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「41歳、脳梗塞になりました」。深刻なのに笑える、感涙必至の闘病ドキュメント。養老孟司さん、感嘆!

脳が壊れた

鈴木大介/著

821円(税込)

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発売日:2016/06/17

読み仮名 ノウガコワレタ
シリーズ名 新潮新書
雑誌から生まれた本 新潮45から生まれた本
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 234ページ
ISBN 978-4-10-610673-6
C-CODE 0247
整理番号 673
ジャンル ノンフィクション
定価 821円
電子書籍 価格 821円
電子書籍 配信開始日 2016/06/24

41歳の時、突然の脳梗塞に襲われたルポライター。一命は取り留め、見た目は「普通」の人と同じにまで回復した。けれども外からは見えない障害の上に、次々怪現象に見舞われる。トイレの個室に老紳士が出現。会話相手の目が見られない。感情が爆発して何を見ても号泣。一体、脳で何が起きているのか? 持ち前の探求心で、自身の身体を取材して見えてきた意外な事実とは? 前代未聞、深刻なのに笑える感動の闘病記。

著者プロフィール

鈴木大介 スズキ・ダイスケ

1973(昭和48)年千葉県生まれ。ルポライター。家出少女、貧困層の若者、詐欺集団など、社会からこぼれ落ちた人々を主な取材対象とする。著書に『最貧困女子』など。またコミック『ギャングース』(原案『家のない少年たち』)ではストーリー共同制作を担当。

目次

まえがき
第1章 どうやら脳がまずいことになったようだ
二〇一五年初夏の消防団員/奪われてしまう宝物/「過労死するどー」/離脱する魂
第2章 排便紳士と全裸の義母
トイレの個室に現れた老紳士/変質者になった僕/片輪走行の脳
第3章 リハビリは感動の嵐だった
念動力の感覚/リハビリとはくじ引きである/やればやっただけ回復する/脳細胞は助けあう/本が読めない
第4章 リハビリ医療のポテンシャル
発達の再体験・追体験/発達障害は生まれつきなのだろうか/リハビリと高齢者の群れ/リハビリスタッフのポテンシャル/彼女たちの事情/リハビリのスキルに光を
第5章 「小学生脳」の持ち主として暮らす
記者廃業か/道路が渡れない/「妻の罵声」リハビリ/妻の世界が見えてきた/小学生脳/ロボットと人間の差/「不自由なこと探し」は難しい
第6章 感情が暴走して止まらない
構音障害/目の前にデギン登場/笑いが止まらなくなる/中二病女子的症状/巨大な感情のパワー
第7章 本当の地獄は退院後にあった
見た目は健常者でも/大きすぎる感情は言語化できない/泣きたいだけ泣くと/恐怖のNHK集金員
第8章 原因は僕自身だった
なぜ俺が/上がり続ける血圧/妻と僕の十六年間/面倒くさい人は愛らしい/妻の発病/生還/「家事をしなくていい」/背負い込むと無理が生まれる/優しさの質
第9章 性格と身体を変えることにした
家事の分担を決める/退院後の一日/身体の改善/元アスリートはタチが悪い/BPMランの導入/我慢しないダイエット
第10章 生きていくうえでの応援団を考える
平和である/人の縁というネット/応援団を持つ/見栄とプライド/父への手紙/黙って行動を
鈴木妻から読者のみなさんへ

あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

脳が壊れたルポライター

鈴木大介

 2014年秋に出版した拙著『最貧困女子』(幻冬舎新書)では、これまで多くの社会の底辺者を取材してきたまとめとして、貧困に陥る者の共通点に、三つの無縁(家族・地域・制度との無縁)と三つの障害(知的障害・精神障害・発達障害)があると提言した。と思っていたら、発行から半年あまりの2015年5月末に、僕は脳梗塞を発症。軽度の高次脳機能障害を抱えることとなり、リハビリ生活に入ることとなってしまった。
 絶望? 否、それは僥倖だった。なぜなら脳梗塞発症から緊急入院してほんの数日で、僕はひとつのことに気づいたからだ。
 右脳に脳梗塞を発症した僕に残った高次脳機能障害とは、注意力や集中力や認知能力の著しい低下、感情の抑制が困難になることやパニックなどの様々な要因が入り交じっていたが、そこで僕は強い既視感を感じた。
 例えば僕は病院の売店で買い物をしようにも、出そうと思った小銭を一枚二枚と数えて、四枚目には何枚数えたか忘れてしまう。店員や後ろに並ぶ客を待たせたくないと思うほどに焦りが焦りを呼び、ついには財布ごと店員に投げつけて数えてもらうか、意味不明なことを叫びながらその場を逃走したいような、居ても立ってもいられないような気持ちになってしまう。
 だがこうした「レジ前のパニック」は、実はこれまで僕が取材してきた幾人もの貧困者から聞き及んで来たことだった。既視感の正体は、この不自由になってしまった僕が、あの苦しい苦しいと訴えかけてきた取材対象者たちと同じ状況にあるということだ。
 脳梗塞の結果として「脳が壊れた」僕だが、それは、先天的、後天的な要因で同じく脳にトラブルを抱えた精神障害者や発達障害者と、結果的にその認識を同じくしているのではないか。貧困と孤独の中、多大なストレスに晒され続けた結果としても、神経疲労による脳の認知の歪みや集中力・注意力の喪失は起こりうる。
 だとすれば、僕は取材者として初めて、あの不便で面倒くさくて苦しい彼ら彼女らの当事者感覚を持って、その気持ちを代弁できるようになったのかもしれない。これを僥倖と言わずしてなんと言うべきか。
 リハビリと同時に、自分への取材が始まった。様々な機能を喪失した絶望感は、それこそ安易に自死を選びたくなるほどに辛かったが、徐々に機能が回復していく感覚は「発達の再体験」でもあり、非常に感動的な体験だった。そしてそれは、様々な苦しみから抜け出せない人々に本当の意味で必要なケアがなんなのかを知らしめてくれる体験であったようにも思う。
 脳が壊れたルポライターとして、脳が壊れなければ書けなかったこと、感じられなかったことを、一冊にまとめた。

(すずき・だいすけ ルポライター)
波 2016年7月号より

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