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零式艦上戦闘機

清水政彦/著

1,650円(税込)

発売日:2009/08/25

  • 書籍

新説搭載・通説撃墜! 実しやかに語られてきた「ゼロ戦神話」を悉く覆す。

20ミリ機銃の弾道は曲がっていたか? 人命無視・防御軽視は本当か? 撃墜王の腕前は重要だったか? 最期は特攻機用だったのか? 初期の栄光から激闘の珊瑚海・ミッドウェイ、南太平洋の消耗戦をへて本土防空までの戦果を追いながら、飛行性能だけでなく編隊・戦術などの用兵面をクールに検証し、まったく新しいゼロ戦像を提示する。

目次
序章 零戦に関する基礎知識
第1章 脇役だった艦上戦闘機――零戦の生い立ち
第2章 性能データにない強み――試作から初陣まで
第3章 内包された弱点――初期不良と改良
第4章 攻勢の優位――栄光の時代
第5章 米軍の新戦法――激闘の時代
第6章 戦果確認の落とし穴――ガダルカナル
第7章 直掩か空中戦か――黄昏の時代
第8章 圧倒的劣勢の中で――レイテから終戦
おわりに――勝敗を分けたもの
参考文献

書誌情報

読み仮名 レイシキカンジョウセントウキ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 352ページ
ISBN 978-4-10-603646-0
C-CODE 0331
ジャンル 軍事
定価 1,650円

書評

零戦とはどんな飛行機だったのかを改めて考える

戸高一成

 太平洋戦争が終わってから65年を迎えようとしているが、今でも「零戦」と聞いて、全く分からない人は少ないだろう。昭和16年の真珠湾攻撃から、昭和19年、爆装して神風特攻機となった戦争末期まで、常に第一線にあって戦い続けた戦闘機なのである。一時期とはいえ、米英の戦闘機を圧倒した零戦は、いわば、海軍戦闘機のシンボルだったと言える。従って戦後、零戦に関する本は、驚くほど多数出版されていて、今や零戦に関する情報は、設計、材質、戦史、果ては塗装の詳細まで溢れている。また、戦闘記録に関しても、全てではないが、各作戦ごとの出撃搭乗員の姓名まで明らかになっている。しかし、同時に零戦は、神話に溢れた戦闘機でもあるのだ。
 著者は、零戦の一生を、これら無数の情報を前にして、一歩下がって見直し、果たして、零戦とはどのような飛行機であったのか、と問い直したのである。零戦の技術的側面を、同時代の外国戦闘機と比較し、また実際の戦闘における記録を、相手国の記録と詳細につき合わせ、零戦の本当の姿を確認しようとした。そして、見えてきた零戦はどのような戦闘機であったか。
「世界的に見ても、昭和16年時点では最速の艦上戦闘機であり、『艦戦としては』速度の面でも十分に合格点だった。一般に艦載機は、空母の狭い飛行甲板に発着しなければならないという制約があるため、飛行性能は陸上機よりも一段劣る。特に『着艦』という作業はかなり無理な操作を要求されるもので、そのまま母艦の甲板に体当たりしてしまわないように、ギリギリまで速度を殺す必要がある」(第1章)
 著者の見解は、零戦を冷静に見て、技術面では及第点をつけているが、運用面において厳しい評価を与えている。本書の特徴はここにある。
「結局のところ、勝敗を分けた要素は機体の性能云々というより、空戦開始時の態勢と戦術、空中指揮、チームワーク等、総合的な運用の巧拙が主であり、これに加えて火力と弾数が撃墜スコアの伸びを左右したと考えた方が現実に近いのではないだろうか」(おわりに)
 飛行機という機械は、一つの技術製品に過ぎない。製品が如何に優れたものでも、人が動かして初めて飛行機として機能するのである。機械の性能の半分は人間の能力にかかっている。そして、戦時においては、その人間の大多数は日米共に訓練未熟の新米だったのである。
 本書では、詳細な技術的、歴史的データをあげながら、零戦を解明しているが、著者は、恐らく、物事を知るということは、こういった無数の情報を覚えることではない、無数の情報を考えることなのである、と言いたいのではないだろうか。
 清水政彦氏の『零式艦上戦闘機』は、大げさに言えば技術と戦争の歴史を見る姿勢についての、一つの考えかたを書いた本なのである。

(とだか・かずしげ 大和ミュージアム館長)
波 2009年9月号より

担当編集者のひとこと

零式艦上戦闘機

掩体壕(えんたいごう)を知っていますか?「掩体壕」をご存知でしょうか。文字変換してみても、「延滞」は出てきますが、「掩体」は出てきません。掩体壕とは、軍用機を敵の攻撃から守るための格納庫で、コンクリートですっぽり覆うものから(有蓋型)、天井だけは開いているもの(無蓋型)、土嚢だけのものまで、いろいろな種類があります。旧日本軍の航空隊基地跡には、頑丈すぎて壊すことができず、現在でも駐車場や物置、倉庫として使われているものもあります。
 本書の著者・清水政彦氏は、今はその用途も忘れられたこの設備が、太平洋戦争での勝敗に大きく関わったと考えています。たとえば、昭和19年6月、マリアナ海戦直前に、日本軍はパラオ方面に大量の航空機を送り込みますが、小規模の基地に野天で置かれた軍用機は、たちまち米軍機の餌食となります。その後、レイテ戦を含めたフィリピン防空戦でも、日本軍が振るわなかったのは、掩体壕を含め、フィリピンの基地の設備がまったく整っていなかったからでした。逆に、本土防空で日本軍が高性能の米軍機を相手に意外なほど健闘した理由もそこにある……。
 本書では、兵器の性能よりも、掩体壕を含めた設備や運用体系に着目して、これまで戦史であまり語られてこなかった「軍事のソフト面」の重要性を軸に、日本海軍の主力戦闘機の「使われ方」を振り返ります。

2016/04/27

著者プロフィール

清水政彦

シミズ・マサヒコ

弁護士。昭和54年生まれ。東大経済学部卒。金融法務の傍ら、航空機と戦史の研究に励む。共著に『零戦と戦艦大和』(文春新書)、論文に「零戦の敗因 海軍悪玉説は誤りだ」(「文藝春秋」平成20年8月号)などがある。

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