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プーチンが真に求める「この先の世界」を理解した時、私たちは戦慄する!

プーチンの世界―「皇帝」になった工作員―

フィオナ・ヒル/著、クリフォード・G・ガディ/著、濱野大道/訳、千葉敏生/訳、畔蒜泰助/監修

3,456円(税込)

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発売日:2016/12/12

読み仮名 プーチンノセカイコウテイニナッタコウサクイン
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 524ページ
ISBN 978-4-10-507011-3
C-CODE 0031
ジャンル 政治、外交・国際関係
定価 3,456円
電子書籍 価格 3,456円
電子書籍 配信開始日 2017/01/27

一介のKGB職員から「皇帝」となった男が望むものとは? 今も謎に包まれるロシア大統領の“正体”を米研究機関の第一人者が6つの側面——「国家主義者」「歴史家」「サバイバ リスト」「アウトサイダー」「自由経済主義者」「ケース・オフィサー(工作員)」から徹底分析。計り知れない男プー チンを正しく恐れるための決定版。

著者プロフィール

フィオナ・ヒル Hill,Fiona

1965年生まれ。米ブルッキングス研究所/米国・欧州センターディレクター。

クリフォード・G・ガディ G.Gaddy,Clifford

1946年生まれ。米ブルッキングス研究所/シニア・フェロー。

濱野大道 ハマノ・ヒロミチ

1978年生まれ。翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)大学院東南アジア言語文学(タイ文学)修士課程修了。訳書にリチャード・ロイド・パリー『黒い迷宮』(早川書房)、グレン・グリーンウォルド『暴露』(新潮社・共訳)など。

千葉敏生 チバ・トシオ

1979年生まれ。翻訳家。早稲田大学理工学部数理科学科卒。訳書にムハマド・ユヌス『ソーシャル・ビジネス革命』、チップ&ダン・ハース『スイッチ!』(以上早川書房)、トム&デイヴィッド・ケリー『クリエイティブ・マインドセット』(日経BP社)など。

畔蒜泰助 アビル・タイスケ

1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。モスクワ国立国際関係大学国際関係学部修士課程修了。2005年4月より東京財団研究員。2010年からヴァルダイ会議メンバー。

