ホーム > 書籍詳細:ソーネチカ

神の恩寵に包まれた女性の、静謐な一生。幸福な感動をのこす愛の物語。

ソーネチカ

リュドミラ・ウリツカヤ/著、沼野恭子/訳

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2002/12/24

読み仮名 ソーネチカ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 142ページ
ISBN 978-4-10-590033-5
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究、読み物
定価 1,728円

本の虫で容貌のぱっとしないソーネチカは、一九三〇年代にフランスから帰国した反体制的な芸術家ロベルトと結婚し、当局の監視の下で流刑地を移動しながら、貧しくも幸せな生活を送る。一人娘が連れてきた美少女ヤーシャがあらわれるまでは。最愛の夫の秘密を知って彼女は……。温かい感情が湧きあがるロシアの中篇小説。

著者プロフィール

リュドミラ・ウリツカヤ Ulitskaya,Ludmila

1943年生れ。モスクワ大学(遺伝学専攻)卒業。『ソーネチカ』で一躍脚光を浴び、1996年、フランスのメディシス賞とイタリアのジュゼッペ・アツェルビ賞を受賞、2001年には『クコツキイの症例』でロシア・ブッカー賞を受賞した。また『敬具シューリク拝』でロシア最優秀小説賞(2004年)とイタリアのグリンザーネ・カヴール賞(2008年)を、『通訳ダニエル・シュタイン』でボリシャヤ・クニーガ賞(2007年)とドイツのアレクサンドル・メーニ賞(2008年)を受賞。他に『子供時代』『それぞれの少女時代』『緑の天幕』など。2011年、シモーヌ・ド・ボーヴォワール賞を受賞。2016年2月現在ロシアで最も活躍する人気作家である。近刊に『ヤコブの梯子』がある。

沼野恭子 ヌマノ・キョウコ

1957年東京生れ。東京外国語大学教授。著書に『夢のありか――「未来の後」のロシア文学』(作品社)、『ロシア文学の食卓』(日本放送出版協会)等、訳書にウリツカヤ『ソーネチカ』『女が嘘をつくとき』、クルコフ『ペンギンの憂鬱』(以上、新潮社)、アクーニン『堕天使(アザゼル)殺人事件』『リヴァイアサン号殺人事件』(以上、岩波書店)、ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』(河出書房新社)等がある。

