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神武天皇vs.卑弥呼―ヤマト建国を推理する―

関裕二/著

792円(税込)

発売日:2018/04/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

「縄文ネットワーク」と「海の民」の正体とは?
驚きの日本古代史。

神武天皇、卑弥呼、神功皇后……。実在したのか定かでない人々のことをあれこれ考えて何になる、と思うなかれ。古代史の常識は遺跡の発掘など考古学の進展により日々改められており、その常識に沿って『日本書紀』を虚心坦懐に読んでみると、様々な謎が解けてくる。縄文時代から脈々と築かれたネットワークを司り、ヤマト建国の背後で暗躍した海の民の存在とは? 歴史作家・関裕二が問う驚きの日本古代史。

目次
はじめに
第一章 ヤマト建国三つの奇跡
なぜか『日本書紀』で無視された重要地域/一気に収まった泥沼の動乱/弥生人は好戦的だった/出遅れた先進地帯・北部九州/なぜヤマトに鉄器が流れてこなかったのか/王は強い権力を与えられなかった?/吉備・出雲以東の「銅鐸文化圏」の動き
第二章 纒向ではなく橿原に陣取った神武の謎
二人の初代王の謎/神武天皇の宮の位置はきわめて不自然/橿原に集まったのは九州の「海の民」/崇神と神武は同時代人か/大物主神の子・大田田根子と神武の類似点/『隋書』にも記されたヤマトの統治システム/日本人はどのようにして崇る神を鎮めてきたのか/巫女は色仕掛けで神を鎮める?/ヤマトの王は祭司王だが主役ではない
第三章 奴国の末裔・阿曇氏と天皇家の秘密
海神の謎に分け入る/神武の祖母の神話/ほとんど知られていない阿曇氏の活躍/海人の「統率者」に任じられていた阿曇氏/海の民の痕跡は歴史と地理に/神功皇后と阿曇氏のつながり/対馬の不思議な伝承
第四章 縄文から続く海人の歴史とその正体
「倭の海人」への評価を示す「新羅本紀」/倭の海人は中国南部の越人?/倭の海人のルーツを探る/対馬が「日本列島側だった」ことの意味/「縄文の常識」を覆した上野原遺跡/縄文文化は南部九州から各地に伝播した?/鬼界カルデラの大噴火から逃れる人たち/「倭の海人」とスンダランドの関係/技術力ゆえに拉致された海人たち/渡来人が縄文人を駆逐したわけではない/対馬の海人は縄文人の末裔/南部九州と隼人と天皇
第五章 神功皇后と卑弥呼、台与
ヤマト建国の主体は本当に稲作民か?/繁栄を誇った奴国と伊都国/誰が弥生時代後期をリードしていたのか/奴国と伊都国が争い漁夫の利を得た邪馬台国/ヤマト建国の時代に没落していた奴国/『日本書紀』記述のネックになった「魏志倭人伝」/天皇軍と奴国は手を結んでいた/神功皇后「六年の逗留」の深い意味/本居宣長の「邪馬台国偽僭説」/魏に海の民の神宝・ヒスイを贈った台与
第六章 神武天皇と南部九州
最後の謎/ヤマトに裏切られた台与の恨み/志賀島の金印から浮かび上がってくること/金銀錯嵌珠龍文鉄鏡が土に埋められた意味/なぜ神功皇后は南に逃げたのか/縄文の海人のネットワークに守られた王権
おわりに
参考文献

書誌情報

読み仮名 ジンムテンノウバーサスヒミコヤマトケンコクヲスイリスル
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610763-4
C-CODE 0221
整理番号 763
ジャンル 歴史・地理
定価 792円
電子書籍 価格 792円
電子書籍 配信開始日 2018/04/20

インタビュー/対談/エッセイ

「謎」はなぜ放置されてきたのか?

