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宇宙はいかにして生まれたのか――? 人類が「新しい常識」を手に入れるとき、そこには偶然と苦闘のドラマがあった!

ビッグバン宇宙論〔上〕

サイモン・シン/著、青木薫/訳

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2006/06/23

読み仮名 ビッグバンウチュウロン1
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 300ページ
ISBN 978-4-10-539303-8
C-CODE 0098
ジャンル ノンフィクション、宇宙学・天文学
定価 1,728円

『フェルマーの最終定理』『暗号解読』の世界的ベストセラーを飛ばした著者が贈る、待望のサイエンス・ノンフィクション第三弾! 「超難解な理論を、驚くべき易しさで説明する」稀有な才能が、人類最大の謎に挑む科学者たちの苦闘をエピソード豊かに描き上げる。王道の傑作科学ノンフィクション。

著者プロフィール

サイモン・シン Singh,Simon

1964年、イングランド、サマーセット州生まれ。祖父母はインドからの移民。ケンブリッジ大学大学院で素粒子物理学の博士号を取得し、ジュネーブの研究センターに勤務後、英テレビ局BBCに転職。TVドキュメンタリー『フェルマーの最終定理』(1996)で国内外の賞を多数受賞し、1997年同名書を書き下ろす。『暗号解読』『宇宙創成』『代替医療解剖』など、科学分野で世界中から高い評価を得ている。ロンドン在住。

青木薫 アオキ・カオル

1956年生まれ。翻訳家。ポピュラーサイエンスの訳書多数。サイモン・シン『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『ビッグバン宇宙論』『宇宙創成』『数学者たちの楽園:「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち』、エドワード・フレンケル『数学の大統一に挑む』、レナード・ムロディナウ『ユークリッドの窓』、アミール・D・アクゼル『無限に魅入られた天才数学者たち』など。著書に『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』がある。2007年度日本数学会出版賞受賞。

