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死に損なった以上、最後まで戦ってやる! 全身全霊をかけた女王の壮絶体験記。

他者という病

中村うさぎ/著

1,404円(税込)

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発売日:2015/08/21

読み仮名 タシャトイウヤマイ
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 218ページ
ISBN 978-4-10-456706-5
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,123円
電子書籍 配信開始日 2016/02/05

死の淵から三度の生還を果たした女王を待っていたのは、薬の副作用による人格変容の恐怖だった――。レギュラー番組降板の内幕、これ以上ないほど考えた生と死、そして他者の目を気にし続ける自分について。噓のない言葉で自分も相手も丸裸にする「うさぎ節」が炸裂! 笑って読めて身に沁みる、比類なきドキュメント。

著者プロフィール

中村うさぎ ナカムラ・ウサギ

1958年、福岡県生まれ。同志社大学卒業。OLやコピーライターなどを経て小説家デビュー。壮絶な買い物依存症の日々を赤裸々に描いた週刊誌の連載コラム「ショッピングの女王」がブレイクする。『女という病』『私という病』『愛という病』『セックス放浪記』『狂人失格』(以上単著)『うさぎとマツコの往復書簡』(マツコ・デラックス氏との共著)『死を笑う うさぎとまさると生と死と』(佐藤優氏との共著)など著書多数。

書評

暗黒の底から立ち上がる愛のリアリティー

佐藤優

 私にとって、中村うさぎ氏は、思想について語り合うことができるかけがえのない友人だ。それだから、私は、聖書について、うさぎさんと語り、それを2人で作品に仕上げてきた。本書『他者という病』で、うさぎさんは、愛のリアリティーを説いているというのが私の解釈だ。
 本書で詳しく述べられているが、うさぎさんは臨死を体験した。もっとも臨死と死は本質的に異なる。この世に戻ってこないことが死の条件だからだ。ただし、臨死を体験した人の話は重要である。この体験を通じて、普段は、到達しようといくら努力しても到達することができない無意識の世界を旅しているからだ。
 うさぎさんは、原因不明の病気で、2013年にあわせて3回、心肺停止と呼吸停止に陥った。まさに臨死体験をしたわけだ。意識がブラックアウトし、うさぎさんに見えたのは暗黒だけだったという。そこでうさぎさんは、言語では表現することのできない何かを見たのだと私は確信している。
 この無意識の世界は底なし沼だ。しかし、その底なし沼にも底がある。うさぎさんは、暗黒の底に触れて、再びこの世界に戻ってきた。暗黒の底に触れて、うさぎさんは、愛のリアリティーを新しい言葉づかいで表現するようになった。具体的には、「ナルシシズム」と「自己愛」の分節化である。
〈では、「自己愛」とは何か。「ナルシシズム」が「自分に恋する」ことであるなら、「自己愛」とは文字どおり「自分を愛する」ことであろう。となると「恋」と「愛」の違いが、そのまま「ナルシシズム」と「自己愛」の違いということになる。/(中略)たとえば「母性愛」という言葉で表現されている感情は、私に言わせれば必ずしも「愛」ではない。盲目的で排他的な母性愛はもはや「愛」ではなく「恋」に限りなく近いものであり、「ナルシシズム」の延長線上に位置するものだと感じる。/(中略)我々はナルシシズムから極力脱却しようと試みる一方で、正当な自己愛を失わないよう気をつけなくてはならない。自分をしっかりと見つめ、その弱さも醜さも受け容れて愛すること……それが自己愛のあるべき形であろうと私は思う。己の弱さや醜さを受け容れられずに目を背けたり美化したり、逆に激しく憎悪したりするのは、すべて「自己愛」ではなく「ナルシシズム」の仕業だ。/自分嫌いは自分好きの裏返し、と、私は以前、子ども向けの自著で書いたが、自分を憎んだり嫌悪したりする気持ちはじつはナルシシズム過多の証なのだ。理想の自分、幻想の自分に恋するあまり、現実の自分を受け容れられない。このようなナルシスティックな自分嫌いは、己の価値を貶める行為であり、いつまでたっても正当な自己評価には至らないのである。〉
 イエス・キリストは、「隣人を自分のように愛しなさい」(「マタイによる福音書」22章39節)と述べた。自己愛は、隣人愛の前提なのである。ナルシシズムに苦しんでいる人はたくさんいる。そこから抜け出していく処方箋はなかなか描けない。うさぎさんは、夫をはじめとする何人かの具体的な人々との現実に存在する愛という関係によって、ナルシシズムの罠から抜け出すことに基本的に成功している。
 本書を読んで、私は自分の人生体験が浅いことを痛感した。私は臨死を体験したことはない。しかし、鈴木宗男事件に連座したとき、一度、社会的に葬り去られた。その意味では、社会的な臨死体験をしたと思っていたが、認識が甘かった。社会に問題を還元するのではなくうさぎさんのように己の問題として死についてもっと掘り下げて考えなくてはならない。中村うさぎ氏とこのテーマについて一緒に仕事をしたい。

