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「言葉の劇」の秘密を縦横に解き明かす新解釈満載の演劇論&翻訳論。

深読みシェイクスピア

松岡和子/著

1,296円(税込)

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発売日:2011/02/25

読み仮名 フカヨミシェイクスピア
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 271ページ
ISBN 978-4-10-603672-9
C-CODE 0322
ジャンル 戯曲・シナリオ、評論・文学研究
定価 1,296円

坪内逍遥以来、男たちはジュリエットの娘ごころをどう訳してきたか、またその問題点は? シェイクスピアで一番感動的な台詞は何か? 蒼井優がふと口にした疑問、唐沢寿明の驚くべき演技、松たか子の意外な解釈とは? 個人による全訳に取り組み、稽古場に日参する翻訳家が、演劇の魅力を深く平易に語り尽した快著。

著者プロフィール

松岡和子 マツオカ・カズコ

1942(昭和17)年、旧満州新京(長春)生れ。東京女子大学英文科卒業。東京大学大学院修士課程修了。著書に『すべての季節のシェイクスピア』『繪本 シェイクスピア劇場』(安野光雅・画)『快読シェイクスピア』(河合隼雄との共著)『「もの」で読む入門シェイクスピア』など、訳書に『クラウド9』『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』などがある。1996(平成8)年からシェイクスピア戯曲の全訳に取り組み、その新訳を用いた蜷川幸雄演出による舞台上演が注目されている。

書評

波 2011年3月号より 謎解きのおもしろさ、開かれた「深読み」

山崎努

芸術作品の「深読み」は、得てして閉じられた学問分野の研究になってしまい、そうなると僕などはお手上げ。
本書の深読みは開かれている。わかり易く、説得力があり、そして深く戯曲を読み解いていて、演劇書ではあるが一般図書としても楽しめる読み物だ。
たとえば「オフィーリアはノーブルか?」の項。松岡は翻訳中、控え目なオフィーリアが自分のことを「noble」と言っている個所に違和感を覚え、執拗に探り続けた末、「ポローニアスを鏡として『ハムレット』を読み直すと、他の登場人物の特徴が、より鮮明に浮かび上がってくる」というすごい、画期的な発見にたどり着く。発見に至る過程は、まるでミステリ小説の謎解きのようなおもしろさ。全篇に同様のスリルがあり、読み始めたら止まらなくなる。
翻訳の心得についても語っていて、これは貴重な意見。僕は演技者として大いに共感したが、観客・読者の関心を惹く話でもあると思う。松岡の文体の特長は、シンプルで余計な修飾がないことである。「いたします」、「そして」といった語尾や接続詞を安易に使わない。切りつめた言葉を並べ、科をつくらない。ずばり一語で決め説明をしない。だから、演じる側は飛躍することができる。演技の秘訣のひとつはこの飛躍。蛙が素早く石から石へ跳び移って行くような軽快な飛躍。ずらずらと繋がっているせりふほど演じにくいものはない。食いちぎって吐き捨てたくなる。松岡は言う。「語尾というのはほんとうに怖いもので、もうそれだけで言葉を演出してしまうところがある。『翻訳者は解釈するけれど、演出はしない』」「なるべく入れないようにしています」。
どのくらい松岡の訳文が簡潔か、この本に出てくるジュリエットのあるせりふでチェックしてみよう。一九一五年の久米正雄から二〇〇七年大場建治まで、十二通りの訳が載っている。大方は一五〇字前後の長さ、多いのは一九九字。そのなかで松岡訳は一二二字、とび抜けて少ない。むろん解釈の違いもあるのだが、この松岡に肉迫しているのが意外にも逍遙訳で、これが一四三字、二十一字差と健闘、追い上げている。「翻訳は古びる」「でも、逍遙訳だけは古びない。ほとんど古文の域に達しているから、ここまでくると、もう古びない」と第一位の松岡も認めている。戯曲全部の字数も、たぶん松岡版が一番少ないだろう。これほど演技の醍醐味を知っている訳者は他にいない。
芝居の毒は強烈だ。三日やったらやめられない。松岡和子がシェイクスピアにはまったのは、学生時代、『夏の夜の夢』のボトムをやった、というかやらされたのがきっかけだったらしい。嫌々だったがこのボトムが受けて笑いをとってしまった。「なんかそれで、思っちゃったのよね、芝居をやりたいって」。やっぱりね。