書評

プーチンのロシアについて最良の教科書

佐藤優

 ソ連時代は、KGB(国家保安委員会)で対外インテリジェンスを担当する中堅職員(退役時の階級は中佐)だったプーチン。1996年にモスクワで大統領府に勤務するようになってから急速に出世の階段を上り、ロシア初代大統領のエリツィンにより後継者に指名された後、磐石な権力基盤を構築し、専制君主のような地位を得た。その過程を詳細に調べ、わかりやすく記述している。もっともプーチンの履歴については公開されていない部分が多い。ヒルとガディは、プーチンについて、「国家主義者」「歴史家」「サバイバリスト」「アウトサイダー」「自由経済主義者」「ケース・オフィサー(工作員)」という、6つのペルソナ(個性)があるとの作業仮説に基づいて調査し、分析している。その結果、「プーチンの謎」をかなり解明することに成功している。これからは、この本がプーチンのロシアについて最良の教科書になる。
 人は誰も自分の経験に縛られる。プーチンの場合、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長が開始したペレストロイカ(改革)による解放感を経験していないことが重要だ。この点について、プーチンの前妻リュドミラの証言が興味深い。ゴルバチョフが書記長になった1985年にプーチンは東ドイツのドレスデンに赴任した。〈ドレスデン駐在終盤の体験に幻滅したまま、プーチンは一九九〇年初めにソ連に帰国した。(中略)プーチンが街を離れていたあいだ、レニングラードでは色々なことが起きていた。その期間にプーチンは東ドイツで多くのことを学んだが、彼の知らないところで、ソ連に残った人々はいくつもの人生の教訓を吸収していた。(中略)彼女(リュドミラ)はインタビューのなかでこう語った。「ペレストロイカをはじめ一九八六年から八八年までのすべての出来事を、ドイツにいた私たちはテレビでしか見ていません。ですから、当時のソ連の人々の熱狂ぶりや高揚感については、人の話を通してしか知らないのです」/一九八〇年代末のソ連は、知的・文化的な破壊と創造の時代であり、政治的な激変の時代だった。帰国したプーチン夫妻が目の当たりにしたのは、断末魔の苦しみに喘ぐソ連であり、変革の高揚感など見る影もなかった。〉(146頁)。プーチンが多くのロシア人と一九八〇年代後半の知的、社会的空気を共有していない。そのことが、プーチンの世界観に無視できない影響を与えている。
 プーチンの行動様式は、外交においてもケース・オフィサーそのものだ。1対1で個人的人間関係を構築する技法にプーチンは長けている。しかし、それは相手を対等の友人として尊重しているからではない。ロシアの国益にとって操作可能にするためだ。その観点からすれば、私的利益を追求する腐敗政治家は、プーチンにとって利用価値の高い工作対象になる。前ウクライナ大統領のヤヌコーヴィチがその例だ。〈プーチンから見れば、ヤヌコーヴィチ大統領のあからさまな守銭奴ぶりは、大いに利用できる弱点であり、ロシア側に多大な影響力を与えるものだった。ヤヌコーヴィチは、一九七〇年代や八〇年代、プーチンやKGBの同僚たちがレニングラードやドレスデンでターゲットにした外国人そのものだった。その強欲さと罪が、国内外で名声を失うリスクを高め、買収されやすい状況へと彼を追い込むのだ。プーチンはまさにそこを突いた――ヤヌコーヴィチの側近たちに利害のある不透明なエネルギー取引を結び、ヤヌコーヴィチやその家族と密接な関連のある産業に高利益な発注を出すようロシア企業に促した。〉(430頁)。もっともヤヌコーヴィチが強欲すぎたため、国民の反発を買い、ロシアへ逃亡してしまった。その結果、ウクライナへの影響力を保全するためにプーチンはクリミア併合、ウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州をロシア系武装勢力の支配下に置くという冒険をせざるを得なくなった。その代償は大きく、ロシアと米国、EU(欧州連合)との関係は著しく悪化する。ケース・オフィサーの感覚で、外交を展開しても、成功するとは限らないのである。本書を通読してもプーチンの私生活がほとんどわからない。プーチンがプライバシーを厳重に秘匿しているという要素もある。しかし、それよりもプーチンにとって仕事がすべてで私生活の要素がほとんどないというのが実態と思う。評者が外交官時代に付き合ったSVR(ロシア対外諜報庁)やモサド(イスラエル諜報特務局)にも仕事がすべてという人がいた。プーチンにもあの世界のライフスタイルが染みついている。

