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国家と経済と私たちの行く先は? 21世紀必読の税金論!

私たちはなぜ税金を納めるのか―租税の経済思想史―

諸富徹/著

1,512円(税込)

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発売日:2013/05/24

読み仮名 ワタシタチハナゼゼイキンヲオサメルノカソゼイノケイザイシソウシ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 302ページ
ISBN 978-4-10-603727-6
C-CODE 0333
ジャンル ビジネスの法律、法律
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2013/11/22

市民にとって納税は義務なのか、権利なのか? また、国家にとって租税は財源調達手段なのか、それとも政策遂行手段なのか? 17世紀の市民革命から21世紀のEU金融取引税まで、ジョン・ロックからケインズそしてジェームズ・トービンまで――世界の税制とその経済思想の流れを辿り、「税」の本質を多角的に解き明かす。

著者プロフィール

諸富徹 モロトミ・トオル

1968年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、京都大学大学院経済学研究科教授(専攻は財政学、環境経済学)。著書に『思考のフロンティア 環境』『ヒューマニティーズ 経済学』(岩波書店)、『環境税の理論と実際』(有斐閣)があり、共著に『所得税の理論と思想』(税務経理協会)、『低炭素経済への道』(岩波新書)などがある。

目次

第一章 近代は租税から始まった――市民革命期のイギリス
戦争と税金
ホッブズとロックの租税論
史上初の所得税
アダム・スミスの消費税反対論
第二章 国家にとって租税とは何か――十九世紀ドイツの財政学
国家と個人は一心同体
ロレンツ・フォン・シュタインの租税理論
アドルフ・ワーグナーの国民経済論・租税論
国家主導の功罪
第三章 公平課税を求めて――十九・二十世紀アメリカの所得税
所得税の成立と廃止 一八六一~七二
共和党 vs. 民主党 一八七三~九四
所得税をめぐる複雑なる闘い 一八九五~一九一三
税の「主役」交代 一九一四~二六
戦争、民主主義、資本主義
第四章 大恐慌の後で――ニューディール税制の挑戦
世界大恐慌はなぜ起こったか
史上最強の政策課税
「政策手段としての租税」再考
第五章 世界税制史の一里塚――二十一世紀のEU金融取引税
資本主義経済システムの変貌
トービン税とは何か
EU金融取引税の挑戦
第六章 近未来の税制――グローバルタックスの可能性
世界の税制にいま何が起きているのか
国際課税のネットワーク
グローバルタックスの現在と未来
終章 国境を超えて
参考文献
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

波 2013年6月号より 【インタビュー】世界の税制四〇〇年史から、現代社会を見つめ直す

諸富徹

   戦争は所得税の生みの親

――税金とは何か? これが本書の大テーマですが、私たち日本人はふだん、この問題をあまり真剣には考えていないのではないでしょうか。しかし本書を読むと、税金というのが非常に奥の深いテーマであることがよく分かります。
一般に「税金」という言葉には、消極的で強制的なニュアンスが伴いがちです。とりわけ現代の日本人にとっては、「納める」とか「支払う」といった感覚よりも、「取られる」というイメージが強いかもしれません。しかし、そんな消極的な「納税」感覚や、政府・官僚による恣意的な「課税」感覚からいったん距離を取って、税とは何か、世界の税制は歴史的にどう形づくられてきたかを考えていくと、いろんなことが見えてくる。たとえば戦争や革命といった歴史上の大変動と、税の問題は深く係わっています。十八世紀のアメリカ独立戦争のきっかけとなったボストン茶会事件は「茶税」導入に対する反発から始まったものですし、フランス革命にしても、財政危機に陥ったルイ王朝が課税に対する同意を取り付けようとしたところ、第三身分の反乱が起きたことがその契機となりました。
――戦争と税金は縁が深いのですね。
戦争を起こすのも財政危機に見舞われるのも国家ですが、その国家にとって租税収入はなくてはならない財源です。「国」というものは「税」なしには生きていけません。国家は自ら税収を生み出すことが出来ませんから、外から、つまり私たち国民から調達しなければならない。権力によって個人の私有財産や企業の利益に介入し、強制的に課税し徴収せざるを得ない。昔も今も、戦争には莫大な経費がかかります。国家はそれをどう賄えばよいのか。いちばん手っ取り早いのが、増税や新税の導入です。所得税を例にとるなら、これを世界で初めて導入したのはイギリスでした。一七九九年のことです。ドイツは一八〇八年、アメリカは一八六二年、そして日本は一八八七年。イギリスとドイツは対ナポレオン戦争によって必要となった戦費調達や戦債償還のため、アメリカは南北戦争の戦費調達のために所得税という新税を導入した。七年後に日清戦争をむかえることになる日本も軍備拡張、とりわけ海軍費の膨張を賄う必要がありました。戦争は所得税の生みの親とさえ言える。
――本書ではグラフで示されていましたが、南北戦争(一八六一~六五)当時のアメリカの総税収の伸びは凄いですね。
戦争が始まった一八六一年には五〇〇〇万ドルにも満たなかったのに、所得税が導入されて「内国消費税」も増税された六二年から、角度でいうと六〇度くらいの右肩上がりになって、終戦の翌年には六億ドルに迫るほど租税収入が増大しました。戦争にはいかに金がかかるかを思い知らされます。さらに興味深いのは、総税収のうち、関税収入が占めていた割合。開戦直前の一八六〇年には約九五%にも達していたのに、所得税導入の六二年を境に激減し、終戦時には三〇%を切っている。戦争が税制の構造自体を変えてしまうこともあるわけです。

