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経団連―落日の財界総本山―

安西巧/著

792円(税込)

発売日:2014/05/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

造船疑獄、狂乱物価、構造汚職、リクルート事件……政治と向き合い続けてきた財界人たちの戦後70年。

財界総理──。経団連会長がそう呼ばれていた時代があった。財界の意を体して政治と対峙した第2代会長・石坂泰三、政治献金の問題にスジ論で向き合った第4代会長・土光敏夫……。しかし今、そのポストに2代続けて「副会長OB」を起用せねばならぬほど、財界の人材は枯渇している。新興企業はそっぽを向き、中核の老舗企業群も余裕を失う中、「財界総本山」に明日はあるのか。一線の経済記者が肉薄する。

目次
序章 存在意義を見失った「財界総本山」

第1章 「財界人」の枯渇
自身副会長OBから起用された米倉弘昌の後任、榊原定征も副会長OB。出身企業の規模は、会長が替わるたびに小さくなる。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど好業績の新興企業は経団連に距離を置き、中核をなすオールドエコノミー企業群は事業に手一杯。トップを財界活動に送り出せる企業がどんどん減っている。
第2章 会長の条件
初代会長・石川一郎が選ばれたのは、GHQと直接交渉できる英語力と、パージによって大物財界人が軒並みいなくなっていたという消極的な理由によってだった。しかし、「財閥系出身でない、製造業のサラリーマン経営者」という石川の属性が、その後の経団連会長選びの規範となっていく。
第3章 「財界総理」と呼ばれた男
第2代会長・石坂泰三。12年間の長きにわたって会長を務めたこの東芝再建の立役者が、経団連会長を「財界総理」の重みへと引き上げた。根っからの自由主義者で政治嫌い、「貿易と資本の自由化」を強力に推進し、通産省の統制にも真向から立ち向かった。財界が最も輝いていた時代の肖像。
第4章 「民僚」の原点
第3代会長・植村甲午郎は、前任者とは正反対の「調整型」だった。しかし、日米繊維摩擦、オイルショック、狂乱物価と続く激動の時代への対処は、「調整型」会長の能力を超えていた。「業界悪玉論」から「企業性悪説」へと過激化する世論に手を打てない経団連。植村会長への失望感が拡がる
第5章 政治献金の両義性
「政治にはカネがかかるが、かけすぎると民主主義が滅ぶ」。造船疑獄で逮捕された経験を持つ第4代会長・土光敏夫は、政治献金を嫌った。「出すなら企業じゃなく、個人だ」。政治献金は、自由主義経済を守るためとの理由で正当化されるのか。自民党の金権体質の高まりを前に、土光は「献金廃止」宣言するが……。
第6章 スター経営者は財界総理になれない
永野重雄、小林中、木川田一隆、そして盛田昭夫。「スター経営者」と呼ぶに相応しいカリスマ性を持ち合わせた彼らは、結局、経団連会長にはなれなかった。平日は麻雀と宴席、休日はゴルフに精を出す財界人たちの中で、自家用ジェット機で世界を飛び回り、休日はテニスに興じる盛田は、あまりに異質な存在であった。
第7章 勲章が欲しい老人たち
第5代・稲山嘉寛、第6代・斎藤英四郎と「新日鉄の世襲」が続いた経団連会長ポスト。トップを見習うかのように、18にまで水ぶくれした副会長ポストでも、同じ企業出身者よるたらい回しが増える。富と名声を得た老人たちが最後に求めるのは勲章という栄誉。緊張感を失った組織は、「老人クラブ」の色彩を強めていく。
あとがき

書誌情報

読み仮名 ケイダンレンラクジツノザイカイソウホンザン
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610570-8
C-CODE 0234
整理番号 570
定価 792円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2014/11/21

蘊蓄倉庫

スター経営者は経団連会長になれない

 ソニーの創業者・盛田昭夫は戦後の財界人の中で際立った個性の持ち主でしたが、経団連会長を目前にして病に倒れました。この盛田の例に限らず、「スター経営者は経団連会長になれない」とのジンクスがささやかれることがあります。
 経団連会長になれなかった戦後のスター経営者をもう一人挙げると、新日鉄の会長を務めた永野重雄という人物がいます。新日鉄は今までに、稲山嘉寛、斎藤英四郎、今井敬と三人の経団連会長を出した「財界の名門」ですが、彼ら三人に比べても圧倒的にカリスマ性があった永野は経団連と縁がありませんでした。
「怪物」とのあだ名があり、喧嘩っ早いことでも有名だった永野には、銀座のクラブで白洲次郎を投げ飛ばしたとの真偽不明の逸話もあります。
掲載:2014年5月23日

担当編集者のひとこと

昔の財界人は面白かった

 今年6月、榊原定征(さだゆき)・東レ会長が新しい経団連会長として就任します。会長は従来、現役の副会長から選ばれていましたが、榊原氏は経団連副会長のOB。前任の米倉弘昌会長も副会長OBからの起用でしたから、二代続けて「副会長OB」からの起用という不測の事態となりました。
 付け加えていえば、経団連会長には「財閥系でない、製造業のサラリーマン経営者を選ぶ」という慣例もありますが、住友グループ出身の前任の会長に続き、三井グループの東レからの次期会長就任によって、この慣例も有名無実化しています。会長出身企業の売上げ規模も、トヨタ→キヤノン→住友化学→東レと、近年は徐々に縮小。要するに「社格」にこだわっていては、「財界」なるものが成り立たない時代になってきたわけです。
 経団連は、いかにして現在あるような存在となったのか。本書は、直近の経団連会長の交代劇を枕に、戦後の経団連の歴史をたどりながら、経団連が抱える問題の「起源」を探っていく試みです。
 教養新書の定番とも言える「組織研究」の本ながら、歴史の描写に主眼を置いたのは、「経団連とは何か」「財界とはどんな存在なのか」を考える際に、実際の財界人たちの姿をよく見てみる以上に有益な視点はないからです。しかも、時代のしからしむるところもありますが、今の財界人よりも昔の財界人たちの方が圧倒的に面白い。「財界総理」の名を恣(ほしいまま)にした第二代会長・石坂泰三や、「メザシの土光さん」こと第四代会長の土光敏夫の姿には、今の財界人からは失われた強烈な存在感があります。組織研究の本というより、財界の側面から描いた戦後史の本としてお読み頂ければと思います。ぜひご一読を。

2014/05/23

著者プロフィール

安西巧

アンザイ・タクミ

1959年福岡県北九州市生まれ。日本経済新聞編集委員。早稲田大学政治経済学部を卒業後、日経に入社し、主に企業取材の第一線で活躍。広島支局長などを経て現職。著書に『経団連 落日の財界総本山』『広島はすごい』『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想』など。

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