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どんな小さなものでも みつめていると 宇宙につながっている―詩人まど・みちお 100歳の言葉―

まど・みちお/著

1,650円(税込)

発売日:2010/12/22

  • 書籍

100年をみつめてきた詩人が語る、ことばの果実。

童謡「ぞうさん」の詩人が、雑誌などのインタビューで語った談話の中から、こころにひびく言葉を掬い上げて紹介。百を超える年輪をもつ詩人は、いまも日々、みずみずしい言葉を芽吹かせつづけている。「小さいものほど大きな理由がある」と語る、その深い眼差しは、すべての人の心を、やさしく、強く、新しくする力を持っている。

目次
みなもと
私にとってのふるさとは、
はるかな地球の中心の方、
引力の方向なんです。
ふしぎ
ほかの人にとっての常識が、
私にとっては、
はっとするような発見なのです。
子ども
子どもが一生懸命考えて
「ああ、これだ!」と分かるような
難解さがあることが、
本当に「やさしい」ことだと思うのです。
書く
私の詩は、
「今日はこのように生きました」っちゅう
自然や宇宙にあてた報告なんだと思います。
詩「リンゴ」
詩「ぼくが ここに」
年老いて…
――「生命」というのは「物」より生まれて、
そしてやがてまた「物」へと還っていくんです。
私自身も、あなたも…。
無限
この世のあらゆるものが、
それぞれの形、性質を持ち、
関係を結んでいくことは、なんて尊いのだろう。
はるかなところの、ほんの一粒の、
自分の姿が見えるようです。

まどさんのこと
初出データ
まど・みちおの主な著作リスト
絵/まど・みちお
写真/木原千佳

書誌情報

読み仮名 ドンナチイサナモノデモミツメテイルトウチュウニツナガッテイルシジンマドミチオヒャクサイノコトバ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-464102-4
C-CODE 0092
ジャンル 詩歌
定価 1,650円

書評

波 2011年1月号より まどさんの日々

松田素子

まどさんは、今年二〇一〇年の十一月十六日で、百一歳を迎えられた。ちなみに、まどさんと同じ年に生まれた文学者に太宰治がいる。百歳になられた昨年のある日、そのことを話題にすると「会ったことがあります」と言われて驚いた。「棟方志功という人にも会いました」と続けて話され、その創作現場を見たとおっしゃった。それらの出会いがどこでどのようにだったのかは思い出されなかったが、その可能性は確かにあると思われる。戦後、出版社で編集の仕事をしていた時期があり、そのときに武者小路実篤や土門拳らとも会ったという。土門拳が撮影したまどさんの写真がある。東京・交通博物館の屋上で模型の汽車にまたがった三十九歳のまどさんだ。笑った顔ではなく、こちらを…というより、こちらのさらに向こう側を見ているような眼差しである。この頃もずっとまどさんは詩や日記を書いていた。二十五歳のときに雑誌に投稿した童謡で北原白秋に見いだされたことが本格的な始まりとされる。しかしおそらくそれ以前から現在に至るまで、まどさんはずっと、書かずにはおれない人である。
二〇〇九年春に、自宅近くの介護付の病院に入られた。七歳違いの妻、寿美さんとは別の施設になってしまったが、頻繁に訪れる長男家族とともに、寿美さんも時折顔を見せる。居室には、ベッドだけでなく、きちんと作業ができる大きさの机が用意されている。そこでまどさんは日々日記を書く。詩作はいまはほとんどないようだが、日記は欠かさない。それだけでなく、入院後間もなくまどさんは、絵を描かれるようになった。机の上には、カラーペンや色鉛筆、クレヨンだけでなく、定規がたくさん置いてある。まっすぐなものだけでなく、三角定規や雲形定規、いろいろな形が大小切り抜かれている定規、分度器、コンパスもある。まどさんの青年時代の最初の仕事は測量や設計だった。定規は手になじむ道具なのかもしれない。五十代の数年間、抽象画に没頭したことがあるまどさんだが、それ以後、なぜかほとんど絵を描くことはなかった。二〇〇三年に、その時期の絵をまとめた『まど・みちお画集 とおいところ』(新潮社)を刊行するときに、「もう描かれませんか?」とお聞きすると、「手がふるえなければ、いまでも描きたい」と答えられた。その思いが百歳を前にしてスタートしたのだ。定規を使うのは手がふるえるからともおっしゃるが、定規を使わず描いた絵もある。最初は絵だけを描いていたが、長男の京さんからの「日付や言葉を入れたら?」という提案があって以来、絵のそばに、さまざまな言葉が書き添えられるようになった。日付を見ると、一日に五枚も六枚も描いた日さえある。言葉は絵の説明や自身の感想のようなものから、日記のようなものや、ときには詩として読みたくなるものもある。昨年春から一年の間に描いた絵は千枚を越す。今年の五月あたりからは絵の製作はかなり減ってしまったようだが、日記は続く。赤と黒のペンを使って、自問自答のように書かれたページもある。
「アルツのハイマーちゃんを治すことが私の第一の仕事ですから」と笑いながら、いわば哲学的で形而上学的な思考を言葉にして話されることがある。イモムシが地球を一周するとしたらどのくらいの時間がかかるだろう…などと、考えたりもする。有り得ないことだけれど、そういうことを考えてみずにはおれないのだと言う。
時折病院のまわりの庭を車椅子で散歩する。大好きな植物を愛で、池に見える水紋ひとつにも感動する。毎日なにかしらの発見があると語るまどさんだ。
「びっくりしたなあ」「しらんかったなあ」「ありがたいなあ」――これが、百一歳の今もなお、まどさんの口癖である。