   納税は義務か、権利か?

――副題に「租税の経済思想史」とありますが、そのあたりがこの本の、従来の税金論とは一線を画した特色のひとつなのでしょうか?
税金に関する一般読者向けの書物としては、たしかに異色の構成かもしれません。時間の幅を広くとっています。十七世紀の近代の始まりから二十世紀の現代へ、そして来年一月にも導入されるEUの金融取引税、またもっと先の「近未来の税制」についてまで論じてしまいましたから(笑)。でも実際、世界の税制四〇〇年史を辿ることから、現代社会のあり方を見つめ直し、資本主義経済の未来を展望することは充分に可能だと思っています。税という視点に立ったときにこそ、国家や経済のあり方、さらにはそれぞれの国民性のようなものまで、より鮮明に見えてくる。たとえば、世界の税制と租税思想の移り変わりを追っていて興味深いのは、現代の日本とは異なる税金感覚というか、租税観に出会うことです。
――私たちの感覚では、「税金とは渋々、仕方なしに納めるもの」というのが、正直なところかもしれません。
そう、税金は「義務」というイメージがある。ところが、十七世紀のイギリスでは「市民自らが税を積極的に負担し、それを財源として自分たちの社会を支えていくのだ」という自発的な納税倫理が芽生え、いわば「権利」としての税金という考え方が形づくられていきました。その背景に、絶対王政から近代市民社会へという大きな歴史的転換(いわゆる市民革命)があったことは言うまでもありません。一方、ドイツでは十九世紀になっても、税金を「義務」とする感覚が根強く残ります。
――それはなぜかという謎解きは本書第二章の叙述に譲るとして、日本の場合はなぜ「義務」感が強いのでしょうか?
そもそも市民革命を経験せず、市民自らの手で近代国家を創出したという意識が薄いので、その国家のために必要な財源を積極的に担おうという倫理観は育ちにくかったのでしょうね。また、総じて日本における税制のグランドデザインは、明治期の所得税導入にせよ、第二次世界大戦後のシャウプ勧告にせよ、「上から」あるいは「外から」来たものでした。欧米先進国の税制を国家が輸入して定着させ、私たちはそれを既成事実として受け入れてしまう。市民があるべき税制の形を「下から」要求し、議会で多数派をとることによって、税制改革案を実現していくというスタイルを取ってこなかった。たとえば十九世紀後半から二十世紀初頭にかけてのアメリカで、所得税のあり方をめぐって共和党・民主党の二大政党間で繰り広げられたような熾烈な政争とは、およそ無縁だった。
――その政争については第三章で詳しく紹介されていますが、タフト大統領とオルドリッチ上院議員の駆け引きなど、まるで政治物のノンフィクションを読んでいるような緊迫感があります。
共和党がアメリカ北東部の産業資本家、民主党が南部・西部の労働者や農民の利害をそれぞれ代表するような形で激突した。現代アメリカの二大政党制の原型はあの時期に、税の問題を大きな契機として出来上がったのです。