書評

宇宙という名の物語

茂木健一郎

 サイモン・シンの著作は、『フェルマーの最終定理』、『暗号解読』と出版される度に楽しみに読んできた。今回の『ビッグバン宇宙論』もまた見事だった。ともすれば難解になりがちな数学や科学の概念を解きほぐし、いたずらにレベルを落とすことなく一般向けに解説する。そのような技量において、今、サイモン・シンが世界でもトップレベルの書き手であることは間違いない。
 すぐれた一般向けの科学書の満たすべき条件とは何か? 何よりも大切なのは、今となっては「常識」と化している世界についての知識が、発見当時はいかに奇想天外なもので、大きな概念的ジャンプであったか、そのめくるめく驚きと感動を伝えることではないかと思う。アインシュタインが相対性理論を発見する以前の世界に立ち戻って、そこから、アインシュタイン以降の世界へひとっ飛びすることを空想する。暗黒のトンネルの向こうに、まばゆい智恵の光が見えてくるその瞬間の興奮を思う。そんな驚きを追体験することが、すぐれた科学書の醍醐味となる。
 暗闇から光への「知の錬金術」としての科学の実相を描くためには、必然的に、歴史的な経緯を手際よく、しかも印象深くまとめる手腕が必要になる。そこには科学的発見をめぐる人間のドラマがあり、思わぬ偶然の幸運(セレンディピティ)との出会いが潜んでいる。サイモン・シンの著作には、そのような科学の躍動感が生き生きととらえられているのである。
 科学少年だった私にとって、「ビッグバン」はいつの間にか一つの「常識」としてすり込まれてきた「事実」だった。ビッグバンの「決定的証拠」となった宇宙背景輻射は私がもの心つく頃には発見されていた。私はまさに「ビッグバン」以降の世代だということになる。宇宙は今から約137億年前の「大爆発」によって誕生し、今でも膨張を続けている。この、今では多くの人が恐らく一度はその概略に接したことのある宇宙観は、本書に描かれたように、長い歴史の中で数多くの人々の苦闘の中で次第に獲得されてきた一つの「物語」なのである。
 宇宙の成り立ちとその起源は、人間の関心を惹き付けてやまなかった。聖書の創世記の時代から、宇宙をめぐる「物語」を、人類は次第に精緻に磨き上げてきた。ガリレオが望遠鏡をのぞいて木星の衛星を発見する。ぼんやりとした点としか見えなかった星雲は、実は別の独立した銀河であり、無数の恒星がそこにあることが判明する。そしてついにはハッブルが光の「ドップラー効果」の測定を通して宇宙が膨張し続けているという事実を発見する。「ビッグバン」という宇宙の物語の骨格が出来ていくのである。
 現代の私たちは、「巨人たちの肩に乗る」ことによって、私たちの住まう宇宙の想像を絶するほど劇的な物語をかなりの程度知っている。物語を受け継ぎ、紡いできたのは、宇宙に比べればちっぽけでいかにも頼りない、しかしだからこそ愛おしい探求者たち。サイモン・シンの筆致からは、「ビッグバン」という宇宙論を形成する上で功績のあった先人たちに対するあふれるような感謝の念が読み取れる。
 科学の真理は、最初から揺るぎないものとして確立しているわけではない。何が正しいのかわからぬまま、暗中模索する時期が続くこともある。本書の白眉の一つは、ルメートル、ガモフを始め多くの人々が支持した「ビッグバン」モデルと、ホイルらが提唱した「定常宇宙」モデルのぶつかり合いだろう。一流の科学者たちがお互いにメンツをかけて論争し、激烈な競争に身をさらす。科学の真理は天下り式に与えられるものでも、孤立した天才のインスピレーションによって得られるものでもなく、人々の手から手へと受け渡され、もまれながらつき上げられていく「お餅」のような存在なのである。
『ビッグバン宇宙論』という見事な「宇宙という物語の歴史」を著した人物はどのようにできあがったのか? サイモン・シンは、ケンブリッジ大学で博士号を取った後、BBCで番組の制作にかかわり、それがきっかけで『フェルマーの最終定理』を書いたという。専門領域の壁を超え、自分という物語を紡いできたわけで、なるほど、宇宙の探究史という広がりのある素材をこれほどうまく扱える能力は、一つの専門性にこだわっていたのでは生まれないのだとつくづく思う。
 日本でも、本書のような著作が自然に生まれ、読者に広く受け入れられる土壌ができないものか。私自身かつてケンブリッジ大学に留学し、サイモン・シンを育んだイギリスのポピュラーサイエンスのレベルの高さを良く知る立場にある。本書に対する感嘆の念は、そのまま日本の現状を前にもらすため息に通じる。
 宇宙を知ることは、その真理を追い求めてきた人間を知ること。『ビッグバン宇宙論』の中には、日本人がその「人間観」を深めるためのヒントが沢山隠されているのである。

(もぎ・けんいちろう 脳科学者)
波 2006年7月号より

目次

第I章 はじめに神は……
天地創造の巨人からギリシャの哲学者まで/円に円を重ねる/革命もしくは回転/天の城/望遠鏡による躍進/究極の問い
第I章のまとめ
第II章 宇宙の理論
アインシュタインの思考実験/重力の闘い ニュートンvsアインシュタイン/究極のパートナーシップ 理論と実験/アインシュタインの宇宙
第II章のまとめ
第III章 大論争
宇宙を見つめる/消えますよ、ホラ消えた。/天文学の巨人/運動する宇宙/ハッブルの法則
第III章のまとめ

インタビュー/対談/エッセイ

世界はどうやって始まったのか?

