彫りのようなシンプルな筆致で鮮やかに描き出している。
 この作品を得、日本の医療小説は豊穣度を増した。5年続いた日本医療小説大賞は日本医師会の意向で休止されてしまったが、もう少し辛抱していればこのような傑作を世に紹介する機会を得て脚光を浴びただろう。惜しいことをしたものである。誰がなんと言おうと今年度の医療小説大賞は本作で決まりだ。

(かいどう・たける 作家)
波 2017年9月号より

目次

序章
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
最終章

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