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『こころ』は本当に名作か―正直者の名作案内―

小谷野敦/著

792円(税込)

発売日:2009/04/15

  • 新書
  • 電子書籍あり

いくら評判の「名作」でも、私は絶対認めない! 世界一正直なブックガイド。

文学に普遍的な基準はありません。面白いと思うかどうかは、読者の年齢や経験、趣味嗜好に左右されます。「もてない男」に恋愛小説が、そのケのない人に同性愛的文学がわからなくても、仕方のないこと。世評高い漱石の『こころ』やドストエフスキーは、本当に面白いのでしょうか? 読むべきは『源氏物語』か『金閣寺』か? 世界の古典を「大体読み終えた」著者が、ダメならダメと判定を下す、世界一正直な名作案内。

目次
まえがき
第一章 文学作品のよしあしに普遍的基準はない
「もてない男」に結婚生活の不幸を描いた小説がわかるのか/日本人とキリスト教/同性愛感覚/正直について/長編か短編か/純文学と通俗小説/翻訳か原文か/再読と読み直しについて
第二章 日本人必読の名作たち
【最高峰の名作】
紫式部『源氏物語』/シェイクスピア/ホメロス『イーリアス』『オデュッセイア』/ギリシャ悲劇
コラム(1) ノーベル文学賞雑談
【トップクラスの名作】
セルバンテス『ドン・キホーテ』/スウィフト『ガリヴァー旅行記』/ゲーテ『若きウェルテルの悩み』/ルソー『孤独な散歩者の夢想』/ジェイン・オースティン『プライドと偏見』『エマ』/バルザック『従妹ベット』/ユーゴー『レ・ミゼラブル』/ディケンズ『荒涼館』/シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』/ポオの短編/メルヴィル『モービィ・ディック(白鯨)』/アレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯』/トルストイ『クロイツェル・ソナタ』/ゴンチャロフ『オブローモフ』/マーク=トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』/ヘンリー・ジェイムズ『鳩の翼』/『水滸伝』その他、シナ白話小説
コラム(2) 推理小説の古典
【日本のトップレベル作家】
曲亭馬琴『南総里見八犬伝』/泉鏡花『草迷宮』「歌行燈」/川端康成/谷崎潤一郎『細雪』『吉野葛』
コラム(3) 日本の自伝・伝記の名著
【二位級の名作】
後深草院二条『とはずがたり』/二葉亭四迷/尾崎紅葉『多情多恨』/田山花袋『蒲団』/私小説、モデル小説について/近松秋江『別れたる妻に送る手紙』『黒髪』/有島武郎『或る女』/宮本百合子『伸子』/太宰治/ロンゴス『ダフニスとクロエ』/ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』/ラクロ『危険な関係』/フロベール『感情教育』/エミール・ゾラ『ナナ』『居酒屋』/ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』/プルースト『失われた時を求めて』/ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』/ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』/前衛小説について/マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』/シェンキェヴィチ『クォ・ヴァディス』/ヘンリー・ミラー『北回帰線』など/E・M・フォースター『ハワーズ・エンド』など
コラム(4) マンガの古典
第三章 私には疑わしい「名作」
夏目漱石/森鴎外/ドストエフスキー/スタンダール/トーマス・マン/ワイルド/フォークナー/ヘミングウェイ/フィッツジェラルド/テネシー・ウィリアムズ/ダンテ『神曲』/近松門左衛門/井原西鶴/上田秋成/樋口一葉/志賀直哉/永井荷風/芥川龍之介/三島由紀夫
コラム(5) 児童文学の古典
あとがき

書誌情報

読み仮名 ココロハホントウニメイサクカショウジキモノノメイサクアンナイ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610308-7
C-CODE 0290
整理番号 308
ジャンル 評論・文学研究、ノンフィクション
定価 792円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/04/27

蘊蓄倉庫

世が世なら盗作家?

 十六世紀から十七世紀のイギリスで、傑作戯曲を次々とものした天才劇作家・シェイクスピア。『ロミオとジュリエット』『オセロウ』『ハムレット』など、その作品名を聞いたことのない人はいないでしょう。
 しかしそのシェイクスピア。一部には「盗作家」として知られているそうです。
「『マクベス』で、マルカムがバンクォーの忠誠心を試すために、自分が悪人であると言ってみせるところなど、ネタ本をそのまま使っている(中略)当時は著作権などというものはないから、そういうことがあった」。
 だからといって彼の名声が堕ちるわけではありません。さらに本書から引用します。
「既にあった材料をいかに巧みに取捨選択し、ブランク・ヴァースと呼ばれるリズムをもった台詞にして、全五幕の劇に仕立てたか、そこにシェイクスピアの天才があるのである」。
掲載:2009年04月24日

担当編集者のひとこと

読まなくても良い「名作」もある

「学生の頃は、よく『名作』と呼ばれるものも読んだけど……」
「中学の時に夏目漱石を読んだが、さっぱり面白くなかった」
「今は現役作家の小説しか読まない」
 社会人になり、仕事が忙しくなると、なかなか文学の古典名作にじっくり向き合う時間も、気持ちの余裕もなくなります。しかし、年を取り様々な経験を積むことで、若い頃にはわからなかった文学の魅力に気づき、より理解が深まっていく――と、著者は言います。
「結婚したことのない人に、結婚生活の不幸を描いたトルストイの小説がどれほど分かるか、もてない男に、二人の女に惚れられて悩む男の小説が共感できるか、といった具合に、ある文学作品をいいと思うか、共感するか、ということは、読者の側の年齢や経験、素質、趣味嗜好といったものに、かなり大きく左右される」
 古典は常に新しく、読むごとに新たな発見をもたらします。では、あまたある名作の何を読めばいいのでしょうか? そんなときに参考になるのが、例えば本書のようなブックガイドです。
「文学や音楽や美術、映画などが『分かる』というのはどういうことか、と訊く若い人がいるが、これは、単に『面白いと思う』の意味である」と著者が言うように、何も無理して名作を読む必要はないのです。「いくら評判の名作でも、ダメなものはダメと正直に判定を下す」のが本書の特長です。これから名作を読み始めようと思っている人、もう一度名作にチャレンジしてみたいと思っている人には、お薦めの一冊です。

2009/04/24

著者プロフィール

小谷野敦

コヤノ・アツシ

1962(昭和37)年生まれ。作家・評論家。東京大学文学部英文科卒業、同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了。学術博士。著書に『もてない男』『谷崎潤一郎伝 堂々たる人生』『川端康成伝 双面の人』『日本人のための世界史入門』『頭の悪い日本語』『俺の日本史』など。

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