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ほんとうの診断学―「死因不明社会」を許さない―

海堂尊/著

1,430円(税込)

発売日:2012/05/25

  • 書籍
  • 電子書籍あり

正確な診断なくして、よき人生はない――闘う作家・海堂尊の医師としての集大成!

正しい診断を知ること、それは「いのち」と向き合うことである。Ai(死亡時画像診断)を提唱して医学界の改革を図る著者が、「検査」と「診断」の本質を徹底究明。正しい医療を受けるために必要な知識を解説しながら、市民社会への視点を見失い不毛な議論に終始する昨今の日本の医学研究を解剖、その欠陥を抉り出す問題作。

目次
はじめに
第1部 診断学とはなにか
第1章 医学と医療
01 医療とは何か。医学とは何か
02 治療は、診断に始まり診断に終わる
03 診断学の新たなるゴールの設定
04 診断のゴールは、市民と社会の納得である
05 治療と診断の関係性
06 医師法第4章・業務
07 医療を取り巻く二大組織、厚生労働省と日本医師会
08 社会制度における、医療経済学
09 医療とお金
第2章 医学検査の基本
10 検査にはどのような種類があるか
11 問診・視診・触診・聴診(非侵襲性検査1)
12 内視鏡検査(非侵襲性検査2)
13 画像診断(非侵襲性検査3)
14 造影検査(非侵襲性検査4)
15 大腸内視鏡の表層診断と診断直結治療(非侵襲性検査5)
16 仮想内視鏡(非侵襲性検査6)
17 非侵襲性検査の総括
18 侵襲性検査の概略
19 血液検査・生化学検査(侵襲性検査1)
20 病理検査、組織診と細胞診(侵襲性検査2)
21 技師の仕事
22 免疫染色とDNA診断(侵襲性検査3)
23 顕微鏡の構造と歴史
第3章 治療効果判定について――古くて未熟な、改変されないその診断手法
24 診断の基本は差分診断
25 現在の治療効果判定法では差分診断の原則が破綻している
26 病理学的な治療効果判定法について
27 癌取扱い規約の治療効果判定法の基本、大星下里分類
28 病理学的治療効果判定と患者予後は絶対に相関しない
29 大星下里分類の終焉
30 治療効果判定法は樹立不可能か?
31 病理学的治療効果判定問題はどのように解決すればいいのか
32 TEEP squareという考え方
33 TEEP matrix記載には新しい表現法・MIES法が必要とされる
34 RECISTガイドライン
第4章 オートプシー・イメージング(Ai)の誕生
35 死亡時医学検索という概念と、Aiの登場
36 ミッシングリングだったAiの発見
37 概念が想起された瞬間、Aiのメリットが網羅された
38 Aiの定義とその変遷
39 誰がAiを診断すべきか
40 Aiに対する解剖医の反応と、Aiという用語に対する反発
41 古くて新しい検査、Aiの歴史
第2部 厚生労働省公募科学研究 深山班研究批判