   税と国家と資本主義

――本書はたしかに「税金論」なのですが、とくに二十世紀と二十一世紀の税制を扱った第四章以降の後半部分は、「国家論」や「資本主義論」としても読めるところが面白いですね。
繰り返しますが、国家は租税収入なしには生きていけません。ですから、税とは何か、より良い税制とは何かという問いは、国家とは何か、どうあるべきか、たとえば市場経済にどこまで介入すべきなのか、そもそも資本主義的な経済システムとは何か、どうあるべきかという問いにまで、どんどんつながっていく。また、国家は課税権力を行使して、企業の利益や市民の私有財産に強制的に介入してゆくわけですが、これは別の見方をするなら、税こそが国家と経済と私たち市民をつないでいる、と考えることもできるわけです。
――そんなふうに税金のことを考えたことはありませんでした。でもたしかに本書のように、税制や租税思想という視点から眺めると、現代社会の流れがとても明瞭に見えてくるような気がします。
たとえば二十世紀資本主義の年来の課題ともいえる富の再分配問題は所得税の累進構造に、一九二九年の世界大恐慌の折にひとつのピークを迎えていた独占・寡占企業の問題は法人税率に、あるいは一九七〇年代以降の多国籍企業による資本の海外移転の問題は国際課税のあり方に、そして二〇〇八年のリーマンショックに象徴される投機的な金融経済の問題はEU金融取引税に……という具合に、資本主義経済の諸問題は必ずといってよいほど税とむすびついています。そこで注目すべきことが二つあります。一つは、つねに経済の足取りのほうが早いこと。
――資本主義経済のあり方は変貌してやまず、たしかに国家による税制改革はその後追いになりがちのようです。
さらに注目すべきは、経済のグローバル化と投機的な金融経済の進展に、もはや国家レベルの税では追いつけなくなり始めていることです。一九八〇年代以降、先進諸国では所得税のフラット化(累進税率の平坦化)と法人税の引き下げが進みました。富裕層に高税率をかけると所得の海外移転が行われ、法人税率が高いと企業が海外に逃げてしまうからです。しかし、国家が出来るのはそのあたりまで。租税回避地(タックスヘイブン)を利用した多国籍企業の節税対策や、金融工学や高性能コンピュータを駆使した国際的な投機取引に対しては、一国単位での対応では太刀打ちできません。
――すると、どうなるのでしょう?
一国単位ではない税制、国民国家という枠組みを超えた税金、つまり「グローバルタックス」(究極的には「全世界共通の課税」)の時代へと移っていくはずです。その本格的な試みの一つがEU加盟国のうちドイツ、フランスなど十一カ国が共同して来年にも導入する金融取引税です。金融取引による利益に対してではなく、損得にかかわらず一回ごとの取引にそのつど課税することによって、国際的な投機取引を抑制しようというのです。その課税権力の主体はもはや特定の一国ではありません。EUという超国家機関へとレベルが上がった。世界の税制の最先端は、すでに国境を超え始めているのです。そこから翻ってみると、先ごろ発表された自民党・安倍政権の二〇一三年度税制改正は旧態依然というか、目先の景気浮揚のための減税措置の羅列となり、往年の利害調整的税制改正へと後戻りしたような印象を受けます。経済のグローバル化と少子高齢化の傾向が、今後ますます加速してゆくことは明らかです。それに対応し得る税制の新たなグランドデザインを急がねばなりません。税制のあり方は私たちが生きる社会の行方を左右しかねないほど重要な問題です。本書をきっかけとして、読者=納税者のひとりひとりが、税金について積極的な関心を抱いていただければと願っています。

(もとろみ・とおる 京都大学大学院経済学研究科教授)

担当編集者のひとこと

私たちはなぜ税金を納めるのか―租税の経済思想史―

税金について考えると、いろんなことが見えてくる 私たちは日々、税金を納めながら暮らしています。消費税のことを考えるなら、一日に何度も納めているくらいです。でも、なぜ納めるのか? あらためてこう問われると、即答できずに面喰らってしまう人は少なくないのではないでしょうか。
「戦争と税金」の話から本書は始まります。ごく簡単に言うと、国家が戦争を起こす→戦争には莫大な経費がかかるけれど、国家は必要な資金を自ら生み出せない→増税や新税導入によって、その経費を私たち国民から調達せざるを得ない、というわけです。もちろん戦争は極端な例ですが、税金について考える際に大切なひとつのポイントは、たとえ平時であっても、「国」は「税」なしには生きられないということです。ここから、いろんなことが見えてきます。つまり、税とは何か、より良い税制とは何かという問題は、国家とは何か、どうあるべきか、たとえば市場経済にどこまで介入すべきなのか、そもそも資本主義的な経済システムとは何か……といった問題に係わってゆくのです。
 十七世紀イギリスの市民革命期における積極的な納税倫理から、二十一世紀のEU金融取引税まで――著者は世界の税制四〇〇年史とそれを支えた経済思想の流れを辿りながら、現代社会の成り立ちを明確に捉えなおし、資本主義経済の近未来まで展望してみせます。現代の日本人は「税とは仕方なしに納めるもの」と、まるで必要悪のようにさえ思いがちですが、国家の財政危機が日常化したような今こそ、税金についてじっくり考えをめぐらせる良い機会かもしれません。本書がその一助になればと願っています。

2016/04/27

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