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もう、きれいな水は「当たり前」じゃない!

水惑星の旅

椎名誠/著

1,188円(税込)

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発売日:2011/05/25

読み仮名 ミズワクセイノタビ
シリーズ名 新潮選書
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 198ページ
ISBN 978-4-10-603676-7
C-CODE 0395
ジャンル ノンフィクション、地球科学・エコロジー、建築
定価 1,188円

地球的規模では、水の存在は実に不公平だ。ゆえに今や水資源は大きな利権となり、水をめぐる紛争も各地で少なからず起きている。いったい水の未来はどうなるのか……。水格差から淡水化装置、雨水利用、人工降雨、ダムや河川問題、水と健康の関係まで――現場を歩き、水に触れ、話を聞き、驚き、考えた、警鐘のルポルタージュ。

著者プロフィール

椎名誠 シイナ・マコト

1944年東京生まれ。作家。純文学からSF小説、紀行文、エッセイ、写真集など、幅広い作品を手がける。大の科学好き、SF好きでもある。1990年、『アドバード』で日本SF大賞を受賞。他に、『水域』『武装島田倉庫』などのSF作品もある。自然科学系のノンフィクションでは『すばらしい黄金の暗闇世界』『水惑星の旅』などがある。

目次

まえがき
第一章 スプーン一杯の水
酒の川、神の川/カネの川、クソの水/家を川に捨てる/水の奪い合い/世界は不公平にできている/砂漠に消えた川/途方もない渇き
第二章 天からのもらい水
海水から塩だけなくす/逆浸透膜/RO膜――逆浸透膜の発明/油よりも水/空中から水をとる方法/除湿の水がもったいない/ガソリンより高い水/離島通いは昔から
第三章 飲めない水を飲めるようにする
釣島の海水淡水化生活/泥水を飲み水に変える/ゴミ、し尿から飲料水をつくる
第四章 クソ水と「皆水道」
のんびり“水大国”日本/まずい水道水の危険な内容/塩素信奉と衛生博覧会/クソ水のちから
第五章 人間という水袋
老人の手がカサカサの理由/飲みすぎると死ぬ/ボトルウォーター戦争/我々の水実験
第六章 雨水利用は世界の常識
「中水」という概念/脆弱な都会の水/雨を溜める治水/甘粛省の雨水再生/すでに限界という説/わしらの井戸掘り
第七章 海国、山国、川国
本当は黄金の国/水源地を見にいく/川のまわりにヒトがいない/川のために山林を買う
第八章 賢愚が問われる水のコントロール
荒瀬ダムによる荒廃/ダムをめぐる新しい動き/アメリカの英断/狙われるチベット/乱暴な巨大プロジェクト/何もない大河の余裕/「安堵」ではなく「警鐘」/人工降雨の可能性
あとがき
参考文献=世界の水問題(著者のヒトコト解説付き)

インタビュー/対談/エッセイ

波 2011年6月号より 【対談】水ガメの水はなくならない

沖大幹椎名誠

「当たり前」が変わっていく

 本にありましたが、カンボジアにあるトンレサップ湖の水でコーヒーを飲んだというのはすごいなと思いました。味はいかがでしたか?
椎名 沸騰した水だから大丈夫だろうと思って。ベトナムコーヒーでしたから、コーヒーの苦さでカモフラージュされていましたし。2時間も話を聞いていて、1回も手をつけないのも失礼でしょ。僕は思うんだけど、たぶん外国人が日本に旅に来て驚くのは、川に直接口をつけて水を飲んでいる人が誰もいない風景でしょうね。日本では、渓流で釣り師が飲んでいるくらい。インドやモンゴルの人には信じられないんじゃないかな。
 モンゴルの人は水はどうしているんですか?
椎名 川がありますね。
 そうですか?
椎名 ええ、でも川には馬や牛の糞がまじっていますから、できるだけ薄いところを狙って汲む。それも早朝。朝だとまだ、牛馬に水浴びさせてないですから。
 モンゴルでは1日一人2リットルで過ごしていると聞きましたが。
椎名 そんなもんでしょう。
 洗面器1杯で、体洗うらしいですね。
椎名 昔日本にもありましたが、水を容器に溜めて吊り下げて、下の突起を押すとちょろちょろ出て来るやつ、あれをモンゴルでは使ってました。目や顔を洗って、最後に口をすすいで、しかも落ちて来る水も下で兄弟が受け止めてまた使う。飲むものはミルクもある。子供なんかには水を沸かして飲ませてますね。
 汚れた水を沸かさなくてはいけない場所では、薪など燃料の調達もしなきゃならない。安全な水のない所はエネルギーもない。携帯も、舗装された道もない。つまり、水はいろいろな問題の入口なんですね。
椎名 沖さんは、日本人がこんなに水に関心がないのは、なぜだと思いますか?
 東京でも昭和30年代くらいまでは、井戸が使われていました。39年、東京オリンピックの直前には大渇水もあり、その後ダムや利根川の河口堰を造って無理やり水を確保した。でも、10年もすれば水に困っていたことなんか忘れちゃう。沖縄なんかも、少し前までは、毎年、雨に一喜一憂していた。数年に一度、時間給水や隔日給水を行なっていたほどです。でも、海水淡水化施設や北部のダムを整備したりして那覇やコザ(現沖縄市)は水に困らなくなった。今は昔ほど、節水意識も強くない。
40年前の全国の水の使用量は、現在の半分ほどです。当時は、風呂のない家庭も多かったし、浴槽も小さい。トイレも水洗じゃない。洗濯機も2層式。たぶん、毎日は洗わなかったでしょう。今じゃ、シャツなんか毎日換えていますが、昔は、襟とかソデとかを換えて着ていましたよね。人間は慣れる生き物で、すぐに「当たり前」がどんどん変ってきちゃう。