00 科学研究報告書を批判する理由
第1章 深山班の結果報告と社会的評価
01 Aiに関するムーヴメント・その1(1999年~2008年)
02 深山班研究・評価対象
03 厚生労働省を始めとする深山班研究の社会的評価は高いらしい
04 深山班研究・初年度結果は、実はAiは有用だった
05 深山班研究・2年目の結果と平成20年度~21年度総合研究報告書の要旨
06 深山班研究を評価するためのシンプルな着眼点
07 2年間の深山班の実施で、モデル事業症例はたった3例
08 深山班における症例の評価法
09 検討会オンリー使用の「解剖との一致水準」と、亡霊のような「有用性分類」
10 大爆笑、初期のシミュレーション研究に有用性分類が実施されている
11 有用性分類の問題点と、一致水準からの変更による変化
第2章 深山班の解体
12 深山班平成20年度~21年度総合研究報告書の研究要旨の解体
13 深山班研究の症例水増しにみえる行為
14 データ解析が中立的ではない深山班研究
15 公募研究応募時に深山班が犯した大チョンボ
16 Ai診断他力本願システムの完成
17 東大症例は放射線科医によって読影されたが、有用性の評価はされていない
18 裏を取れる千葉大症例6について仔細に検討してみる
19 総合研究報告書から抹殺された「解剖との一致水準」データ
20 東京大学症例の欺瞞・その1 病理解剖症例
21 東京大学症例の欺瞞・その2 モデル事業解剖症例
22 東京大学症例の欺瞞・その3 司法解剖症例
23 深山班の姿
第3章 深山班批判総括
24 深山班・3つの大罪
25 厚生労働省公募科学研究の広く浅い闇
26 深山班が目指したものと、深山班研究報告書を読んだ班員や協力員の反応
27 深山班からの提言
28 深山班・総まとめ
29 深山班の失敗理由と、研究“べからず集”
30 深山班に対する研究改善勧告書
第4章 放射線専門医による深山班症例再検討
31 海堂班・Ai症例検討会
32 Aiで発見された虐待エビデンス
33 解剖所見を充分に検出できるAi
34 死因判別が困難だった症例
35 画像診断医による深山班症例の再検討を終えて
第5章 海堂班報告書
36 海堂班の検討結果
37 深山班で唯一評価できる研究「画像診断精度に関する研究」
38 公正評価基準
39 海堂班・深山班研究症例再評価結果
40 死後MRIの有用性
41 深山班の結果を基に、情報開示の結果からAiと解剖の比較をする
42 英国での比較研究・スイスでの動き
43 海堂班のスタンスならば、Aiは時空と国境を越えて発展する
第3部 死因不明社会の現状と改革提言
第1章 解剖制度批判(崩壊寸前の社会システム・解剖の現実)
01 細分化されている日本の解剖制度
02 死体検案書もしくは死亡診断書の論理的不整合
03 公文書としての死亡診断書、死体検案書の問題点
04 悪法、医師法第21条と罪重き「異状死ガイドライン」(日本法医学会制定)
05 「異状死ガイドライン」の問題点と福島県立大野病院事件の地裁判決
06 司法解剖の闇
07 日本の解剖制度の実態
08 解剖制度崩壊・すさまじい地域格差
09 情報学的に未熟な検査である解剖を社会制度の土台に据え続ける愚拳
第2章 情報学としての医学
10 Aiのメリット、解剖のデメリット
11 Ai優先のパラダイムシフト
12 解剖医と臨床医が扱うAiの違い
13 解剖至上主義の台頭
14 法医学者にAiを仕切らせると、社会が混乱する
15 法医学者はAiを扱う立場にない
16 Aiはすでに社会導入されている
17 正確かつ迅速な死因情報の開示は、故人の名誉を救う
18 小児虐待を見逃す司法解剖・見つけるAi
第3章 Aiセンターの可能性
19 Aiセンターのかたち
20 AiセンターとAi情報センター
21 日本の解剖制度の問題点と死因究明制度の立て直しは別の話
22 Aiに関するムーヴメント・その2(2008年~2012年)
23 東日本大震災の教訓・新しい社会的診断学としての死亡時医学検索
24 Aiプリンシプル
25 総務省・「児童虐待の防止等に関する政策評価書」
26 Aiは医学教育を変え、社会を変革する
27 診断学論考
あとがき この本を執筆したのは天意である

【付録1】診断学論考
【付録2】海堂ドクトリン7×7――Aiを理解するための7×7のステップ

書誌情報

読み仮名 ホントウノシンダンガクシインフメイシャカイヲユルサナイ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 288ページ
ISBN 978-4-10-603703-0
C-CODE 0347
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,100円
電子書籍 配信開始日 2019/05/31

インタビュー/対談/エッセイ

波 2012年6月号より 医者の仕事の本質とは

海堂尊

今回の本は、私の医師としての活動の総決算です。文中に「本書を以て、私は医学の世界を卒業しようと思っている」と書きましたが、そんな思いで執筆した一冊です。

「診断」行為は、医学の中で極めて重要な意味を持っています。医学=診断と言い換えることもできます。正確な診断が下されることで初めて、正しい治療が行われるのですから、「治療は、診断に始まり診断に終わる」と言っても過言ではありません。ただ、これまでにも診断に関して多くの本が出版されてきましたが、そのほとんどが「各論」的な専門書で、診断の本質を追究した本はありませんでした。それが本書執筆の動機の一つになっています。
医学にとって一番大切なのが科学的な姿勢であることは当然ですが、それを支えるのは哲学と倫理である、と思っています。この世で最も尊い「いのち」を扱う学問だからです。でも、残念ながら哲学や倫理を見失った人も少なからず見受けられるのが現実です。
どんな世界でも、本質を見極めていないと、次第に本道からはずれていってしまいます。そこで私は改めて診断という行為の本質を言葉で表現してみようと考え、何年もの年月をかけて自分なりの診断学の体系を作ってみました。それが本書の巻末に収録した「診断学論考」で、この中に私の診断に関する思考のエッセンスを凝縮しています。

