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ふたりで訪れたおいしいお店をそれぞれの視点で綴った初の夫婦共著エッセイ。

もう一杯だけ飲んで帰ろう。

角田光代/著、河野丈洋/著

1,404円(税込)

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発売日:2017/11/30

読み仮名 モウイッパイダケノンデカエロウ
装幀 得地直美/装画、新潮社装幀室/装幀
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 214ページ
ISBN 978-4-10-434607-3
C-CODE 0095
ジャンル 文学賞受賞作家
定価 1,404円

ずっと別々に行っていた居酒屋に今は二人で一緒に。旅先の味を求めてミャンマー料理を食べに。近所の古本酒場で常連たちと盛り上がり、芝居を観た後は朝まで話し合う。昼飲みの聖地ではしご酒、うまい魚を食べるためには電車に乗って。ご近所から海外まで、今夜も夫婦で一杯飲みに。読めばおかわり必至ごくごく読める楽しいエッセイ。

著者プロフィール

角田光代 カクタ・ミツヨ

1967(昭和42)年神奈川県生れ。魚座。早稲田大学第一文学部卒業。1990(平成2)年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞、2006年「ロック母」で川端康成文学賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。著書に『真昼の花』『キッドナップ・ツアー』『人生ベストテン』『おやすみ、こわい夢を見ないように』『ドラママチ』『三月の招待状』『森に眠る魚』『くまちゃん』『空の拳』『平凡』『坂の途中の家』『拳の先』など多数。

河野丈洋 コウノ・タケヒロ

1978年埼玉県生まれ。2001年GOING UNDER GROUNDのドラマーとしてデビュー、2015年1月同バンドを脱退。2009年よりソロ活動を開始、ドラムの他にギター、ピアノを演奏するマルチプレイヤー。他のアーティストへの楽曲提供や映画、ドラマのサウンドトラック、舞台音楽製作などの活動も行う。

書評

また近々飲みましょう。

藤原寛

 最初にご一緒したのは、当時の家の近くの焼き鳥屋。先輩バンドマンである丈さんに誘っていただいたときだった。お互いの所属していたバンドで一緒に地方を回ったりしていた頃である。1人で先輩と飲みに行くなんてことも珍しく、行く前はそれなりに緊張していたと思う。
 だんだん打ち解けていったというよりも、ほとんど最初の時から、今一緒に飲んでいる時のような手応え、安心があった気がする。角田さんとはそのときが初めましてで、丈さんともおそらくあんなに話したのは初めてだったのだが、それでも変に様子を探り合うでもなく、やたらと後輩あつかいされるでもなく、率直でフラットな向き合い方で、でも暖かく迎えてもらった。
 それはとてもうれしい体験だった。そこには絶妙なバランスと、心地よい温度感がある。気取らないけども、粗野にもならず、率直だけども、心をざらつかせるようなことはしない。穏やかな時間を望むけれども、なあなあに物事に向き合うでもない。僕のほっとするポイントにぴたりとはまっていたのだ。
 ある頃から一緒に飲む中で、おふたりが飲みにまつわるエッセイを連載しているということは聞いていた。本を開くと、よく知るふたりが、ひたすら色んなところで飲み続けている。中央線で。立石で。トルコで。香港で。美味しそうな料理や、時に異国の景色や、色んな隣人たちの中で。
 ふたりそれぞれの目線があって、ワンシーンワンシーンくっきりする。きっとどこにいても相変わらずなんだろうな、と思う。阿佐ヶ谷にて、想い出の鯛めしと再会する丈さんも。ピザのチーズのとろけるさまに、ハイジの世代のファンタジーを見る角田さんも。上座部仏教に思いを巡らせつつ高田馬場でミャンマー料理を食べたり、旅したインドの混沌に思いを馳せながら阿佐ヶ谷で餃子を囲む様子も(料理がとにかく美味しそう)。
 読み始めたら、なんだかやっぱり、普段飲んでいるときの空気感と一緒で、いつものごとく自分も一緒に飲んでいるような気分になる。なんとなくとろけた気持ちになり、終わりまでするすると読んでしまった(そんな心地で読んでいると、ほんとうに自分が登場して来たときに、何故だかびくっとする)。一方で、自分がテーブルの向かいで雑に飲んでいる時にもこんなことを思っていたんだな、とか、こんなにも物事をしっかり観察していたのか、と不思議な気分になったりもする。
 おふたりがお店だったり人に求めているもの。それはそのまま他者に対する接し方、もてなし方にも重なってくるのだと思う。今回、エッセイの中で再確認したことでもあった。一緒に酔っ払っていても、飲むという行為、その時間をとても大切にしているんだな、と感じる。集まった人まで含めて、みんなほっと一息つけるような。
 時に自分のバンドメンバーも混ざりつつ、相変わらず最近も、ちょくちょくご一緒させてもらっている(出不精なのでお誘いいただくことが多い)。バンドの悩ましいことを聞いてもらったりだとか。運気をタロットで占ってもらったりだとか。トト(猫)に脚をガリガリされたりだとか。
 角田さんには、気づくと眠気の限界までつき合ってもらっていることも多くて、思い返しては反省する。丈さんも、いつも深い時間までつき合ってくれるのだが、限界を迎えている姿は見たことがないかもしれない(たしかに丈さんは飲んでもなかなか顔に出ない)。僕の身も蓋もない人物評なども面白がって聞いてくれたりするので、調子に乗って喋りすぎることもある。時々、妙なツボで盛り上がったりして、あなたたちはへんなやつよ、と言われる。僕はなんだかわかるなあ、と丈さんが言ってくれたり。
 僕らは、お酒を飲むことで日常のリズムを取る。あるいは共有している。ような気がする。
 ふたりの飲みの日々が、あの感じが、作品になって残ることがすごくうれしい。題の下の似顔絵、いいですね。また近々飲みましょう。