(さとう・まさる 作家・元外務省主任分析官)
波 2017年1月号より

目次

日本語版に寄せて  フィオナ・ヒル/クリフォード・G・ガディ
第I部 工作員、現わる
第1章 プーチンとは何者なのか?
何をもって事実とするのか?/プーチンの経歴/プーチンの個人資産/「危険を察知する感覚が鈍い」/大統領を演出する特殊小道具部門/プーチンの真面目な一面――敬意の表明/プーチンの素顔/状況からプーチン像を描く
第2章 ボリス・エリツィンと動乱時代
大統領と議会の対立/大統領の新憲法/国家院選挙での大敗/エリツィン、オリガルヒ、そして一九九六年六月の大統領選挙/チェチェン紛争――ロシア地域との二重取引/国外での挫折/旧ソ連諸国からの拒絶/西から東への方向転換/高まる国家復興の機運――プーチン、モスクワに現わる
第3章 国家主羲者
「ミレニアム・メッセージ」/「国家の人間」とKGB/「社会」とロシアのエリート/ロシアの名のもとでの合意/新しいロシア思想を模索するエリツィン/イーゴリ・チュバイスと「新しいロシア」という思想/ロシアの美徳の称賛/エリツィンの教書演説と国家権力の復活/アナトリー・サプチャークと法治国家/プーチニズムと憲法/ソ連の崩壊――一からの国家再建/復讐の機会をうかがうロシア/統一国家
第4章 歴史家
好都合な歴史を探して/官製国民性の復活/ロシア史との融和/歴史の操作――プーチンとストルイピン/変幻自在の男
第5章 サバイバリスト
プーチンの政治生命――サンクトペテルブルクの食糧スキャンダルをめぐる物語/戦略的計画――外貨準備高の増加/ロシアの財政備蓄/「“砂場”、の街」とチェチェンでの勝利/備蓄と犠牲/統一に生き残りを託して――チェチェンとの和解/もっとも理性的な男/統一、融和、そして白系ロシア人生存者たちの残した遺産/コマロフ夫妻に見るプーチニズム
第6章 アウトサイダー
アンドロポフのKGB/アウトサイダーとしてのドレスデン駐在/ドレスデンの教訓/プーチンと「無知の谷」/レニングラードの若者集団からの孤立/「ワル」というアウトサイダーのペルソナ/掌握者、そして善き皇帝として/プーチンの庶民的な言葉遣い/ソ連時代のジョークの芸術
第7章 自由経済主義者
プーチン率いるロシアの経済発展/プーチンの経済をめぐる謎/プーチンの経済思想の起源――ソ連からKGBまで/KGBと経済の関係/技術機密の窃盗と無駄遣い/赤旗大学時代のプーチン(八四年秋〜八五年七月)/改革の実験室としての東ドイツ/ドレスデンからサンクトペテルブルクのビジネスの仕掛け人へ/資本主義の到来と政治的駆け引き/サンクトペテルブルクの財政
第8章 ケース・オフィサー
食糧スキャンダルの再燃/サンクトペテルブルクの政治とビジネス/ズブコフの計画/原点回帰――「もっとも複雑な仕事」/アンドロポフの新生KGB――特定の個人に対処する/KGB出身は「政治家にとってプラスの経歴」/『ホットライン』を通じた人心掌握術/激怒した群集への対処/ドレスデン時代――敵意剥き出しの暴徒との直面/プーチンのモスクワ異動/オリガルヒたちのジレンマ――プーチンの出した解決策
第9章 システム
抑制的なシステム/彼は最高経営責任者C E Oか、それとも皇帝か?/システムの青写真/石油と輸送の重要性/国家機構/大統領兼CEOに代案を提示する/無責任な役人と垂直権力構造の教訓/不信を根底としたシステム/システムの私物化――「ワンマン・ネットワーク」/プーチンに情報を伝達できるのは誰か?
補記 プーチンと博士号
第II部 工作員、始動
第10章 ステークホルダーたちの反乱
忍び寄るプーチン疲れ/都市部の新たな中流階級/岐路に立つロシアとプーチン/狭い視野/硬直したシステム/皇帝、復活す/プーチン疲れ、再び/経済の難問/外柔内剛/民族主義のカードを切るプーチン/正教の力を利用するプーチン/ソチ――プーチンの意志の勝利
第11章 プーチンの世界
冷戦後の物語を書き直す/「彼は別の世界に住んでいる」/ロシアの世界/国を守るための近代化/一極支配の指導者/西側諸国への入口、ドイツ/メルケルはプーチンの映し鏡か?/プーチンが敬愛するドイツの長老たち
第12章 プーチンの「アメリカ教育」
一九八三年の教訓/サンクトペテルブルク――プーチンの敬愛するアメリカ人/イスラエルへの歩み寄り/アメリカ的な視点に欠けるプーチン/NATOと「冷たい平和」/NATOの戦争/プリシュティナへの突進/チェチェンで「われわれが行動しなければならない理由」/アメリカへの不信/脅威と化したアメリカ/色の革命の恐怖/プーチン、ぶちギレる/グルジア、そして終わりの始まり
第13章 ロシア、復活
プーチンの前進とロシアの復活/鎖を解かれたロシア/外交政策の多角化/共産主義中国への接近/日本に保険をかけるプーチン/BRICSを足がかりに/ドイツへの賭け/ロシアのリノベーション/適応という生き残り術/グルジア作戦/軍事改革の弾み/表向きのレベルでの軍事改革/密かな変化――攻撃は最大の防御/軍事演習としてのウクライナ
第14章 国外のエ作員
国内の防衛強化/スノーデンがもたらした勝利/第五列作戦/政治将校/保守的な国際組織/経済戦争への防御策/プーチンが用意した対抗手段/経済的な威圧/ユーラシア連合 VS 欧州連合/ケース・オフィサー流のウクライナ対応/緩衝地域を失ったロシア/ウクライナ作戦/歴史という兵器――第二次世界大戦の再来/「クリミアはわれわれのもの!」/民族主義者の抑制――再び統一へ/ユダヤ人というカードを慎重に切るプーチン/暗黒郷ウクライナ/使命を背負って――プーチンの新ヤルタ協定/新たな正常?
エピローグ エ作員の活動は続く
謝辞
解説
  『戦略家プーチンとどう向きあうか』
   畔蒜泰助 東京財団研究員/ヴァルダイ会議メンバー
ウラジーミル・プーチン関連年表
註釈(抜粋)
参考文献・写真提供
索引

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