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「空間」から読み解く世界史―馬・航海・資本・電子―

宮崎正勝/著

1,540円(税込)

発売日:2015/03/27

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「空間革命」という独自の歴史観から、五千年の人類史を一気に俯瞰!

乾燥地帯で始まった穀物栽培、騎馬による異文化統合、大陸を結ぶ大西洋支配、地球規模の産業革命、そして無限大のネット空間……人は自らの活動空間を拡大していくことによって進化を遂げる。時間軸からではなく、六つの「空間革命」という枠組みによって文明誕生から今日までを通観してみると、全く新たな世界史像が現れてきた!

目次
はじめに
第一章 人類の誕生から最初の空間革命へ
第一節 全てはアフリカ大地溝帯から始まる
第二節 最初の空間革命
第三節 対照的だったエジプト文明とメソポタミア文明
第四節 商業的インドと政治が宗教を抱え込んだ中華世界
第五節 人類の枢軸時代
第二章 ウマと戦車による諸地域世界の創造
第一節 第二の空間革命は西アジアから
第二節 対峙するリヴァイアサンとビヒモス
第三節 乾燥地帯から湿潤地帯に中心を移したインド世界
第四節 再生を繰り返す中華帝国
第三章 騎馬遊牧民によるユーラシアの一体化
第一節 第三の空間革命と文明の東西交流
第二節 ヒトコブラクダが誕生させたイスラーム帝国
第三節 ユーラシア規模の商業圏の成立
第四節 遊牧トルコ人の世界参加
第五節 モンゴル人によるスーパー帝国の建設
第四章 ユーラシア帝国の崩壊と「小さな世界」の再編
第一節 空中分解したユーラシア商業圏
第二節 イスラーム空間の多様化
第三節 伝統に回帰した明と最大の中華帝国・清
第五章 大西洋と大森林地帯での空間革命の胎動
第一節 ヨーロッパ大西洋岸の活性化
第二節 北の大森林地帯を統合したロシア帝国
第六章 分水嶺となる大航海時代
第一節 世界史の新しいエンジンとなった大西洋
第二節 海洋時代へのトレンドを育てたポルトガル
第三節 第四の空間革命と大西洋の開拓
第四節 アメリカ大陸を飲み込んだスペイン
第五節 大西洋空間の枠組みを築いたオランダ
第六節 初めて本格的な海洋国家に転身したイギリス
第七章 大西洋空間とつながる産業革命と市民革命
第一節 サトウキビ・プランテーションと資本主義経済
第二節 産業革命と第五の空間革命
第三節 地球を巡る動く道路
第四節 大西洋を囲む国民国家
第八章 ヨーロッパの膨張
第一節 イギリスと新たな国際金融制度
第二節 海洋空間が育てた「大きなヨーロッパ」
第三節 「大きなヨーロッパ」とアジアの諸帝国の衝突
第四節 「大きなヨーロッパ」に組み込まれる東アジア
第五節 帝国主義時代とイギリスとドイツの対立
第六節 太平洋への進出を目指すアメリカ
第七節 「大きなヨーロッパ」に飲み込まれたアフリカとオセアニア
第九章 グローバル化する世界
第一節 第一次世界大戦と一九世紀秩序の崩壊
第二節 「大きな世界」を瓦解させた世界恐慌
第三節 アメリカの経済覇権と冷戦
第四節 世界企業の一般化と地球空間秩序の転換
第五節 第六の空間革命と多様化する世界
おわりに
参考文献

書誌情報

読み仮名 クウカンカラヨミトクセカイシウマコウカイシホンデンシ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 304ページ
ISBN 978-4-10-603763-4
C-CODE 0322
ジャンル 世界史
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,232円
電子書籍 配信開始日 2015/09/11