(ふじわら・ひろし ALベース担当)
波 2017年12月号より

目次

はじめに
第1夜 西荻窪といえばここ
第2夜 出汁にひたる西荻窪
第3夜 西荻窪のただしい居酒屋
第4夜 阿佐ヶ谷の日本一トルコ
第5夜 荻窪の顔
第6夜 高円寺の古本酒場
第7夜 落ち合って大阪
第8夜 五反田で愛する魚を
第9夜 阿佐ヶ谷の宇和島
第10夜 もう一リットルの西荻窪
第11夜 香港で蟹静寂
第12夜 ラオス経由吉祥寺
第13夜 西荻窪でジュージュー
第14夜 二度づけ禁止の高田馬場
第15夜 荻窪・カンヅメ・ソウル
第16夜 芝居のあとの下北沢
第17夜 立石で大人の遠足
第18夜 新宿で蕎麦屋呑み
第19夜 気軽にふらり中野鮨
第20夜 吉祥寺の中華街
第21夜 西荻窪の澄んだ鍋
第22夜 走って恵比寿でBBQ
第23夜 阿佐ヶ谷から牡蠣ドラマ
第24夜 ピザの町永福町
第25夜 高田馬場でミャンマースマイル
第26夜 新中野のインド居酒屋
第27夜 西荻窪で広島マジック
第28夜 芝居ファミリーと新宿
第29夜 猫と魚と西荻窪
第30夜 赤羽の一軒家居酒屋
第31夜 神田で羊三昧
第32夜 オールスター三鷹に集合
第33夜 餃子の館
第34夜 青山のしあわせ中華
第35夜 愛を歌おう三鷹の夜
第36夜 インド→阿佐ヶ谷の旅
第37夜 29の会
第38夜 西荻窪でみんなと乾杯
おわりに

イベント/書店情報

第1夜 立ち読み

【第1夜】西荻窪といえばここ

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愛する戎 Image

Image  西荻窪北口にある居酒屋、『やきとりえびす』にはじめて入ったのはこの町に引っ越してきた二十代半ばのときだ。あまりの独特な雰囲気に、最初は入ることがためらわれた。男友だちと思い切って入ったのを覚えている。しかし入ってみれば、なんと気楽な店。食べものの種類が多くて、出てくるのが早くて、おいしくて、しかも安い。それからは、南口店にも北口店にもしょっちゅういくようになった。
 三十代の前半に、べつの町に引っ越したこともあって、足が遠のいた。再訪するようになったのはつい最近だ。夫と二人か、ひとりでいくことが多い。北口店が好きだ。活気があって、飲んでいる人たちを見まわすことができて、酔うほどにみんながしあわせそうに見えてくる。前は、名物いわしコロッケはこちらの店にしかなかった。今はメニュウが北南ともに共通になったみたい。
 この日は七時ちょい過ぎに入店。カウンターについて乾杯をするやいなや、いわしコロッケ終了! の声。ああ、一歩出遅れた。刺身、モツ煮(豆腐煮込みを頼んだらモツ煮が出てきた、これもまたヨシ)、水餃子を頼んで食べはじめると、真鯛終了、鯖終了、カマ焼き終了、アスパラ椎茸終了と、どんどん声が響く。その声が、長細いカウンターの内側で連呼される。注文も連呼される。湯豆腐いっちょーう、湯豆腐いっちょーーう、湯豆腐いっちょーーーう。
 カウンターのお客さんは、仲良く飲む常連さんたち、カップル、男性二人、若い女の子グループ、年齢様々な男性ひとり客、などなど。本を読む人、新聞を読む人、肩をくっつけて深刻に話す人、背をのけぞらせて笑う人、眺めていると、この店にはどんな酒も似合うなあと思う。しんみり酒もじっくり酒も、はしゃぎ酒もラブラブ酒も。からみ酒は似合わない。そういえば、この店で喧嘩している人を見たことがない。
 私はワインに切り替えて、せりのおひたし、串(レバー、うずら、タン)と牡蠣フライをもらう。『戎』って本当にいいねえ、と夫と話す。ひとりで飲んでいてもさみしくないのがいい、という意見が一致。私も本当はひとり飲みが得意なわけではないが、『戎』の幸福そうなにぎやかさの中にまぎれていると、ひとりでも心からたのしくなってくる。
 いかにも紳士然とした男性がひとりで入ってきて、私の隣に座る。刺身、串、煮物と焼酎でにこやかにひとり、はじめる。やがて彼は左隣に座る、これまた男性ひとり客となんとなく言葉を交わし出す。二杯目の焼酎とともにオクラ納豆が紳士の前に置かれ、それを見た私たちは思わず「オクラ納豆!」と声を合わせて注文する。飲んでいるときの納豆、ひんやりしてつるつるしてなんておいしいのか。おいしいでしょ、と紳士がにこにこと話しかける。ええ、すんごく、と私たち。『戎』ってこういうゆるい感じが異国のようだ。私たちみんな、異国の旅人のようだ。
 すっかり気分が良くなって、もう一杯ずつ飲んでいこうかと、二軒目に二人で向かう。お会計、よく覚えていないけれど七千円くらい。

