マッサージ療法士ロマン・バーマン/デイヴィッド・ベズモーズギス
もつれた糸/アンソニー・ドーア
エルクの言葉/エリザベス・ギルバート
献身的な愛/アダム・ヘイズリット
ピルザダさんが食事に来たころ/ジュンパ・ラヒリ
あまりもの/イーユン・リー
島/アリステア・マクラウド
記憶に残っていること/アリス・マンロー
息子/ベルンハルト・シュリンク
死者とともに/ウィリアム・トレヴァー
人はなにかを失わずになにかを得ることはできない/堀江敏幸
▼Kakuta Mitsuyo 角田光代
クレスト・ブックスは私にとって飛行場みたいなものだ。ゲートをくぐるようにページを開くと、その先にはいつも未知の世界が広がっている。たとえばアリステア・マクラウドの「島」の、島から出ずに暮らす女の鈍く光るような孤独と、それを飲みこむ荒々しい光景。アンソニー・ドーア「もつれた糸」のむせ返るような木々のにおい、澄んだ水の音、そしてとりかえしのつかない一瞬(私はここで思わず声をあげた)。アダム・ヘイズリット「献身的な愛」の、束縛と化す愛、その重さと哀切。イーユン・リー「あまりもの」の、恋愛という言葉には決しておさまることのない愛。読むことの先に、ことごとく未知の体験がある。短篇でしか味わえない広がりと余韻がある。読み終えてもなお、圧倒されるような光景と、幾多の濃密な生が私の内に残っている。幸福な読書であり、重厚な体験だった。