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同じ日本語なのに、江戸時代と現代では、なぜこんなにも違うのか?――

日本語のミッシング・リンク―江戸と明治の連続・不連続―

今野真二/著

1,512円(税込)

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発売日:2014/03/28

読み仮名 ニホンゴノミッシングリンクエドトメイジノレンゾクフレンゾク
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 303ページ
ISBN 978-4-10-603744-3
C-CODE 0381
ジャンル 言語学
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2014/09/26

「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」――例えば、この芭蕉の言葉も現在の日本語とはずいぶん違う。では、いつ、どのように変化を遂げたのか? 「中間の時代」である明治期に注目し、「漢字・漢語=漢文脈」をキー・ワードに、その“断層”を探る。言葉が変りゆく現場を実感する、国語学のユニークかつ精緻なる冒険!

著者プロフィール

今野真二 コンノ・シンジ

1958年神奈川県生まれ。1986年早稲田大学大学院博士課程後期退学。高知大学助教授を経て、清泉女子大学教授。専攻は日本語学。主な著書に『仮名表記論攷』(清文堂出版、第30回金田一京助博士記念賞受賞)、『振仮名の歴史』(集英社新書)、『消された漱石―明治の日本語の探し方―』『文献から読み解く日本語の歴史』(笠間書院)、『文献日本語学』『「言海」と明治の日本語』(港の人)、『正書法のない日本語』(岩波書店)、『百年前の日本語―書きことばが揺れた時代―』(岩波新書)、『漢字からみた日本語の歴史』(ちくまプリマー新書)他、多数。

書評

波 2014年4月号より 明治の日本語を虫瞰し、変化を体験する

円満字二郎

時代の変化を指摘することは、たやすい。しかし、時代の変化について具体的に語ることは、存外にむずかしい。ある時点とある時点とのものごとの違いはだれの目にも明らかであっても、その違いがいつ、どこで、どのように生じたのかは、注意深い者の眼にしか映らないからである。
芭蕉や西鶴、近松が使った日本語と、われわれが使っている日本語とは、かなり異なる。その違いが文明開化の明治に生じたというのは、多くの人が知っていることだろう。明治の二〇年ごろから始まった文語文から口語文への変化、いわゆる言文一致運動である。
とはいえ、明治という時代に、日本語には実際にどのような変化が起きていたのか? 本書では、近年、旺盛な著作活動をくり広げている日本語学者が、「漢字・漢語=漢文脈からの離脱」という視点から、この問題に果敢に挑んでいく。その方法を、著者は、「虫瞰」と呼んでいる。「鳥瞰」のように対象を高い所から眺めるのではなく、至近距離からじっくりと見つめるのである。
たとえば、福沢諭吉の処女作となった『増訂華英通語』という幕末の英語辞書では、Custom houseを説明するのに、まず「関津」という漢語(古典中国語)が示され、そこに「税関」という日本語が結びつけられる。ここに見られる日本語と漢語の結び付きは、想像以上に深い。
明治に入ると、「漢語を和語でやわらげる」例が見られるようになる。一度、漢語を用いて訳した書物を、一般向けにするためにわかりやすく訳し直した丹羽純一郎訳『通俗花柳春話』には、そのことが具体的に現れている。
ただし、この時代の日本語の変化は、そう単純なものではない。大槻文彦の国語辞典『言海』では、原稿には存在していた「中和」「痛飲」「定説」など、現在ではふつうに使われている熟語項目が、印刷時に削除されている。これらは、辞書に載せるには時期尚早と感じられるような「やや新しい漢語であったということはないだろうか」と、著者は言う。漢語から和語へという流れの一方で、明治という時代には、現在につながるような新しい漢語も生み出されていったのである。
著者のこれまでの著作と同様に、本書が取り扱う文献は、広範囲にわたる。鴎外や漱石、二葉亭といった文豪の作品はもちろん、英和辞書や短歌、さらには都々逸などなど、ジャンルも多彩だ。そして、それぞれが豊富な図版で示されているのも、うれしい。
著者の微に入り細をうがつ読み解きを聞きながら、実際の文献を自分の眼で「虫瞰」してみよう。そうすれば、明治の日本語の世界と、そこに現れている具体的な変化とをじかに体験することができるだろう。

(えんまんじ・じろう 編集者兼ライター)

