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インテリジェンス人間論

佐藤優/著

1,650円(税込)

発売日:2007/12/18

  • 書籍

歴代総理、異能の思想家、世界の指導者など150余人が登場する異色の人物論。

国際インテリジェンスの最前線を飛び回り、クレムリンや総理官邸から東京拘置所までを知る男・佐藤優、初の短編ノンフィクション集。国際情勢のみならず、宗教、思想、グルメ、サブカルチャーなど、多方面にわたる豊富な知識を駆使して織り成す、豪快にしてユーモア溢れる
「実録 ハードボイルド・ワンダーランド」!

目次
まえがき
第一話 鈴木宗男の哀しみ
第二話 橋本龍太郎と日露外交
第三話 私が見た「人間・橋本龍太郎」
第四話 小渕恵三の“招き猫”
第五話 新キングメーカー「森喜朗」秘話
第六話 死神プーチンの仮面を剥げ
第七話 プーチン後継争いに見る凄まじき「男の嫉妬」
第八話 日露対抗「権力と男の物語」
第九話 「異能の論客」蓑田胸喜の生涯
第十話 怪僧ラスプーチンとロシアン・セックス
第十一話 スパイ・ゾルゲ「愛のかたち」
第十二話 金日成のレシピー
第十三話 有末精三のサンドウィッチ
第十四話 「アジアの闇」トルクメニスタンの行方
第十五話 インテリジェンスで読み解く「ポロニウム210」暗殺事件
第十六話 不良少年「イエス・キリスト」
第十七話 二十一世紀最大の発見「ユダの福音書」
第十八話 ラスプーチン、南朝の里を訪ねる
第十九話 ティリッヒ神学とアドルノ
あとがき

書誌情報

読み仮名 インテリジェンスニンゲンロン
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-475203-4
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆、ノンフィクション
定価 1,650円

書評

波 2008年1月号より 見えてしまう男、の哀しみ  佐藤 優『インテリジェンス人間論』

酒井順子

 人間論、というタイトルがついた本書においては、佐藤優さんが外交の世界で実際に接したり情報を得たりしてきた、様々な人物についての観察が記されています。鈴木宗男氏はもちろんのこと、橋本龍太郎、小渕恵三、プーチンそして金日成……と、私達がニュースでのみ情報を得、人間性を判断していた人達の別の顔が、そこからは見えてくるのです。
 たとえば、「橋本龍太郎がかつて、なんとあの女性を口説こうとしたことがあったとは!」とか、「人柄の小渕、と言われた小渕恵三が、実はインテリジェンス能力が非常に高く、かつ相当怖い人だったのね」とか、「金日成はかなりのグルメ、でも金正日はそうではない」とか。これらを読んでいると、メディアで報道される情報の限界と、それによって形成されるイメージの強固さが、よくわかるのです。
 かく言う私も、メディアから得られる情報のみで、「佐藤優」という人のイメージを自分の中に形成してきました。鈴木宗男疑惑で逮捕され、外務省のラスプーチンと言われた時は、「謎が多くて、悪そうで、怖そう!」な人として。そして、『国家の罠』以下の著書を次々と送り出している今は、「すべてを見通す目を持った人」として。いずれにせよ、常人とは違うものを持つ人として、私の中の佐藤優イメージは出来ていたのです。
 本書を読んでいると、しかしむしろ佐藤優さんは、常人としての観点を、極めて強く持っている方のような気がしてきました。大政治家の前であろうと外国であろうと、常人の感覚を絶対にブレさせないでいたからこそ、あらゆる人間の中身を、洞察することができるのではないか。
 その視線の強さは、本書の後半に出てくる、キリスト教関係の人物に関する記述においても、読み取ることができます。佐藤さんが神学部出身であるということはよく知られていますが、しかしその視線は、なんとイエス・キリストの前においても、ブレないのです。私などは、イエス・キリストという名前自体が持つ発光力の強さに「ははーっ」となって、その人物自体を見ることをすっかり忘れているわけですが、佐藤さんは「イエスの少年時代の記録が欠けている」→「意外と不良だったりして?」→「少年イエスの不良っぷりを記した文章もある」ということから、私達に人間としてのイエス、という観点を呼び起こさせます。
 それは、ユダについても同様です。「ユダ=裏切りもの」というのは、もう二〇〇〇年もの間、世界中に広まっている強固な観念であるわけです。が、佐藤さんはユダの福音書の発見というトピックを通じて、「イエスの最も誠実な弟子であったユダ」という可能性を、提示している。
 不良のイエス、誠実なユダ。それは、今までのイメージを大きく覆す像なのです。が、ふと思い返してみれば、他の福音書の中に描かれている大人になったイエスは、時に「キレる」ようなこともあるし、またイエスが死刑になりそうという時は、他の弟子だって「イエスなんて知らない」と言いまくっていた。不良のイエス、誠実なユダという像につながる伏線には接していても、私達はそれを見て見ぬフリをしてきたのです。
 一般人であれ、政治家であれ、はたまたイエスやユダのようなとっくに死んでいる人であれ。佐藤さんの視線は、イメージに惑わされず、偏りなく照射されています。イメージの影になった部分。分類からこぼれおちた部分。そんな部分をもその視線は貫くからこそ、平板でない人間像が浮かび上がってくるのでしょう。
 世の中には、自分で望もうと望むまいと「見えてしまう」人がいるものです。「見えてしまう」能力は必ずしも持ち主に幸福ばかりもたらすものではなく、「見えずにいられる」人の方が、精神の安寧は得やすいのだと思います。佐藤さんは、鈴木宗男氏が背負う哀しみについて書いていらっしゃいますが、佐藤さんもまた、「見えてしまう」が故の哀しみを抱く方であり、またその哀しみこそが、旺盛な執筆意欲をかきたてる原動力ともなっているような気がするのでした。


(さかい・じゅんこ エッセイスト)

著者プロフィール

佐藤優

サトウ・マサル

1960年生れ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、1995年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。2002年に背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、東京拘置所に512日間勾留。2005年2月執行猶予付き有罪判決を受ける。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定で外務省を失職。2013年6月に執行猶予期間を満了、刑の言い渡しが効力を失った。2005年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、作家として外交から政治、歴史、神学、教養、文学に至る多方面で精力的に活動している。主な単著は『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)、『獄中記』『私のマルクス』『交渉術』『紳士協定―私のイギリス物語』『先生と私』『いま生きる「資本論」』『神学の思考―キリスト教とは何か』『君たちが知っておくべきこと―未来のエリートとの対話』『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞)、『それからの帝国』など膨大で、共著も数多い。2020年、その旺盛で広範な執筆活動に対し菊池寛賞を贈られた。

判型違い(文庫)

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