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心の病いは、どのように治るのか。『絶対音感』『星新一』の著者が問う、心の治療の在り方。うつ病患者100万人突破のいま、必読のノンフィクション。

セラピスト

最相葉月/著

1,944円(税込)

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発売日:2014/01/31

読み仮名 セラピスト
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 348ページ
ISBN 978-4-10-459803-8
C-CODE 0095
ジャンル 心理学、ノンフィクション
定価 1,944円

密室で行われ、守秘義務があり、外からうかがい知れない。「信頼できるセラピストに出会うまで五年かかる」とも言われる。そんなカウンセリングに対する不審をきっかけに著者は自ら学び始め、同時に治療の変遷を辿り、検証に挑んだ。二人の巨星、故河合隼雄の箱庭療法の意義を問い、精神科医の中井久夫と対話を重ね、セラピストとは何かを探る。膨大な取材と証言を通して、病との向き合い方を解く書き下ろし大作。

著者プロフィール

最相葉月 サイショウ・ハヅキ

1963(昭和38)年、東京生れの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業。科学技術と人間の関係性、スポーツ、精神医療などをテーマに執筆活動を展開。著書に『絶対音感』(小学館ノンフィクション大賞)『青いバラ』『東京大学応援部物語』『ビヨンド・エジソン』『最相葉月 仕事の手帳』『ナグネ――中国朝鮮族の友と日本』『辛口サイショーの人生案内』など多数。『星新一』にて大佛次郎賞、講談社ノンフィクション賞、日本SF大賞、日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、星雲賞(ノンフィクション部門)を受賞。

書評

波 2014年2月号より 「私」の発見

吉田篤弘

もう何年前になるだろう、最相さんから本書の構想をうかがったとき、なるほど、カウンセリングをめぐる治療の歴史や患者の症例もさることながら、われわれはカウンセラー=セラピストその人のことをよく知らない、と膝を打った覚えがある。彼らの人生や胸の内はどうなっているのか、彼や彼女には迷いや心の疲弊はないのだろうか――。
本書はそうした疑問に答えてくれる。診られる側=クライエントの物語だけではなく、診る側=観察者の物語が詳らかにされる。
ところで、ぼくは本書の装幀を担当したので、いち早くゲラ刷りの原稿を読み、冒頭に「私」という一人称が登場したことに大変驚いた。これまで最相さんが書いてこられたノンフィクション作品は、本書で著者自ら述懐しているとおり、「私」の存在が、極力、消されていた。「私」は「観察者」に徹するために取材対象となる人物や事象から可能な限り距離を置いて息をひそめていた。それが、最初のページにいきなりあらわれる。
――最相さんが本の中にはいってしまった!
言い方を変えると、著者は自らを取材対象の一部として登場させている。いつもは、「こちら」側にいた最相さんが、「あちら」側に行ってしまったのだ。ぼくはあわててゲラを伏せた。読み始めたら最後、夢中になって、ぼくも「こちら」側に踏みとどまれない、と思ったからだ。
装幀の仕事をするときは、なるべく著者と読者のあいだに立ちたい。どちらの側に立つのでもない。本のカバーや表紙が、テキストと読み手のあいだに介在するのと同じで、そのためには「こちら」側、つまり、本の外側に立って、「観察者」になる必要がある――。
これは「心の病い」について書かれた本である。そして、心の病いを解くカウンセリングとは、どうやら「自分を知る」ことであると教えられる。「心」という目に見えないもの、しかし、誰もが持っている「それ」を真ん中に置き(あるいは、置いたと仮定し)、迷っている人と導いてゆく人が静かに対面している。この迷子と導者はじつのところイコールで結ばれていて、二人は力を合わせて何かを発見しようとしている。その発見に至るまでの過程=心すなわち自分を発見するまでの「道行き」がカウンセリングである。そして、その「道行き」が、目に見えない「心」に輪郭を与えてゆく。
人間は一人きりでは正しい観察者になれない悲しい生き物だ。正しい観察をしようとすればするほど自分が邪魔になる。しかし、翻して言えば、誰かと分かち合ったり交換しあったりし、二人で力を合わせることで、見えないものまで観察し得る。
本書の眼目は、これまで観察者に徹してこられた最相さんが、「自分(の心)」を見つける過程を描いていることだ。構想の段階では思いもよらなかったはずで、にもかかわらず、期せずして「私」に至るドキュメントになっているのは、このテーマを取り扱うには「私」=「心」は避けて通れないものだったからだ。それを身をもって示された。「私」を消してきた最相さんが、どうしても「私」を書かずにおれなかった。それこそがこの作品の最大の驚きであり感動である。
おそらく、こうした道行きを経験した者が、観察者の領域を脱して「セラピスト」になってゆく。
ちなみに、ぼくは「装幀者」なので、「セラピスト」になる必要はない。だから、出来る限り、ゲラと距離を置いて装幀のアイディアを練った。けれども、本書が持つ魔力のようなものに抗うのは並大抵ではなく、つまり、この本はもうひとりの観察者である「読者」を取り込む強い力を持っている。
その力の正体とは、人間という悲しくもいじらしい生き物に対する「愛」の力に他ならない。

(よしだ・あつひろ 作家、装幀家)

目次

■逐語録(上)
第一章 少年と箱庭
第二章 カウンセラーをつくる
第三章 日本人をカウンセリングせよ
第四章 「私」の箱庭
第五章 ボーン・セラピスト
■逐語録(中)
第六章 砂と画用紙
第七章 黒船の到来
■逐語録(下)
第八章 悩めない病
第九章 回復のかなしみ
あとがき
参考・引用文献

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