ホーム > 書籍詳細:「非行」は語る―家裁調査官の事例ファイル―

「うちの子に限って」はあり得ない! 豊富な実例が示す少年非行の本当の姿。

「非行」は語る―家裁調査官の事例ファイル―

藤川洋子/著

1,188円(税込)

本の仕様

発売日:2002/01/31

読み仮名 ヒコウハカタルカサイチョウサカンノジレイファイル
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-603510-4
C-CODE 0336
ジャンル 法律、社会学、ノンフィクション
定価 1,188円

非行に走る少年は「特殊な問題児」なのか。凶悪化が言われているが、その実態はどうなのか。非行を防ぎ、非行から修復するために、少年はどう裁かれるのか。「うちの子がなぜ……」と言わないために、全ての親が知っておくべき少年非行の本当の姿を、現役の家裁調査官が豊富な実例を引きつつ、精神医学の視点から描き出す。

著者プロフィール

藤川洋子 フジカワ・ヨウコ

1951年生まれ。1973年大阪大学文学部哲学科卒。同年家庭裁判所調査官補。各地の家裁勤務を歴任し、現在東京家裁主任調査官。アスペルガー障害(広汎性発達障害)にいち早く着目し、非行との関連で日本で初の研究報告を行なった。著書に『わたしは家裁調査官』(日本評論社)などがある。臨床心理士でもある。

書評

波 2002年1月号より ある家裁調査官と一精神科医  藤川洋子『「非行」は語る――家裁調査官の事例ファイル』

中井久夫

 家庭裁判所をご存じだろうか。たいていは正面玄関に母子像のある、あまり裁判所らしくない建物である。家事(離婚、成人後見など)と少年非行を扱う。判事よりもずっと多くの家裁調査官がいて、スペシャリストとしてジェネラリストである判事のために働いている。心理学を初めさまざまの分野の出身で、その試験は公務員I種試験と同格である。合格後二年の研修を経て各地の家裁に配属される。縁の下に強力な力持ちがいるわけだ。わが国の少年事件が今の程度でとどまって先進国最低なのは、わが国独自の家裁制度の力も大いにあるだろう。

 精神科医で家裁調査官の重要性に早く注目したのはわが師の土居健郎先生である。「甘え」理論で世界に知られている先生は早くから家裁調査官の研修に参与された。私が大学の地位についた時にまず言われたことは「家裁調査官を大切にしなさい」だった。

 だから、一九八三年に京都家裁から事例検討に参加を求められた時、二つ返事で承諾した。下鴨神社を中心とする糺の森にある、当時日本で一番美しいといわれた庁舎に行った。その家事事件は二十年近い今も記憶に鮮明なほど印象的であった。会の後、一人の若い女性調査官が私の著作集三冊にサインを求めてきた。厚い書物で分裂病論文が主である。本には読んだ跡があって私は感心した。藤川洋子という名が記憶に残った。

 二年後、当人から私のところに毎週一日、半年間研修に来たい旨を聞いた。「いいよ」と軽く答えると、ほどなく最高裁から丁寧な依頼状がきた。彼女は毎週新しい事例を提出するという厳しい条件に応じた。私の外来にも就き、病棟の中にも入った。私は、米国の裁判官研修では精神病院の実際体験をさせているという話を思い合せた。その後の彼女の歩みを見ると正解だった。

 以来、彼女は各地の家裁を経験し、今は東京家裁で活躍している。ベテランから新進気鋭の精神科医まで、彼女の勉強相手の範囲は広がった。特に広汎性発達障害の非行特性の研究発表はわが国では最初であり、よく引用されている。五年前に『わたしは家裁調査官』という本を出して注目を集めた。今度新潮社から出る『「非行」は語る』では、すべて自己の経験例にもとづきながら、児童精神医学をわがものとして行った軌跡がはっきりわかる。実務に精励しながら執筆するのは大変な努力であろう。

 今もたまに彼女と会うが、ずっと非行少年を相手にしつづけ大病も二度しているのに、人柄が荒れず枯れず、責任が増大しても古参軍曹ふうにならず、初心者のごとく心のはずみがある。文章にもその人柄につながる天成のものがあって、おおづかみのようで要点をはずさず、バランスがとれていて、読みやすく忘れがたい。

 長い間、私には犯罪精神医学に対して違和感があった。それは「自分は犯罪者とは別人種」という高みに立つ嫌らしさである。「ひょっとすると自分もやったかもしれない」という、人間性の危うさを共有する視点への変換が必要なのだ。思い返せば、非行への彼女の視点は初めからそうであった。彼女の文章が重い非行を扱いながら、犯罪の本を読んだ後の心の濁りが生じず、どこか救いがあり、読後感が爽やかなのはそのために違いない。

* * *

 今後も日本が犯罪小国でありつづけるためには、家裁の加害者理解と処遇との未来を先取りしている面に学ぶところが大きいと私は思う。少年を離れて応用できる分野としては、たとえば、DV(配偶者暴力)加害者の更生プログラムが現在は全くないが、藤川さんと話した試験観察制度の活用は一つの妙案ではなかろうか。DV加害者は権威には従うと専門弁護士は言う。

 児童が被害者(たとえば小児ポルノの犠牲者)の場合もあるが、児童尋問の訓練を検事は受けていない。家裁調査官的存在が検事を支えて小児被害者に向き合えば事態はずいぶん改善されないか。日本は小児ポルノの最大輸出国で、国際的非難を浴びながら、犯人はめったに検挙されず、被害者が救済された例はないのが実情である。

 さて、被害者に最近ようやく光が当たってきたが、それ自身、加害者のためにも意義があることだと藤川さんはいう。加害者が被害者のほんとうの叫びに触れ、被害者の心の傷の深さに直面することは良心が目覚める機会である。

 被害者と同時に加害者理解を進めることも忘れてはなるまい。これは車の両輪である。「極悪非道」や「心の闇」で片づけて済むことではない。ある女性弁護士は「罪状を争わない事件では被告が納得して刑に服せる内容の判決を得るように努力する」と基本方針を語り、私はこの考え方に共鳴して共に働いた。そのような判決文をかちとることはきわめて「治療的」だと私は思う。さもなくば、せっかくの服役が稔らず、「刑務所太郎」になるか、出所後の再犯率が高いであろう。

 家裁調査官も被害者理解に向かって大きく前進しようとしていると聞くが、なによりも、少年犯罪の加害者とその環境理解の専門家としての大きな蓄積があり、それも「疑うのがショウバイ」の裁判官を納得させるという関門に鍛えられている。反省すれば、私たち精神科医は良心や健康な罪悪感をなおざりにしてきた嫌いがある。多くの犯罪者は自らの犯行現場や被害者の夢に耐えられなくなって自首すると聞く。この悪夢は精神医学的にはPTSDの一症状だが、良心とは関係がないであろうか。ベトナム帰還兵のPTSDは被害者だった兵士よりも加害兵士のほうが重症である。これは人間性に微かな希望を持たせる事実である。私の師の一人であるが、藤川さんが共鳴するエランベルジェの犯罪学はあくまで「科学プラス倫理」の意味での総合知である。私は彼の「押しかけ弟子」であり、主な著作の訳者であるが、もう一度、彼の犯罪学と藤川さんの新著を読みなおして勉強しようと思う。

(なかい・ひさお 精神科医)

▼藤川洋子『「非行」は語る』(新潮選書)は、一月刊

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