ホーム > 書籍詳細:3・11から考える「この国のかたち」―東北学を再建する―

「東北」は未来の日本の姿だった。歩きながら考えた、人間と文明の行く末。

3・11から考える「この国のかたち」―東北学を再建する―

赤坂憲雄/著

1,296円(税込)

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発売日:2012/09/28

読み仮名 サンテンイチイチカラカンガエルコノクニノカタチトウホクガクヲサイケンスル
シリーズ名 新潮選書
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 206ページ
ISBN 978-4-10-603716-0
C-CODE 0339
ジャンル 社会学
定価 1,296円
電子書籍 価格 1,037円
電子書籍 配信開始日 2013/03/29

今まで何を聞き書きしてきたのか――。厳しい自己認識から再出発した著者は、土地の記憶を掘り返し、近代の残像を探りつつ、剥き出しの海辺に「来るべき日本の姿」を見出していく。津波から逃れた縄文貝塚、名勝松島の変貌、大久保利通が描いた夢、塩田から原発、そして再び潟に戻った風景……。日本列島の百年を問う渾身の一冊。

著者プロフィール

赤坂憲雄 アカサカ・ノリオ

民俗学者。1978年東京大学文学部卒業。1992年東北芸術工科大学助教授。東北文化研究センター設立後、1999年『東北学』を創刊。2007年『岡本太郎の見た日本』(岩波書店)でドゥマゴ文学賞受賞、2008年同書で芸術選奨文部科学大臣賞(評論等部門)受賞。2011年4月より学習院大学教授。福島県立博物館館長、遠野文化研究センター所長も務める。著書に、『東北学/忘れられた東北』(講談社)など多数。

書評

波 2012年10月号より 「東北」の記憶

津島佑子

昨年の三・一一前日、赤坂さんと私はある劇場で偶然、隣の席に坐り合わせていた。舞台では野田秀樹さんの芝居をやっていて、それは火山の噴火と天皇制をテーマにしたもので、火山噴火に伴う激しい地震をきわめてリアルに表現していた。翌日の午後、東日本大震災が起こり、巨大な津波が襲い、さらに福島第一原発事故までが起こるとは、よもや知らずにいた私たちは、芝居のあと、簡単な挨拶だけをして別れた。もちろん、それがどうした、と言われてしまいそうな偶然ではあるけれど、地震と津波に襲われたのがおもに東北の太平洋岸だったと知ってから、私の思いのなかで、「東北学」を提唱し、確立した赤坂さんと、よりによって三月十日の夜、ステージ上の地震の揺れを並んで見つめていたことに、ぞっとするような予兆を個人的に感じつづけているのも事実なのだ。
奥州、みちのくとも呼ばれてきた東北地方は私にとって、うとましさと愛着を同時に孕む場所だった。その理由は、自分自身の体の半分に「東北」があったからで、我が体を鏡で直視しなければならないような羞恥心がつきまといつつ、客観的にはこの日本列島を見るとき、「東北」を見なくて、なにがわかる、とも思いつづけてきた。それで赤坂さんがほぼ十数年前に提唱しはじめた「東北学」について聞いたとき、虚を突かれる思いがしたのだったし、応援したい気持でいっぱいになっていた。ヤマトに長いこと、抵抗しつづけてきた「東北」、そしてヤマトに結局のところ、負けつづけ、その怨念を静かに地層深くひめてきた「東北」、そうした背景ゆえ、今も日本の中央政権からなにかと軽んじられているんじゃないかとひとびとが鬱屈を感じている「東北」。そこには、ヤマトとべつの時間が流れ、べつの文化が生きていることを、「東北学」という概念は明瞭に顕在化させたのだった。
大震災後に書かれたこの新著では、津波に襲われた地域において、アニミズム的世界が民俗芸能としてまっさきに顔を出した、と記されている。鹿(シシ)踊りとか、相馬野馬追などの民俗芸能は「ヤマトの軍勢も蝦夷も、それゆえ敵も味方も、いや人間ばかりではなく、鳥獣虫魚、あらゆる命あるものたちの鎮魂と供養のために」伝承されてきた。そして東日本大震災において、「ほかならぬ二万人の死者・行方不明者こそが、鎮魂の業としての祭りや民俗芸能を欲していた」。だからまず、民俗芸能がよみがえったのだ、と。
そうした土地はしかし現実には貧しさに苦しめられた挙げ句、原発立地となり、放射能被害を受け、近代文明の限界を示す結果となってしまった。とはいえ土地の記憶は生きつづける。日本の未来は「東北」を見つめ直すことからはじまる、とこの本は静かに強く主張する。鎮魂と希望がこめられた貴重な一冊の本が、ここに誕生した。

(つしま・ゆうこ 作家)

