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生誕一二〇年、いまヴェールをぬぐ若きフジタの愛と野心と芸術。

藤田嗣治―パリからの恋文―

湯原かの子/著

2,160円(税込)

本の仕様

発売日:2006/03/24

読み仮名 フジタツグハルパリカラノコイブミ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 316ページ
ISBN 978-4-10-448802-5
C-CODE 0095
ジャンル 自伝・伝記、絵画、画家・写真家・建築家
定価 2,160円

「マルセーユまで一人で旅行しておいで。世界一の画家となる人の妻だもの。汝の愛する夫より」――一九一三年、嗣治は単身パリに留学、「愛しいラヴァー」とみ宛に熱情あふれる手紙を書いていた……。封印されていた書簡を紹介しながら、エコール・ド・パリの寵児となり、戦争画を描き、日本を去っていった画家の生涯をたどる力作評伝。

著者プロフィール

湯原かの子 ユハラ・カノコ

1971年、上智大学仏文科卒業。大学院を経て、1984年にパリIV大学第三課程博士号、1999年に同大学新制度博士号を取得。現在、淑徳大学教授。著書に『カミーユ・クローデル』『高村光太郎』『藤田嗣治―パリからの恋文―』などがある。

インタビュー/対談/エッセイ

藤田嗣治の恋文

湯原かの子

「お前の夢を見て、会いたいとも思い、早くよびたいとも思っている」「元気でおいで、安心しておいで、可愛いくって懐かしいよ」「今に楽しい楽しいようにするからね」……。日本を代表する画家の藤田嗣治が、まだ無名時代にパリから妻のとみに書き送った言葉である。藤田が絵を学びにパリに渡ったのは一九一三年のこと、恋女房を残しての単身留学だった。自分が先に渡仏して、生活に慣れた頃、一年くらい経ってから妻を呼び寄せるつもりだった。
 とみの渡航を待ちながら、嗣治は実にコマメに、花の都と呼ばれたパリのハイカラな風俗、日本人画学生たちの異国での生活、本場の芸術に触れて形成される絵画観、世界を相手に名を成したいという芸術的野心、あるいはパリの男女のあり方を見て思う恋愛観、そして二人の未来にかける夢を、手紙につづっている。
 メールや携帯電話はおろか、航空便もなかった当時、パリからの郵便はシベリア経由の船便で、一ヶ月ほどかかった。心待ちにしている手紙を受け取る喜び、待てど暮らせど届かない手紙を待つ焦躁感、二人の間を隔てる距離と時間が育む細やかな感情、そしてさまざまな思いを紡ぐ言葉の数々――。行間からは、スピードと効率を追求する現代人が忘れかけている、甘やかな感情世界が立ちのぼってくる。
 とみの渡仏は、残念ながら実現しなかった。藤田の滞在が一年を迎える頃、第一次世界大戦が勃発するからである。帰国を促すとみの願いを、嗣治は頑として受け入れない。ようやくパリの生活にも慣れ、芸術の何たるかが分かりかけてきた時に、帰るわけにいかなかったのだ。「とみへの愛と芸術が大事」と、常々いっていた藤田だったが、画家は愛よりも芸術を選択したのである。こうして、とみとの関係は解消される。
 第一次大戦が終結すると、一九二○年代のフランスにはレ・ザンネ・フォル(狂乱時代)と呼ばれる文化華やかなりし時代が到来する。藤田はこの時流にうまく乗り、西洋画にジャポニスムをアレンジした独創的な絵で、エコール・ド・パリの画家の一人として世界的名声を手にするのである。藤田はパフォーマンスも得意だった。モンパルナスの夜を飾る仮装ダンスパーティーや日仏文化交流事業の中心には、いつも藤田がいた。オカッパ頭にロイド眼鏡という特異な風貌とあいまって、フジヤマ、芸者、フジタ、といわれるほど、パリの名物男になったのだ。
 ところが、第二次大戦中に帰国していた藤田は、戦争記録画の中心的人物となって活躍したことで、戦後、戦争協力の責任を追及される。そのことに深く傷ついた画家は、祖国を捨てるようにしてフランスに渡り、国籍も変え、ついに二度と日本に戻ることはなかった。日本美術界最後の大画家、といわれながら、これまでその作品も人生もヴェールに被われていたのは、藤田が日本に対して沈黙を守り続けたからである。
 それが、生誕百二十年にあたる今年、大規模な回顧展が開催されることになった。展覧会は三月下旬の東京を皮切りに、京都、広島を巡回する。これまでなかなか日本で見ることのできなかった藤田作品を一堂に集め、鑑賞できる機会がやってきたのである。
 ところで、とみに宛てた恋文は――。とみの実家のお蔵の二階から、一九八○年頃のこと、ひとつの行李が発見された。「藤田とみ」と筆書きされた、そのなかには、パリの嗣治から送られてきた手紙、絵葉書、写真、スタイルブックやオペラのプログラム……などが保管されていた。とみは思い出をすべて大事にとっておいたのだ。そして二人の恋は、一世紀近い時を経て、『藤田嗣治書簡――妻とみ宛――』(加藤時男・塚本庸編纂、二○○三~四年)として翻刻され、蘇ることになった。
 この春は回顧展に足を運び、藤田の絵を鑑賞しながら、時代の波に翻弄された画家の数奇な人生と芸術に、そしてまた世界に羽ばたこうとする男の野心の前に身を引かざるをえなかった女の切ない恋物語に、思いを馳せるのも趣深いことではないだろうか。


(ゆはら・かのこ 淑徳大学教授、比較文化)
波 2006年4月号より

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