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現代人よ、「孤独」をそんなに悪者にするな!

「ひとり」の哲学

山折哲雄/著

1,404円(税込)

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発売日:2016/10/27

読み仮名 ヒトリノテツガク
シリーズ名 新潮選書
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 238ページ
ISBN 978-4-10-603793-1
C-CODE 0395
ジャンル 哲学・思想
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,123円
電子書籍 配信開始日 2017/04/14

「独居老人」「孤独死」など、まるで「ひとり」が社会悪であるかのように世間は言う。が、人は所詮、ひとりで生まれ、ひとりで死ぬ。「孤独」と向き合うことで、より豊かな生を得ることができるのだ。親鸞、道元、日蓮、一遍など先達の生き様を振り返り、日本思想の源流ともいえる「ひとりの覚悟」に光を当てる。

著者プロフィール

山折哲雄 ヤマオリ・テツオ

宗教学者、評論家。1931(昭和6)年、サンフランシスコ生まれ。1954年、東北大学インド哲学科卒業。国際日本文化研究センター名誉教授(元所長)、国立歴史民俗博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。著書に『髑髏となってもかまわない』『義理と人情 長谷川伸と日本人のこころ』『これを語りて日本人を戦慄せしめよ 柳田国男が言いたかったこと』など多数。

目次

序章 「孤独」と「ひとり」のちがい
「ひとり」の哲学/ひとりでいることは悪いのか/親鸞と諭吉/日本における「軸の思想」/末世、没落、破局
第一章 親鸞の「ひとり」
福井、金沢、富山/「無」好きの「悪」嫌い/海、海、海/家族とひとり旅/同時代人だった鴨長明/長明、良寛、芭蕉/ひとり旅の源流/非僧非俗という「ひとり」の形/知らなかった「良寛の悲劇」/中世と近代のはざまに立つ良寛/五合庵の意味/良寛の内の親鸞と道元
第二章 道元の「ひとり」
深山幽谷でおのれを養え/無の哲学の創始者/自己を無に近づける/無の絶対空間/失意の道元/道元の鎌倉下向/道元の肉声/山、山、山/ひさ方ぶりの永平寺/作法そのものが仏法/禅と個人主義と「ひとり」/空無の哲学/美と信仰の伝統/非人情の風
第三章 日蓮の「ひとり」
黒潮が運んできたもの/南無妙法蓮華経/「ひとり」宣言の結晶/日蓮の眼球に映ったもの/異端の運命/念仏批判と親鸞無視/日蓮の世界認識
第四章 法然と一遍の「ひとり」
「ひとり」と個/鎌倉時代は宗教改革/葬式仏教/たったひとりの捨聖/空也上人/いっしょにいても「ひとり」/死するも独りなり
終章 「ひとり」の哲学
それぞれの「ひとり」/「こころ」と「心」/漱石と啄木/戦後の平等主義/天変地異と「ひとり」/「想定外」の意味/「死生観」の背景/二冊のベストセラー/「個」と「ひとり」
あとがきに代えて

