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おまけのこ

畠中恵/著

1,430円(税込)

発売日:2005/08/20

  • 書籍

鳴家(やなり)が迷子? そのうえ若だんなが吉原の娘と駆け落ち? そりゃ大変だっ!

摩訶不思議な妖(あやかし)たちに守られながら、今日も元気に(?)寝込んでいる日本橋大店の若旦那・一太郎に持ち込まれるは、お江戸を騒がす難事件? 親友・栄吉との大喧嘩あり、「屏風のぞき」の人生相談あり、小さな一太郎の大冒険ありと、妖怪人情推理帖は、今回もおもしろさてんこ盛り。お待ちかね、「しゃばけ」シリーズ第四弾!

  • 舞台化
    ミュージカルしゃばけ(2017年1月公演)
目次
「こわい」
――またもや臥せった若だんなのお見舞いに来てくださった栄吉さん。ところがお土産の饅頭があまりに不味く、若だんなは吐きだしてしまい、二人は大喧嘩に。そんなとき、狐者異(こわい)という妖が長崎屋にやってきて、飲めばたちまち一流の職人になれるという天狗の秘薬を持っていると言い始めます。若だんなは栄吉さんのため、それを手に入れようとするのですが……。
「畳紙(たとうがみ)」
――於りんちゃんの叔父の許嫁お雛さんは、とっても厚化粧。本当はお化粧をやめたいのに、やめることができず、悩んでいます。そんなお雛さんが人生相談を持ちかけた相手は、なんと、屏風のぞきさん。憎まれ口ばかり叩いている妖ですが、お雛さんの悩みを解決してあげられるのでしょうか?
「動く影」
――幼い日の若だんなの初推理です! 日本橋のあたりに出ると噂される飛縁魔という妖と、お春ちゃんを脅かす妖、影女。皆を怖がらせる妖怪退治に、若だんなが近所の子どもたちと乗り出しました。手代さんたちに出会う前の若だんなは、どのように妖を退治したのでしょう?
「ありんすこく」
――吉原の娘と駆け落ちすると高らかに宣言なさった若だんな。呆然とする仁吉さんと佐助さんを尻目に、若だんなは一生懸命、策を練っています。若だんなは恋に落ちてしまったのでしょうか? 一緒に逃げる体力など、ないような気がするのですが……。
「おまけのこ」
――長崎屋に持ち込まれた大粒の真珠を「お月様」と思い込んだ鳴家。盗まれそうになった「お月様」を守るため迷子になってしまったのですが、暴行事件と窃盗事件が一度に起こってお店はおおわらわ。誰も鳴家が一匹いなくなったことに気がつきません。空を飛んだり溺れたりしながら、「お月様」を守ろうとする鳴家の大冒険です。

書誌情報

読み仮名 オマケノコ
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-450704-7
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、歴史・時代小説
定価 1,430円