書評

波 2003年1月号より ソーネチカの幸せ  リュドミラ・ウリツカヤ『ソーネチカ』

沼野恭子

リュドミラ・ウリツカヤは今ロシアで最も注目されている女性作家だが、彼女の名前を国際的に知らしめた「出世作」が、今回クレスト・ブックスの一冊として訳した『ソーネチカ』である。
一九九二年ロシアの文芸誌「新世界」に発表されたときに読んで心を揺さぶられて以来、いつか日本語にしてみたいと思っていた作品である。長い間ひとり占めしてきた宝箱の蓋をいよいよ開けるという段になると、ちょっともったいないような、嬉しいような、寂しいような、複雑な心持ちだけれど、それはさておき、この小説が世に出た当時は(ちょうど十年前!)、ソ連邦が崩壊したばかりで、文学界もポストソ連文学の激動期にあたり、ポストモダンの過激な作品が次から次へと現れては話題をさらっていて、なかなか素直に「感動」できる物語に出会うことがなかった。そんななかでめずらしく『ソーネチカ』は、古典的とも言えるほど単純明快な構成からなるわかりやすさと、不思議なくらい深く心地よい余韻で、読者に、忘れがたい新鮮な印象を与えたのだった。奇をてらわず、真正面から愛と幸せの意味を問いかけても、相変わらず文学は力強い存在感を持ち得るのだということを、静かに、しかしきっぱりと主張しているような小説である。
もっとも、作品を取りまく社会状況が異なっても、『ソーネチカ』の価値が変わるわけではない。すでにフランスやイタリアで非常に高く評価されているところからも明らかなように、ソーネチカのひたむきで純粋な生きざまは、愛と幸福をめぐる普遍的なテーマとして、広く人の心に訴えるものがあるのではなかろうか。
『ソーネチカ』は、ひとことで言えば、ユダヤ系ロシア人女性の一生を追った物語である。本の世界に閉じこもるようにして生きていた不器用な主人公ソーネチカが、反体制気質の前衛芸術家と出会って結婚し、彼の国内流刑に連れ添って、苦楽をともにしながら一人娘を育てていく。お世辞にも美人とはいえないソーネチカだが、誠実でけなげで、内面は光り輝き、夫と娘のいる貧しくも穏やかな生活のなかに最大の幸福を見いだすことのできる人である。
そのことは、たとえば、夜明け前に目を覚ましてお乳を欲しがる赤ん坊の娘にソーネチカが授乳する場面で、次のように描かれている。
「母乳はたっぷり楽に出るので、乳首を軽く突つかれて思わず身震いしても、歯の生えていない歯茎で軽くかまれても、授乳はソーネチカに快楽をもたらしてくれた。夜明け前の早い時間にかならず目をさます夫も、そのことをどういうわけか感じとっているらしく、ソーネチカの広い背中を抱き、焼きもちをやいているみたいに自分のほうに引き寄せるので、ソーネチカは、どうにかなってしまいそうなほどの幸せを二重に抱えて気が遠くなりそうになる。こうして、朝の光がさしこむころにはソーネチカはほほえみ、みずからの肉体で、自分とは切り離せない大切なふたりの飢えを、黙々と、喜んで、癒してやっているのだった」
こんなふうに、甘い官能の香りがほのかに漂っているのがウリツカヤ作品の特徴である。
ソーネチカの幸せに翳りが生じるのは、娘が長じて、ポーランド出身の美しい女友達を家に招いたときだった。やがてソーネチカは、夫が彼女と愛し合っていること、ずっと絵筆をとらなかった夫が彼女をモデルに白い肖像画シリーズを制作していることを知ってしまう。
でも、その後である。ソーネチカが、凡俗な人間にはちょっと真似のできないような対応をするのは……。彼女の態度を偽善ととらえるか、現実にはありえないと考えるか、あるいは神々しいと感じるかは、まったく読者の自由である。
すでに長く付きあってきてソーネチカのことをかなりリアルな存在と感じている訳者としては(まるで、小説の登場人物を現実の生身の人間と区別せずに感じとってしまうソーネチカその人みたい!)、彼女が、自分の手に入れたものの価値をきちんと評価することができ、いたずらに人を妬んだり恨んだりしない女性であることに、感嘆の念を抑えられない。そして孤独な晩年、ソーネチカが文学の世界に回帰していき、読書のなかにふたたび幸せを見いだしたことを、我が事のように嬉しく感じるのである。

(ぬまの・きょうこ ロシア文学者)

▼リュドミラ・ウリツカヤ著/沼野恭子訳『ソーネチカ』(新潮クレスト・ブックス)は、発売中

短評

▼Shibata Motoyuki 柴田元幸
この小説の主人公は不思議な人である。見るからに幸せそうなときに「なんて幸せなんだろう」と考えるのはともかく、親しい人に裏切られ、失望させられて、たいていの人間なら激怒し絶望しそうなときでも、何か悦ぶべきことを見つけて、やはり「なんて幸せなんだろう」と考えている。そんな彼女に、作者は無垢ゆえの神々しさを見ているのだろうか。たぶんそうではあるまい。とにかくそういう人が作者の頭から生まれてしまったのであり、そうやって生まれた人を、作者はただそういう人として描いた。人間を祝福する上で、これ以上正しいやり方があるだろうか。

▼The Guardian ガーディアン紙
ソヴィエト政権下での『女の一生』を描いたこの物語は、日常生活における普通の感性や肉体的な歓びをとりあげることで、かつてソヴィエト文学が称揚していたあらゆる価値観に対するすぐれた異議申し立てとなっている。

▼Knizhnyi klub 『クニージヌィ・クルーブ』紙
ヒロインの献身的な姿を、リュドミラ・ウリツカヤのように、感傷に陥らず、これほど感情こまやかにきちんと描ける現代作家はまずいないのではないか。ソーネチカは、最後の最後まで人間らしい。(……)読者の心に、めったにないような明るく澄んだ感情を呼びさますにちがいない。

▼Zinovy Zinik ジノーヴィイ・ジーニク[BBCワールド・サービス]
ソヴィエト時代にあれほど迫害された心理ドラマというジャンルを、ウリツカヤは魔法のように復活させた。

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