関裕二

 今、考古学はヤマト建国の経過を、克明に描き出そうとしている。3世紀に奈良盆地の南東の隅に前代未聞の巨大人工都市・纒向遺跡(奈良県桜井市)が出現し、方々から人が集まってきたこと、纒向に前方後円墳が誕生し、この新たな埋葬文化を各地の首長が受け入れたこと、流通ネットワークを共有するゆるやかなつながりの連合体(ヤマト政権)が生まれたことが分かってきたのだ。
 考古学が戦後一気に発展した理由は、はっきりしている。新幹線や高速道路網が張り巡らされ、全国でほぼ均等に、考古学の試掘が行なわれる形となり、無数の遺跡がみつかったのだ。
 ただし、物の動きはつかめてきたが、「弥生時代後期の動乱を誰がどのように鎮めたのか」「なぜ各地の首長がヤマトに靡いたのか」などなど、大切な「人間の生き様」が、描けていない。
 理由はいくつかある。まず第一に、考古学と文献学が垣根を築いて、互いの領域、専門分野に足を踏み入れようとしない。第二に、学問が蛸壺化した挙げ句、総合的な解釈は、一部の学者(長老格、大御所)に委ねられてしまっている。これでは、新しい発想は、なかなか認められない。そして第三に、邪馬台国論争に拘泥しすぎたことが、大きな足かせになってしまった。われわれが本当に知りたいのは、ヤマト建国の歴史であって、邪馬台国がどこにあったかではない。
 この結果、日本人は、日本誕生のいきさつ、王家の正体、神道の真髄を、知らずにいる。
 ならば、どうすればヤマト建国の物語を再現できるだろう。方法は意外に簡単ではなかろうか。戦後の史学界が切り捨ててしまった「神話」と「神がかった神武天皇の活躍」を見つめ直すだけで、多くの謎が解けると思う。
 初代神武天皇の母と祖母はどちらも海神わたつみの娘だったと『日本書紀』神話は説明する。問題は、王家を生んだ海神が、弥生時代後期に栄えた奴国(福岡市周辺)で祀られる神だったことだ。奴国は後漢から金印をもらい受けた当時の日本を代表する国だから、無視できない。さらに、奴国はヤマト建国の前後、急速に衰退している。その奴国の縁者(神武)がヤマトの王に立っている謎。しかもその時「大切な金印をぞんざいに土に埋めてしまう(志賀島)」というミステリーも残した。これはいったいなんだ?
『日本書紀』は王家の歴史を知っていたからこそ、神話を創作し、都合の悪いことを隠匿してしまったのではなかったか。しかし、謎解きのヒントなら山のようにある。志賀島の金印も、そのひとつだ。そして、卑弥呼と神武天皇にも、大きな秘密が隠されていた……。
 王家の正体、日本誕生の謎を、今こそ明らかにしてみようではないか。

(せき・ゆうじ 歴史作家)
波 2018年5月号より

担当編集者のひとこと

日本古代史を楽しむためのヒント

 日本古代史に精通する学者さんは我が国にたくさんいますが、その学者さんたちが、我が国の建国のいきさつについて、確固たる定説を提示できているわけではありません。というか、いまだにわからないことだらけ、というのが実情です。
 なぜこんなことになっているのか、歴史作家の関裕二さんは、理由を3つ挙げます。第1に、考古学と文献学が垣根を築いて、お互いの領域、専門分野に足を踏み入れようとしないこと。縦割りの弊害ですね。第2に、学問がタコツボ化した挙句、総合的な解釈が一部の長老学者に委ねられていること。これでは、なかなか新しい発想は生まれません。そして第3は、邪馬台国論争に拘泥しすぎたこと。本当に大事なのは邪馬台国ではなく、ヤマト建国の歴史を解き明かすことのはずです。
 そこで関さんは、新たな発掘により日々進化する考古学の成果に照らして、虚心坦懐に『日本書紀』の記述を読み解きます。神武天皇は神話と歴史時代の境目の人物ですが、『日本書紀』の著者はなぜ神武天皇を作り上げたのか、そして、その意味は……。
 こうした問いを繰り返すことにより、様々な仮説が生まれます。その仮説が正しいかどうかは、最終的には読者の皆様の判断に委ねられるわけですが、本作に日本古代史を考える上での重要なヒントが満載なことは請合います。ヤマト建国の謎に迫りつつ、日本古代史をお楽しみください。

2018/04/25

著者プロフィール

関裕二

セキ・ユウジ

1959(昭和34)年、千葉県柏市生まれ。歴史作家、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。仏教美術に魅了されて奈良に通いつめ、独学で古代史を学ぶ。『藤原氏の正体』『蘇我氏の正体』『神武天皇vs.卑弥呼』『古代史の正体』など著書多数。

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