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とても変なのに、たまらなく面白い! 茂吉短歌の怪物的魅力を読み解く。

斎藤茂吉 異形の短歌

品田悦一/著

1,404円(税込)

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発売日:2014/02/21

読み仮名 サイトウモキチイギョウノタンカ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 255ページ
ISBN 978-4-10-603741-2
C-CODE 0395
ジャンル 詩歌
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,123円
電子書籍 配信開始日 2014/08/29

茂吉の短歌は素朴なリアリズムではけっして理解できない。その本質は大胆な造語、文法からの逸脱、日常がそのまま非日常と化してしまう異様な写生術にこそある。にもかかわらず、代表作「死にたまふ母」が現代国語の定番教材となったのはなぜか。茂吉ワールドの謎を、教科書的鑑賞から遠く離れて、平易かつ精緻に解き明かす。

著者プロフィール

品田悦一 シナダ・ヨシカズ

1959年群馬県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得修了。現在、東京大学教授(大学院総合文化研究科)。著書に『万葉集の発明――国民国家と文化装置としての古典』(新曜社)、『斎藤茂吉―あかあかと一本の道とほりたり―』(ミネルヴァ書房)があり、共著に『古典日本語の世界――漢字がつくる日本』(東京大学出版会)などがある。

書評

波 2014年3月号より 鑑賞の力、説得される喜び

俵万智

〈素敵に「変」な歌が目白押し〉、〈珍奇な措辞や不自然な語法〉、〈歪んだことばづかいの数々〉、〈因果関係の把握が常軌を逸し〉、〈余人の追随を許さない歪んだ表現〉……これらがすべて、斎藤茂吉の短歌を評したものと聞いたら、多くの人は驚くだろう。生真面目な茂吉ファンだったら、不愉快に思うかもしれない。が、著者は、心からの敬意を持って、最大級の褒め言葉として、これらの表現を用いている。奇を衒うのではなく、むしろテキストに対して、これ以上ないほど忠実に寄り添った鑑賞。読み進むうちに、これらの評言に説得される喜びは、はかりしれない。
一般的に歌人茂吉を有名にしているのは「死にたまふ母」だ。しかし、戦前の教科書では、さほど採用されてはおらず、戦後になって圧倒的な割合で登場するようになる。その経緯を丁寧に追いながら、著者が出した結論は「完璧な道徳教材」「教育的配慮というバイアス」だった。このようなバイアスはある意味、文学作品としての「死にたまふ母」への冒涜とも言えるだろう。教育現場での鑑賞のありかたも、いきおい表面的で偏ったものになる。
本書の圧巻は、第三章。『「死にたまふ母」を読み直す』だ。一首一首、予断と偏見を持たず、ひたすら言葉に即して読み解いてゆく。この作業は、道徳教材から文学作品へ、一連を取り返すことでもあるだろう。時おり引用される「学習の手引き」や教師用指導書への、ちくちくした反論も見どころだ。
有名すぎてわかったつもりになっていたあの歌、この歌に、まだまだこんな奥深さと不可思議さと魅力があったのかと、何度も揺さぶられた。
はるばると薬をもちて来しわれを目守りたまへりわれは子なれば
寄り添へる吾を目守りて言ひたまふ何かいひたまふわれは子なれば
なぜ「母」という語をつかっていないのか。結句「われは子なれば」の倒置法の必然性。私自身、なんとなくこういう歌だと思って通り過ぎていた二首だったのだが、著者の評を読んだ後には、泣けて泣けてしかたなかった。これこそ鑑賞の力というものだろう。
「万葉集」に精通している著者ならではの、茂吉と万葉集との関わりへの見方も、まことに興味深い。「万葉調」は、けっして万葉の歌境に接近する手立てではなかったという指摘。万葉語の創造という刺激的な見解。「万葉の伝統の体現者」という役を演じきった茂吉。このあたりを詳しく論じたのが前著『斎藤茂吉』(ミネルヴァ書房)だった。その「別途一冊」として生まれた本書の「あとがき」には、学生のユニークな「死にたまふ母」レポートが多数あったが収められなかったとある。次はぜひそれを、「別途一冊」で読んでみたい。

(たわら・まち 歌人)

目次

はじめに
第一章 「ありのまま」の底力――茂吉の作詩法
たまらなく変な茂吉の短歌
写生という不思議
第二章 一人歩きする世評
茂吉の生涯
国語教材としての茂吉短歌
第三章 「死にたまふ母」を読み直す
第四章 茂吉の怪腕――作詩法補説二題
巳然形で止める語法
声に出さずに読みたい日本語

参考文献
あとがき

担当編集者のひとこと

斎藤茂吉 異形の短歌

たまらなく変な短歌の魅力 はじめて短歌と出合ったときのことを覚えていますか? 
 先日、短歌のある新人賞を受賞した歌人は小学生のころに俵万智の作品と出合ったと述べていましたが、これはやはり早熟な例外でしょう。多くのひとは中学・高校時代に現代国語の教科書で出合った、あるいは出合わされた記憶があるのではないでしょうか。では、教科書にはどんな歌人の、どんな歌が載っていたか。斎藤茂吉の次の二首が載っていた可能性が非常にたかい。


 のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳ねの母は死にたまふなり
 死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる


 戦後の高校用国語教科書でいちばん頻繁に登場する近代歌人は茂吉です。一九五〇~二〇〇二年の検定済教科書一八二九点に、のべ一五二二首もの短歌が掲載されていて、この数は断トツ。第二位の石川琢木をおおきく引き離しています。そして、茂吉短歌のなかでも、「死にたまふ母」連作五九首のうちの右の二首は、必ずといってよいほど教科書に採られている。著者の品田さんはこう述べています。「私も高校で右の二首を習った口ですが、『最愛の母に死なれた痛恨をありのままに歌い上げた』という先生の解説には、なにやら道徳的な臭気――誠実さの押し売りのような胡散臭さを感じ、ほかの作も読んでみたいという気は起きませんでした」。ああ、なんだかそんな記憶がある、と思った方はぜひ本書を手に取っていただきたい。「ほかの作も」読んでみたくなるはずですから。
 茂吉短歌の謎と魅力はむしろ不道徳的なところ、著者によれば「素敵に『変』な歌が目白押し」のところにありました。大胆な造語、文法からの逸脱、日常がそのまま非日常と化してしまう異様な「写生」術。本書はそんな独特の作詩法に着目しながら、素朴なリアリズムや国語教科書的鑑賞ではけっして味わえない、茂吉短歌のたまらなく変な面白さを平易かつ精緻に解き明かしていきます。「死にたまふ母」連作を一首一首ていねいに読み直していく手際も見事ですが、なぜ、そしていつから茂吉短歌が国語の定番教材となっていったのかをめぐる謎解きも鮮やか。
 ただし、ことは斎藤茂吉に限りません。本書を読み終わるころには、そもそも短歌との出合い方、この三十一音という短い詩形の読み方が、今までとはきっと違ってくるのではないかと思います。

2016/04/27

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