インタビュー/対談/エッセイ

「ひとり」を生き抜いているか

山折哲雄

「ひとり」と「個」はいかにも似ているようにみえるが、本当のところはどうも違うらしい。それを「一人」と「個人」というようにいいかえると、どうか。ともに「人」を意味しているが、それではこの場合の「一人」と「個人」は同じかといえば、どうしても違和感がのこり、しっくりこない。そもそもこの二つの言葉遣いの背景にあるものが、まるで違っているようだ。
 昔から気になっていたことだ。
 二十年ほど前、大学で教師をしていたころである。高校を出たばかりの学生たちと雑談していて、おやっと思った。その場にいたのがみんな、「ひとり」になることを嫌っていたからである。仲間は何人ぐらいがいいのときくと、三人ぐらいという答えが返ってきた。いいたいことをいい、やりたいことをやっても、それくらいが仲間同士の安定感が保たれるということらしかった。
 若者たちのあいだでは、いつのまにか「ひとり嫌い」の時代になっていたのである。
 しばらくして、「日本酒で乾杯推進会議」という会ができ、誘われて発起人の一人になった。「ビールで乾杯」にたいする稚気あふれる異議申し立てでもあったのだが、私はもうひとつ乗り気になれなかった。やはり酒は「ひとり酒」にかぎる、という思いこみがあったからである。
 ところがふと気がついて周囲を見渡すと、どの酒場どの居酒屋でも「ひとり酒」をチビチビやっている姿をみかけることがほとんどなくなっていた。大人の社会でも、どうやら「ひとり嫌い」の風潮がひろがりはじめていたらしい。
 こんどはそれに追い打ちをかけるかのように、高齢者の「ひとり暮し」という暗いみじめな世相が、「孤独死」などの言葉とともに大きく報道されるようになっていた。
 一口に戦後七十年、という。ふり返ると、はじめは何もない焼跡の「貧乏暮し」の時代だった。やがて右肩上りの経済成長がやってきて、太鼓を叩くような「景気暮し」がはじまった。ところがたちまちバブルがはじけ、世の中はいつのまにか「孤独死」と背中合せの「ひとり暮し」の時代に近づいているのだ、という。戦後の一時期、「一億総懺悔」「一億総白痴化」といった言葉が流行ったことがあるが、それにならっていえばさしずめ「一億総ひとり化」の陰々滅々の時代、ということになるのだろう。
 ところが皮肉なことにこの国では、長寿国世界第一位を達成したにもかかわらず、その異常な高齢化現象のなかで、反って「死」の不安におびえる風潮がみるみるふくらみはじめていた。死にゆく者にも看取る側にも、人間の避けがたい死の事実の前で立ちすくむ情景がひろがりはじめた。年金、医療、介護の問題をまきこんで、病院死か在宅死かと、論議が紛糾するようになっていたのだ。
 そんなときふと耳を澄ますと、天の方からかすかにきこえてくるのが、
 人はひとりで生まれ、ひとりで死んでいく
という声である。「ひとり」という言葉が、重くずしんとひびくのである。
 けれどもわれわれはそんな場合、
 人は個人として生まれ、個人として死んでいく
とは、いわない。個人という言葉が口をついて出ることはまずないのだ。
 考えてみればここでいう「ひとり」が万葉集の時代から現代まで、えんえんと語りつづけられてきた「ひとり」だったということに気づく。それにくらべれば、西欧からの輸入語である個とか個人の歴史はせいぜいここ百年ぐらいのことだった。
 人間の生と死にかかわっていわれつづけてきた「ひとり」が、じつは人間の存在そのものに由来する言葉だった、ということではないだろうか。
 親鸞、道元、日蓮、法然、一遍など――、本書で私は、このような「ひとり」を生き抜いた先人たちに学び、そこから「ひとり」の哲学を導きだそうと試みたのである。そろそろわれわれも、この窒息しそうな「個」の壁を突き破って、もっと広々とした「ひとり」の世界に飛びだしていこうではないか、そんな思いをこめて、この本を書いたのである。


(やまおり・てつお 宗教学者)
波 2016年11月号より

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担当編集者のひとこと

「ひとりでいる姿」は、なぜかっこいいのか?

 男がひとりでいる姿はかっこいい。厳密にいうなら、ひとりでいられる男はかっこいい、か。海外の空港の手荷物受け取りスペースで、レストランで、居酒屋で、時々、私はそう感じる(別に、他意はない)。どちらかというと、「オレもああなってみたいものだ」というあこがれに近い。
「ぼっち席」ってご存じだろうか。大学の食堂で、ひとりでメシを喰うために、大学側が設けたひとり用の席だ。左右が半透明のプラスチック板などでさえぎられ、よく解釈すればプライバシーが保たれている。ああっ、と思う(世も末だ!)。なんでそんな柵を、管理する大学側が設けるのか(きっと、学生からは好評というんだろう)。「便めし」(トイレの個室で食べる)をする人もいるらしい(そこまでするか!)。どうも、ひとりでメシを食べている姿を「他人から見られること」が苦痛らしい。
 メディアが「独居老人」という時、いい意味はない。「ひとりでかわいそう」であり、決して「やっとひとりになって、自由の身で素晴らしい」とはとらえない。「孤独死」も同様。中には、孤独で死んでいくことが幸福な人もいるだろうに。
「ぼっち席」もそうだか、そんなにひとりでいることが、いけないことなのか。かわいそうなことなのか。不幸なことなのか。
 社会に出れば(学生時代もそうかもしれない)、年齢を経れば、痛切にひとりでいるつらさを噛み締めることが間々がある。誰も助けてはくれない。誰も答えを教えてくれない。天から道は降りて来ない。ひとりで耐えて、やり過ごすか、解決するしかない。結局、人はひとりであり、そこからは(プラスチックの柵があっても)、逃れることはできないからだ。人は、自分の人生をひとりで生きていくしかないのだ。
 結婚して家庭を持っても、そこは孤独からの逃げ場所にはならない。二人(それ以上)でいる楽しい時間が増えることは確かだろうが、常にそうではない。他者といる時に感じる孤独ーーコミュニケーションの問題、重篤な病気、相性などなどーーは、返ってつらいかもしれない。
 重ねていうが、結局、誰かと一緒にいようが、自分はひとりなのだ。
 著者の山折哲雄さんはこの本で、そういうメッセージを伝えようとしている。そして、ひとりであることを自覚した時、「広々とした『ひとり』の世界に飛びだすことができる」といい、「窒息しそうな『個』から出ようではないか」(最終章)と誘う。
 空港で、レストランで見かけるひとりの男がかっこよく見えるのは、ひとりでいることをきちんと受け止めている風に見えるからなのかもしれない。

2016/10/25

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