ホーム > 書籍詳細:幻の料亭・日本橋「百川」―黒船を饗した江戸料理―

魚河岸近く、浮世小路は千客万来——
江戸の華やぎ、ここに極まる!

幻の料亭・日本橋「百川」―黒船を饗した江戸料理―

小泉武夫/著

1,404円(税込)

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発売日:2016/10/21

読み仮名 マボロシノリョウテイニホンバシモモカワクロフネヲモテナシタエドリョウリ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 190ページ
ISBN 978-4-10-454805-7
C-CODE 0095
ジャンル 日本史
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,123円
電子書籍 配信開始日 2017/04/14

時は天明から文化文政。大田南畝、山東京伝など、名だたる文人たちが舌鼓を打って風流三昧。嘉永七年には、ペリー一行に一人前三両、総額千五百両の料理を振舞う大役を担った「百川」。果たして、維新の荒波を乗り切る手立ては? 希代の発酵学者が、饗応料理の真髄と化政文化の醍醐味を鮮やかに描き出し、謎多き料亭の真相を追う。

どういう本?

タイトロジー
(タイトルの意味)
「八百善」などと肩を並べるほどの一流料亭で、幕府からペリー一行をもてなす本膳料理を命じられるほど隆盛を極めていた「百川」が、明治維新以降、なぜか忽然と姿を消してしまう。日本橋界隈は、関東大震災や東京大空襲で消失しているため、確かな史料が残っていない。まさに「幻の料亭」百川の謎に「食の伝道師」小泉武夫が迫る。
メイキング 〈著者が「百川」に興味を持ったきっかけ〉
著者は大の落語好きで、「百川」という料亭を知ったのも、その名も「百川」という古典落語から。これは「百川」を舞台に、口入屋の紹介でやってきた田舎者の百兵衛と、魚河岸の若い衆が、互いに「勘違い」して騒動を巻き起こす咄で、著者は六代目三遊亭圓生の咄を何度も聞いたそうである。
装幀 〈装画「百川繁栄ノ図」について〉
作者の五渡亭国貞は、美人画や役者絵で人気を博した江戸後期の浮世絵師。「五渡亭」の号は、大田南畝がつけたともいわれている。本書でも大田南畝などの文人たちが活躍する。
落語「百川」 ある時、「百川」に魚河岸の若い衆がやってくる。主人は百兵衛に用を聞きに行かせる。百兵衛が「わしゃ、しじんけのかけぇにんでごぜえます(私は主人家の抱え人でございます)」と挨拶したのを、若い衆は、「『四神剣(しじんけん)』の掛け合い人」と聞き間違える。「四神剣」とは、町内鎮座の社の四神旗(四神を描いた旗)のこと。若い衆は、質屋に入れてしまった四神剣を百兵衛が回収しにきたものと勘違いして慌てる。バカ正直な百兵衛の対応が次々に誤解を生んで……。
この落語は、一説には、「百川」が店の宣伝のために、実際に起きた出来事をもとに創作させたともいわれている。
本書で紹介されている豪華な「百川楼仕出し献立」 【本膳二汁五菜】
鱠   鮒平作り 巻小川 つみ岩茸 干わさび 金柑 
汁   萩つみ入 よめな
香物  粕漬 塩押小蕪 手巻紫蘇 しお山枡
煮物  鯛豆腐 粒初茸 のりせん


【二の膳】
平皿  みつ葉 蒸ひらめ もみあわび(あわび薄切かけにしてよくもみ、さっと煮湯を通しおく事) 篠の人参 ぶりぬかぼ ねりくず
汁   王余魚(かれい)背切 蒔ぼうふう
猪口  菊味和 小海老(生海老の皮をとり小口より切り湯引也) 巻くわい
焼もの 小鯛 かけ塩 
吸物  松笠すずき 水芝しのり 白川柚子

【中皿】 
硯蓋  より牛房 巻水半弁(はんぺん) 梅ヶ香蒸きす てり煮たいらぎ
    吹寄たまご(吹寄はおぼろ鶏卵を蒸申候事) ホ葉くわい みとり河茸(かわたけ)
鉢   錦やき 子持鮎 からみ大根 柚醤油 □□□(三字不明)
盛交菓子
「百川」がペリー一行に出した献立 嘉永七年二月十日、「百川」がペリー一行に出した献立(『大日本古文書』「幕末外国関係文書之五」より)
料理はおよそ90種、菓子3種。恐らく日本の歴史上、昼食で、90種を超える料理を出したのは前代未聞ではないだろうか。

