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少年が熊と間違えて殴り殺したのは、父の愛人だった! ハートフルで壮大な、待望の最新長篇。

あの川のほとりで 下

ジョン・アーヴィング/著、小竹由美子/訳

2,484円(税込)

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発売日:2011/12/21

読み仮名 アノカワノホトリデ2
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 410ページ
ISBN 978-4-10-519114-6
C-CODE 0097
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,484円

ニューハンプシャーの小さな町から、ボストンへ、そしてトロントへ。愛と暴力と偶然に翻弄されながら北米大陸を逃避行する、料理人とその息子。やがて息子は作家になり、親になる。四十数年ののち、気づけば彼は、すべてが始まった懐かしい川のほとりに辿りついていた。代表作『ガープの世界』に並ぶ、半自伝的大長篇。

著者プロフィール

ジョン・アーヴィング Irving,John

1942年、アメリカ、ニューハンプシャー州生まれ。プレップ・スクール時代からレスリングに熱中。ニューハンプシャー大学、ウィーン大学等に学ぶ。1965年よりアイオワ大学創作科でカート・ヴォネガットに師事。1968年『熊を放つ』でデビュー。1978年発表の『ガープの世界』が世界的ベストセラーに。映画化された『サイダーハウス・ルール』では自ら脚本を手がけ、アカデミー賞最優秀脚色賞を受賞。その他の作品に『ホテル・ニューハンプシャー』『オウエンのために祈りを』『また会う日まで』『あの川のほとりで』『ひとりの体で』など。デビュー以来半世紀、19世紀小説に範を取った長大な小説をつぎつぎと発表。現代アメリカ文学を代表する作家。

小竹由美子 コタケ・ユミコ

1954年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。訳書にアリス・マンロー『イラクサ』『林檎の木の下で』『小説のように』『ディア・ライフ』『善き女の愛』、アレクサンダー・マクラウド『煉瓦を運ぶ』ほか多数、共訳にジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』。

書評

波 2012年1月号より 特集[ジョン・アーヴィング『あの川のほとりで』刊行記念] とめどない奔流に浸る喜び

都甲幸治

アーヴィングは決してあなたを裏切らない。本書『あの川のほとりで』もそうだ。見事な文章、目配りの効いた細部。魅力的な登場人物たちが、息もつかせぬ展開を旅していく。上下合わせて八百ページ近い本書だが、いったん作品世界に入りこんでしまえば、長さなど感じない。ただ積み重なるエピソードの海の中を快く泳いだという記憶しか残りはしまい。しかも彼の筆は、読書中、さして気にならない場面までも読者の脳内にくっきりと刻みつける。一度彼の作品を読んでしまえば、十年経ってもあなたは、ふいにアーヴィングの世界に連れ戻されている自分を見出すだろう。厚みのある時間を体験させるのが小説の使命だとすれば、そんな作品を同時代に書き得ている作家はそうはいない。
時空が複雑に入り組む書き方がされているとはいえ、本書のストーリーはかなり単純だ。ニューハンプシャー州の奥地にドミニクという、脚が不自由なコックが住んでいる。実は彼は保安官の愛人とできていた。ドミニクと愛人のセックスを偶然見かけた息子ダニエルは、父親が熊に襲われているのだと思い、とっさに大きなフライパンで女を殴り殺してしまう。ここから逃避行がはじまる。ニューイングランド、アイオワ、さらにはカナダのトロントまで、親子は名前を変えて逃げ回るが、保安官は半世紀経っても追ってくる。果して親子は逃げきれるのか。その親子を助けるのが、ドミニクの親友である樵のケッチャムだ。二人にはダニエルの母親を性的に共有していたという過去があった。隠された過去が次々明らかになり、悲劇はとめどなく続いていく。
本書で魅力的なのは、何と言っても男同士の関係だ。ドミニクとケッチャムの友情は、どれほどの試練があっても途切れることがない。どこまでも追ってくる暴力からダニエルを守るべく、ドミニクはいかなる苦難にも耐える。そしてケッチャムは、まるで本当の伯父さんのように、後年作家となるダニエルに英知を与え続ける。「とにかく自分のやるべきことをやれ、ダニー(中略)。お前さんは自分のやるべきことをやる、そして俺は俺のやるべきことをやるさ」。そして迷えるダニエルは、一人で力強く歩きだす。
もう一つの読み所は、本書がアーヴィング作品全体の解説にもなっているという側面だろう。ダニエルは悪意ある批評に苦しめられる。いわく「同じことを何度も繰り返している」「長ったらしい」と。それはアーヴィング自身にもあてはまる。ここで大事なのは、本書自体がこれら疑問への回答になっていることだ。もちろん本書にもアーヴィングおなじみの細部は出てくる。戦闘的なフェミニスト、熊たち、フィリップ・エクセター・アカデミー、少年と年上の恋人たち。これらが、現代の作品としては非常にゆっくりとしたペースで語られていく。
なぜアーヴィングはこうした書き方をするのか。それは反復を、そしてゆったりとした物語の長さを通じてしか実現できないものがある、と非常に意識的にアーヴィングが考えているからだろう。次々と表面の目新しさを求め、形式の斬新さを追うことでは、小説を読み、その世界に浸るという体験の質そのものを高めることはできない。むしろ同じ素材を深めることこそ大切だと彼は思っているのではないか。
だからこそアーヴィングの読者は、登場人物と、時に数十年にわたる時間をしっかりと共有できる。彼らとともに悩み、喜びを分かち合える。そして物語の力を実感できるのだ。「とにかく押しとどめることができない」物語の流れを読者に体感させること。そのことが現代文学に対する、アーヴィングの強力な反論となっているのではないか。
他にもいい要素はたくさんある。暴力に浸された現代アメリカへの批判や、常に社会の外側に立ち続ける、という作家の責任などについても、アーヴィングは誠実に語る。でも、とりあえず難しいことはいい。まずはとめどない物語の奔流に身を任せてみてはどうだろう。

(とこう・こうじ アメリカ文学)

目次

III.1983年、ヴァーモント州ウィンダム郡(承前)
9 物事の脆弱で予測不能な性質 The Fragile, Unpredictable Nature of Things
10 レディー・スカイ Lady Sky
11 蜂蜜 Honey
IV.2000年、トロント
12 ブルーのマスタング The Blue Mustang
13 狼のキス Kisses of Wolves
V.2001年、ニューハンプシャー州コーアス郡
14 ケッチャムの左手 Ketchum's Left Hand
15 ヘラジカの踊り Moose Dancing
VI.2005年、オンタリオ州ポワント・オー・バリル・ステーション
16 ロスト・ネーション Lost Nation
17 ケッチャムはべつとして Ketchum Excepted
訳者あとがき

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