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不幸なときは長くは続かない。幸せなときが長く続かないように――。

  • 映画化最終目的地(2012年10月公開)

最終目的地

ピーター・キャメロン/著、岩本正恵/訳

2,592円(税込)

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発売日:2009/04/30

読み仮名 サイシュウモクテキチ
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 440ページ
ISBN 978-4-10-590075-5
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,592円

南米ウルグアイの人里離れた邸宅を舞台に、自殺した作家の妻、その愛人と小さな娘、兄とその恋人である青年、さらに作家の伝記を書こうとアメリカからやってきた大学院生が繰り広げる、ユーモラスでエレガントな物語。イギリス古典小説の味わいをもつ、キャメロンの最高傑作。ジェイムズ・アイヴォリー監督による映画完成!

著者プロフィール

ピーター・キャメロン Cameron,Peter

1959年、アメリカ・ニュージャージー州生まれ。少年時代をイギリスで過ごす。ニューヨーク州ハミルトン大学卒業。1986年、短篇小説集『ママがプールを洗う日』でデビューし、高い評価を得る。長篇小説に『うるう年の恋人たち』『ウィークエンド』。2002年刊行の『最終目的地』はPEN/フォークナー賞およびロサンゼルス・タイムズ文学賞の最終候補になったほか、ジェイムズ・アイヴォリー監督によって映画化されている。

岩本正恵 イワモト・マサエ

(1964-2014)1964年、東京生まれ。東京外国語大学英米語科卒業。訳書にエリザベス・ギルバート『巡礼者たち』、アンソニー・ドーア『シェル・コレクター』、アレクサンダル・ヘモン『ノーホエア・マン』、アン・ビーティ『この世界の女たち』ほか多数。2014年逝去。

書評

波 2009年5月号より 優雅でポリフォニックな長篇小説

鈴木淳史

簡単に説明できるような理由もなく、男女が別れるときがある。同じような状況で、家族が崩壊してしまうことだってあるかもしれない。その直前、とくにギスギスしているわけでも、お互いに感情を激しくぶつけ合っているわけでもなく、二人、あるいは家族のあいだに、ただ何となく気まずい空気が漂っている、という瞬間がある。
ピーター・キャメロンは、そうしたヒリヒリとした人間関係を描くのが実にうまい。彼の小説を読むことで、そうした空気が現実に存在していたっけ、と改めて気づかされるくらいに、それはささいな瞬間だ。
彼の処女作である短編集『ママがプールを洗う日』には、そんな気まずさが随所に出現する。そこでは、それぞれの関係が破綻するにしろ、一転して改善に向かうにしろ、その直前に訪れる空白地帯というべき静かな時間が、繊細に、ユーモアさえ感じられる冷静な視点で描かれていたものだ。
キャメロンの長編第三作にあたる『最終目的地』は、まさにそんな静かな時間が全体を覆っている。舞台はウルグアイの小さな村オチョス・リオス。ここには、物故した作家ユルス・グントの遺族が住んでいる。作家の妻キャロラインと愛人アーデンが同じ邸宅で生活しており、少し離れたところに、作家の兄アダムが恋人の青年ピートとともに住んでいる。それぞれの関係は、まさに壊れやすく、架空といっていい物語を信じることで、ようやくそれを保っている。
そこに、アメリカの大学の博士課程で学ぶ青年オマーが現れる。彼は作家グントの伝記を書こうとしており、そのための奨励金を得るには、作家の遺言執行者であるキャロライン、アーデン、アダムの三人から伝記執筆者としての「公認」が必要なのだ。
アメリカから来た青年に「公認」を与えるかどうかの、三人の深い葛藤。彼らを結びつけている空白(すでに亡くなった作家)に、青年オマーが介入してくるとき、そのいびつな関係が明確に浮かび上がってくる。そして、そこにオマーの恋人であるディアドラも絡み……変化を余儀なくされた彼らは、最終的にどういった目的地に到達するのだろう?
優雅なまでに緻密な描写によって、それぞれの微妙な関係性を映し出すキャメロンの手法は、とにかく見事としかいいようがない。そして、それらの関係は、いつか壊れるものとして運命づけられる。しかし、キャメロンがこの小説で強調したいことは、そんな無常観にあるのではない。そのヒリヒリした関係のなかにこそ、新しい結びつきがすでに胚胎していること。それがポリフォニックに、風通しのいい筆致でユーモラスに描かれるのだ。
そういった微妙なものだけではなく、風刺といえるような関係性もキャメロンは巧みに作中に忍ばせる。一例を挙げれば、オマーとディアドラの間柄。気弱で受け身なオマーはイラン生まれという設定だ。彼と強気で積極的なディアドラという奇妙な(そして、ありがちな)カップルは、見事なまでにアジアとアメリカとの関係を示唆してもいよう。
思わず微笑さえ漏れてしまう鮮やかすぎる幕切れのあと、読み手は、それぞれの登場人物が選んだ「目的地」に思いを馳せることになるだろう。それが「最終」であるかどうかはともかく。
この小説は、すでに各国語に翻訳され、ジェイムズ・アイヴォリー監督による映画も完成しているという。シャルロット・ゲンズブールが作家の愛人を演じるという配役は、このアーデンという女性をイメージするのにまったくふさわしい。作家の兄アダムを演じるアンソニー・ホプキンス、彼のタイ人の恋人ピート役が真田広之というのも話題を集めそうだ。

(すずき・あつふみ 文芸評論家、音楽評論家)

短評

▼Suzuki Atsufumi 鈴木淳史
男女が突然別れたり、家族が崩壊する直前に、何ともいえない気まずい空気が漂うことがある。緻密な描写によって、そうしたヒリヒリする人間関係を映し出すキャメロンの手法は、見事としかいいようがない。それらの関係はいつか壊れるものとして運命づけられるが、ウルグアイを舞台にしたこの優雅な長篇小説で描かれるのは、そんな無常観ではない。その壊れやすい関係のなかにこそ、新しい結びつきが胚胎していること。それがポリフォニックに、風通しのいい筆致でユーモラスに描かれるのだ。果たして、彼らの「最終目的地」とは?

▼New York Times ニューヨーク・タイムズ紙
辛辣で、軽やかで、深みがあり、読者を夢中にさせる。ひとつの恋愛の始まりとためらい、進展を、繊細に、愛情をこめて、エロティックにたどってゆく。

▼TLS タイムズ文芸付録
キャメロンの文章はシルクのようになめらかだ。小説の前半だけみても、「魔法のような」「すばらしい」「魅惑的な」など、いくつもの形容詞が当てはまる。

▼Salon.com サロン・ドット・コム
この小説のなかの会話は、近年最高のものだ。懐の深い、陽光あふれる本で、そこにほどよく射す影が、奥にひそむ謎めいた領域を暗示している。

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