(さとう・まさる 作家・元外務省主任分析官)
波 2015年9月号より

すさまじくヘンで、すさまじくまっとうな女

中島義道

 中村うさぎさんとは面識がないが、七年ほど前に拙著『どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?』(角川文庫)の解説を書いてもらったことがある。私は彼女のよき読者ではなく、買い物依存症や美容整形やホストクラブ通いやデリヘル(ちなみに、この言葉今回初めて知った)に次々に嵌っていく女性作家は、私のような地味な男の世界とはかけ離れているので、「対岸の火事」のように「生きにくそうだなあ」と眺めている程度であった。生きにくそうだから、そしてそれが嘘偽りのないものだと直観したから、解説を依頼したのだが、予想通り、とてもまじめな解説であって、最後は(「人生に意味がない」ことが再確認できて)「ありがとうございました。中島先生、私はあなたに救われました」という言葉で結ばれていた。
 本書の冒頭で書かれている「私は突然の病に倒れて入院し、約三ヶ月半の入院の間に一度の心肺停止と二度の呼吸停止状態を経験した」という「すごいこと」も、今回解説を書くまで全然知らなかった。そして、(なぜか「週刊文春」の連載を切られたことは知っていたが)MXTV降板騒動も、ドアノブで首を吊って自殺を図り失敗したことも、ゲキ太りしたことも、車椅子生活が続いていたことも知らなかった。私はうさぎさんについて何にも知らなかったのだから、「大変なことだなあ」との感想以外、それが意外なことにも自然なことにも思えない。
 本書は、その「突然の病」の直後に薬の副作用によって「自分が自分でなくなっていく」体験のさなかに書いたものと、後に冷静になった時に書いた「うさぎ回想録」から成っている。だが、読み進んでいくと、むしろ「うさぎ回想録」はいらないのではないかと思われるほど、前者のルポルタージュは「まとも」であり、生き生きしている。言いかえると、「うさぎ回想録」は本人が自覚しているほど「まとも」ではない。どちらも、疑いなく「中村うさぎ」というすさまじくヘンであってすさまじくまっとうな女を露出している。
 彼女は、「真理」や「意識」や「私」や「他者」や「死」や「無」などについても思考を巡らすが、それらはひどく非哲学的であり、ひどく非論理的であり、ひどく非理性的である。つくづく思うに、これが男の書いた本だったら、私はその「非哲学的で非論理的でしかも観念的な言語の洪水」を徹底的に叩きのめしてオワリにしたことであろう。だが、うさぎさんは、女の中の女であって、「非哲学的」や「非論理的」など「乗り越えて」しまうほど逞しい。その度胸は、天然自然なものであるから、脱帽するしかない。
 ニーチェは『ツァラトストラ』の中で、(男たちに向かって)「精神」ではなく「身体」こそ真理であり「自己」であることを強調するが、女たちはそんなことは太古の昔から知っていたのだ。女は身体しか信じない。これは、自分の身体反応しか信じないということであり、これこそ男にとっては、まことに過酷で難解な砦なのである。
 本書のタイトルは『他者という病』であるが、これはちょっと考えさせるものである。「私にとって『他者』とは己を映す鏡であるが、ただしそれは己の姿を極端に矮小化したり誇大化したりする歪んだ鏡なのである」というあたりが「病」という言葉のヒントになる。「私」は「他者」によって揺れ動き不安定になるのだが、その「他者がいないと、私は自分の輪郭を維持することができない」というわけで、うさぎさんは他者依存症とナルシシズムとが合流するところにいる。「私はずっとナルシシズムによって盲目となることを恐れ(中略)、拙いながらも己の弱さや醜さと対峙し、受け容れようと心がけてきた」のである。しかし、それは大概成功しなかった。他者依存症の人は他者嫌悪症の人であり、ナルシシズムの強い人は自己嫌悪感の強い人である。うさぎさんは、まさにこの典型であって、「他者という病」とは、すなわちそういう他者との関係に繋がれている「自己という病」なのであるから、(彼女には悪いが)、こうした事態からの突破口はない。うさぎさんは、もうこう生きるしかないのであり、その固有の「かたち」を文章にするしかない。それが伝わってくるから、本書には嫌みがないのだ。
 数年前にうさぎさんからクリスマスカードをいただいた。開けたとたんに、恐ろしく汚い音による「聖夜」が流れてくる。そして、「うるさいですね」という添え書きがあった。私が音に「うるさい」ことを知って選んだのであろうが、詮索すれば幾重にも詮索でき、単に「ちゃめっ気」と言えばそれで済む。中村うさぎはそういう奥行きのある作家である。といっても、やはり「うるさい」からそのクリスマスカードは捨ててしまったけれど……。

(なかじま・よしみち 哲学者)
波 2015年9月号より

目次

まえがき
第一章 あのまま死んでいればよかった
第二章 夫との絆
第三章 私が私でなくなっていく
第四章 健康という罠
第五章 私の中の別人
第六章 三つめの死――MXTV降板騒動の顛末
第七章 断絶の壁を越えて
第八章 私は「私」を諦めない
第九章 そのとき、言葉は私の「神」となる
あとがき

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