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将軍側近 柳沢吉保―いかにして悪名は作られたか―

福留真紀/著

770円(税込)

発売日:2011/05/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

奸臣か忠臣か。史料を駆使してその実像に迫る。

天下取りの野望を胸に秘め、将軍を女色で籠絡するなど、小説やドラマで典型的な悪役に描かれる柳沢吉保。しかし、史料を丹念に読み込むと、見えてくるのは意外な実像だった。将軍という最高権力者の周囲に絶えず渦巻く、追従、羨望、嫉妬、憎悪……。将軍の最も側近くで仕えた吉保にとっては、悪名は宿命だったのか。将軍とその側近の実像に迫りながら、「武」から「文」への転換期の政治と権力の姿を鮮やかに描き出す。

目次
プロローグ――なぜ「柳沢吉保」なのか?
救いの神あらわる/なぜ「柳沢吉保」なのか?/悪評の生まれ方
第一章 柳沢吉保は側用人ではなかった?
教科書の中の側用人/柳沢吉保の沢山の同僚たち/「側用人」第一号――牧野成貞(1)/外国人の眼――牧野成貞(2)/諸大名の眼――牧野成貞(3)/生類憐み政策の一翼を担う――喜多見重政/わずか二カ月の就任だった二人の外様大名――南部直政・相馬昌胤/十二人の立場/役職としての側用人
第二章 悪の権化像はいかに作られたのか?
悪役イメージの浸透/疑惑は江戸時代から/「永慶寺殿源公御実録」について/吉里将軍御落胤説の真偽/「将軍様のお墨付き」の真実
第三章 「莫大な権勢」の真実
頼りにされる吉保/奥向役人の支配/権力の限界/吉保邸に囲われた若人たち/吉保はイエスマンか?/家臣の大切さ/家臣は主君を映す鏡/慎みの人・吉保
第四章 吉保の宿命(さだめ)
「真守」への思い/権威への思い/吉里への思い/柳沢家の矜持/届かぬ思い
エピローグ――柳沢吉保と「忠臣蔵」
私と「忠臣蔵」/エピソード(1)赤穂城請け取りと吉保/エピソード(2)赤穂浪士切腹と吉保/エピソード(3)吉良家の親族と吉保/吉保と「忠臣蔵」

あとがき
主要参考文献一覧
年表

書誌情報

読み仮名 ショウグンソッキンヤナギサワヨシヤスイカニシテアクメイハツクラレタカ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610419-0
C-CODE 0221
整理番号 419
ジャンル ノンフィクション、日本史
定価 770円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2011/11/04

インタビュー/対談/エッセイ

波 2011年6月号より 柳沢吉保への応援歌

福留真紀

その男は……
食べ物の好き嫌いはなく、三度の食事も贅沢な物を口にすることはなかった。普段から、膝を崩すことはなく、特に食事中はきちんと座っていた。昼に休憩することもなく、寛ぐのは、鍼治療を受けている時だけ。御酒は特に嫌った。三月の雛の御祝の時には、樽酒を、台所の召使いたちに下げ渡した。――堅物?
上様がお嫌いなので、家でも女性たちに琴や三味線の稽古をさせなかった。しかし、時々、仕舞・謡を夫人とともに鑑賞した。また、和歌も夫人とともに嗜んだ。――将軍には忠実。愛妻家の一面も?
側には、硯と手文庫を置き、家臣に一寸した用を申し付けるときにも、間違いのないように書付にして渡した。――几帳面!
息子が十六歳の時に与えた教訓の一部。
「衣服は目立たない、その場にふさわしいものにすること」「わがまま勝手な振る舞いをしないようにすること」「人の言うことを早くわかった気になり、まだ相手が言い終わらないうちに、こちらから話してはいけない。人の言うことをしっかり聞いたうえで、静かに話すこと」「そうでもないことで笑わないこと」「立ち居振る舞いを静かにすること」――控えめに。
家臣が語るエピソードの数々である。
その男こそが、生類憐み政策でも有名な五代将軍徳川綱吉の側近「柳沢吉保」だ。
しかし、芝居や小説、ドラマの吉保といえば、将軍をも凌ぐような強大な権力を持ち、黒幕として陰で暗躍する政治家。日本人が大好きな「忠臣蔵」のストーリーの中では、赤穂浪士の処遇に関わる敵役として登場する姿が御馴染だ。
この大いなるギャップは何か? 家臣の語る吉保像は単なる身びいきなのか? 一方で、悪役像の根拠は何なのか?
現代の政治家は、批判に晒されると「後世の解釈に任せたい」と逃げる。今批判されていても、後に、状況が変われば、「あの政治家がやっていたことは、今思えば間違っていなかった」と言われることを願って。批判は、その時の敵対勢力が生み出していることが多いため、後世解釈が変わることがよくあるのは、私たちにも思い当たる。
しかし吉保は、そのようなことなく、主君である将軍綱吉の死後から、世間では一貫して、「悪徳政治家」と見なされていたといってよい。
なぜ悪役像は、変わらなかったのか? そもそも、本当に「悪徳政治家」だったのか?
本書では、数々の史料を積み重ねて、その真の姿に迫ろうと試みた。
三百年来築き上げられてきた吉保像をちょっとでも覆すことができたら、本望である。

(ふくとめ・まき 長崎大学准教授)

著者プロフィール

福留真紀

フクトメ・マキ

1973(昭和48)年東京都生まれ。東京女子大学文理学部卒業。お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。博士(人文科学)。日本学術振興会特別研究員、長崎大学准教授などを経て、東京工業大学准教授。著書に『徳川将軍側近の研究』『名門譜代大名・酒井忠挙の奮闘』。

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