(やまざき・つとむ 俳優)

目次

はじめに
第一章 ポローニアスを鏡として――『ハムレット』
オフィーリアはノーブルか?
ポローニアスの文体
ダジャレと言い間違い
比較する青年ハムレット
第二章 処女作はいかに書かれたか――『ヘンリー六世』三部作
なぜ、歴史劇だったのか?
青年シェイクスピアの作劇術
時の流れを歴史として眺める
英語とフランス語の諸問題
第三章 シェイクスピアで一番感動的な台詞――『リア王』
「ここ」と「この世」
シェイクスピアで一番感動的な台詞
認識の劇
嵐の場
第四章 男、女、言葉――『ロミオとジュリエット』『オセロー』
バルコニー・シーン
男たちはジュリエットをどう訳してきたか
佐藤藍子の立ち姿
語尾について
蒼井優の疑問
十六年目の加筆・訂正
第五章 他愛もない喜劇の裏で――『恋の骨折り損』
恋と改宗と大虐殺
一五九三年と九四年に何があったのか
喜劇の国際政治的背景
王様を信じていいの?
第六章 日本語訳を英訳すると……――『夏の夜の夢』
シェイクスピアとの出会い
ジョン・ケアードの手法
「稽古」と「純潔」
第七章 嫉妬、そして信じる力――『冬物語』
嫉妬はいつ芽生えたか
愛欲は体の芯を刺し貫く
信じる力を目覚めさせよ
第八章 言葉の劇――『マクベス』
名台詞の条件
ブランク・ヴァースについて
「私たち」を訳す
言葉の劇
あとがき 小森収
     松岡和子

判型違い(文庫)

担当編集者のひとこと

深読みシェイクスピア

小さな疑問、大きな発見 ――シェイクスピアで一番感動的な台詞って何ですかね?
 ――それは、I know thee だと思う。
 ――ジー?
 ――thee は現代英語だとyou. リア王が盲目の臣下にむかって語る台詞です。
 ――私はお前を知っている。中学一年生の英語の教科書に例文として載っていそうじゃないですか。そんな言葉がなぜ感動的なんですか?
 ――聞きたい? 話し出すと、ちょっと長くなるんだけど。


 著者の松岡和子さんとは旧知の間柄でしたが、たしかこんな風なやりとりから、本書の企画は3年前にスタートしました。松岡さんはふとした疑問を見つける名人です。オフィーリアは内気で控えめな子なのに、なぜ「尼寺の場」では自分のことを「ノーブル」だと言うのか? ジュリエットの娘ごころの変化はどんな言葉遣いに見出せるのか、また坪内逍遥ら歴代の男性訳者たちはそこをどう見過ごしてきたのか? マクベスとマクベス夫人が I ではなく we という主語を使いたがるのはなぜか? なにげない言葉を深く読む。すると、その小さな糸口から、シェイクスピア作品のあらたな謎と魅力が大きく立ちあがってくるのです。編集者として驚きの連続でした。
 松岡さんは1996年からシェイクスピア劇の個人全訳に挑み、現在23作が刊行されていますが、舞台の稽古場に日参しながら翻訳を練りあげていくそうです。じっさい、役者から教わることも少なくない。たとえば松たか子の「ノーブル」をめぐる解釈がいかに衝撃的だったか、蒼井優が松岡訳のどんな訳語に疑問を抱いたか、唐沢寿明の演技は稽古場でどう変わっていったのか……。お知りになりたい方は、本書の16頁、131頁、202頁あたりをご覧ください。

2016/04/27

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