人口とお金の問題

 ご自宅の雨水利用はいかがですか?
椎名 今、ちょっと迷っていることがありましてね、風呂や洗濯機で雨水を使う場合、一度、ポンプなどで水を屋上まで上げなければいけません。そうすると、それなりの経費がかかるのでどうしようかと。
 お金の問題って大きいですね。水問題は、三つに分けられると思うんです。まず人権の問題。暮らしが成り立たない人たちが貧しさから抜け出すために、まず水の確保が重要。次に環境問題。水が環境を汚す。あるいは環境の劣化が水に現れる。そしてお金の問題。ダム反対も、最近は税金のムダだから、という理由も多い。淡水化施設も、安心な水を供給できるが、建設や運用にお金が必要になる。雨水利用も、椎名さんがおっしゃるように施設や、場合によっては運転に費用がかかる。
椎名 たとえばね、日本に川が大好きな王様がいて、川にいっさい手をつけてはいけないという法律を作る。日本にある3万本の川とは言いませんよ(笑)。でも1本でもいい。そうしたら、その川は上流から下流まで、ずいぶんきれいになる。そんな風に、何も手を加えないで川を守る方法を実験できないですかね。本にも書きましたが、スコットランドに行った時、ウイスキー蒸留所の多いスペイ川でそれに似たような風景を見ました。水を守るため、コンクリート護岸をしない、ダムを造らない、上流に柵を造って誰も入れないようにする。ウイスキー産業のためなんでしょうが、ひとつのかしこい風景であるなと思いました。
 やっぱり人が増えすぎたからではないですか。江戸も最初は神田上水だけでまかなっていた。しかし、人口が増えて玉川上水を造った。今でも山梨県に東京都水道局が管理する森がある。それでも足りないから、群馬県にまで水源を求めている。「水が欲しい、欲しい」という欲望のままに、水源を増やしたわけです。「都民に我慢してもらう」ということは行政として考えなかったわけです。
椎名 娘がアメリカのオレゴン州ポートランドに住んでいた頃、よく行きました。木が多い町で、いたるところに公園があり、樹齢数百年の木も珍しくない。なんて素晴しく森が管理された町なんだろうと思ったんですが、あとで考えてみると、森の中に町をつくったんですね(笑)。植えたんじゃない。そうした環境を維持できるのも、結局、人口にかかわるんですね。

「水育」をすべし

椎名 ところで、水の教育って世界で行なっている国はあるんですか?
 環境教育の一環として教えている国はありますね。ただ問題なのは、「節水しましょう」という結論になりがちなこと。私はそうじゃいけないと思ってるんです。先ほど話に出たモンゴルのように、工夫しながらも保健衛生のためには水を使った方がいい。使うべきところでは、正しく使う。以前、アフリカのマリに行った時、どうやって手を洗うかの授業を見たことがあります。石鹸を使って、少しの水でいかにうまく洗うかを教えていました。水の教育で大切なのは、単に「節水しましょう」ではなく、「使い方」を教えることであり、「水はどこから来るのか」「おいしくない水はなぜか」などを教えることです。つまり、水の仕組みをきちんと理解させることだと思うんです。
椎名 「教育」じゃなくて「水育」なんだな。
 そう、それ。
椎名 僕はSFが好きでこう考えたりする。地球上の水の絶対量というのは、太古の昔から変っていないですよね。そしたら科学の力で、よそから水を持ってくることはできないかと。彗星の長い尾は氷であるといいますが、例えばそこから持ってくるとか。そうしたこと、あり得ないんですか?
 実は、地球全体では、水は足りているんです。問題は、水がある所に人がいなくて、水がない所に人が集まっていることなんです。じゃ、なぜそうしたことが起きるかというと……なぜでしょうね。たぶん、水のあるなしで人の動きが決まってないからなんでしょう。水がないのは薄々分かっているんだけれど、集まって住んでしまう。都会なんて典型ですよ。