目次

序章
新章東北学
歩きながら考えた一年間の記録(二〇一一年六月~二〇一二年三月)
答えなんかいらない。と思う/時給三百円の世界があった/災いの風を恵みの風に転換するために/三陸の文化復興のために本を集めよう/傷ついた福島は脱原発を求めている/飯舘村で前向きに生きる/はたして福島は終わったのか/精神の拠りどころとしての神や仏/五十年後の未来をいかに語るか/他者へのイマジネーションを回復する/弱き人々こそ、あらかじめ安全な場所に/見えない分断を越えて出会うために/野生の汚れた王国が生まれている/無主物や寄り物のフォークロア/母は息子に、津波てんでんこを教えた/鎮魂の民俗芸能が次々に復興した/もう海のそばには住まない、という/潟としての再生ははたして可能か/災厄の記憶は浄化されねばならない/大丈夫だ、きっと立ち直るから
東北学第二章への道
I 東北に刻まれた近代の「夢」 野蒜~松島湾
記憶を呼び返しながら/時の試練に堪えた場所に/島は老いて砂上の丘となる/幻の築港という記憶を抱いて
II 海辺の幽霊譚 『遠野物語』を手に、宮古から山田、大槌、田ノ浜へ
遠野物語が呼び返される/吉里吉里と坂と狐と/男は幽霊の妻に出会った/死者と和解するために
III 縄文の痕跡、命の循環 南三陸町の鹿踊りと海辺の心性
海辺のムラに、鹿踊りがよみがえる/生きとし生けるものの命のために/開発と災害をめぐる歴史のなかへ/海に殺され、海に生かされる
IV 泥の海へ、あらたな入会地の思想へ 南相馬市小高
泥の海が震災の原風景になった/津波に洗われたムラの歴史を辿る/失われた潟や浦の風景をもとめて/入会地の思想が復権されねばならない
あとがき

担当編集者のひとこと

3・11から考える「この国のかたち」―東北学を再建する―

「東北」を歩くことは、日本を考えること 3月11日の余震もさめやらぬ六月下旬のこと。『産経新聞』に掲載された赤坂憲雄さんの文章に、目が吸い寄せられた。
「いままで自分は、何を聞き書きしてきたんだろうと思いました。東京からは絶対に見えない東北があるのかもしれない。(略)そうした埋もれている東北をあらためて掘り起こすことから始めなければいけないと感じています。東北は十分に豊かになったはずでした。油断していました。東北のルサンチマンはもはや語る意味がないというのが、わたしの最近の偽らざる思いだったのです。」
 赤坂さんは長年東北をフィールドワークし、自他共に認める「東北学」の旗手だ。学問的実績も自負もあるはずの学者が、自分の立脚点に根本から疑問を抱き、正直に動揺を吐露している。この厳しい自己認識は、一冊の本を貫くモチーフになりうるのではないか……。そう思ったのだ。最初にお会いしたとき、赤坂さんは言った。
「地震と津波によって、三十年かけてゆるやかに起こるはずだった変化が一気に目前の出来事となりました。人口八千万人の日本列島では、自然はこれまでの人間の生活圏を深く侵してくる。しかも『汚染とともに生きる』という困難なテーマがかぶさっている。3・11以前と以後をつないで、ジャーナリストとは違う視点で何が見えるか、歩きながら考え続けていきたい」
 赤坂さんは猛然と東北を歩き始めていた。福島から北へ、岩手から再び南へ。海辺をたどり、内陸に足を延ばし、人に会い話に耳を傾ける。
「フィールドワークなんて綺麗な言葉じゃありません。自分には、ひたすら『歩く・見る・聞く』ことしかできない。露わになっている光景が、いったい何を意味しているのか。それを考え続けるしかない。答えなんかないと思います」
 時給三百円の労働環境に衝撃を受け、もう海のそばには住まないという呟きを聞き取る。人気のない集落、放射能に汚された野生の王国、無人地帯の黙示録的風景を歩く。
 一方、伝統芸能が次々に復活し、いたるところに急ごしらえの鳥居が立つ。鎮魂と祈りの聖地が生まれ、神仏が精神の拠りどころになる。不思議な幽霊譚が今も語られ、『遠野物語』の世界が昔話でないことを思い知らされる。大津波が根こそぎ洗った土地に、近代の開発の歴史を見出し、津波が及ばなかった地域に縄文の貝塚を発見する。
 こうして土地の記憶を掘り返していくにつれ、「東北」が「近代日本」の影を背負ってきたことが見えてくる。それは、敗者の精神史であり、海辺の心性であり、死者を悼みながら命の循環を生きてきた、日本人の精神性ではないか。
 赤坂さんは書く。
「山野河海という広大な自然の領域を分割し、個人の所有に帰してきた近代の開発の論理が、限界をさらしている」
 文明と自然の新たな境界再編。そのための新しい思想は何か。東北が提示している問いは何か。二百頁ほどの小さな本だが、日本の未来を考える手掛かりが、ぎっしり詰まっている。

2016/04/27

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