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これでまた、一緒にうまい酒が飲める――心やすらぐ人情捕物帳、第二弾!

雪まろげ―古手屋喜十 為事覚え―

宇江佐真理/著

1,620円(税込)

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発売日:2013/10/22

読み仮名 ユキマロゲフルテヤキジュウシゴトオボエ
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 255ページ
ISBN 978-4-10-442206-7
C-CODE 0093
ジャンル 歴史・時代小説
定価 1,620円

浅草・田原町で小さな古着屋を営む喜十。北町奉行同心の片棒を無理矢理担がされ、今日もまた、誰かのために東奔西走。そんな中、店先に捨てられた赤ん坊を女房が引き取ると言い出した。突然父親に仕立て上げられ、戸惑う喜十だったが――。日々のよしなしごとの向こうに人生のほんとうが見えてくる、ほろりと泣ける連作集。

著者プロフィール

宇江佐真理 ウエザ・マリ

(1949-2015)函館市生れ。函館大谷女子短期大学卒業。1995(平成7)年「幻の声」でオール讀物新人賞受賞。2000年『深川恋物語』で吉川英治文学新人賞、2001年『余寒の雪』で中山義秀文学賞を受賞。著書に『無事、これ名馬』『恋いちもんめ』『夕映え』『深川にゃんにゃん横丁』『彼岸花』『おはぐろとんぼ』『富子すきすき』『寂しい写楽』『なでしこ御用帖』『雪まろげ―古手屋喜十 為事覚え―』、他に『幻の声』で始まる〈髪結い伊三次捕物余話〉シリーズ、〈泣きの銀次〉シリーズなどがある。

書評

波 2013年11月号より 心のミストサウナ

吉田伸子

時代小説は、心のミストサウナだと思う。世知辛い世の中を渡って行くうちに出来た、心のささくれや、がさがさしたアカギレを、温かく包み込んでくれる。かさかさに乾いてしまった心に、しっとりと潤いを与えてくれる。時代小説を読むことは、「心がひとっ風呂浴びる」のに似ているのだ。
本書は田原町二丁目に古着の見世「日乃出屋」を構える喜十を主人公にした「古手屋喜十 為事覚え」シリーズの二作目だ。喜十の店に出入りしているのが、北町奉行所隠密廻り同心である上遠野(かとの)平蔵(隠密廻りなので、変装をしなければならず、上遠野は喜十の店で衣装を調えている、という設定だ)で、上遠野が持ち込む事件のとっかかり(故人が身につけていた着物とか、古着や「布」がらみのことども)を、喜十が調査して、事件の謎を解いていく、という捕物帳としての大筋のベースはあるものの、宇江佐さんが描く他のシリーズ同様に、物語の醍醐味は捕物ではなく、事件にまつわる謎に絡まる人々の人情話にある。
さらには、主人公である喜十とおそめ夫婦のドラマが、本書のもう一つの柱だ。前作では、連れ添って七年になるというのに、子宝を授かれずにいた喜十とおそめが、「日乃出屋」の前に捨てられていた赤ん坊を拾ったところで終っていたのだが、本書は、その赤ん坊を巡るドラマで幕を開ける。赤ん坊を置き去りにしたのは誰なのか、そこにはどんな事情があったのか。この冒頭の一編を読んだだけで、前作を読んでいない読者でも、ぐいぐいと物語に引き込まれてしまう。「小説新潮」で連載していたこともあるだろうが、その辺りの塩梅は、まさに手練の感がある。
「わけあって、すてきちをおいてゆきます。よろしくおねがいします」という一筆とともに置き去りにされた赤ん坊は、そのまま「捨吉」という名で、喜十夫婦の養子になるのだが、そこに至るまでのドラマが、切なくもしっとりと読ませる。同時に、それまで夫婦二人きりの暮らしに、赤ん坊が加わる事で、夫婦、ではなく、父親と母親、になっていく喜十とおそめのドラマが本書の土台になっている。
収録されている6編、どれもそれぞれに味わい深いのだが、なかでも「鬼」がとびきりだ。酷い皮膚病を患い、肌が「鮫肌」のようになってしまっているひとり息子とその母を巡る物語で、その息子の心に巣くった「鬼」を描いているのだが、中に喜十のこんな言葉が出て来る。母親は、我が子を庇うあまり、鬼になってしまうことがあるし、鬼になるのは我が子だけとは限らず、心底惚れて尽した相手に背かれたら、殺したいほど憎くなるのよ、というおそめの言葉に、喜十は言うのだ。「そいつはおなごに限らねェよ」と。男の悋気だって、相当に凄いものだ、と。そして、続けて言う。
――皆それぞれ、胸ん中に鬼を抱えているってことだな。鬼が顔を出すか出さないかは、その人間の器量次第なんだろう
この喜十の言葉が、胸にずしりと響くのは、先日三鷹で起こった女子高生殺害事件が思い浮かんだからだ。別れを告げられた交際相手の男が、逆恨みで女子高生の首を刺して、殺めてしまった事件。人の命を奪った男の心には、確かに鬼がいたのだろう。そして男は、自らの鬼を御することができなかったのだ。喜十は一介の古手屋だけど、人が生きていくうえで、いっとう大事なこと、自分が抱える鬼は、自分にしか始末出来ないのだ、ということを、しっかりと弁えているのだ。こういうところが、本当にいい。とはいえ、そんな喜十を、「ただの善人」として描いていない(捨吉を扱いあぐねたり、おそめと時にはぶつかったり……)ところも、またいい塩梅だ。
本書の最後に収められた「再びの秋」では、捨吉の兄である幸太も引き取ることになった、喜十夫婦の顛末が描かれている。本シリーズはまだまだ続きそうで、そちらも楽しみだ。

(よしだ・のぶこ 書評家)

目次

落ち葉踏み締める
雪まろげ
紅唐桟
こぎん

再びの秋

判型違い(文庫)

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