目次

はじめに
日本語のミッシング・リンクとはどういうことか/江戸時代の日本語と明治時代の日本語との連続・不連続/天保の老人/『日本外史』と『西国立志編』/『童子教』と『西国立志編』/『西洋事情』と『輿地誌略』/ミッシング・リンク探訪の旅
序章 江戸の教育における漢語・漢字
藩校・私塾・寺子屋/藩校での教育/漢字平仮名交じり文という器/左右両振仮名/明治の中の江戸/字順が現代と異なる漢語/寺子屋の教育/商売往来/世話千字文/江戸期の日本語と教育
第一章 明治初期――漢洋兼才の人々
『[蟹字/混交]漢語詩入都々逸』/大槻文彦と英学/開成所のテキスト――渡部温の『地学初歩』/『康熙字典』の校訂をした渡部温/縦書きと横書きとの混在/福澤諭吉『増訂華英通語』/「ヴ・ワ゛」の使用/俗語ということ――『西洋事情』の序/『玉篇』『雑字類編』を使うべからず/漢字制限論・日本的漢字使用/中村正直『西国立志編』/『西国立志編』の左振仮名
第二章 通俗と訓蒙――漢文脈からの離脱
鴎外の日記/文字社会の拡大/振仮名付きの布達/漢字制限論/清水卯三郎の「平仮名ノ説」/矢野龍渓の『日本文体文字新論』/五つの文体/丹羽純一郎訳『[欧洲/奇事]花柳春話』/『通俗花柳春話』――通俗という形式/『訓蒙日本外史』/『[言文/一致]通俗古事記』
第三章 仮名専用論者がつくった近代国語辞書
かなのくわい/近藤真琴と『ことばのその』/二種類の辞書/平仮名と片仮名 物集高見と『ことばのはやし』/語によって語の説明をする辞書/近代的な国語辞書の誕生/『言海』の語釈/和語と漢語との結びつき/『言海』が見出し項目とした漢語、しなかった漢語/『俗語辞海』/「漢用字」/語釈中の漢語
第四章 洗練されていく英和辞書
『英和対訳袖珍辞書』が作られた頃/現存する『英和対訳袖珍辞書』十五本/『英和対訳袖珍辞書』の概観/草稿から印刷(初版)へ/『英和対訳袖珍辞書』のその後/横書きになった語釈/ロプシャイト『英華字典』の翻訳版/英華字典からの離脱/吉田賢輔編『英和字典』の訳語/『英華和訳字典』の和訳/『附音挿図英和字彙』初版の訳語――英華和訳字典の影響度/『附音挿図英和字彙』第二版の訳語/『附音挿図英和字彙』第二版再版の訳語
第五章 言文一致――今、ここのことば
物集高見『言文一致』/物集高見の言文一致/二葉亭四迷の言文一致/雅俗辞書 青山霞村の言文一致短歌/『俗語雅調』/山田美妙の言文一致/『嘲戒小説天狗』はどのように書かれているか/山田美妙の新体詩/巌谷小波『[三十年目/書き直し]こがね丸』
終章 森鴎外と夏目漱石
句読点・段落表示/鴎外の漢字使用/五歳の差/漱石の低徊趣味/夏目漱石の言文一致
おわりに
あとがき

担当編集者のひとこと

日本語のミッシング・リンク―江戸と明治の連続・不連続―

日本語の“断層”は明治三十七年にあり!「ミッシング・リンク(失われた環・鎖)」とは、主に古生物学における用語で「進化の途上に位置する過程で発見されていない中間形の化石」のことをいいます。それが広く人口に膾炙し、「連続性が期待されている事象において非連続性が観察される場合、その顕著な間隙」のこととして使われる言葉です。その「ミッシング・リンク」を、あえて日本語に当てはめて考えてみようと試みたのが本書です。
 著者の今野真二氏は、万葉の時代から日本語の表記を時代毎に追い、その多様性を俯瞰的な視点から研究する日本語学者です。その研究アプローチは、ちょうどフランスのアナール派の歴史学者フェルナン・ブローデルに似ているかもしれません。ブローデルは、ヨーロッパの歴史を戦争や国家の成立といった短いスパンではなく、地中海という広い地域に着目して、「歴史の表面に現れる現象ではなしに、深部において長期にわたり持続している現象に注目する」という観点で、新しい歴史学を打ち立てました。その「地中海」と同じように、今野氏は「日本語」を長いスパンでとらえようとしているのです。
 そんな今野氏が、常々不思議に思っていたことがありました。それは「同じ日本語なのに『源氏物語』はもちろん、江戸時代の井原西鶴や松尾芭蕉にしても、なぜ現代語とはまるで違うのか」という素朴な疑問です。つまり「日本語の連続と不連続の〝断層〟は、いったいどこにあったのか?」と……。
“断層”を解く鍵は、「漢字・漢語=漢文脈」にありました。「日本語の歴史」とは「漢字を使い続けてきた歴史」であり、その決定的変化が起こったのが明治期であるというのです。維新によって初めて「国家」が意識され、それまでバラバラだった言葉を統一した「国語」としようという動きが生まれてきます。そして言文一致などが意識され、体系化した「国語」が完成するのは、日露戦争に臨み日本が国家としての自信を深めた明治三十七年頃ではないかと見抜きます。今野氏はそのことを、福沢諭吉、鴎外、漱石などの作品はもとより、明治期の漢和辞典や英和辞典など様々なテキストを精緻に検証し、実証していくのですが、その謎ときはまるでミステリー作品を読むような面白さです。

2016/04/27

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