書評

「期待」を裏切らない優しさと寂しさ

藤田香織

 2001年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞したデビュー作『しゃばけ』を読んでからしばらく、畠中恵は、私にとって「密かなアイドル」だった。
 誰もが知っている人気者ではないけれど、気になるなぁ、これは好きかも、と自分の心の中で要注意マークが点滅し、たまに同志が見つかればヒソヒソと「そのうち絶対“くる”よね」「佐助仁吉、どっちがいい?」などと暢気でお気楽なことを囁きあって小さく盛り上がったりもした。ブレイク前の芸能人を応援しているかのようなこの感じ、恐らく多くの本好きの人が、一度や二度、経験したことがあるのではないだろうか。
 が、しかし。残念なことに、というか、案の定というべきか、それから四年。畠中恵はもう「密かなアイドル」なんかではなくなってしまった。
 廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の病弱な若だんな・一太郎と、寝食共にする(まさに!)妖怪たちが江戸の難事件に立ち向かう「しゃばけ」シリーズは、『ぬしさまへ』『ねこのばば』と続き、累計三十万部を突破したという。三十万部といえば、単純に計算しても一作あたり十万人の読者がいることになり、出版不況と言われ続けるなかで、この数字はもはや彼女が「売れっ子」の域に達したことを明確に示している。
 とはいえ、喜んでばかりもいられない。「売れっ子」になるということは、それだけ多方面から注目が集まるわけで、当然人々の期待値も上がる。次は、これまで以上の高さのハードルを越えなければいけない。注目されている場所で結果を見せなければ、真の「人気者」には成り得ない。そんなわけで、「しゃばけ」シリーズの四作目となる本書『おまけのこ』を前に、私はなかなかページを開くことが出来なかった。大丈夫、面白いに決まってる。いやでも万が一、そうでもなかったら? 読む前から、こんなに心拍数が上がった作品は、本当に久しぶりだ。
 けれど、結果としてそんな心配はまったく無用だった。相変わらず一太郎は元気に病んでいて、両親は大甘で、妖なる手代の佐助と仁吉は若だんな命と目を配り、長崎家に住まう鳴家たちはきゅわきゅわぎゅわーっと賑やかで、幼馴染の栄吉が作る饅頭は不味いのだけれど、一太郎は少し大人に、そして畠中恵は確実に大きくなっていたからだ。
 前作『ねこのばば』と同じく五話の短編が収められた本書の、まず最初に登場するのは、人間のみならず同じ妖からも忌み嫌われ続けている。「こわい」という言葉の語源とも言われるこの妖が、天狗から譲り受けたという一服の薬を持って、長崎屋を訪れることから物語は始まる。飲めばたちまち一流の職人になれるというこの薬をめぐり、様々な理由から欲しいと願う人々が関わる事件に、友情と一太郎の優しさを巧みに絡めていくのだが、これがいきなり深く深く胸にガツンとくる白眉な出来。ラスト近くで自分を案じる仁吉や佐助を思いながらも、狐者異の孤独を痛み一太郎が涙を流す場面と、なんとも言えぬ余韻を残す幕切れは、これまでにない「凄味」となっている。
 続く「畳紙」では、シリーズ読者にはお馴染みの紅白粉問屋一色屋のお雛が、その厚化粧におしこめていた心情をゆっくりと解き放つ過程が。「動く影」には、一太郎が五つのときの「冒険」が綴られている。が、なんと言っても本書で一番の興味どころは、第四話の「ありんすこく」だ。この冒頭で、一太郎はやおら「ねぇ仁吉、佐助、私はこの月の終わりに、吉原の禿を足抜けさせて、一緒に逃げることにしたよ」などと言い出すのだ! 一体、若だんなになにが起きたのか。大人になっちゃったってこと!? とハラハラドキドキ。ここでその真相を明かすことは野暮というものなので自粛するが、続く表題作「おまけのこ」では、一転、正統派の謎解きと、鳴家の大(小?)活躍の併せ技で、穏やかに幕を引いていく。
 面白かった。でも、それだけじゃなかった。しみじみ切なく、疼くような痛みもあるのに、優しくて、あたたかい。
 凄いな。凄い作家になっちゃったな。本書を読み終えた今、私は少し寂しくて、だけどやっぱり嬉しい、とても複雑な心境だ。

(ふじた・かをり 書評家)
波 2005年9月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

畠中恵

ハタケナカ・メグミ

高知県生れ、名古屋育ち。名古屋造形芸術短期大学卒。漫画家アシスタント、書店員を経て漫画家デビュー。その後、都筑道夫の小説講座に通って作家を目指し、『しゃばけ』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。また2016(平成28)年、「しゃばけ」シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞する。他に「まんまこと」シリーズ、「若様組」シリーズ、「つくもがみ」シリーズ、『アコギなのかリッパなのか』『ちょちょら』『けさくしゃ』『うずら大名』『まことの華姫』『わが殿』『猫君』『御坊日々』『忍びの副業』などの作品がある。また、エッセイ集に『つくも神さん、お茶ください』がある。

畠中恵「しゃばけ」新潮社公式サイト (外部リンク)

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