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高島易断を創った男

持田鋼一郎/著

748円(税込)

発売日:2003/08/20

  • 新書
  • 電子書籍あり

痛快、高島嘉右衛門伝! この男、ただの易者じゃない! 天才起業家にして、伊藤博文の陰の参謀。

高島嘉右衛門、現在でも流行りの「易」の元祖である。しかしそれだけではない、初めてガス灯を点し、横浜・高島町の生みの親、日本の実業の基礎を築いた一大事業家としても知られた存在であった。また大隈重信や陸奥宗光、木戸孝允らとも親交が深く、特に伊藤博文とは昵懇の間柄。日清、日露戦争や経済政策など、実は、伊藤の政策の多くは嘉右衛門の占った易で決められていた――。知られざる快男児の数奇な物語。

目次
はじめに
第一章 四書五経を諳んじる少年
江戸三十間堀で産湯をつかう
蒲柳の質ながら
浅草観音、百日参詣
初仕事で見せた商才
第二章 二十代にして一攫千金
得意先、南部家の背信
苦難続きの採鉄事業
父の死と借財
観相家・千枝の予言
建築請負で一旗揚げる
濠に映った火の玉
釜鳴りと安政大地震
河川氾濫で負債二万両
第三章 転機となった獄中生活
横浜開港で伊万里焼店を開く
金貨密売事件
逃亡生活
奉行所への自首
牢内、地獄絵
運命的な『易経』の発見
易とは何か――
脱獄騒動で九死に一生
佃島人足寄場での出会い
獄で過ごした六年間
第四章 実業家の天稟
再起の秋
英国公使との取引
日本初の為替ディーラー
太政官金札の買収
文明事業の望楼台・大旅館「高島屋」
南部家の救済に尽力
鉄道事業への関心
横浜・高島町の由来
高島学校の創立
函館・横浜間定期航路
オランダの下水道をヒントに
ガス灯を点す
第五章 大綱山荘の日々
潔く実業界引退
妻妾同居の家庭生活
漢学者たちとの交友
“縁結び”の易
セメント事業と北海道炭鉱事業
高島農場の経営
第六章 国家の運命を占う
刎頸の友・伊藤博文
征韓論と西南の役
日清戦争を卦で先導
日露戦争もことごとく的中
“天水訟の二爻”ポーツマス条約
伊藤博文暗殺を予言
仰臥の日々と最期
あとがき
参考文献

書誌情報

読み仮名 タカシマエキダンヲツクッタオトコ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610030-7
C-CODE 0223
整理番号 30
ジャンル 心理学、ノンフィクション、歴史・地理、占い
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/01/27

インタビュー/対談/エッセイ

波 2003年9月号より 易者はなぜ皆、「高島」なのか  持田鋼一郎『高島易断を創った男』

持田鋼一郎

 今日、易者の多くは高島姓を名乗るが、彼らは高島易断の祖、高島嘉右衛門の門流でもなければ係累でもない。それなのになぜ皆、高島姓を名乗るのか。嘉右衛門の易占がよく当たったことにあやかり、易者としての箔をつけようとするからであろうか……。
理由はそれだけではない。「易経」の字句の解釈に当たって、嘉右衛門の大著『高島易断』(仁・義・礼・智・信の全五巻)を大いに参考にしているからでもあろう。
「易経」に目を通したことのある人なら誰でもご存知だと思うが、その内容は一度や二度通読したぐらいではチンプンカンプン、何のことやらよく分からない。これは私のような無学な人間にとってはもちろんのことだが、昭和の碩学といわれた安岡正篤のような漢学の権威でさえ告白していることである。
そこで、多くの易者は自分の占筮の結果を告げるに当たって、「高島易断」の卦の解釈を参考にするのである。『高島易断』全五巻は今日の易者の虎の巻であるといってもよい。
この『高島易断』は高島嘉右衛門の易占の集大成であって、天下国家や事業の前途から始まって、恋愛問題にいたるまで、人事百般にわたる易占の結果が詳細に記されている。易占は、筮竹を使って出た卦を個別具体的な事例にどう当てはめ、解釈するかが難しく、ここに易者たちは腐心するわけである。そのとき、卦の事例研究というべき『高島易断』は大いに威力を発揮する。
たとえば、嘉右衛門は「神聖な易を株の売買に用いることは、宝刀で犬馬をほふるようなもので、自分は個々の株の高下は占わない」という立場だったが、易が現実に役立たないという誤解を解くために知人に頼まれた機会に、ある株の高下を占い、「水澤節上六」の卦を得て、この株は下がると断定し、その易学上の理由を詳しく述べている。結果は嘉右衛門の「水澤節上六」の解釈の通りであった。こうした解釈のプロセスが易者たちの参考になるのではないか。
それかあらぬか、毎年発行される高島易断総本部の『高島易断本暦』の卦の解釈にも、しばしば『高島易断』の卦の解釈が引用され、参考にされている。たとえば、2003年度の『高島易断本暦』は、今年の経済情勢について占い、「地水師」の「初爻変・初六」を得て、「少しずつではあるが回復する」と述べている。この卦の解釈にあたって、『高島易断』の中の嘉右衛門の解釈に従っているのである。この判断が当たるか当たらぬか、大いに興味のあるところだが、『高島易断本暦』が今日でも隠れたベストセラーであるところを見ると、高島暦の易断の結果は、大筋では当たって来たに違いない。
アンドレ・マルローは「二十一世紀には神秘主義が復活する」と予言している。その言を裏付けるように日本でも怪しげなカルトが族生している。こうしたカルトに入る前に、是非東洋三千年の智恵を伝える易に関心を持って欲しいものだ。

(もちだ・こういちろう 作家、歌人)

蘊蓄倉庫

伊藤博文の政策を卦で決める

 旧千円紙幣でもお馴染の、初代総理大臣・伊藤博文。この明治の指導的政治家と「高島易断」の祖・高島嘉右衛門とが刎頚の友であったことは、案外知られていない事実です。そして、二人の交友関係は私的なものに留まらず、実は伊藤が取った政策の多くが嘉右衛門の占いに頼っていたということも……。
 西郷隆盛の起した西南の役、日清戦争の勃発から三国干渉まで、日露戦争の旅順攻略、日本海海戦からポーツマス講和、嘉右衛門はことごとく的中させていました。他にも経済動向など、伊藤は嘉右衛門の立てた卦を基にして国家の命運を決していたのです。
 しかし一度だけ伊藤は、嘉右衛門の卦を無視して断を下したことがありました。それは伊藤が満州行きを計画していた時のこと、嘉右衛門の卦に「死」の相が……。でも伊藤は満州行きを決行。それがハルビンでの「伊藤暗殺」となったのでした。
 この男、ただの易者ではない! ユニークな明治男の一代記、ご高覧あれ。

掲載:2003年8月25日

著者プロフィール

持田鋼一郎

モチダ・コウイチロウ

1942(昭和17)年、東京都生まれ。作家、歌人。大東文化大学講師。編集者を経てフリーに。エッセイ、翻訳などを手がける。著書に『高島易断を創った男』『エステルゴムの春風――東欧の街と人』『ユダヤの民と約束の土地――イスラエル感傷紀行』、訳書に『夢の終わり』など。

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