(まつだ・もとこ 編集者)

書評

波 2011年1月号より

まどさんの宇宙
平田俊子



「はか しんでからで/ばか いきてるうち」。これは、まど・みちおさんの『ちがい くらべ』という詩の一節だ。
 十年ほど前、つまらないことをして落ち込んでいるときにわたしはこの詩に出会った。そして元気づけられた。そうだよなあ、おはかに入ったらもうばかなことはできないもんなあ。今のうちにたっぷりばかなことをしておかなくちゃ。わたしはこの言葉を自分に都合よく解釈し、その後もつまらないことを繰り返してはこの言葉に慰められている。
『ちがい くらべ』は、一九七五年に発表された詩だ。三十五年も前の詩なのに、今読んでもちっとも古い感じがしない。『ちがい くらべ』に限らず、まどさんの詩はどれもそうだ。今年百一歳になられたまどさんが四十代のときに書いた詩も、五十代のときに書いた詩も、きのう書かれたように若々しくてみずみずしい。詩も歳月とともに古びてしまいがちなものなのに、まどさんの詩は不老不死のようだ。
『どんな小さなものでも みつめていると 宇宙につながっている』。この本は、まどさんが新聞や雑誌のインタビューに答えたり、誰かと対談したりしたときの言葉を集めたものだ。年齢でいうと、六十代の前半から、百一歳になる直前まで。書くこと、老いること、死ぬこと、虫や草花などについて、日頃思っていることをまどさんは優しくわかりやすく語る。どの言葉も、まど・みちおという名の泉からあふれ出したように清らかだ。
 立派なことをいって感心させてやりましょうという魂胆は、まどさんにはみじんもない。自分のこころにあることを正直に語るだけだ。まどさんの言葉が美しいのは、まどさんのこころが美しいからだ。
「私に親切にしてくれた人も懐かしいし、意地悪をした人も懐かしい。いい人も悪い人も、この年になると、ぜーんぶ懐かしいんですね」。まどさんのこの言葉には驚いた。長生きをすると、誰も皆そんな境地に達するのだろうか。それともまどさんだからだろうか。わたしにはその辺のことはまだわからないけれど、将来こういう境地に達することができたらと思う。
 いぼの話も面白かった。まどさんの片方のまぶたにはいぼがあり、そのせいで物が二重に見えたりかすんだりするらしい。「このいぼのおかげで、私の世界の見え方にはバリエーションが増えている。楽しくて、うれしくてしょうがないことです」。ふつうの人なら悩みの種になりそうなことを、まどさんはプラスにとらえる。そういうほがらかな生き方、考え方が、まどさんの詩を作っているのだろう。
 わたしは詩を書く人間だから、詩についてまどさんがどんなことを話しているか知りたかった。まどさんはいう。「だれに向かって書いているかと問われたら、それは、私を私として生かしてくれている何かに対してです」「私の詩は、『今日はこのように生きました』っちゅう自然や宇宙にあてた報告なんだと思います」「(詩作で最も大切なことは?と聞かれて)あきらめないことです。あきらめたらおしまい」。ひとつひとつの言葉をわたしは深く味わい、何度もうなずく。まどさんがここで語っているのは詩作に限った話ではないだろう。わたしたちが日々暮らしていく上で必要な心構えのようなものを、まどさんは語っていると思う。
 行きたいところがあるかと聞かれて、てらうことなくまどさんは答える。「宇宙です。行けたらうれしいですねえ…」。小石や虫や植物を通して、まどさんはいつも宇宙を見ている。実際に行くことはできないにしても、まどさんのこころはいつも宇宙を旅していると思う。もしかすると本物の宇宙よりまどさんのこころの宇宙のほうがずっと素敵かもしれない。まどさんの本を読むとき、わたしたちはまどさんの言葉に乗って宇宙を旅する。だからこころが広々と、晴れ晴れとする。
(ひらた・としこ 詩人)

著者プロフィール

まど・みちお

マド・ミチオ

1909年11月16日、山口県徳山町(現・周南市)に生まれる。本名は石田道雄。9歳からは家族とともに台湾で暮らした。24歳のときにまど・みちおのペンネームで投稿した詩で北原白秋にみとめられる。終戦後日本へ帰り、神奈川県川崎市に居を構えた。「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」「一ねんせいに なったら」「ふしぎなポケット」などの童謡で国民的な人気を得ただけでなく、数多くの詩を書き、1994年に国際アンデルセン賞作家賞を受賞。『まど・みちお全詩集』(理論社)ほか多くの詩集があり、長年にわたる発言をまとめた『どんな小さなものでも みつめていると 宇宙につながっている―詩人まど・みちお 100歳の言葉―』(新潮社)、画集に『まど・みちお画集 とおいところ』(新潮社)がある。

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