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31年間でわずか16作。カナダの寡作な短編の名手による、奇跡のような8編。

灰色の輝ける贈り物

アリステア・マクラウド/著、中野恵津子/訳

2,052円(税込)

本の仕様

発売日:2002/11/29

読み仮名 ハイイロノカガヤケルオクリモノ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-590032-8
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,052円

舞台は、スコットランド高地からの移民の島カナダ、ケープ・ブレトン。苛酷な自然の中で、漁師や坑夫を生業とし、脈々と流れる〈血〉への思いを胸に人々は生きている。祖父母、親、そしてこれからの道を探す子の、世代間の相克と絆、孤独、別れ、死の様を、語りつぐ物語として静かにヴィヴィッドに紡いだ、処女作から八年間の傑作。

著者プロフィール

アリステア・マクラウド MacLeod,Alistair

1936年、カナダ・サスカチェアン州生まれ。作品の主舞台であるノヴァ・スコシア州ケープ・ブレトン島で育つ。きこり、坑夫、漁師などをして学資を稼ぎ、博士号を取得。2000年春まで、オンタリオ州ウインザー大学で英文学の教壇に立つ。傍らこつこつと短編小説を発表。1999年刊行の唯一の長編である『No Great Mischief』がカナダで大ベストセラーになったため、翌年1月、1976年と1986年に刊行された短編集2冊の計14篇にその後書かれた2篇を加え、全短編集『Island』が編まれた。31年間にわずか16篇という寡作であるが、短編の名手として知られる。*『Island』は、クレスト・ブックスより『灰色の輝ける贈り物』『冬の犬』の2冊に分けて刊行しました。

書評

波 2002年12月号より 回想を失ったら、すべてを失う 『灰色の輝ける贈り物』を読む

山田太一

田舎で働きづめの両親から離れて、都会で暮す息子や娘が、多少ともそのことに罪障感を抱くというのは、ある時期までの日本人のありふれた感情であった。
いまだってそういう気持は消えてはいないだろうが、田舎の両親もただ素朴に子どもや孫の来るのを喜んでばかりはいられなくなり、近くにコンビニもあればテレビもよく見ていて、海外旅行もすればダンス、カラオケの予定があったりして、くっきり子供たちとは別の世界を生きているわけではなくなっている。
このカナダからの短篇集は、そのあたりの親の人生と子供の人生のちがいが、いってみれば、かつての日本のようなのである。
作品から推測すると、作者は一九三四年生まれの私とそれほどちがわないはずだが、どの短篇もほとんど執念のように祖父母、両親の世代と、都会で暮す自分たち――姉たちとか、妻や子供たちの生活との際立った違いをモチーフにしている。
「みんな結婚して、モントリオールやトロントやアメリカに行ってしまった。こっちに帰ってくるのは容易じゃない」(「失われた血の塩の贈り物」)と親はいい、漸く帰って来た子供たちは「本物の田舎のなかへ入っていく」(「帰郷」)と感じる。
舞台となる「田舎」は、ノヴァ・スコシア州にあるケープ・ブレトン島である。十八世紀後半に「アイルランドに不満をもつ人々、スコットランドの『ハイランド放逐』政策で牧羊のために立ち退かされた人々」それから「アメリカの独立戦争後に移って来た人々」(「船」)が住みはじめた島である。暮しかたはいろいろだったろうが、小説は、無許可の炭坑で働く人々、小さな漁港で寄り添うように暮す家族を、短篇ごとにいくらか変形して素材にしている。
といっても十八世紀にさかのぼるわけではなく、おおむね執筆時期の一九六八年から一九七六年あたりを現在とした回想である。回想によって洗浄された祖父母、両親の世代の歳月は美しい。そこに本物の人生があった、というように。
それにひきかえ、都会で暮す作者たちの生活は、なにもそこまで、といいたくなるほど情けなく描かれる。
たとえば、都会へ出た「三人の息子」は、一人は高級レストランでステーキの肉片を喉につまらせて窒息死、二番目はフロリダで太陽にあたりすぎて死に、三人目はトロント近郊でジョギングをしている最中に死んでしまう(「ランキンズ岬への道」)。
モントリオールから来た十歳の孫は、島の子供たちが、学校の先生が好きだというのを聞いて驚いてしまう。「今まで、そんなことがあるなんて思ってもみなかった」(「帰郷」)のである。
このいくらか度が過ぎた現在への呪詛が、失われたものへの哀惜を、それだけ独自なものにしている。過去が「自分の持てるもののすべて、あるいは知っていると思っているもののすべてだ」(「ランキンズ岬への道」)と感じてしまうようなところから、作者は過去を甦らせようとしている。この「回想」を失ったら、すべてを失うとでもいうように。
「船」という処女作に描かれた父親を、私はいつまでも忘れないだろう。
父親は漁師である。七十歳をすぎても、ロブスターのシーズンは勿論、それ以外の延縄漁も休まなかった。
母親は七人の子供を抱え、全員の食事はもとより、ほとんどの衣類も自分で縫い、庭造りの名人で、鶏やアヒルを飼い、すべてに掃除が行き届き、見事に家を取り仕切っている。しかし、父親の部屋だけは別なのである。父の寝室だけは、暴風が吹き抜けたように散らかり、片付けてもすぐに無駄になるので、ほうっておくことになってしまった。父はそこで暇があれば本を読む。手当たり次第、なんでもだ。
母は、父の寝室とそれが象徴するものすべてを忌み嫌い、本など一冊も読んだことはなく、子供が読んでも、時間の無駄だと大声を出して取り上げる。しかし、父は本を読む。
時が過ぎ、ある日、末っ子の一人息子である物語の語り手は老いた父を見て、いままで考えもしなかったことだが、父は肉体的にも精神的にも漁師には向いていなかったのではないか、と感じるのである。そのあと「父に対する愛情」が静かにこみあげる。漁師以外の何者でもなかった父に。
そんな短篇集である。