書評

大人の学び直しに勧めたい骨太の世界史論

山下範久

 歴史における、いわゆる「横のつながり」の視角は、大学受験の科目に世界史を選ぶ学生ならば、当然に意識して勉強する程度にはポピュラーな主題である。歴史を大づかみに見るうえでも重要な見方であり、そうした視角がウリの教科書や参考書も出ている。
 だが多くの場合、そういうときの「横のつながり」は、特定の時点における何らかの縦のつながりの単位――依然としてしばしば国民国家に投影されているのだが――の間の同時代的な関係を見るということ以上のものではない。それで必ずしもいけないわけではないが、その時前提になっている縦のつながりの単位がどのようにして構成されたものなのか、どうしてその単位をまたぐ横のつながりが大事なのかという反省を欠くようになると、歴史を大づかみにする力は削がれ、ただ「横のつながり」の事実だけを表面的に確認して回るような瑣末主義に陥りがちとなる。結果、最近では「横のつながり」云々にやや食傷を感じる読者も少なくないようだ。
 そこへ横の視点が持つ本来の意義を思い出させてくれるような作品が現れた。それが本書『「空間」から読み解く世界史―馬・航海・資本・電子―』である。その鍵概念は6つの「空間革命」だ。人間の空間に対する認識や態度は移動の技術(移動を可能にする技術と移動を不要にする技術)の様式によって大きく変わる。ウマを知らない人間にとっての大草原や船を持たない人間にとっての外洋は世界の果てであるが、ウマや船を操る人間にとっては同じ大草原や外洋がフロンティアとなる。インターネットの普及前後で私たちの空間感覚がいかに変わったかは言うまでもない。この移動の技術の革新がもたらす空間像の大きな変化が「空間革命」である。本書は(1)5000年前の大農業空間の形成、(2)2600年前のウマによる多元的な「地域世界」の形成、(3)1400年前の騎馬民族と商人ネットワークによるユーラシア世界の統合、(4)500年前の大航海時代を通じた近代世界システムの形成、(5)200年前の鉄道と蒸気船による地球空間の統合、そして(6)20世紀末からの電子空間の形成を6つの空間革命として捉える。個々の横のつながりではなく、いわば横のつながりの質の変化に注目する骨太の世界史論である。
 各時代について新しい定説を平易に解説しながら丁寧に包摂しつつ、ほぼ世界史の時空全体を俯瞰する本書は、従来のオーソドックスな世界史の知識にまで新鮮な意味づけを与えてくれる。多くの読者は、従来型の高校世界史の頭に張られた経糸に、美しく緯糸が通されていくような快感を覚えるだろう。読後にはグローバリゼーションの人類史の模様がくっきりと浮かび上がる。これまで数々の啓蒙書を書いてきた著者の文体は実直で読みやすい。受験を控えた高校生にも十分読めるが、むしろ大人の学び直しに強く勧めたい。

(やました・のりひさ 立命館大学教授)
波 2015年4月号より

担当編集者のひとこと

「世界史」の教科書では味わえないダイナミックな通史の提案

 2015年8月に文部科学省が出した次期学習指導要領案によると、2022年より「世界史」は高校での必修科目ではなくなる可能性があるといいます。現在行われている「世界史」が暗記中心に偏りがちなことを苦慮し、もっと今日的な意味を持つ、「日本史」「世界史」を融合した近現代史を中心とする「歴史総合」という新たな科目を必修に設けたいとしています。確かに年表に沿って西洋史、東洋史の5000年からの歴史を駆け足で学んだ高校の授業は、少々退屈で苦痛だった記憶があります。ただ、だからといって決して「世界史」に興味がないわけではない、むしろ現代を生きるために古今東西、先人たちの知恵を有意義に学びたい……そう思う諸兄は、案外多いのではないでしょうか。書店に行けば歴史書のコーナーは大賑わい、ウィリアム・マクニールの『世界史』、あるいは『やりなおし高校世界史』といった本がロングランで売れています。社会人となり、本当の意味での歴史の醍醐味を味わってみたいと思う方が多いからでしょう。
 六つの「空間革命」――本書は、この全く新たな切り口によってダイナミックな世界史像を描きます。「空間革命」とは、人間の進化の過程において空間の移動技術の発展により未知なる「空間」が切り開かれていくポイントのことを意味します。たとえば、ハミと手綱など馬具を見出したイスラーム騎馬民族が中央アジア草原地帯の広範囲にわたる異文化を統合した「空間」、あるいは海図と羅針盤を駆使した大航海時代のヨーロッパ人が大陸を結ぶ大西洋を支配した「空間」、また今日における世界中一人一人にまで無限大に広がるインターネット「空間」もそうです。それらは人が自らの生活空間の認識を革めるポイントだったといえるでしょう。他にも、乾燥地帯で始まった穀物栽培の大農業「空間」、都市を中心にした文明「空間」、地球規模の産業革命「空間」等々、それらいわば横の空間軸の歴史観を基に人類5000年の歴史を一気に俯瞰します。きっと年表による縦の時間軸だけでは見えてこない、世界史の知的醍醐味を味わえるはずです。

2015/03/27

著者プロフィール

宮崎正勝

ミヤザキ・マサカツ

1942年、東京生まれ。東京教育大学文学部卒業。筑波大学附属高等学校教諭(世界史担当)、筑波大学講師などを経て北海道教育大学教授。2007年に退官、現在は著述業、中央教育審議会専門部会委員。1975年から1987年までNHK高校講座「世界史」常勤講師。著書に『イスラム・ネットワーク』(講談社選書メチエ)、『ジパング伝説』(中公新書)、『海からの世界史』(角川選書)、『世界史の誕生とイスラーム』『風が変えた世界史』(共に原書房)、『地名でわかるオモシロ世界史』(角川ソフィア文庫)、『海図の世界史』(新潮選書)など。

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