北海道の水はアフリカで飲めない

椎名 講演などで水について話すと、「私たちにできることは何でしょうか」などと聞かれることがあります。
 その問いは本当に難しい。たとえば、温暖化問題で二酸化炭素を減らすことは、ある意味簡単なんです。レジ袋を1枚使わなければ、その分、効果はある。だけど、水はちがう。北海道でいくら節水しても、その水を沖縄やアフリカで使うことができるかというと、そうじゃない。水は非常にローカルなんです。もちろん、みんなが水の使用量を1割減らせば、その分、新たにダムを造る必要はなくなります。日本の人口もこれ以上は増えないので、今ある施設をうまく使っていければ、これ以上ダムを造る必要もない。そうしたことは言えるんですけど、じゃあ日々、個々人が何をすればいいのかというと、実は答えにくいですね。
椎名 そうなんですか?
 でも、確かに言えることは、足りない時にはみんなで分かち合うこと。日本は水田文化でしたから、昔から、緊張感も交えて水を分配していた。「線香水」といって、線香を立てて、給水時間を計って分配するような地域もありました。命の次に大切な水田だから、水の一滴まで必死に見守っていた。そうしながら、限られた資源を分配していたんです。
椎名 今、東京は近代水道設備が整っている。でも、いつそれが破綻するかは分からない。一部の科学者や危機管理担当者が考えている程度で、都民はほとんどそんなこと想像していない。
 水が止まったら大変ですよ。子供を学校にやれない。トイレが使えないですからね。ご飯も作れない。病院は困る。東京の川から汲むわけにもいかない。

食糧問題との共通点

 食糧も実は世界の人口をまかなえるだけ作ることは可能なんだそうです。ところが、安すぎるので作らない。あるいは安価なのだけれど、それでも買えない人がいる。それは社会の仕組みの問題であり、富の配分の問題であり、民主主義の浸透の度合いに関係している。水も同じことでしょう。地球はあたかも大きな水ガメで、人口がどんどん増えると、その水ガメの水がどんどん減ってやがてなくなっちゃうんだと誤解している人も多いようです。そうではなくて、食糧問題と同じで、あくまで社会の仕組みの問題なんです。子供たちの中には、本当に水の絶対量が足りないと信じて、怖がっている子がいる。未来に夢をもてない、それが非常によくないと思う。学生たちにこう言ったことがあります。「君たちは50年前に生れるより、ずっと幸せなんだ。科学も進歩しているし、解決の可能性もある」。若い人たちには、社会は将来良くなる可能性があると言ってあげなきゃいけない。逆に暗い未来を示せば頑張る人もいるけど、ああ、もうダメだ、とナエちゃう人もいる。
椎名 「モノの見方」が大切なんですね。例えば、日本には梅雨があって、鬱陶しく思うこともある。でも、梅雨の大量の雨が我々の生命を支えていると思えばいい。雨を情感としてとらえるのではなくて、生命の源としてとらえると意味がちがってくる。やっぱりそれは、教育なんでしょうね。
 そう、必要なのは、正しい教育と正しい本なんです。
(対談は東京新宿区にて、3月11日、東日本大震災の3時間前に行なわれました)

(おき・たいかん 東京大学教授・水文学者/しいな・まこと 作家)

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担当編集者のひとこと

水惑星の旅

まず水、とにかく水 椎名さんが一番関心ある飲み物は、生ビールかと思いきや、実は「水」である。
 椎名さんはかつて、「喉は渇いたけど、ま、生ビールはいらないか」と思った瞬間がある。数年前、タクラマカン砂漠を訪れる「楼蘭探検隊」に参加した時のこと。隊員は、1人1日2リットルの水しか与えられず、いつ、どれくらいの量を飲むか、「究極の自己管理」を迫られた。
「ここでキンキンに冷えたビールを飲んだら死ぬなあ」と椎名さんは、体で感じたという。そして、それは後ほど正しかったことを知る。
 本書を書くためインタビューした、体と水に詳しいドクターはこう諭してくれた。
「よかったですねえ、ビールがそこになくて。人間は1日に2.5リットルの水を排出しています。アルコールには利尿作用があるため、そんなところで冷たいビールを飲んだら、さらに喉が渇いてたまらんでしょうね」
 常日頃、なぜビールという水分をしこたま飲んでも、寝る前に喉が渇くのかという疑問が、この取材で氷解した。
 タクラマカン砂漠の厳しい環境は稀だとしても、椎名さんは20代の頃から、キャンプをすることが多かった。そこで、真っ先にすることは「水の確保」である。発展途上国や秘境への旅もそう。いや、先進国だって同様だ。「まず水、とにかく水」が、どこに旅しても、椎名さんにとっては最優先事項だった。次に、もちろん、冷たいビールの確保、となる。
 今では水に関する本は数多く出されているが、本書が他の本とちがうのは、著者が現場に赴き、人の話を聞いて、水を実際に味わっている点だ。
 つまり本書は、今まで著者が旅で見聞きした各国の水事情と、水への疑問を解くために各地を訪ね歩いた「水の旅」の記録である。そういう意味で、本書は椎名さんにしか書けない、椎名さんらしい「水のエンサイクロペディア」になっている。

2016/04/27

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