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『鉄仮面』、超訳どころか荒業訳。『小公子』、名タイトル誕生秘話。『フランダースの犬』、刊行は奇跡の経緯。今に残る名作はいかにして日本語となったのか――。

明治大正 翻訳ワンダーランド

鴻巣友季子/著

734円(税込)

本の仕様

発売日:2005/10/20

読み仮名 メイジタイショウホンヤクワンダーランド
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 204ページ
ISBN 978-4-10-610138-0
C-CODE 0295
整理番号 138
ジャンル 文学・評論、ノンフィクション
定価 734円
電子書籍 価格 648円
電子書籍 配信開始日 2012/02/24

驚愕! 感嘆! 唖然! 恐るべし、明治大正の翻訳界。『小公子』『鉄仮面』『復活』『フランダースの犬』『人形の家』『美貌の友』『オペラの怪人』……いまも読み継がれる名作はいかにして日本語となったのか。森田思軒の苦心から黒岩涙香の荒業まで、内田魯庵の熱意から若松賤子の身体感覚まで、島村抱月の見識から佐々木邦のいたずらまで、現代の人気翻訳家が秘密のワンダーランドに特別ご招待。

著者プロフィール

鴻巣友季子 コウノス・ユキコ

1963年東京生まれ。翻訳家。訳書にエミリー・ブロンテ『嵐が丘』、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』、J.M.クッツェー『遅い男』『恥辱』、T.H.クック『緋色の記憶』、マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』ほか多数。文芸評論家、エッセイストとしても活躍し、『カーヴの隅の本棚』『本の寄り道』『全身翻訳家』『孕むことば』『明治大正 翻訳ワンダーランド』など、多数の著書がある。

目次

プロローグ――明治の翻訳ローリング・トウェンティーズ
第1章 近代の翻訳はこの「一字入魂」から出発する
――ユゴー『探偵ユーベル』森田思軒訳(明治22年)
第2章 訳文が生きるか死ぬかは会話文
――バアネット『小公子』若松賤子訳(明治23~25年)
第3章 超訳どころの騒ぎではない
――ボアゴベイ『正史実歴鉄仮面』黒岩涙香訳述(明治25~26年)
第4章 鴎外の陰に隠れはしたが
――レルモントフ「浴泉記」小金井喜美子訳(明治25~27年)
第5章 すべては憧憬にはじまる
――ゾラ『女優ナヽ』永井荷風編訳(明治36年)
第6章 辛抱して読んでくれ!
――トルストイ『復活』内田貢(魯庵)訳(明治38年)
第7章 遠く離れた日本で出世
――ウイダ『フランダースの犬』日高柿軒訳述(明治41年)
第8章 原作はいったいどこに……?!
――アンノウンマン『いたづら小僧日記』佐々木邦訳(明治42年)
第9章 肉体を翻訳する舞台
――イプセン『人形の家』島村抱月訳(明治43年)
第10章 童話は初版だけが本物か
――「模範家庭文庫」中島孤島他訳(大正4年)
第11章 絶好の売り時を逃すまじ
――リットン『ポンペイ最後の日』中村詳一訳(大正12年)
第12章 うっかり誤訳? 意図的誤訳?
――グリズマー『【東への道/ウエイ、ダウン、イースト】』岩堂全智・中村剛久共訳(大正12年)
第13章 発禁、伏せ字を乗り越えて
――モオパッサン『美貌の友』広津和郎訳(大正13年)
第14章 ノベライゼーションの草分け
――ルルー原作、カーニー改作『オペラの怪人』石川俊彦訳(大正14年)
あとがき

引用文献・参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

波 2005年11月号より 百二十年後の潜入取材  『明治大正 翻訳ワンダーランド』

鴻巣友季子

 十二世紀ルネッサンスは「翻訳の世紀」と呼ばれます。アラビア語からラテン語への翻訳者たちは、誤訳があったら死刑に処されることもあったとか。それだけ責任が重かったのですね。つくづくそんな時代に翻訳をやっていなくてヨカッタ、などと思いますが、さて日本の明治大正期もまた翻訳の時代でした。かつての「噂」の連載(松浦総三)によれば、明治初期の原稿料で最も高かったのは、翻訳料だそうです。明治四年に箕作麟祥が『百科全書』を訳したときには、二百字につき四円。明治十年ごろには、区役所の用務員の給料が五円、右大臣(岩倉具視)の月給が六百円、左大臣(大久保利通)は五百円と言いますから、翻訳料の高さがわかります。四百字詰め六十枚ほどの仕事で庶民の百倍の収入とは羨ましいですが、これもやはり翻訳の重責の証しでしょう。
インターネットもなく外国は遠い異星のようだった明治大正時代、しかし翻訳には本物の「夢」がありました。文明文化の紹介者としての責任を一身にせおって、翻訳者たちは刀一本で荒野をゆく野武士のように、果敢に未知の世界へ切り込んでいったのです。いまでは考えられない豪傑訳乱訳もあり、しかしいま見てもハッとするほど新しい試みもなされていました。
わたしが雑誌の仕事をきっかけに、そういう翻訳ワンダーランドに魅せられたのは、もう十八、九年前でしょうか。以来、書誌学には門外漢ながらいつか古い翻訳にまつわる本を書きたいと思ってきました。ところがこの時期の翻訳界たるや、魑魅魍魎(失礼!)の行き交う原野。そこへ素人が丸腰で入っていこうというのですから、何度くじけたかわかりません。書いているうちに自分の翻訳観もだんだん変遷し、そうして十年の試行錯誤をへて書き終えたのが、『明治大正翻訳ワンダーランド』です。
日本近代文学というと、明治四十年ごろ、島崎藤村の『破戒』と田山花袋の『蒲団』をもって始まったかの観がありますが、その自然主義文学の下地づくり、もっと遡れば近代リアリズムの芽生えが、外国文学の翻訳をとおして行われた「現場」には、あまり光が当てられていないような気がします。森鴎外一派や永井荷風や内田魯庵は、レルモントフやゾラやドストエフスキーをどんな思いで訳したのか。また、言文一致体というと、二葉亭四迷の功績はおおいに語られますが、同時期に早くもしなやかな口語体で『小公子』を日本語に訳していた若松賤子のことは、これまたあまり語られません。日本文学史のそんな秘密の(?)部分にも、百二十年後のホンヤク者が潜入取材をこころみます。参考文献は、後年書かれた研究書はもとより、当時読まれていた雑誌や新聞に直接に取材し、ライヴ感のある現場からのレポートを目指しました。
ようこそ、明治大正の翻訳ワンダーランドへ。

(こうのす・ゆきこ 翻訳家)

蘊蓄倉庫

辛抱して読んでくれ!

 明治時代の翻訳者はすごい。そう思わせる一人が内田貢(魯庵)。明治38年、トルストイの『復活』の新聞連載にあたり、彼は初日二日をかけて次のような前書きを載せました。いきなり「面白くない小説である」。加えて「新聞小説としては此上も無い不向きのものである」。これだけでも驚かされますが、さらに三日目、「辛抱して読んで頂きたい」と読む前の心得まで発表しました。現代では考えられない話です。しかし、実は大傑作だから最後まで読み通してほしいという訳者のメッセージ。祈りにも近い熱気が伝わってくるではありませんか。明治大正の翻訳界は「驚愕、感嘆、唖然」の宝庫です。詳しくは鴻巣友季子『明治大正 翻訳ワンダーランド』でどうぞ。

掲載:2005年10月25日

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