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瀧井朝世さん熱烈推薦、南米マジック・リアリズム文学の大傑作!

熱帯雨林の彼方へ

カレン・テイ・ヤマシタ/著、風間賢二/訳

2,592円(税込)

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発売日:2014/06/30

読み仮名 ネッタイウリンノカナタヘ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 316ページ
ISBN 978-4-10-506711-3
C-CODE 0097
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,592円

アマゾンの密林に奇跡が舞い降りた! 万能の力を持つ物質の出現、人々の苦痛を癒す魔法の羽、幸運の予言を齎す伝書鳩、腕や乳房が三つある男女。そして物語の語り手は、日系移民の男の周囲を飛び回る謎の球体……歓喜と興奮の坩堝と化したこの地に、何が起きようとしているのか。想像力の極みで描かれた名作、待望の復刊。

著者プロフィール

カレン・テイ・ヤマシタ Yamashita,Karen Tei

1951年、カリフォルニア州オークランドで日系3世として生まれる。ミネソタ州のカールトン・カレッジで英文学と日本文学を専攻、1971年から1年半、日本の文化と文学を学ぶために交換留学生として早稲田大学に留学。1975年、ブラジルの日系移民を研究するため奨学金でサンパウロに渡って10年間滞在。その間に結婚し、短編や戯曲を書き始める。現在、カリフォルニア大学サンタクルーズ校創作科教授。著書に『Brazil-Maru』、『Tropic of Orange』、『I Hotel』などがある。

風間賢二 カザマ・ケンジ

1953年、東京生まれ。武蔵大学人文学部卒。幻想文学研究家、翻訳家。1998年、『ホラー小説大全』で第51回日本推理作家協会賞を受賞。その他の著書に『ステイーヴン・キング』、『ジャンク・フィクション・ワールド』など。『ダーク・タワー』シリーズ(ステイーヴン・キング)、『イデアの洞窟』(ホセ・カルロス・ソモサ)、『装飾庭園殺人事件』(ジェフ・ニコルスン)、第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品『ウォーキング・デッド』シリーズ(ロバート・カークマン)など、訳書多数。