「二月十日横浜応接場米人饗応献立書」
長熨斗敷紙三方
盃内曇り土器三ツ組
銚子
吸物   鯛鰭(ひれ)肉
干肴   松葉するめ 結い昆布
中皿肴  はまち魚肉 青山升(さんしょう)(煮山枡、一本)
猪口   唐草かれい 同防風 山葵せん
吸物   花子巻鯛(はなこまきだい) 篠大こん 新粉山升
硯蓋   紅竹輪蒲鉾 伊達巻ずし 鶴羽盛 花形長芋 縁こんぶ 久年母(くねんぼ)
     かわ茸
すまし吸物 さざえ 鮟掛(あんかけ)平貝 ふきの頭せん
うま煮(ぶた煮、一本)丼  車海老 押銀なん 粒松露(しょうろ)
     目打白魚(めうちしらうお) 篠うど
鶏卵葛引 大平 肉寄串海鼠(にくよせくしなまこ)(串子、一本) 
     六ツ(むつ)魚小三木(きく、一本) 生椎茸 細引人志(にんじ)ん 
     火取根芋(ひどりねいも) 露山枡
鉢    鯛筏(いかだ) 友身二色むし 風干魴ぼう(ほうぼう) 菜花 
     自然生(しねんじょ)土佐煮 土筆麹漬(からし漬、一本) 酢取しょうが
茶碗   鴨大身 竹の子 茗荷竹(みょうがちく)
差身   平目生作り かじめ大作(めじ、一本) 鯛小川巻 若しそ 生海苔 花わさび
猪口   土佐しょうゆ いり酒 辛子(芥子菜味噌、一本、からし味噌、又一本)

【二汁五菜】
【本膳】 
鱠    鮑笹作り 糸赤貝 しらが大根 塩椎たけ 割ぐり(栗生姜、一本)
     葉付金かん
汁    米摘入(つみれ) 布袋〆治(ほていしめじ) 千鳥牛房 二ば菜 花うど
香物   奈良漬瓜 味噌漬蕪(かぶら) 篠巻菜 はな塩 房山枡
煮物   六ツ花子 煮抜豆腐 花菜
めし

【二の膳】
敷みそ  蓋 小金洗鯛 よせえび 白髪長芋 生椎たけ 三ツ葉(揃三ツ葉、一本)
汁    甘鯛脊切 初霜昆布
猪口   七子いか 鴨麩 しの牛房
台引   大蒲鉾
焼物   掛塩鯛
吸物   吉野魚 玉の露
中皿肴  平目作身 花生賀(しょうが)

銚子
飯鉢
通い



菓子三百人程
    四十五匁形
海老糖(えびとう)
白石橋香(しろしゃっきょうこう)
粕庭羅(かすてら)(寸法 長さ三寸五分 幅一寸七分 厚一寸三分)

著者プロフィール

小泉武夫 コイズミ・タケオ

1943年福島県の酒造家に生まれる。東京農業大学名誉教授。農学博士。専門は発酵学、醸造学、食文化論。特定非営利活動法人発酵文化推進機構理事長。現在、鹿児島大学、琉球大学、別府大学、広島大学大学院の客員教授を務めるかたわら、全国地産地消推進協議会会長(農水省)など、各地の農政アドバイザーとして食に関わるさまざまな活動を展開し、和食の魅力を広く伝えている。また辺境を旅し、世界中の珍味、奇食に挑戦する「食の冒険家」でもある。著書に『不味い!』『発酵は錬金術である』『絶倫食』『猟師の肉は腐らない』(以上、新潮社)、『食あれば楽あり』(日本経済新聞社)、『夕焼け小焼けで陽が昇る』(講談社文庫)など単著で140冊を数える。

