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ぬくもりがある。物語がある。日本の誇り、百年ホテルへようこそ。

百年の品格 クラシックホテルの歩き方

山口由美/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2011/07/25

読み仮名 ヒャクネンノヒンカククラシックホテルノアルキカタ
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 127ページ
ISBN 978-4-10-469203-3
C-CODE 0095
ジャンル 国内旅行
定価 1,620円

箱根、軽井沢、日光、奈良――わずか数時間の旅先で見つかる、優雅で心和む一日。回転扉の向うにひろがる「ほんもの」の秘密、教えます! 名物料理、カレー、お菓子、カクテル、朝ごはんの食べ(飲み)くらべは必見。百年ホテルに生まれ育った著者が伝える難しくないドレスコード、洗練された振る舞い方の基本マナー案内付き。

著者プロフィール

山口由美 ヤマグチ・ユミ

1962年神奈川県箱根町生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。旅とホテルを主なテーマにノンフィクション、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆中。日本旅行作家協会会員。日本エコツーリズム協会会員、2012年、『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』で小学館ノンフィクション大賞受賞。著書に『帝国ホテル・ライト館の謎 天才建築家と日本人たち』(集英社新書 2000)、『長崎グラバー邸 父子二代』(集英社新書 2010)、『百年の品格 クラシックホテルの歩き方』(新潮社 2011)、『クラシックホテルが語る昭和史』(新潮文庫 2012)、『アマン伝説 創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命』(文藝春秋 2013)、『一度は泊まりたい 粋な宿、雅な宿』(潮出版社 2015)、『箱根富士屋ホテル物語』(小学館文庫 2015)など。

書評

波 2011年8月号より 魔法の場所

石川次郎

もう随分むかしのことになるが、ハノイの中心にあるホテル・メトロポールというクラシカルなホテルに泊まりに行ったことがある。三階の薄暗くひんやりした廊下の一番奥にあったのがお目当ての部屋、グレアム・グリーン・スイート。あのイギリス人作家がパリマッチ誌の原稿を書くために長逗留した部屋ということで、その名誉あるネイミングとなったらしいのだが、大きなリビングルームとふたつのベッドルームはいかにもという感じの完璧なフレンチコロニアル様式で、納得。
冷房の強く効いた部屋のベッドに仰向けになり、天井でゆっくりと回る時代物の扇風機を眺めていると、一九五〇年代にロンドンからやってきた作家がこの街で何を見たのか、何を食べたのか、どんな酒を飲んだのか、旅人の想像は部屋の中を駆け回るのだ。
ボクはどういう訳かこの手のホテルが好きで、バンコックのオリエンタルホテルのノエル・カワード・ルームにも泊まった。八十年も前に洒落者俳優が夢を結んだ部屋に、今夜俺が寝るのだという静かな興奮は、心地よい寝不足という想い出を刻んでくれた。
こんな体験こそクラシックホテルからの特別な贈り物で、出来たばかりのモダンでラグジュアリーなだけのホテルでは決して味わうことが出来ない微妙な旅の気分なのである。
目の前の現在を観るだけでなくその他の過去の幽かな匂いを探り出すには、クラシックホテルは旅の最良の記憶装置となるだろう。さて、『百年の品格 クラシックホテルの歩き方』、この本はこの著者にしか書けなかったものであるという点で、とても貴重な内容になっている。著者の母親は生まれたときからブイヨンの匂いの中で育った女性だったという。明治時代に開業した箱根富士屋ホテルの娘で戦中、戦後の少女時代を両親とともにホテルのなかですごしたのだ。
「富士屋ホテルに限らず、世界中のホテルでドレスコードがゆるくなり始めていた時代、カジュアルな服装のゲストが姿を見せると、母の顔が、悲しげに曇ることがあった。あるいは、スタッフが誤って食器を床に落としたとき、遠く離れて見ているだけなのに、食器の破片が当たったように痛そうな顔をする。もし、昭和五年生まれのダイニングルームに人格があって、顔があって、表情があったら、そうするであろう顔を、彼女はするのだった」。こんな記述のなかに、歴史あるホテルの経営者のDNAを持つ著者だけが放てる視線を感じる。母親が、少女時代の著者だけに与えた「ホテルの教え」は、この本を背骨のように貫いているのだ。
ラストエンペラー、満州国皇帝の溥儀の予約が入ったとき富士屋ホテルの玄関は大改修された。ジョン・レノンは軽井沢と万平ホテルを故郷のように愛した。アインシュタインの「日本に於ける私の印象」は日光・金谷ホテルの便箋に綴られた。ヘレン・ケラーが富士屋ホテルを訪れた記憶が、フロントカウンター前の柱に白い尾長鶏の木彫となって刻まれている。などなど、本書には現存している四つの日本のクラシックホテルに残る貴重なエピソードが随所に紹介されている。
クラシックホテルの歴史は、まさに興味深い人間の歴史でもあるのだ。「時を経て、いま私たちが、その同じ空間に立つ。もちろん彼らがいたのは遠い昔なのだけれど、その時の差を瞬間、埋めてしまうような魔法が、クラシックホテルにはあるのかもしれない」。そう、魔法なのである。
この本のもう一つのお楽しみは、現存するクラシックホテルを十分に楽しむためのマニュアルとしても機能することだ。四つのホテルの名物料理、ダイニングルームでのマナー、お菓子やカクテルまで、それぞれのホテルで注文すべきものの紹介、ホテルの朝ご飯の大切さなどを教えてくれる。カレーライスとクラシックホテルの密接な関係、なんて知らなかった!
欧米やアジアのクラシックホテルの百年の歴史を見ると、その存在は「民主的」なものだったとは言い難い。やはり、そこは特別な場所であり、出入りを許されるのはあるクラスの人たちだけであった。現代のホテルのようにデモクラティックなところではないのだ。しかし、そんなスノビッシュともいえる空間から、後の世に残る重厚な「文化」が生まれることもある。“民主的”なるものの中からはコンビニエンスストアで買えるような安易な「文明」は発生しても、本物の文化は出現しないのかもしれない。
この本を読みながら、大袈裟にもそんなことを考えてしまった。

(いしかわ・じろう エディトリアル・ディレクター)

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