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右でも左でもない「史実」をつかむ必読書。

戦後史の解放I 歴史認識とは何か―日露戦争からアジア太平洋戦争まで―

細谷雄一/著

1,512円(税込)

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発売日:2015/07/24

読み仮名 センゴシノカイホウ1レキシニンシキトハナニカニチロセンソウカラアジアタイヘイヨウセンソウマデ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 314ページ
ISBN 978-4-10-603774-0
C-CODE 0331
ジャンル 日本史
定価 1,512円
電子書籍 価格 1,210円
電子書籍 配信開始日 2016/01/15

なぜ今も昔も日本の「正義」は世界で通用しないのか――国際社会との「ずれ」の根源に迫る歴史シリーズ第一弾。日露、第一次大戦の勝利によって、世界の列強の仲間入りを果たした日本。しかし、戦間期に生じた新しい潮流を見誤り、五大国から転落していく。その三〇年の軌跡を描き、日本人の認識構造の欠陥を読みとく。

著者プロフィール

細谷雄一 ホソヤ・ユウイチ

1971年、千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部教授。立教大学法学部卒業。英国バーミンガム大学大学院国際関係学修士号取得。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(法学)。北海道大学専任講師などを経て、現職。主な著書に、『戦後国際秩序とイギリス外交――戦後ヨーロッパの形成1945年-1951年』(サントリー学芸賞)、『倫理的な戦争――トニー・ブレアの栄光と挫折』(読売・吉野作造賞)、『国際秩序――18世紀ヨーロッパから21世紀アジアヘ』など。

書評

「世界の中の日本」にむけた現代史

佐藤卓己

 正しい歴史認識に必要なのは、歴史的リアリズムである。未来の平和だけを想いえがいていては、国際社会の現実を見失う。さりとて、過去の戦争だけを見つめていては一歩先に進み出せない。バックミラーで後方を見ながら注意深く前に進むこと、そうした歴史的リアリズムが「戦後七十年」のいま、私たち日本人に切実に求められている。
 ちょうど国会では集団的自衛権行使にむけた「安保法制」が審議中だ。中国の海洋進出や朝鮮半島の不安定化など、日本をとりまく安全保障環境は厳しさを増している。一九三〇年前後の危機をアナロジーとする議論は珍しくない。ただし、状況が反転していることも忘れてはならない。当時、軍事的に暴走する危険性があったのは日本だが、いまは中国や北朝鮮である。そうした危機への適切な対処を考えるためにも、国際的視野から「方向感覚を失った戦前日本」を概観する本書は有効だろう。
 一方で、現実政治の理解に不可欠な「歴史認識」を政治問題化、まして外交問題化することに著者は批判的である。相手側の立場を理解するための歴史対話は可能であり必要でもあるが、歴史認識の共有となれば国家間はおろか国民間でさえ困難である。この夏に発表される「安倍談話」も次の記述を踏まえて読むべきだろう。
「村山政権で善意から和解を求めて自らの歴史認識を明らかにした結果、むしろこの問題が外交問題化してしまい、関係悪化に道を開いてしまった。」
 村山が善意で開いた「パンドラの箱」からは「運動としての歴史」や「陰謀史観」が噴出し、歴史認識をめぐる内戦状況が現出している。こうした「戦後史」の濁流から抜け出るために、外交史家として起点を国際的な平和主義が誕生した第一次世界大「戦後」、さらに「大量殺戮の世紀」の幕開けとなった日露「戦後」までさかのぼる。その結果、「国際法の模範的な遵守者」だった日露戦争時の日本が、第一次世界大戦認識の「ずれ」を契機として「国際秩序の破壊者」になっていくプロセスが生き生きとした筆致で再現されている。
「平和主義の無力を世界に教え、国際社会を権力政治の時代へと導いていった大国は、日本であった。そのような潮流がたどり着く先に第二次世界大戦による破滅的な破壊と殺戮が待っていた。」
 なるほど「十五年戦争」という自国中心ドメスティック の短期的視野では満州事変の重大性も十分に見えない。日露戦争からの「五十年戦争」、せめて第一次世界大戦からの「三十年戦争」という長期的視野が必要となるわけだ。こうした国際政治史のロングショットでまず浮かびあがるのは、一九四一年「真珠湾攻撃」に匹敵する一九三一年「錦州爆撃」の衝撃かもしれない。非戦闘員の殺戮を禁止したハーグ「陸戦」規則を無力化する「空襲」の誕生である。
 対米開戦に向かう迷走や戦争目的に関する矛盾についても最新の研究成果を引きながらリアリストの視点から鋭い分析が加えられている。いまだに「アジア解放」の大義を強調する保守派は、以下の事実に目をそむけるべきではない。
「そもそも日本政府が、最大の敵国として『アジア解放』のために戦った相手が、二〇世紀においてもっとも強力に脱植民地化のイデオロギーを促進したアメリカであるという事実は、皮肉にほかならない。アメリカよりも大日本帝国の方が、事実としてはるかに広大な植民地を有していた。」
 結果として戦後にアジア諸国の独立が実現したとしても、それは日本の「開戦」よりも「敗戦」によるところが大きい。それを含めて戦争目的と強弁するならば、わざわざ「負けるために」開戦したということになる。もちろん、それだけの洞察力と覚悟が戦争指導部にあったとすれば、歴史は異なった展開をしたはずだ。
 さらに言えば、護憲派の一国平和主義も保守派の大東亜戦争肯定論も国際主義を否定する自己中心的思考においては、表裏一体なのである。
「戦前の日本が、軍国主義という名前の孤立主義に陥ったとすれば、戦後の日本はむしろ平和主義という名前の孤立主義に陥っているというべきではないか。」
「戦後」を乗り越えていく若い世代に、いま一読を薦めたい。