書評

「咄咄」たる話

檀ふみ

 古典落語に、「百川ももかわ」という江戸の料亭を舞台にした傑作があるという。
 本書を読んでいたら、むらむらと聴いてみたくなって、この噺をさせたら右に出るものなしと言われた六代目三遊亭圓生のものを探し求めて、聴いた。聴き惚れてしまった。
 もともとは、店の宣伝のためにと、実際にあった出来事を下敷きに、「百川」が出入りの文人たちに創ってもらった噺であるらしい。そう言われれば、たしかに笑いのうちにも、「百川」という店の輪郭がくっきりと浮かび上がる仕掛けになっている。
 まずは、田舎者の実直さを好んで雇い入れる、主人の懐の広さ、品のよさ。さらに客は魚河岸の若い衆で、リーダー格ときている。この店に、イキのいい魚が入っていないわけがない。加えて、間違って呼ばれてしまい、押っ取り刀で店に駆けつけるのは、御典医も務めたほどの実在の名医。「百川」の実力、格式がそれとなくほのめかされている。
 だがそう思うのは、本書であらかじめ、料亭「百川」についての知識を、たっぷりと仕込まれていたからかもしれない。
「百川」だけではない。江戸のなりたち、江戸の食文化、江戸人の酒の飲み方、「下戸」「左利き」「トラ」の語源まで、本書にはウンチクが満載である。
 家康は魚が大好物って、ご存知でした? 日本橋に魚河岸が発展したのは、そのおかげといっても過言ではないらしい。魚河岸の周辺には、当然、それを食べさせる店もあらわれる。日本橋浮世小路の「百川」は、その筆頭といってもいい。
 浅草山谷の「八百善」もまた、とびきり有名な江戸の料亭だけれど、「百川」のライバルというわけではなかった。ざっくりと言ってしまえば、格調の「八百善」、気楽な「百川」。「百川」では当たり前だった遊興の酒宴も、格式を重んじる「八百善」では眉をひそめられた。料理も「八百善」には「真剣勝負」の趣があったようで、お茶漬け一杯を所望すると、花魁の揚げ代よりも高い料金を請求されたという話が紹介されている。そんな店に、気楽に通えます?
 というわけで、「百川」には、「八百善」とは違う常連がやってきた。とりわけ、文人墨客が贔屓にしており、大田南畝、山東京伝、谷文晁、酒井抱一、十返舎一九など、錚々たる名前が並んでいる。店の主人、百川茂左衛門の教養と懐の広さによるところも大きかったのだろう。
 なかでも大田南畝を中心とする文人一派(山手連)が、毎月「百川」で開いていたという、「咄咄会とつとつのかい」のエピソードが面白い。
 南畝の命名による「咄咄」とは、「おやおや」とか「えっ」、「ぎょっ」、「ほほーお」といった意味。その会では、それぞれが「咄咄」たる話を持ち寄り、提供し、全員がその話に加わって「咄咄」する慣わしだったという。
 だがさて、なんといっても「百川」は料亭なのである。いちばん興味のあるのは、もちろん料理である。そこはもちろん、「味覚人飛行物体」と呼ばれる著者に、ぬかりはない。「カリカリ」「ムシャムシャ」「チュルチュル」などと、オノマトペが炸裂しはじめると、著者の面目躍如。ことに、南畝をはじめとした「山手連」が改良に関わった「百川」秘伝の調味料「浮世之煎酒」のくだりは圧巻で、これは、是非とも作って試してみなくてはと、私はひそかに決意したことである(この本と一緒に、小泉先生が作って、売り出してくださるのがいちばんなのですが)。
「百川」の評判は、幕末には押すに押されぬものとなっていたのだろう。黒船でやってきたペリー一行を饗応するのに、幕府が白羽の矢を立てたのも「百川」だった。
 もちろん名誉なことである。しかし、厄介なことでもある。アメリカ側三百人分、接待する日本側二百人分、合計五百人分。しかも、出張である。大皿、小皿、丼、小鉢、杯、銚子……アメリカ人をうならせるような豪華なものを、すべて運び込まなければならない。
 茂左衛門は、ここでも懐の広さ、度量の大きさを見せる。九十種を超える本格的日本料理を、五百人前。お口に合ったかどうかはさておいて、見事にやり遂げたのである。
 そこからは、ミステリーとなる。隆盛を極めていたはずの「百川」が、明治維新以降、忽然と姿を消してしまったのは、一体なぜか。
「咄咄」たる話に満ちた一冊である。


(だん・ふみ 女優)
波 2016年11月号より

目次

第一章 日本橋浮世小路「百川」界隈
第二章 大田南畝と「山手連」
第三章 「百川」の粋な酒肴と贅の極み
第四章 史上最大の饗宴と「百川」の消滅

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参考文献

本作品を創作するにあたって参考にさせていただいた文献は次の通りです。(順不同)

『大田南畝全集』(岩波書店)
『蜀山人全集』(吉川弘文館)
曲亭馬琴ほか編『兎園小説』『兎園小説別集』『兎園小説余録』(「日本随筆大成」〔吉川弘文館〕所収)
筑後則『福徳神社沿革考―福徳稲荷と浮世小路』(福徳神社、2006年)・『福徳稲荷縁起考』(福徳神社、2014年)
田中一郎編著『料理活用―江戸時代に見る越後の料理』(新潟日報事業社、1997年)
松下幸子『江戸料理読本』(柴田書店、1982年)
福田浩松下幸子松井今朝子江戸の献立』(新潮社、2013年)
吉田元『日本の食と酒―中世末の発酵技術を中心に』(人文書院、1991年)
坂口謹一郎監修『日本の酒の歴史―酒造りの歩みと研究』(研成社、1977年)
本山荻舟『飲食事典』(平凡社、1958年)
興津要『江戸食べもの誌』(作品社、1981年)
川上行蔵著、小出昌洋編『完本 日本料理事物起源』(岩波書店、2006年)
笹川臨風・足立勇『日本食物史(下)―近世から近代』(雄山閣出版、1973年)
西東秋男『日本食生活史年表』(楽游書房、1983年)
西山松之助ほか編『日本生活文化史 第六巻』(河出書房新社、1980年)
江原絢子・東四柳祥子編『日本の食文化史年表』(吉川弘文館、2011年)
『平凡社大百科事典』(平凡社)
大石学編『江戸幕府大事典』(吉川弘文館、2009年)
サミュエル・ウェルズ・ウィリアムズ(洞富雄訳)『ペリー日本遠征随行記』(雄松堂書店、1978年)
加藤祐三『開国史話』(神奈川新聞社、2009年)
菱田忠義・重城良造編『重城保日記』(うらべ書房)
千葉市史編纂委員会編『天保期の印旛沼堀割普請』(千葉市、1998年)

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