(やまだ・たいち 作家)

▼アリステア・マクラウド著/中野恵津子『灰色の輝ける贈り物』(新潮クレスト・ブックス)は、十一月二十九日発売

短評

▼Yamada Taichi 山田太一
このカナダからの短篇集は、親の人生と子供の人生のちがいが、かつての日本のようなのである。回想によって洗浄された祖父母、両親の世代の歳月は美しい。そこに本物の人生があった、というように。過去が「自分の持てるもののすべて、あるいは知っていると思っているもののすべてだ」と感じてしまうようなところから、作者は過去を甦らせようとしている。この「回想」を失ったら、すべてを失うとでもいうように――郷愁に満ちて、ちょっとサロイヤンのような味もあり、古風で、思いがけない作品集だった。

▼Michael Ondaatje マイケル・オンダーチェ
マクラウドは、われわれの時代におけるきわめて偉大な知られざる作家の一人である……彼の物語は、フォークナーやチェーホフの作品のように、地方的かつ普遍的だ。そして、同時に永遠のものであると私は思う。

▼The Boston Globe ボストン・グローブ紙
超一流の腕をもつ辛抱強い名匠の作品。

▼The New York Times Book Review ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー
彼のような才能のある人には、おおげさな宣伝は無用だ。

▼Frederick Busch フレデリック・ブッシュ
それぞれの短編につめこまれている、人々の生きる場所とその生き方は、まったく知らない異質の世界でありながら、それと同時にどこか覚えのある世界でもある……言葉のひとつひとつに真実味がある。

▼Russell Banks ラッセル・バンクス
これらの短編はまさに古典文学に匹敵する……第一級の古典的味わいのある部族的芸術で、そのうちのいくつかは絶品だ。

▼Joyce Carol Oats ジョイス・キャロル・オーツ
北米屈指の優秀かつ重要な作家であり、本書はカナダの代表的作品といってもよく、短編の好きな人なら誰でも、手元に置きたいと思う作品集。

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