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仁義なき英国タブロイド伝説

山本浩/著

748円(税込)

発売日:2004/12/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

王室潜入取材、ベッカム不倫演出、政権転覆工作、そこまでやるか!

王室のタブーを暴露し、ベッカムを「スーパースター」に仕立て上げ、時には政権の行方をも左右する英国大衆紙。ネタを演出し売上げを伸ばすためなら、潜入取材、隠し撮り、やらせと手段を問わない。紙面には、大スクープと大誤報、ゴシップと偏見、政策論議とヌード写真までが、ごった煮のごとく詰まっている。読んでもちっとも賢くならないが面白すぎてやめられない、英国タブロイドの世界へご招待!

目次
はじめに
第1章 これぞタブロイド魂!――王室潜入ルポと殺人者「名指し」報道
謎の召使い
空前の潜入ルポ
暴かれた女王の私生活
独立調査委員会
年間特ダネ大賞
ローレンス殺人事件
人種差別
タブロイド立ち上がる
調査委員会発足
全面謝罪したロンドン警視庁
第2章 ダイアナは永遠に
愛の盗聴テープ
暴露の連鎖
覗き見写真
大いなる代償
ダイアナの死とパパラッチ
ジャーナリズムとプライバシー
名探偵登場
直筆の手紙
第3章 「ベッカム様」の作られ方
顔面のけがはサンの特ダネ
誘拐未遂事件
実は冗談だった
壮絶なる不倫報道
札束狙いだった不倫相手
第4章 奇人変人大集合――タブロイド小史
新聞王兄弟
ファシズムに狂った弟
セシル・キング
ミラーVSエクスプレス
マードック登場
フォークランド紛争
怪人マクスウェル
謎の死
第5章 ブレアとマードックのアブナイ関係
マードック帝国と手を結んだブレア首相
「サン」の全面支持表明
危うい蜜月
不思議な関係
第6章 権力を握ったタブロイド記者――アレスター・キャンベル物語
ポルノ小説で文章修業
ダウニング街十番地への道
「ゴミ」と「哀れ」
失態
マラソンランナー
BBCと大喧嘩
さらばダウニング街十番地
苦い勝利
第7章 プロパガンダと大誤報――イラク戦争とタブロイド
「ページ・スリー」がイラクへ飛んだ
キャンペーンを連発
サンの結論
ミラー、起死回生の特ダネ
大論争
敗北からの叫び
あとがき

筆者厳選・これが英国の新聞だ!

書誌情報

読み仮名 ジンギナキエイコクタブロイドデンセツ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610097-0
C-CODE 0222
整理番号 97
ジャンル マスメディア
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/03/30

インタビュー/対談/エッセイ

波 2005年1月号より ダイアナもベッカムもブレアも……  山本浩『仁義なき英国タブロイド伝説』(新潮新書)

山本浩

 英国タブロイド文化は、実に奥が深い。
新聞販売競争のトップから六番目くらいまでは常にタブロイド判の「大衆紙」が独占している。イギリス人はタブロイドが大好きなのだ。
ロンドンに滞在した五年間、私もすっかりタブロイドにハマッた。日本の常識では決して捉えられない摩訶不思議な世界に心を奪われた。
まず、その分量がすごい。全八十ページくらいある。表から開くと、「故ダイアナ妃が遺した謎の手紙発見」などという特ダネが載っている。ダイアナ妃を食い物に部数を伸ばし、彼女の死後もなおネタを嗅ぎ回るハイエナのようなタブロイド魂に背筋がぞくぞくさせられる。
裏側から開くとスポーツ新聞の様相となる。試合があろうがなかろうが、主役はベッカム様だ。内容はいつもどぎつい。監督とベッカムの口論の詳細が暴露されていたりする。一体誰に取材したのか、「見てきたように物を言う」記事のスタイルに痺れる。
大誤報をぶっ放してくれるのも魅力である。ダイアナ妃を例にあげれば、生前、下着姿の写真とともに「諜報機関が浮気の現場を監視」と報じた。実際には、そっくりさんが演じた全くのデタラメ写真だった。誤報が発覚すると、一面トップに「ごめんなさい」と大見出しを掲げ、ひょうきんに振る舞うのがタブロイドの流儀である。
もちろん特ダネの醍醐味はメガトン級だ。清掃員に偽装した記者が厳戒態勢の空港に潜入し、「機内爆弾持ち込み実験」をやった。警備の盲点が暴かれ、英政府は対策を一から見直すことになった。召使いに偽装して長期間、バッキンガム宮殿に潜入した記者もいた。赤裸々に綴った見聞録は話題をさらい、偽装記者は「アカデミー賞なみの演技力だ」と絶賛されて年間スクープ大賞に輝いた。「あんた、そこまでやるのか」と読者に言わしめるのがタブロイドの真骨頂、てんこ盛りのサービス精神なのである。
タブーも人権も蹴飛ばしてしまう危うさ。これもまたタブロイドの特徴である。なにしろ、チャールズ皇太子でさえ合成写真で丸坊主にしてしまう。「皇太子にお似合いのヘア・スタイル考えます」という傍若無人さだ。報道規制を敷こうとする側近たちのことは「王室のギャングたち」と呼んで憚らない。表現の自由を錦の御旗に、ゴシップこそ国民の関心事だと開き直る。本当にタブーがない。凄すぎて形容詞が見つからない。
ダイアナ妃やエリザベス女王、ベッカム様にブレア首相。タブロイドは何でも「十八番のネタ」にしてしまう。その力強さと無謀さ、突き抜けたユーモアセンスを解剖し、英国タブロイド文化の秘密を暴き出してやろう。そんな思いを込めて『仁義なき英国タブロイド伝説』を書いた。

(やまもと・ひろし ジャーナリスト)

蘊蓄倉庫

ベッカム不倫報道の裏側

 英国タブロイドはしばしば「ネタの買い取り」をやります。独占取材ネタは「特ダネ」として世間を賑わし、新聞の売上を伸ばし、ネタ元に巨額の金をもたらします。扱い方も巧みで、最初はじらしてネタを小出しにしつつ、興味がピークに達したところで「当事者の告白」を登場させたりします。ジャーナリズムと言えるかどうかは疑問ですが、とにかくこれが英国タブロイドの流儀のようです。
 ちなみにベッカムの不倫相手がスキャンダルと引き換えに手にした金は総額八十五万ポンド。日本円でおよそ一億七千万円ほどと見られています。不倫報道の背後で働いていた力学をもっと知りたい方は、本書をご一読ください。

掲載:2004年12月24日

著者プロフィール

山本浩

ヤマモト・ヒロシ

1963(昭和38)年京都府生まれ。大阪外国語大学卒。NHKに入局し、1994~1997年カイロ特派員、1998~2003年ロンドン特派員。著書に『真実と和解』『憎しみの連鎖』(共にNHK出版)、『決断の代償 ブレアのイラク戦争』(講談社)など。

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