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国家に失望したとき、人々が縋ったものは――現在をも読み解く待望の最新刊!

大地の牙―満州国演義6―

船戸与一/著

2,160円(税込)

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発売日:2011/04/28

読み仮名 ダイチノキバマンシュウコクエンギ06
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 428ページ
ISBN 978-4-10-462307-5
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 2,160円

この国はもはや王道楽土ではなく、関東軍と日系官吏に蹂躙し尽くされた――昭和13年。形骸と化した理想郷では、誰もが何かを失っていく。ある者は志を、または情を、あるいは熱意を、そして反抗心を。虚無と栄華が入り混じる満州に、北の大国が襲い掛かる。未曾有のスケールで紡ぐ満州全史、「ノモンハン事件」を描く第6巻。

著者プロフィール

船戸与一 フナド・ヨイチ

(1944-2015)山口県生れ。早稲田大学法学部卒業。1979(昭和54)年『非合法員』で小説家としてデビュー。1985年『山猫の夏』で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。1989(平成元)年『伝説なき地』で日本推理作家協会賞を受賞。1992年『砂のクロニクル』で山本周五郎賞を受賞。2000年『虹の谷の五月』で直木賞を受賞。2014年、ミステリー文学発展への貢献により、日本ミステリー文学大賞を受賞した。主な作品に『夜のオデッセイア』『猛き箱舟』『炎 流れる彼方』『蝦夷地別件』『龍神町龍神十三番地』『緋色の時代』『夢は荒れ地を』『河畔に標なく』『新・雨月 戊辰戦役朧夜話』「満州国演義」シリーズ全9巻などがある。

目次

第一章 再会の夜
第二章 北東の砲声
第三章 河畔の影
第四章 血塗られた高原
第五章 雪原の死

インタビュー/対談/エッセイ

波 2011年5月号より 【船戸与一『大地の牙―満州国演義6―』刊行記念インタビュー】 ひとつの目標に向かうとき、日本人は強い

巻を重ねるごとに熱中度を増す話題作、「満州国演義」の最新刊が二年ぶりに刊行。その読みどころから、今後の日本の動向まで、船戸与一さんにうかがいました。

――最新刊『大地の牙』は、日中戦争が泥沼化し、いつソ連が南下してくるか分らないという、満州全土が緊張状態にあった昭和十三年から始まります。
前巻は南京事件が終熄したところで終わっているので、この第六巻の冒頭では、新聞記者二人が、事件を振り返る場面から始まる。南京が陥落したとき、日本国民はそれを祝って提灯行列までしたけど、蒋介石はまだ生きているし、国民革命軍も健在だった。「すべてを叩き潰せ」という世論がどんどん膨れ上がっている状況だった。
――政府や軍部の活動だけでなく、この作品では、当時の一般の日本人が何を考え、どう行動したかがよく分かります。
満州事変を、「関東軍主催、毎日新聞協賛」と言ったように、この時期に世論を煽ったのは、政府でも軍でもない、ジャーナリズムだったと思うんだ。もっと言えば、対外強硬策を謳う新聞を競うように買った、国民自身ともいえる。
大正十四年に開始された普通選挙の影響によって、政治家も軍も、選挙権を持つ人間、つまりは大衆におもねるようになった。いわゆる民主化が進んでいくわけだけど、多数決の結果だけを重んじていくと、最終的にはどうしても戦争を呼んでしまう。もし日露戦争のときに普通選挙が導入されていたら、ポーツマス条約に調印した小村寿太郎なんて殺されていたよ。
――今巻では、事件として一番大きなものはノモンハン事件だと思うのですが、近代装備を備えた機械化部隊を持つソ連に対し、日本の歩兵が火炎瓶で突っ込んでいった、など太平洋戦争の戦況が予見される場面があります。
軍部は結果を隠し、新聞は「大勝した」と嘘をついたから、現場に行った兵隊しか「負けた」ことを知らなかった。だけど、ソ連が崩壊してから出てきた資料によると、ソ連側の被害も甚大だった。ソ連軍を指揮したジューコフという将軍は「スターリングラードも大変だったけど、一番怖かったのはノモンハンだ」と答えている。日本の資料では、一方的にソ連の機械化部隊にやられた、とされているから、小説の中ではそう書いたけど、実際は違っていたらしい。でも、当時の人間がどう考えていたかをこの小説では書いていきたいから、新しい資料を使おうとは考えなかった。
――前巻が刊行されてからの間、戊辰戦争を描いた『新・雨月』(上下巻、徳間書店)を刊行されています。船戸さんにとって、この二つの作品はどのように位置付けられているのでしょうか。
満州を描くことは、日本帝国陸軍史を描くことに等しいと思っている。すると、戊辰戦争はその始まりになる。戊辰戦争が東北に残した傷跡は、満州に繋がっていくと思うんだ。明治以降、工業ロジスティックスが西日本を中心に行われたせいで、「東北は貧しい」というイメージができてしまったけど、本来はとても豊かな土地だった。しかし、ロジスティックスを西に持っていかれたせいで、物があっても売れない、そのせいで金が稼げないという状況が生まれ、人の心にも影響していく。明治政府を否定する、第二維新待望論が東北を中心に芽生えて、その空気の中で、板垣征四郎や石原莞爾が生まれている。満州事変を起こしたのは東北人なんだよ。
今回の東日本大震災は、復興に何十年とかかるかもしれない。日本近代史を振り返ると、この規模の災害に匹敵するのは、もう関東大震災しかないんじゃないのかな。当時、内務大臣兼帝都復興院総裁だった後藤新平は、復興のために国家予算一年分の金を要求して顰蹙を買ったけど、第一次大戦時から続くデフレに関東大震災が重なったとき、その経済恐慌を突破できたのは、満州を取ったから。戦争によって解決されたんだ。同じくアメリカでも、一九二九年の大恐慌の際に、ルーズベルトのニューディール政策が功を奏したといわれているけど、実際は第二次大戦時の戦争経済によって回復した。
――経済的には、より厳しい状況にあるということですか……
真珠湾攻撃が成功したときに、何人かの著名な作家が「雲が晴れたような」爽快感を覚えたと言っている。今回の震災にも似たようなところがあって、強烈な連帯感が生まれるんじゃないのかな。地震の被害は大きいが、これまでの閉塞感を打ち破る可能性もある。なぜなら、完全なる国家目標ができたから。復興には、莫大な労力が必要になる。でも、被災地にしろ原発にしろ、復興に尽力することに誰も文句を唱える奴はいないだろ。もう誰にとっても他所事じゃない。死んでる場合じゃないから自殺者も減るよ。戦時下と同じで、まず生きることに一生懸命になると思う。ひとつの目標に向かうとき、日本人は強い。
――度重なる首相の交代に、未曾有の国家事業。図らずも最新刊では、現在の日本と同じ状況が描かれているわけですね。 
次巻では、近衛文麿の新体制が始まって、翼賛体制に一直線に向かう過程を書くわけだが、当初の狙いは陸軍の際限のない政治介入を阻止することにあった。しかしその翼賛体制が東条英機によって簒奪されていく。今回の震災と原発事故への対処には官僚の既得権を完全に排除した、強引な救国策が必要だが、できるだろうか。

(聞き手・編集部)

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