「診断学」のゴールとは何か。それも今回の本の大きなテーマです。病気の診断を正しく行うこと――常識的な回答で、もちろんその通りなのですが、それだけでは解決しない問題が残ってしまう。なぜなら世の中には診断がつかない病気というものも存在するからです。
それは、死因を診断する際に明らかになります。『死因不明社会』などの本でも指摘してきたように、日本では年間約百二十万人の方が亡くなりますが、解剖されて死因が究明されるのはわずか二%台に過ぎません。解剖しても死因がわからないケースが、五人に一人の割合で存在するのです。
死因判定も診断の一種ですが、ゴールを「正しい診断を行う」と設定すると、どうにもならないエラーが生じてしまいます。ですから私はゴール設定を「市民や遺族、社会がその診断を納得する」と変えるように提案しました。現代の医学にも限界がある以上、現実的な解決策を目指して診断システムを構築していくことが重要なのです。
市民や社会が納得できる診断システム――それを提供できるのがAi(死亡時画像診断)です。死体に対しCTやMRIを使って画像診断を行う。非常にシンプルな発想ですが、導入すれば死因究明の精度は一気に向上します。
私は一九九九年にアイデアを思いついて以来、制度導入のため力を注いできました。『チーム・バチスタの栄光』などの作品にも登場させましたので、小説を通じて知って下さった読者もいると思います。
現在、全国には十三の「Aiセンター」が設置され、Aiは日本社会に定着したと言えます。私の役割は終わったも同然なのですが、残念ながら医学の世界にはまだまだAiに反対する勢力がはびこっています。本書の第2部で、私はある公募科学研究に対する科学的な批判を行いました。その研究は厚生労働省の補助金を使って行われた公的なものでしたが、結論としてAiに対し極めて不当な評価を下す報告書を発表したのです。
研究班に参加した日本のトップクラスの学者たちは二年間の研究の末「Aiはそれほど有用ではない」としか読めない結論を出したのですが、報告書を仔細に検討して驚きました。そのデータはどう見ても「Aiはとても有用」としか思えないものだったからです。百八十度入れ替えたような評価を導き出す手順を目のあたりにすると、出来の悪いミステリー小説もどきを読まされている気分になります。でもそんな報告書が、厚生労働省の高い評価というお墨付きで、社会に広く公表されてしまったのです
なぜこんなことがまかり通るのか。そこに日本の科学研究が抱える病根を見る思いでした。何よりも許しがたいのは、市民社会への貢献という、公募科学研究であれば、一番大切な視点がすっぽり欠落していた点です。
医師たちの多くは健全な市民社会を維持するために必死に仕事をしていますし、私がAiを提唱したのもそれと同じ気持ちでした。しかし、一部の研究者は他の目的のため真実を捩じ曲げてしまう。医学の本道を見失っているのです。そして報道に彼らの報告書の結果だけが引用されているのを見て、このまま看過してはとんでもないことになってしまうと思い、いても立ってもいられなくなり、筆を執りました。
研究論文に対する批判部分は、一般の読者には馴染みにくいかもしれません。でも、本当に守るべきものは何なのか、という思いを汲み取っていただければ有難く思います。

(かいどう・たける 作家・医師)

担当編集者のひとこと

ほんとうの診断学―「死因不明社会」を許さない―

闘う医師・海堂さんがキャリアの全てを投じた問題作 Ai=Autopsy imagingという言葉をご存じでしょうか。海堂尊さんの小説のファンならお馴染みのこの用語、日本語に訳すと「死亡時画像診断」になります。わかりやすく言うと、人が亡くなった時にCTやMRIなどの機器を用いて画像撮影を行い、死因を特定するシステムです。海堂さんは、かねてより日本は「死因不明社会」であると指摘していますが、実際に1年間に警察が扱う「異状死体」のうち解剖によって死因が特定されるのは数パーセントにすぎません。本書には解剖が見落としてしまった小児虐待による死亡の実例が詳細に描かれていますが、そうした空白を埋めることが期待されるのがAiです。
 それならすぐに導入すればいいではないかと思いたくなりますが、そう簡単に事が運ばないのが日本社会。提唱者の海堂さんは、医学界の内外から様々な批判や攻撃を受けます。中でも常軌を逸していたのが本書で分析されている厚生労働省の公募科学研究で、理解不能なロジックでAiの有用性を否定しました。その異様さはぜひ本書でお読みください。
 死因も含めて、正しい「診断」を受けるために必要なものとは何なのか。そして、それを妨げているものは……闘う医師・海堂さんがキャリアの全てを投じて執筆した問題作です。

2016/04/27

著者プロフィール

海堂尊

カイドウ・タケル

1961(昭和36)年、千葉県生れ。医学博士。外科医、病理医を経て、現在は重粒子医科学センター・Ai情報研究推進室室長。2005(平成17)年、『チーム・バチスタの栄光』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、翌年、作家デビュー。確かな医学知識に裏打ちされたダイナミックなエンターテインメント作品で、読書界に旋風を巻き起こす。2008年、『死因不明社会』で、科学ジャーナリスト賞受賞。他の著書に『ジェネラル・ルージュの凱旋』『イノセント・ゲリラの祝祭』『ケルベロスの肖像』『極北ラプソディ』『スリジエセンター1991』『輝天炎上』『ジーン・ワルツ』『マドンナ・ヴェルデ』『ガンコロリン』『ほんとうの診断学』などがある。

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