書評

波 2014年7月号より 三の物語  

都甲幸治

三本の手を持つアメリカ人男性が、三つ乳房のあるフランス人の鳥類学者と恋に落ちる。どこで? 第三世界の雄たるブラジルでだ。そして自由(リベルテ)、平等(エガリテ)、 友愛(フラタニテ)という名の三つ子が誕生する。アメリカ合衆国で日系三世として生まれたカレン・テイ・ヤマシタは『熱帯雨林の彼方へ』で、なぜこんなにも三に満ちた世界を書いたのだろう。それは彼女にとって、第三項を考えることが常に創作の源となってきたからだ。
若いころ早稲田大学に留学したヤマシタは、いったい自分は日本人なんだろうかという疑問にとりつかれる。「私に質問した人は驚いて叫ぶんです。えっ、じゃあなたは純粋な日本人なんですね! 『純粋な日本人』ってどういう意味でしょう? 私は傷つき、怒りを感じました。私の家族を含む多くの人々が、人種差別や社会的排除の痛みと長いあいだ闘ってきた国から私は来ました。人種的な純粋さなんて、私には価値があるとは思えなかったし、それが重要だとも信じてはいませんでしたが、それでも私は日本で、なんとか日本人と思われよう、日本人になりきろうとがんばったんです」(Circle K Cycles〔未訳〕)。
ほんの少しの違いでも日本ではおかしいと言われてしまう。それじゃあ私はアメリカ人なの、日本人なの。彼女のこの二択の問いを突き崩したのが、大学卒業後、十年を過ごしたブラジルだった。ポルトガルとアフリカ、インディオの文化が混ざったそこでは、日系人を含めたみなが親密に触れ合いながら、あけっぴろげに暮らしていたのだ。その国で彼女は、「純粋」なんて幻でしかない、と気づいて初めて楽になる。
ガルシア=マルケスやボルヘス、ラシュディを読み、彼らの魔術的リアリズムに学びながら、ヤマシタがブラジルの人々に感じた魅力を作品化したのがこの『熱帯雨林の彼方へ』である。「感動的な無垢の牧歌と渺茫たる郷愁、そして忌まわしくも無情な運命」という、あまりにもベタなブラジルのノヴェラ(テレビの連続メロドラマ)そのままに、車椅子の少年が歩いたという奇跡に感謝すべく、長大な距離を裸足で行く巡礼の旅に出た青年シコ・パコは聖人となり、鳥の羽で耳のツボを押す治療法を見つけた老人マネは羽学の世界的権威となる。しかし彼等はいずれも、あまりにも残酷な運命の犠牲者になるのだ。
主人公は日本海に面した町で生まれたカズマサである。彼は子供のころ、突然現れた小さなボールと一体化してしまう。いつもカズマサの額の前に浮かんでいるそれは不思議な力を持っていた。鉄道のレールにできた、ほんの少しの傷も感知するボールの能力で、カズマサは日本とブラジルで乗客たちの安全を護るようになる。やがて鳩が運んできた奇跡のメッセージどおりにすべてのくじに当たり続け、巨万の富を得たカズマサだが、国際的な陰謀に巻き込まれてしまう。
アマゾンのジャングルで発見された、マタカンという名の天然のプラスチックが鍵だ。食べ物にも建築材料にも加工できるマタカンがもたらす巨万の富を独占しようとしたアメリカ企業GGGは、カズマサのボールに目をつける。実はボールは、地中のマタカンを見つけ出す能力も持っていたのだ。
何もない場所に突如近代都市を生み出し、その崩壊までももたらすマタカンは、マルケス『百年の孤独』に登場する村マコンドと響きあう。マコンドにはコロンビア内戦の暴力などあらゆるものが集まってきた。マタカンによってアマゾンに集まるのは、「書類の山、重要機密会議、過密スケジュール、仕事、エゴ、腐敗」、すなわち近代の悪いものすべてである。
登場人物たちは有名になり、快適な住居に住み、金持ちになる。だがそのせいで好きな人と過ごす時間は減り、人間関係が希薄になり、愛は薄れてしまう。マネは思う。「すべてはうまくいっているようだった。たえず目的があって充実している。それなのに、マネは、古臭い冗談、昔ながらの人物、そして米と豆とタピオカ粉の料理がどっさりと盛られた質素な皿が恋しかった」。
日系人によって書かれた魔術的リアリズム作品、という意味で希有な本書は、息つく暇もないほど面白い。だがその向こうには、日本人とは何か、そして現代人にとって幸福とは何か、というシリアスな問いが隠れている。本書の復刊をきっかけに、ヤマシタによる重要な著作が次々と翻訳される日本になってほしい。

(とこう・こうじ アメリカ文学者)

目次

著者覚書
第一部 事の始まり
第一章 カズマサ・イシマル
第二章 バティシュタとタニタ・アパルシーダ・ディヤパン
第三章 マネ・ダ・コシュタ・ペーナ
第四章 GGG
第五章 シコ・パコ
第六章 ジョナサン・B・トゥイープ
第二部 発展途上の世界
第七章 鳩
第八章 巡礼者
第九章 三本の手
第十章 大金
第十一章 命拾い
第三部 さらなる発展
第十二章 羽
第十三章 巡礼者の歩み
第十四章 カラオケ
第十五章 家事手伝い
第十六章 マタカン
第四部 無垢の喪失
第十七章 ボール
第十八章 羽学
第十九章 ミッシェル・マベル
第二十章 誓い
第二十一章 帰巣本能
第五部 さらなる喪失
第二十二章 プラスチック
第二十三章 リモート・コントロール
第二十四章 三数偶然発育者
第二十五章 ラジオ
第二十六章 鳩通信
第六部 回帰
第二十七章 チフス
第二十八章 カーニヴァル
第二十九章 羽の雨
第三十章 バクテリア
第三十一章 市場
第三十二章 熱帯の日除け
訳者あとがき
解説――瀧井朝世

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