(さとう・たくみ 京都大学教授)
波 2015年8月号より

目次

はじめに
桑田佳祐の嘆き/高坂正堯の警告/戦後史の視野
序章 束縛された戦後史
1 村山談話の帰結
歴史を見つめ直す/村山富市の決意/分裂する歴史認識/歴史問題の解決は可能か/歴史問題は国内から/敗戦を受け入れる困難

2 歴史学を再考する
歴史理論で観る世界/「実際に何が起こったか」/エヴァンズの反論/歴史学の黄昏/歴史に翻弄される政治/運動としての歴史

3 戦後史を解放する
イデオロギーによる束縛/反米史観と陰謀史観/堕落する歴史/「一九四五年」からの解放/世界の存在しない日本史/日本が存在しない世界史/戦後史の解放へ
第1章 戦後史の源流
1 戦後史への視座
戦後史をどのように語るか/大量殺戮の世紀

2 平和主義の源流
「近代の発明」/平和運動の胎動/ツヴァイクの不安/第一次世界大戦の衝撃/国際秩序の変革/吉野作造と原敬/牧野伸顕と伊東巳代治/「サイレント・パートナー」/人種平等という夢/人種差別撤廃をめぐる挫折/英米批判の系譜

3 国際秩序の破壊者として
戦争のない世界を目指して/国際公益と国益/国際人道法の衰退/国際思想の転換/権力政治と平和主義/若き天皇の不安/満州事変の勃発/平和の破壊/権力政治への回帰
第2章 破壊される平和
1 錦州から真珠湾へ
空からの恐怖/方向感覚を失った日本/ノモンハン戦争の衝撃/独ソ不可侵条約/清沢洌の洞察/第二次大戦の幕開け/チャーチルの登場/近衛文麿の弱さ/「根のない花」としての外交政策/第二次世界大戦の転換点/「対英米戦を辞せず」/南部仏印進駐の決定/幣原喜重郎の警告/幻の図上演習/大西洋憲章/戦後世界の基本原理/民族自決と「アジア解放」/迷走する軍部/天皇の疑問/セクショナリズムという病理/コーデル・ハルとジョセフ・グルー/対英米戦の幕開け/過小評価されるアメリカ

2 第二次世界大戦の諸相
アジア太平洋での戦争/日本のアジア支配/グローバルな戦争/テヘランとカイロ/戦局の転換点/日本の戦争目的/東條英機の家族的秩序観/重光葵と「大東亜宣言」/脱植民地化へ向かうアジア

3 戦争の終幕
欧州戦線の終幕/国連創設への動き/国際連合の発足/国際組織による平和/孤立する日本/鈴木貫太郎の指導力/ポツダム首脳会談/ポツダム宣言/原爆投下の決断/アジア太平洋戦争の終結
終章 国際主義の回復は可能か
破壊と破滅/国際社会との齟齬/軍国主義批判の陥穽/国際主義の回復/世界の中の日本
あとがき

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担当編集者のひとこと

戦後史の解放I 歴史認識とは何か―日露戦争からアジア太平洋戦争まで―

日本史と世界史の融合 近年、歴史認識問題と言えば、もっぱら「従軍慰安婦」や「南京事件」などに焦点が当てられ、出口の見えない論争が続いています。
 それらが大事な問題であることは論を俟ちませんが、一方で、私たち日本人が戦争という過ちを二度と繰り返さないためには、「強制連行の有無」や「犠牲者の数」を確定することよりもまず、そもそもなぜ日本があのような悲惨な戦争を引き起こしてしまったのか、その大局を正しくつかむことが重要となります。
 その際に大切なのは、「従来のような『世界の存在しない日本史』と『日本の存在しない世界史』を超えて、国際社会のなかでの日本のあるべき位置を考えていく」ことだと著者は指摘します。日本の歴史教育は「日本史」と「世界史」に切り分けられているがために、われわれは「世界の中の日本」という視点を持ちにくく、また日本と国際社会の「相互作用」を理解しづらい状況に置かれており、それが歴史認識をめぐって周辺国との摩擦を引き起こす一因になっていると言うのです。
 ゆえに本書では、日本史と世界史を融合させた視点から、日本が戦争に突き進む過程が克明に描写されていきます。そこから浮かび上がってくるのは、じつは戦前の日本も現在と同じく「世界の中の日本」という大局的な視野を持てず、また国際社会との「相互作用」を充分に理解できなかったという事実です。そして、それこそがまさに日本が無謀な戦争を引き起こす原因でした。
 だとすれば、今後も日本の平和を守っていくために、本書はまず読まれるべき一冊であると言えるでしょう。ぜひご一読ください。

2016/04/27

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