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やがて買い主は、店主が選んだ品物(ガラクタ)に、
人生を支配されていく――。

さまよえる古道具屋の物語

柴田よしき/著

1,728円(税込)

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発売日:2016/12/22

読み仮名 サマヨエルフルドウグヤノモノガタリ
雑誌から生まれた本 小説新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 407ページ
ISBN 978-4-10-471105-5
C-CODE 0093
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
定価 1,728円
電子書籍 価格 1,382円
電子書籍 配信開始日 2017/06/02

その店は、人生の岐路に立った時に現れる。さかさまの絵本、底のないポケットがついたエプロン、持てないバケツ……。古道具屋は、役に立たない物ばかりを、時間も空間も超えて客に売りつけ、翻弄する。不可思議な店主の望みとは何なのか。未来は拓かれるのか? 買い主達がその店に集結する時、裁きは下され、約束が産まれる。

著者プロフィール

柴田よしき シバタ・ヨシキ

東京生まれ。1995年、『RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠―』で横溝正史賞を受賞。受賞作の主人公である村上緑子は、従来の女性刑事のイメージを一新したキャラクターとして人気を獲得した。以後、村上緑子シリーズの他、京都を舞台に壮大なスケールで展開する伝奇小説「炎都」シリーズ、猫を主人公にした猫好き必読の本格推理小説「猫探偵正太郎」シリーズ、保育園の園長が実は探偵という「花咲慎一郎」シリーズなど、ジャンルを超えて、意欲的なエンタテインメント小説を発表し続けている。近著に、『愛より優しい旅の空』『あおぞら町 春子さんの冒険と推理』『青光の街(ブルーライト・タウン)』『猫は毒殺に関与しない』など、他に『ワーキングガール・ウォーズ』『やってられない月曜日』『激流』『クロス・ファイヤー』など精力的な著書が多数。

space shibatay (外部リンク)

書評

描き出された、美しく幻想的な絵に感嘆

東えりか

「禍福は糾える縄のごとし」という諺は、年を取るごとに身に沁みてくる言葉である。「楽あれば苦あり」と意味は似ているが味わいが違っている。人生そんな単純じゃないよ、と諭されているみたいなのだ。幸せと不幸せが思いもしないところですり替わり、運命の裏表がひっくり返ったと気づけるようになるには、かなりの経験が必要なのだと思う。人は説く、どんな失敗だってやり直しはきくと。失敗は成功の元だよ、と。だが、やり直せないことも成功できないこともあることが身にしみてわかるのは、情けないことにずいぶん人生を歩いてきてしまってからだ。
『さまよえる古道具屋の物語』は六作の短編小説で構成されている。共通するのは、とある古道具屋。人の注意力とは散漫なもので、家の近くや通勤通学路、あるいはよく行く食堂のそばなどに、今まで気づかなかった店を見つけることが偶にある。この古道具屋もそんなふうに、それぞれの物語の主人公の前にふいに現れた。
 こんな店、いつ出来たんだっけ、と考えても思い出せないが、その佇まいから、どうやら前からあるらしいと気付く。なんとなく気になって入ってみると、目の極端に大きな、不可思議な顔をした店主に出くわす。その店主は、客に買う商品を選ばせないが、何かを買うまで客はその店から出られない。最後に「これを買いなさい」と、押し付けられ、金額を聞けば、ちょうど財布の中にあるお金と同額だ。
 買わされてしまった品物はこんなものだった。挿絵と文章が反対向きに印刷された絵本、お金を入れるところがない金色の豚の貯金箱、ポケットの底が抜けたエプロン、そして取っ手のないコークスバケツ。
 小説家をめざして貧乏している青年も、詐欺に会い借金まみれで京都に暮らすOLも、夫のわがままを許して別居している妻も、癌告知をされ、絶望する女性も、その古道具屋の魅力にはあらがえない。無愛想な店主から何かを手渡される。
 欲しくもないガラクタのような品物が、いつか買い手の人生に影響を及ぼし始める。恋の成就や仕事の成功、願っていた生活が手に入り、人間関係も改善されていく。
 だが、幸と不幸は表裏一体。幸せが大きければ、そのふり幅だけ不幸がやってくる。やがて彼らは気づき始める。この幸せも不幸せも、あの古道具屋で買った品物がもたらしたことだ。なんで自分はあんなものを買ってしまったんだろう。あの不思議な顔をした店主は、私の魂と取引をする悪魔だったのだろうか。
 気が付くと、糾われた縄は他人の人生とも絡まっていた。古道具屋に再び集まった買い主たちと買われていった品物たちのそれぞれのエピソードは、よじれながらひとつの縄に繋がっていった。その縄の先に見えたものは何か……。
――所有者がいなくなった物たちは、この世に取り残される。骨董や古道具というのはそうした個人の抱えた人生、さまざまな事情を、その古さの中に閉じ込めたまま、途方に暮れている気の毒な迷子なのかもしれません――
 柴田よしきはその迷子たちが居場所を求める願いを、美しい物語に編んだ。それぞれの縄は織り上げられ、大きなタペストリーとなって美しい絵が描き出されていく。
 二十年以上第一線で活躍し、警察小説やハードボイルドなどのミステリーから、SFやホラーテイストの物語など八十作以上の小説を上梓してきたベテラン人気作家の柴田よしきだが、これほどファンタジー要素の強い作品は、珍しいのではないだろうか。柴田作品の特徴ともいえる、緻密な構成と知的な雰囲気はそのままに、幻想的な風景のジグソーパズルが出来上がっていく。
 だが最後の1ピースまで気を抜いてはいけない。すべてのきっかけは、出来上がったときに初めてわかるのだから。

(あずま・えりか 書評家)
波 2017年1月号より

目次

第一話 さかさまの物語
第二話 金色の豚
第三話 底のないポケット
第四話 持てないバケツ
第五話 集合
第六話 幸福への旅立ち
そして、プロローグ

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