青木薫

 人間は有史以前から、なんとかしてまわりの世界に説明をつけようとしてきた。文化・科学史や人類学の研究成果からは、地域、文化、社会ごとにさまざまな世界観が作られてきたことがわかっている。「宇宙はどのようにして生まれ、いかにして今日に至ったのか? 人間はその宇宙の中でどんな存在なのか?」という疑問は、時を超えて私たち人間の心を惹きつける深い問いであるらしい。今日でも、「神が六日間でこの世界を作って七日目に休んだ」という『旧約聖書』冒頭の記述を信じている人は大勢いるし、そのほかにも、自分の所属する文化の神話的世界観の中で生きている人たちは、現代日本に暮らす私たちが思う以上にたくさんいる。
 とはいえ、科学技術が高度に発達した日本に生まれ育ち、カーナビや携帯電話に取り巻かれている私たちは、「はじめに神さまが……」とか「大昔、ひとりの巨人が……」といった話を文字通りに受け入れる気にはなれない。そうしたお話は、かつて人々が世界に説明をつけようとした試みの成果だと考える人がほとんどだろう。
 しかしその一方で、「では、この宇宙はどのように始まったのだと思いますか? どんな世界なのだと思いますか?」と質問してみると、現代の日本で大学を卒業したような人たちでも、意外としどろもどろなのである。火星の表面を探査機が歩き回り、木星の衛星の精密な写真が送られてくるほどだから、宇宙の始まりや成り立ちについてもきっと科学的に信頼のおける説明があるに違いない、とたいていの人は思っている。ところが、その説明がどんなものかはよく知らないのだ。興味はあるのに、実は知らない。それはいったいなぜだろう?
 ひとつの理由は、大学で物理でも専攻しないかぎり、小学校でも中学校でも高校でも、宇宙の始まりや進化のことなど習わないからだ。「ビッグバン」という言葉ぐらいなら多くの人が知っていても、宇宙は「大爆発」で始まったらしいこと、そして今も膨張しているといった基本的なことさえも、学校では教わっていないのである。
 もうひとつの理由は、これまで宇宙論について書かれてきた本はほとんどすべて、科学好きの人たちのために書かれていたことだろう。そうなるのも無理はない。なぜなら、現代宇宙論の骨格というべき「ビッグバン理論」には、相対性理論も量子力学も原子核理論も――つまりは二十世紀になって躍進した物理学の成果が――ごっそりと使われているからだ。科学好きでもない人たちに向かって現代物理学の話をするのは(私にも経験があるが)、容易なことではない。普通は、難しいところをすっ飛ばして喩え話などで切り抜けるか、あるいは開き直って物理学の教科書のような解説を始めるかのどちらかになってしまう。その中間の道を取るのは至難の業なのである。
 しかし、その至難の業をやってのけるのがサイモン・シンだ。シンが高度な内容を的確なパースペクティブの中であざやかに描き出し、読者を納得させてしまう、いやそれどころか感動までもさせてしまう力量は、『フェルマーの最終定理』『暗号解読』という前二作で証明済みである。第三作となる『ビッグバン宇宙論』でも、その力は遺憾なく発揮されている。宇宙の始まりと進化について知りたいのなら、科学的な知識が得られるだけでなく、大いなる宇宙の謎に取り組んだ人間たちのドラマも堪能させてくれる本書を、ぜひ手に取っていただきたいと思う。
 また、「ビッグバンに関する本なら、もうすでにたくさん読んだよ」という人たち(私もはじめはそう思った)に伝えたい。『ビッグバン宇宙論』は、標準的な科学的宇宙観を与えてくれるだけの本ではない。シンは、科学の方法論と、それを推し進めてきた人間の営みについて考えてほしくて、そのための魅力的な題材としてビッグバンを選んだのだ――翻訳を終えて、私はそのことを実感している。科学や科学史好きなあなたも、きっと――とくに十九世紀から二十世紀に起こった進展のあたりで――考えさせられる点にたびたび出会うことだろう。「ビッグバンぐらい知ってるさ」とタカをくくらず、ぜひシンの直球を受け止めてみてほしい。

(あおき・かおる 翻訳家)
波 2006年7月号より

関連書籍

判型違い(文庫)