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生、酎ハイ、いちいちぃ~!!! Image

Image  ビール好きにとって「一杯目のビール」がいつ何時も格別であるのは言うまでもないが、僕にとっての西荻窪『戎 北口店』は、ビールが何杯目になってもうまい店だ。
 酒のうまさについて語るとき「何をもってうまいと言うか」には、その筋道の立て方がいくつもあるだろう。生ビールの場合ならサーバーメンテナンスがきちんとなされているとか、温度やガス圧が絶妙であるとか。カクテルなら配合の加減や隠し味。むろん焼酎や日本酒のように「酒そのものの質」をもって、この酒はうまいと言うことだってある。
 しかし『戎』のビールがうまいわけは、そういった理屈の上にあるのではなく、店全体に「この酒はうまい」と思わせてくれる空気が充満しているからだと思う。ひとりで飲む酒と、誰かと話しながら飲む酒、それだけのことで酔い方が違ってくるように、いつでも気持ちよく酒を飲ませてくれる店というのがあるのだなと、僕は『戎』に来るたびに思うのだ。
 言い換えるなら「安心感」だろうか。カウンターの内側でせわしく働いている人たちにはみな、マニュアル通りに動いているようなところがまったくない。かといって客に話しかけたりもしないし、たまにやたらと店員に話しかける客がいると「……なんか言ってるよ」と別の店員にスルーパスが行ったりする。カウンターで囲まれた細長い焼き場と厨房、その中での店員たちのやりとりは一見ぶっきらぼうだがその実「僕らがよく知っている感覚=カウンターのこちら側の感覚」の上に成り立っていて、四角四面な仕事っぽさがなく、何か人をほっとさせるものがある。そう、『戎』は店の空気を作っている店員たちのあり方が、とってもいいのだ。
「生、酎ハイ、いちいちぃ~!!!」
 賑やかな店内にひときわ大きな声が通ると、他の店員がそれを同じくらいの声量で復唱する。そのこだまが店のいちばん奥から聞こえてくると、今すべての店員が注文状況を把握したのだなとわかる。それでも時々注文していない品が来たりするのだが……そんなミスにもまったく腹が立たないのは、やはりこの店の「客との距離のとり方」に妙があるからだろう。
 ひとりでバーに行って飲む酒と、自宅で気心の知れた友達と飲む酒、どちらにも「その場」が生み出す酒のうまさがあるが、『戎』で感じる酒のうまさは、そのどちらも併せ持っているし、また、どちらにも似ていないとも言える。ひとりで行っても誰かと行っても、結局のところ、多くの人が独特の「戎グルーヴ」の中でうまい酒を飲むことになるだろう。
 それから(思いがけず蛇足のようになってしまったが)、『戎』は価格設定と一品の量がちょうどいい。基本、一人前で出てくるので残すということがなく、食べたいものを食べたい量だけ食べることができる。こういう、かゆいところに手が届く感じ、店に対して飲む以外のことを何も考えなくていい感じというのも、『戎』の居心地の良さに一役買っているのではなかろうか。
 あ、名物の「いわしコロッケ」は二人前くらいあります。そして七時くらいにはもうなくなっていることもあるので、注文するならお早めに!

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