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『四十日と四十夜のメルヘン』で鮮烈なデビューを飾った期待の新鋭、待望の第二小説集!

いい子は家で

青木淳悟/著

1,512円(税込)

本の仕様

発売日:2007/05/31

読み仮名 イイコハイエデ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 175ページ
ISBN 978-4-10-474102-1
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,512円

女ともだちのマンションに通う次男。その靴を洗うことに執着する母。仕事をやめ「ひさしぶりに殺し合いをしようぜ」とゲームコントローラーを握る兄。父の耳の穴からは得体の知れないものが飛び出して――。デビュー作で野間文芸新人賞を受賞。今最も注目を集める気鋭が選んだ、次なるテーマは「家庭」。表題作ほか二篇を併録。

著者プロフィール

青木淳悟 アオキ・ジュンゴ

1979年埼玉県生まれ。2003年「四十日と四十夜のメルヘン」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2005年、同作を収めた作品集『四十日と四十夜のメルヘン』で野間文芸新人賞を受賞。2012年『私のいない高校』で三島由紀夫賞受賞。他の著書に『いい子は家で』『このあいだ東京でね』『男一代之改革』『匿名芸術家』『学校の近くの家』がある。

書評

波 2007年6月号より 世界の風景を変える言葉たち  青木淳悟『いい子は家で』

大和田俊之

 現在、もっとも新刊が待ち望まれる作家(と断言してしまおう)、青木淳悟の最新作である。前作『四十日と四十夜のメルヘン』で新潮新人賞と野間文芸新人賞を受賞した際、選考委員の保坂和志が「ピンチョンが現れた!」と激賞したのは記憶に新しい。
 実際に作風がピンチョンに似ているかどうかは問題ではない。ここで「ピンチョン」とは、「なんだかよく分からないけど、とてつもなくすごい!」という意味の比喩に過ぎないからだ。
 では、どうすごいのか。
 本作に収録された三篇(「いい子は家で」、「ふるさと以外のことは知らない」、「市街地の家」)は、いずれも「家」を描いた作品である。だがこの作家に一般的な意味での家庭小説を期待してはならない。ここには子どもの成長を通して結ばれる家族の絆や、父親の不倫をきっかけに崩壊する家庭といったわかりやすい主題は存在しない。そうした「物語」が作品の推進力にはなっていないのだ。
 たとえば、表題作「いい子は家で」はこんなふうに始まる。主人公・宮内孝裕は二十代半ばの青年で、四人家族の次男である。長男はすでに家を出て、父親は仕事で毎晩帰りが遅い。家で孝裕の帰りを待つのは母親だけである。孝裕には交際を始めた女性がいて、彼女のマンションに週三日のペースで訪れている。はじめは何らかの理由をつけて朝帰りをしていたが、「そうした親への配慮が煩わしくて」その後は外泊を慎むようになる……。
 一見、ごくふつうの家庭小説として始まる作品は、このあたりから少しずつ横滑りしはじめる。「親への配慮」を気にする孝裕と、洗濯にあけくれる母親の行動が必要以上に描写され、毎日の着替えやスニーカーの靴ひもの結び目などについての細部が延々と続く。「物語」は一向に進む気配がなく、いくぶん滑稽で魅惑的なディテールが次々に描写されるのだ。それは、どこか自意識過剰にみえる主人公と母親のいびつなやりとりが、作品そのものにゆがみを生じさせているかのようでもある。
 かといって、最後まで話が前に進まないわけではない。父親は定年退職を果たし、長男も失職して家族四人での同居が再開する。意を決して家を出た孝裕は、彼女の家で週末を過ごしたりもする。しかし、青木淳悟の作品にあっては、こうした「物語」の進行が目立って記述されることはない。それはいつのまにかそうなっているのだ。同様に、家族の現在と過去の状況もいつのまにか交錯し、おもむろにかつての家庭の雰囲気についての逸話が挿入される。こうしてふつうの小説であれば前景化される「物語」の構成が後景に退き、その代わりにあらすじからはこぼれ落ちてしまう「家」の営みの細部が淡々とした筆致で重ねられてゆく。
 操作されるのは時間軸ばかりではない。リアリズムを基調とした文体が、なんの前触れもなくファンタジー(妄想)へと離陸して、またなに食わぬ顔で現実へと帰還するのである。作品の途中で主人公の顔にはピアノ線のような細長いひげが伸びはじめ、頭の上には三角形の耳が生えている。また父親の耳からは「得体の知れないうんこのようなもの」が飛び出すのである!
 こうして作品は現在と過去、そして現実と虚構を自在にさまよい続ける。だが、そこには技巧的な見せかけは一切ない。小説は自由なジャンルであるといわれるが、自由であろうとする意志が垣間見えた瞬間に不自由さを帯びてしまう厄介な様式でもある。青木淳悟はそうした衒いを涼しい顔でやり過ごし、常に半笑いを浮かべた文体で読者を惹き付け、その魅惑的な作品世界へと誘い込む。そして、通常の小説観をいつのまにか覆すことで、読者の現実世界そのものを歪ませてしまうのである。
 世界は言葉でできている。そして、この世界の風景を変えることができるのも、また言葉だけである。青木淳悟の小説を読む快楽は、その現実のゆがみに身を委ねることにある。



(おおわだ・としゆき アメリカ文学者)

目次

いい子は家で
ふるさと以外のことは知らない
市街地の家

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