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アメリカと元ナチスのおぞましき蜜月関係――!

ナチスの楽園―アメリカではなぜ元SS将校が大手を振って歩いているのか―

エリック・リヒトブラウ/著、徳川家広/訳

2,592円(税込)

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発売日:2015/11/27

読み仮名 ナチスノラクエンアメリカデハナゼモトエスエスショウコウガオオデヲフッテアルイテイルノカ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 382ページ
ISBN 978-4-10-506971-1
C-CODE 0031
ジャンル 社会学、地理・地域研究
定価 2,592円

アメリカ政府が、ソ連との冷戦に活用するため、大量の元ナチス幹部を秘密裏に入国させている――国家的不正に気づいた司法省特捜室の執念の捜査が始まった。必死に過去を偽る元ナチスたちと、何とか証拠を掴もうとする特捜検事たちの息詰まる攻防戦の行方は……? ピュリッツァー賞ジャーナリストが描く、驚愕の戦後裏面史。

著者プロフィール

エリック・リヒトブラウ Lichtblau,Eric

1965年、ニューヨーク州シラキュース生まれ。コーネル大学卒業。司法担当記者として、「ロサンゼルス・タイムズ」「タイムズ」などで活躍。その後、「ニューヨーク・タイムズ」でブッシュ政権下の米国国家安全保障局による令状なしの盗聴をスクープし、2006年のピュリッツァー賞を受賞。

徳川家広 トクガワ・イエヒロ

1965年、東京都生まれ。翻訳家。作家。徳川宗家19代目にあたる。慶應義塾大学経済学部卒。ミシガン大学大学院で経済学修士号、コロンビア大学大学院で政治学修士号を取得。訳書にS・ナサー『大いなる探求』、W・バーンスタイン『「豊かさ」の誕生』など多数。

目次

プロローグ 旧知の間柄
一九七四年七月一二日 ヴァージニア州ラングレー
第1章 ヨーロッパ解放の真実
一九四五年春 ミュンヘン郊外、フェーレンヴァルト難民収容所
第2章 「善玉ナチス」
一九四五年三月 スイス、チューリヒ
第3章 「軽微な戦争犯罪」 
一九五六年二月二二日 首都ワシントン
第4章 次は自分かもしれない
一九六〇年五月一一日 ブエノス・アイレス
第5章 鉤十字に向かって突撃せよ!
一九六三年五月一九日 イリノイ州シカゴ
第6章 科学的探求のために
一九七四年一一月二三日 テキサス州サン・アントニオ
第7章 暗闇に隠れているわけにいかなくなった
一九七八年九月二〇日 ニュージャージー州パターソン
第8章 「醜悪なシミ」
一九八〇年七月一〇日 首都ワシントン
第9章 父親のしでかした悪行
一九八一年二月二日 カリフォルニア州サクラメント
第10章 せっかくのパーティーが台無しに
一九八二年一〇月一三日 カリフォルニア州サンノゼ
第11章 潔白な男
一九八三年六月 ニューヨーク
第12章 反動の時
一九八七年四月一五日 首都ワシントン
第13章 イワン雷帝
一九九三年一一月一七日 オハイオ州シンシナチ 第六巡回控訴裁判所
第14章 ポナリーへの道
一九九三年九月 リトアニア、ヴィリニュス
エピローグ
謝辞

人名索引

インタビュー/対談/エッセイ

ピュリッツァー賞記者が着地した「正義」

徳川家広

 日課となっているアマゾンの洋書探索で、本書の原書The Nazis Next Doorを見つけた時には、期待に胸が高鳴ったものである。膨大な数がいたSSやナチス党員たち、ナチス・ドイツ占領国におけるナチス協力者たちが戦後どうなったかについては、かねてから興味のあるトピックだったが、「隣りのナチス」という、何とも素っ気ないタイトルは、逆説的にこの問題の広がりと根の深さを暗示していたのだ。
 はたして、読みはじめてすぐに、衝撃的な事実が暴露される。第二次大戦の終盤、連合軍が解放したヨーロッパ大陸では、強制収容所のユダヤ人たちは虐殺されることこそなくなったものの、従来と変わらない惨めな虜囚生活を続けることを、当分の間強いられた!
 いっぽう、連合軍の捕虜になった元ナチスの多くは快適な暮らしを送ることを許された!
 そしてアメリカ軍は、元ナチスの科学者たちを続々と雇い入れていった(特に熱心だったのが、ヨーロッパ戦線の英雄パットン将軍だった)。ナチス・ドイツの技術力でもって、ソ連を打倒しようという腹である。この「紙クリップ作戦」自体は比較的よく知られているし、V2ロケットの生みの親で、アメリカのアポロ計画にも加わったヴェルナー・フォン・ブラウンがその一員だったことも、周知であろう。だがその「英雄」フォン・ブラウンにしてからが、ナチス・ドイツ時代には奴隷労働でロケットを建造していた!
 さらに、強制収容所の囚人たちを使った人体実験のデータも、元ナチスの医者たちによってアメリカ軍の宇宙計画に移植されていった!
 つまり、戦後アメリカの栄光の瞬間ともいうべきアポロの月面着陸は、その実ホロコーストの副産物でもあったのだ。
 だが、アメリカにおける元ナチスの最大の支援者は、何といってもCIAだった。独自の諜報機関を持たないアメリカとしては、ナチスの対ソ連スパイ網が欲しかったのだ。本書の白眉となるのが、この元ナチス・スパイたちの列伝で、著者がCIA文書や裁判記録をもとに巧妙に再構成している。事実は小説よりも奇なり。今や文豪とも言うべき存在となったS・キングの佳品『ゴールデンボーイ』など、アメリカに戦後のうのうと暮らしていた元ナチスたちの実態に比べると、全然甘っちょろい話だということがよくわかる。
 じっさい、CIAやFBI(そう、FBIも元ナチスを情報屋として雇い、保護していたのだ)の元ナチスに対する面倒見の良さを知れば知るほど、アメリカ国家の本質というか主流は、私たちの考えるリベラルなものではなく、むしろナチス・ドイツに対する親和性のほうが高いのではないかと思われる。戦後四〇年が経ったレーガン政権時代になっても、親ナチ派が政権の要職に就いていたりするのだ。暗澹とした気持ちにさせられるではないか。
 だが、アメリカはやはり偉大な国だ。多数の元ナチスを吸収するその一方で、それを許すまいとする勢力もちゃんと出現して、元ナチスたちを追いつめていくのである。最初は民間人の孤立した、時にユーモラスな努力だったのが、ついには司法省に、元ナチス追及を任務とする特別捜査室が設けられるのだ。そして本書の後半は、元ナチスたちと特捜室の検事たちの間の知恵比べ、追いかけっことなる。
 高齢者となった元ナチスたちを壮年、時には青年の検事たちが徹底して追及する様は、過去の悪行を水に流すことを美徳とする日本人には受け入れ難いかもしれない。その点は著者も指摘している。また、元ナチスの大物を裁くことに熱心なあまり、とんでもない失敗も出て来る。これは正義に名を借りた復讐でしかないのでは、いや魔女狩りなのでは、と不安になってくるほどに。
 だが、さすがに著者はピュリッツァー賞を受賞した練達の記者である。実に上手に「着地」しているのだ。読了後、「これこそが正義なのだ」と納得すると同時に、ホロコーストの犠牲者のあまりに残酷な運命に、あらためて涙も出た。読み終えて本を閉じるのと同時に「この本を訳さなくては」と強く思った所以である。

(とくがわ・いえひろ 翻訳家)
波 2016年1月号より

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