波 2009年10月号より
変わらずに煌めこうとする炎
南沢奈央
我が家の書棚には石田衣良さんの本がズラッと並んでいます。私と同じように読書好きの母が石田さんの作品を読破しているからです。その母からの勧めで、『6TEEN』の前作である『4TEEN』を読ませていただいたのは、今から二年前のことでした。第一二九回の直木賞を受賞されたこの作品で、私は初めて石田さんの世界観に触れることになったのです。
『4TEEN』を読んだ当時、私の弟がちょうど十四歳。物語中、月島から都心まで自転車で駆け抜ける男の子たちの行動力と比べると、どちらかといえば寡黙で古風、それ故に自分の気持ちを周りの人間に感じ取られにくい私の弟とはあまりにも大きなギャップがありました。その一方で、いきいきと展開される彼らの友情や団結シーンには、キャプテンとして部活動に燃える弟の姿が重なりもして、常に自分ではなく弟を通して『4TEEN』の世界を見ていたように思います。そんな弟が十六歳になった今、『6TEEN』に出会うのは何だかただの偶然ではない気がします。そんなドキドキ感を持ちながら読ませていただきました。
『6TEEN』は『4TEEN』の続編です。高校生になった『4TEEN』の仲間たちが、少しだけ大人になった目線から現代の都会風情の真っただ中を走り抜けます。別々の高校に通い、自らを取り巻く環境は大きく変わったけれど、あのときのつながり、心と心の関係は変わらない。だからやっぱりやることも変わらない(笑)。言葉を換えれば、「なんだ、全然成長しないな」とか、「大人にならない」「十六歳なんてまだまだ子供なんだな」って言われてしまう。それを時に大人たちは、非難の目で見たり、理解不能の一言で片づけてしまったりすることもあります。でも、十六歳の若者たちは時代や環境に流されていきはしても、決して成長しないままではありません。現代の豊かで恵まれた都会生活の中で、今十六歳の若者たちはどんな思いで成長という歩みを進めているのか。若いが故にこれまで経験したことのない辛い現実に直面し、その現実に対してどのように自分の存在を確かめていくのか。石田さんが描かれようとしているもののひとつに、こうした現代の豊かさと背中合わせになっている殺伐とした空気と、その中で変わらずに煌めこうとする炎のようなものを感じます。
私は昨年から今年の春にかけて、ケータイ小説から映画とテレビドラマになった「赤い糸」という作品で主人公の芽衣を演じました。彼女は十四歳から十六歳、つまり『4TEEN』から『6TEEN』へと歩みを進める中で、たくさんの人に出会い、驚くほどの辛い出来事に襲われます。純粋なままでいたいと望んでも、今の世の中ではそれが許されない。自分らしくあり続けたいという単純な願いがとても難しいことであるのを示してくれる役柄。私は芽衣の中にも力強い何か炎のようなものを感じました。彼女の中に見出した「煌めく炎」と、石田さんの描く『6TEEN』の世界観の中に「煌めく炎」。軽やかで颯爽とした感じの文章に風を送られて、煌めきがフワッと大きくなる心地よさを皆さんにも感じていただけたらなと思います。
石田さんの作品はモーツァルトの音楽のようです。まるでさらさらと流れる水のよう。それでいて決して綺麗なものばかりではない。時には力強く、時には悲劇的に、時には極端すぎるほど扇情的に。たくさんの人に人気があるのも同じですね。モーツァルトは若くして音楽家として活躍していたといいますが、『6TEEN』中の彼らは物語中で大人になりきれなかったかもしれません。でもそんな彼らも、ひょっとしたら“9TEEN”あたりまでくればすごく変化があるかも。今十九歳になった私がそれを自分で一番実感していますから。これから先、近い将来にまた出会いたくなる。そんな彼らを描いた『6TEEN』で、皆さんの心にも都会の心地よい風が吹きますように。