宇宙論史奇人変人

 発売前から各方面から賞賛の声が寄せられているサイモン・シン『ビッグバン宇宙論』。
「彼の作品のなかでも最高傑作なのでは?」「まだ早いですが今年一番の傑作だと思います!」などの力強い応援のお言葉をいただいているのですが、その魅力のひとつは彼の人物に対する優しい目線、生き生きとした科学者像にあるのではないでしょうか。
 デビュー作『フェルマーの最終定理』、或いは前作『暗号解読』でもそうだったように、新しい理論が打ち立てられる際の科学者たちの生々しい苦悩、喜びがここには描かれています。また、成功者だけでなく、時代の要請により誤った理論を導き出してしまった人物にも、誤りの必然性をさりげなく解説するなど、公正で温かい視線が、読者の共感を呼ぶのかもしれません。
 ここでは、本書に描かれている(その実像の取材ぶりは、専門家でも感心するそうです)宇宙論の立役者たちのエピソードを、いくつかご紹介してみましょう。

地球を測った最初の人物

 紀元前三世紀の学者エラトステネスは、世界で初めて地球の大きさを測ったばかりか、それを元に月や太陽の大きさ、それらの天体への距離まで算出してしまいました。きっかけとなったのは夏至の日の正午、エジプトのある町では井戸の底まで太陽の光が差し込む、という事実だったのですが……。ロクな観測器具もなかった当時、どうやって地球の大きさが測れたのでしょう?

鼻なしのティコ・ブラーエ

 十六世紀、空前絶後の天文観測施設「天の城」の主となったティコ・ブラーエという天文学者は決闘で鼻を削がれ、義鼻で幾多の業績を残したことで有名です。彼が義鼻をはずして観測装置をのぞき込むと、目がちょうどアイピースにはまったそうです。

宇宙誕生の時を特定した大司教

 十七世紀のアイルランドの大司教、ジェイムズ・アッシャーは、中東に人を雇って、知られている限りもっとも古い聖書の写本を入手、それを元に徹底的に年代特定を行い、宇宙誕生の日を割り出しました。それによると、世界が始まったのは紀元前四○○四年、十月二十二日の土曜日午後六時だったそうです。

間違ったアインシュタイン

 二十世紀最大の科学者であるアインシュタインは、相対性理論でその名を知られますが、彼も大いなる間違いをしでかします。というのも、彼は宇宙は静的で永遠であると信じていたからでした。そのため、自分の相対性理論を元にしたフリードマンの「宇宙は変化する」という理論を否定してしまうのです。のちに彼はこれに関して謝罪文を認めました。

裏目のノーベル賞

 ニュージーランドのアーネスト・ラザフォードは、科学の中で唯一重要なのは物理学だと思っていました。そこで「あらゆる科学は、物理学か切手収集かのどちらかだ」と発言していたのですが、一九○八年、ノーベル「化学賞」を受賞してしまいました。

メイドによる発見

 名門天文台ハーバード・カレッジ天文台台長のエドワード・ピッカリングは部下にいらいらし、「うちのスコットランド人のメイドのほうがずっとましな仕事をする」とチームを総入れ替え。本当に自分のメイドを主任に据えた結果、世界最高の天体画像分析により歴史的発見が生まれました。

洒落で論文を書く

 ウクライナ出身の物理学者ジョージ・ガモフは、のちに大きな影響を与える論文をラルフ・アルファーと発表する際、「アルファ=ベータ=ガンマ」と語呂合わせしたいがために、ハンス・べーテから名前を借りて論文発表したそうです。

ビッグバンはもともと批判

 定常宇宙論を唱えたフレッド・ホイルは、ビッグバン・モデルを批判するラジオ番組の中で、軽蔑的に「大爆発=ビッグバン」という言葉を使ったところ、逆にこれが定着してしまいました。

 いかがでしたでしょう? こんな意外なエピソードに溢れた科学の世界……。人類の叡智はこんなところから育っていったのかもしれません。

波 2006年7月号より

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